世界経済と企業業績の回復を受け、日本株は底固い推移を続けています。そして、国内のワクチン接種が進み始めたことで、主要国と比較して遅れていた内需の回復が期待されることなどから、今後も日本の株式市場は、企業業績の進捗状況を確認しながら、上昇基調を続けると考えています。

これまでは、世界経済の回復期待から業績の変化率が大きい景気敏感銘柄が選好される状況となっていましたが、株価の上昇で割安感が薄れた銘柄も出始めていることや、年度後半には昨年と比較した業績改善のペースが鈍化する可能性が高いことなどから、今後は物色対象が変化してくる可能性があります。景気感応度や業績の変化率を重視した物色から、企業のクオリティーや経営の変化を重視した銘柄選別に移行する局面が近づいていると考えています。このような変化が想定される中で注目しているのが、配当や自社株買いなど株主還元の変化です。

コロナ禍の影響を大きく受けた2021年3月期の企業業績を振り返ってみると、期の初めについては、1回目の緊急事態宣言が発令されるなど極めて不透明感が強い状況にあったことなどから、大幅な減益見通しを発表する企業が相次いだほか、業績予想を未定とする企業も多くありました。しかしながら、半年後の中間決算では、世界経済が回復基調に入り始めたことなどを受け、輸出関連企業を中心に業績見通しを上方修正する企業が増え始めました。そして、通期決算を終えてみると全体としては増益となるところまで業績の回復が進みました。この間の株主還元の動きを見ると、期初に多くの企業が減配の見通しを公表し、中間配当については減配となる企業が相次ぎましたが、期末にかけては、配当の上方修正や自社株買いの発表が多くなりました。ただし、上期の減配が大きかったことなどから、年間を通じた配当と自社株買いを合わせた株主還元の総額としては、前年比で減少する結果となりました。

しかし今年度については、配当、自社株買いともに大幅な回復が期待できると考えています。その要因として、①コロナ禍の不透明感から投資や株主還元を抑制してきた結果、キャッシュが余剰になっている、②コロナ対応で始めたリモートでの業務推進などによってコスト構造の改革が進み、収益性が高まっている、③コロナ禍においても業績の落ち込みが限定的で、回復のペースも比較的早いことから企業経営者が自社の収益力に自信を深めている、などが挙げられます。今年度に入ってから対話を行なった多くの経営者から、収益力と財務体質の改善を背景に、今後は投資と株主還元に積極的にキャッシュを使っていくという言葉が聞かれました。

脱炭素化やデジタル化への対応で、今後、投資も増えることが想定されますが、昨年度の株主還元が不十分だったとの認識を持っている経営者も多く、今年度は期初の時点で増配や自社株買いの発表が増えています。足元では、新型コロナウイルスの感染拡大が続いていることなどを背景に、慎重姿勢を続ける企業もあるものの、ワクチン接種の進展などによって業績回復に対する確信度が高まる段階では、より多くの企業が増配や自社株買いを積極化する可能性が高く、株価を押し上げる効果が期待できると考えています。

なお、最近の株主還元姿勢の変化として注目しているのが、配当の安定性と株主還元総額の拡充を目指した新たな株主還元方針を導入する企業が増えていることです。具体的には、中期経営計画の期間における株主還元の総額を提示し、その間は一時的に減益となっても配当を維持することを明示したり、DOE(株主資本配当率)という指標を導入して、資本が減るような大幅な業績悪化がなければ配当を維持する方針を示したりする例が増えています。このような取り組みは、配当に対する安心感を高めることから、株式市場が変調をきたすような場合にも株価を下支えする効果が期待できます。

ジパングでは、企業経営者と対話を行なう際にキャッシュの使い方に関する議論に最も重点を置いています。今後も、成長分野への積極的な投資を行なうことで業績拡大を加速させる企業に注目する一方で、株主還元の拡充に伴なってROE(株主資本利益率)が改善し、株式市場での評価の高まりが期待される企業にも注目することで、バランスの取れたポートフォリオを構築する方針です。