日本の株式市場は、菅首相の退陣表明後に、新政権による構造改革や経済対策への期待感から大きく上昇しましたが、自民党総裁選挙で岸田氏が勝利したことで構造改革に対する期待が低下したことに加えて、米国長期金利の動向や、中国不動産開発大手の経営危機問題など外部環境の懸念材料が多くなったことを受けて、株価の調整が進みました。外部環境の悪材料が増える一方で、日本では緊急事態宣言が解除されたことや、新政権による大規模な経済対策が期待されることなど、株価を支える好材料も出てきています。今回は、好悪材料が混在する日本株の見通しについてお伝えします。

足元で世界の株式市場がやや不安定な動きとなった大きな要因は、インフレと景気停滞が共存する「スタグフレーション」に対する警戒感が強まったことです。世界経済が急速に正常化へ向かう中で、モノやヒトの供給が追い付かない状況を受け、資源価格や賃金への上昇圧力とともにインフレに対する警戒感が強まったこと、そして、米国において年内に量的緩和の縮小開始そして来年には利上げ開始との見方が強まったことで、米長期金利は上昇基調となっています。一方で、半導体不足に代表されるサプライチェーンの混乱によって生産活動が停滞し、景気回復ペースが鈍化しはじめていることや、中国における不動産開発大手の経営危機と電力不足が景気に悪影響を与えるとの見方もあり、インフレと同時に景気減速が同時に起こる、スタグフレーションが世界的に意識され始めました。

一方で、国内要因を中心に好材料も増えています。これまでは、世界景気の回復基調が強まる一方、国内景気は回復感に乏しい状況が続いていましたが、新規感染者数が大きく減少し緊急事態宣言が解除されたことで、消費や企業活動が活発化して改善基調が強まることが想定されます。新型コロナウィルスについては、今冬には第6波の到来が予想されるなど楽観できる状況にはありませんが、ワクチン接種率が高まっていることや、経口治療薬の開発が進んでいることで、経済活動への影響の軽減が期待されます。また、新政権がスタートしたことで、大規模な経済対策が期待されることも内需を下支える要因になるとみられます。岸田新政権は、「成長と分配」を掲げていますが、当面は成長戦略を重視した政策運営となることが想定されますので、今後は株式市場での評価も徐々に高まるものと考えています。さらに、足元では、米国長期金利の上昇などから円安傾向となっており、輸出企業の業績を押し上げる期待もあります。

このような環境の中で、短期的には原油市況や米国長期金利の動向、各国の経済指標などを受けて、株価が調整する局面も想定されます。しかし、懸念されているスタグフレーションとなる可能性は低く、株式市場の下値は限定的と想定しています。確かに、インフレ圧力については、脱炭素化などの構造的な要因でエネルギー資源の供給が大きく増えにくいことから、当面続く可能性があります。ただし、世界景気については、半導体不足に代表されるサプライチェーンの混乱が、アジアでのワクチン接種の進展に伴ない工場の稼働率が回復することなどにより、来年にかけて徐々に解消に向かうことで改善基調に回帰すると考えています。好景気の中でのインフレは、株式市場にとってネガティブ要因にはなりにくいと考えています。

株式市場の動向を考える上で最も重要な企業業績については、前述のように供給制約が徐々に緩和されることに伴なう世界景気の堅調な推移への期待や、緊急事態宣言解除と経済対策による内需の回復、これまで企業が進めてきたコスト構造改革の効果などによって、増益基調が見込まれます。輸出企業にとっては、足元の円安傾向も追い風となることが期待されます。期初に企業が発表した業績予想は保守的なものが多く、10月下旬から始まる2021年4-9月期決算の発表時には、業績見通しの上方修正に加え、増配、自社株買いなどの株主還元の拡充が期待され、株価の上昇要因となることを想定しています。その後も、四半期決算ごとに業績の進捗を確認しながら、株価は上昇基調を維持するものと考えています。

このような見通しを前提として、当ファンドでは9月中旬以降の株価調整局面で、割安感が強まった優良株に投資するチャンスと考えて、積極的に買い付けを行なってきました。マクロ的な懸念で株価が下落したものの、企業との対話を通じて好業績が期待できると判断した銘柄に選別投資を行なうことにより、懸念が薄れる局面で大きな上昇が期待できるポートフォリオを構築しています。特に、株価の調整が大きかった半導体、電子部品関連企業や、政府のデジタル化推進の動きが追い風となるITサービス、経済対策の効果が期待できる小売、サービス、建設などの関連企業に注目しています。