当レポートは、英語による2019年3月発行「BALANCING ACT」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

投資環境概観

成長資産が散々な状態で2018年の終わりを迎えたことから、投資家がその先12ヶ月にどのようなアプローチで臨むのかについての結論はなかなか出ないと思われた。2019年の最初の2ヶ月余りが過ぎた今、世界の株式市場が力強い反発を示し、その結論は慎重ながらも楽観的なアプローチであるように見受けられる。厳しい目が向けられていた欧州株式でさえも、上昇率が二桁台に上った米国および中国株式に引っ張られる形で株価反発の流れに加わった。こうした投資家心理の改善を裏付けるように、ハイイールド債および投資適格債の両市場も今年になってから堅調なパフォーマンスをあげてきた。

2018年第4四半期には不安心理の高まりが壁となり、投資家は前途に光明を見出せない様子だった。こうした悲観ムードを招いた要因は多数あるが、その中でも重要な2つの要因を取り上げることにする。1つ目は、トランプ米大統領とその側近らが中国に対して仕掛けている貿易戦争だ。米国への輸入品に対する広範な関税発動やその拡大を示唆する発言の影響が貿易統計に表れ始めており、また先行き不透明感の高まりが世界中の新規設備投資判断に悪影響を及ぼしていた。

2つ目の要因は、世界的な金融環境や流動性のタイト化だ。その背景には、米FRB(連邦準備制度理事会)が2018年に計4回の利上げを行うとともに緩やかなバランスシート縮小を継続したことがある。12月のFOMC(連邦公開市場委員会)会合では金利正常化路線の継続が確認された。第4四半期に世界の株式市場の下落が加速するなか、FRBが押しなべて示してきた米国経済は引き続き好調というメッセージは多くの投資家に無視された。同時に、こうした金融引き締めスタンスを受けて米ドル高が進み、新興国市場に下押し圧力がかかった。

2019年に入ってからは両問題についての状況改善が報じられ、リスク資産の回復を後押ししてきた。いずれの問題も解決されたとは決して言えないが、FRBは明らかに市場からのメッセージを肝に銘じており、金利正常化に関する発言を控えるとともに、バランスシート縮小については年内終了を視野に入れて見直しを行っている。また、米中両国の最近の発言は、現在進められている交渉や3月初めが猶予期限とされていた関税引き上げの延期を受けて、通商交渉妥結の可能性が見えてきていることを示す内容となっている。

これら2つの「良いニュース」は間違いなく市場のムードを明るくし、広がっていた根強い悲観論を和らげる一助となった。これまでのリスク資産の回復は楽観論の回帰を示唆していると見られるが、当社はそれほど確信を持ってはいない。悲観ムードの度合いが弱まった、とでも言うのが足元の状況であり、全体的なセンチメントは依然もろい。昨年第4四半期のように悲観論を裏付けるかのごとく資産価格が下落した場合、ネガティブな見通しが真にポジティブな見通しに変わるには、ニュースフローの好転如何にかかわらずより長い時間がかかるものだ。

痛い思いはより長くとどまり悲観から楽観への転換にはより長い時間を要するというのは、純粋に人間の性なのだろう。しかし、投資という観点から見ると、これは見通しの改善が市場価格に反映されるまでには時間がかかる可能性があるということであり、投資機会をもたらす。楽観が蔓延している場合は慎重姿勢で臨むのが正解であることがほとんどだが、慎重な楽観、または悲観の後退については良好な投資機会を生み出す可能性がある。

資産クラスのヒエラルキー(2019年2月末時点)

資産クラスのヒエラルキー(2019年2月末時点)

(注)上記ポジションの合計は0になりません。現金などにより調整を行います。
上記のアセットクラスおよびセクターは、マルチアセット戦略ポートフォリオの運用を担当するポートフォリオ・マネージャーの現在の投資見解を反映したものです。これらは投資リサーチまたは投資推奨に関する助言に該当するものではありません。セクターや経済、市況トレンドに関する予見、予測または予想は、それらの将来の状況またはパフォーマンスを必ずしも示唆するものではありません。

当社の見方

各資産クラスの見方と選好順位について、以下に述べる通りの調整を行った。

グローバル株式

株式全体に対する前向き見通しに加え、アジアを相対的に選好するスタンスを保持する。中国国内株式は、米国との貿易交渉合意への期待と、景気減速に対応すべく政府が発表した財政および金融政策の緩和への反応から、前月に20%上昇した。

チャート1:中国株式のパフォーマンス

チャート1:中国株式のパフォーマンス

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
期間:2018年9月3日~2019年3月11日

投資家が中国の経済成長減速が底打ちしたとの確信を深めるにつれ、中国株式がアウトパフォームする状況は続く可能性がある。クレジット・インパルス(与信の対GDP比伸び率)が過去2ヵ月に加速していることは特に注目に値する。チャート2が示すように、クレジット・インパルスは、過剰信用創造に対する政府の取り締まりを受けて2016年半ばから鈍化してきたが、1月には社債発行と銀行貸出の増加を受けて回復した。預金準備率の一段の引き下げや利下げが実施されれば金融環境はさらに緩和され、銀行貸出チャネルを通じてクレジット・インパルスが加速するだろう。

チャート2:中国のクレジット・インパルスの回復

チャート2:中国のクレジット・インパルスの回復

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
期間:2014年1月31日~2019年2月28日

中国の経済成長に関するニュースの見出しは、数ヵ月はぱっとしない状況が続くと想定される。これは、金融緩和の効果が実体経済に完全に伝わるのには通常時間がかかるからだ。与信の伸びの回復についても、現在見られている政府主導の拡大がより広範な資金需要の増加へと広がるには時間がかかるだろう。

2015年の金融緩和サイクルの例によると、経済活動指標に加速が見られるようになるには緩和の始まりから2、3四半期かかることが示されている。したがって、経済統計とニュース・センチメントの両方に加速が覗えるようになるのは、年後半になってからだろうと予想する。

一方、投資家には魅力的なバリュエーション水準で中国のポジションを構築できる機会が提示されている。最近の株価上昇を経ても、中国株式は昨年初めに比べて10%超低い水準にある。それとは対照的に、米国株式は年末の急落分を取り戻す以上に上昇しており、2018年初めよりも5%高い水準となっている。

チャート3は主要市場の相対バリュエーションを少し長めの期間の観点から見たものだ。中国株式はPBR(株価純資産倍率)が1.5倍、12ヵ月先予想ベースのPER(株価収益率)が11倍と、例えばPBRが3倍で予想ベースPERが16.5倍の水準にある米国株式に比べて大幅に割安となっている。

チャート3:中国株式はバリュエーションがサポート要因に

チャート3:中国株式はバリュエーションがサポート要因に

チャート3:中国株式はバリュエーションがサポート要因に

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
期間:2009年1月31日~2019年2月28日

中国以外での大きなニュースとしては、ECB(欧州中央銀行)が欧州の経済成長率およびインフレ率の見通しを下方修正したことが挙げられる。マリオ・ドラギECB総裁は、TLTRO(貸出条件付き長期資金供給オペ)の再導入を通じた銀行への低利貸し出しや、長期にわたる低金利維持へのECBの確固たる姿勢を投資家に再度示すためのフォワード・ガイダンスの活用を含め、新たな支援策を公表することにより、そのハト派スタンスでまたもや投資家を驚かせた。市場はこれまでのところ、それよりも、2019年のGDP成長率見通しが1.7%から1.1%へ切り下げられインフレ率見通しも下方修正されたことに伴う新たなネガティブ・センチメントに焦点を当てている。当社ではこれについても、中国と同様に欧州株式にもバリュエーションが支えとなり、選別的ポジション構築の好機と見ている。英国および欧州周辺国の政情見通しは依然不透明であるため選別的なスタンスを維持し、財政支出を増やしているとともに対中輸出の回復が見込まれるドイツを選好する。

グローバル債券

ソブリン債の選好順位には変更を加えておらず、オーストラリア国債が引き続き最上位を占めている。オーストラリアは2019年に入ってからこれまでのところ、先進国市場のなかで最もパフォーマンスが良好な債券市場となっている。

RBA(オーストラリア準備銀行)の金融政策に対する予想は、過去3、4ヵ月の間に大きく変わった。2018年11月の時点で市場に織り込まれていたオーストラリアの利上げの確率は40%超で、利下げの確率はまったくのゼロであった。その後、12月のグローバル株式市場の下落を受けて利上げの公算は急速に後退し始め、今ではゼロ近くとなっている。反対に、今後利下げが行われる公算は0%から着実に高まって60%の確率を超えている。

チャート4:市場に織り込まれたオーストラリアの金利変更予想

チャート4:市場に織り込まれたオーストラリアの金利変更予想

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
期間:2018年4月23日~2019年3月8日

このように市場の予想が転換したのには概ね3つの要因がある。1つ目の要因は事業環境および企業景況感の低迷だ。足元の環境や景況感の指標であるNAB(ナショナルオーストラリア銀行)企業景況感指数は、過去3年で最も低い水準にある。世界の貿易をめぐる懸念やグローバル株式の急落およびエネルギー価格の動向は、確実にこの全般的な低迷の一因となっている。

2つ目の要因はオーストラリア住宅市場の鈍化だ。オーストラリアの建売住宅の価格は2018年9月までの1年で1.9%下落した。投機を抑制し住宅価格の上昇を緩やかにするために2017年の早い時期に規制当局がマクロ・プルーデンスな措置(金融システムの安定を図るための措置)を導入したことを考えれば予想外ではないだろうが、二桁台に上った過去の住宅価格上昇を経て消費者のバランスシートの重石となっている。

3つ目の要因は、市場のアナリストのRBA発言への受け止め方が変化してきていることだ。RBAは政策金利であるキャッシュレートを2年超にわたって据え置いているが、アナリストは最近までRBAの声明やロウ総裁の発言について政策引き締めバイアスを伴うものと受け止めてきた。RBA自身はオーストラリア経済について引き続き強弱均衡した評価を述べているものの、市場の受け止め方はRBAの今後の金融政策方針を明らかにハト派的に評価する方向へと動いている。

グローバル・クレジット

投資適格クレジットの2大市場である米国と欧州は、過去3年において運命が二分してきた。デュレーション単位当たりの信用スプレッドという尺度を用いることにより、これら2市場間の平均デュレーションの違いを調整してより公平な比較を行うことができる。

チャート5:実効デュレーションでのOAS(オプション調整後スプレッド)

チャート5:実効デュレーションでのOAS(オプション調整後スプレッド)

出所:ICE BofAML
期間:2016年2月29日~2019年2月28日

これら2つの投資適格クレジット市場は、全般的なスプレッドの方向性としては互いに同様の動きを見せているが、ユーロ建て市場の方が明らかにボラティリティが高い。当グラフの期間の大半を通じてECBの資産購入プログラムが活発であったものの、その中銀によるサポートは米ドル建て投資適格債市場を上回る信用スプレッド・パフォーマンスにはつながってこなかった。最終的には、過去3年における米国のより堅調な経済パフォーマンスが、信用スプレッド・パフォーマンスの主要な決定要因となってきた。欧州経済がその落ち着きを取り戻すのに苦戦しているなか、ユーロ建て投資適格債が米国の投資適格債に対し投資家を惹きつけるのに必要なリスク・プレミアムを反映して、ユーロ建て投資適格債の信用スプレッドの方が相対的に広い状況が続くものと予想される。

通貨

中国が着実に金融緩和を実行しているなか、10月以降、米ドル・インデックスが依然強いにも関わらず人民元が対米ドルで上昇しているのは驚きだ。FRBのハト派化と米中貿易協定の見込みは人民元にとって追い風であり、中国が改革を進め資本市場を開放していくにつれて海外資金が流入していることも少なからずプラス材料となっている。グローバル投資家が中国の資産を十分に保有していないことは周知されており、主要インデックスへの採用の動きが加速していることがクロスボーダーの資金フローをますます促進している。上海・香港コネクトを例に取ると、国内投資家が基本的に香港市場への投資にブレーキをかける一方、外国人投資家の資金は2018年の夏以降、一斉にA株へと押し寄せている(チャート6参照)。バリュエーションが依然として魅力的であることもあり、年初来の中国資産の良好なパフォーマンスは資金の流入をさらに強めており、人民元の追い風となり続けるものと想定される。

チャート6:上海・香港コネクトの資金フロー

チャート6:上海・香港コネクトの資金フロー

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
期間:2014年11月17日~2019年3月8日

コモディティ

コモディティは、FRBのハト派化、中国の信用刺激策、前向きな米中貿易交渉と、2018年に逆風であった要因が追い風へと変わるなか、昨年の相場下落からの回復が続いている。経済成長見通しの改善は、エネルギーやベースメタルを中心に、コモディティ需要の拡大につながると想定される(チャート7参照)。

チャート7:コモディティのスポット価格のパフォーマンス

チャート7:コモディティのスポット価格のパフォーマンス

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成

しかし、すべてのコモディティが同じというわけではない。今年パフォーマンスが最も良好なのはエネルギーだが、これはまたもや地政学的事象に巻き込まれている。トランプ米大統領は、中国との直近の貿易協議を終えた直後に、間髪入れずツイッターでOPEC(石油輸出国機構)を攻撃した。これに対して、サウジアラビアの石油相は圧力に屈することなく向こう数ヵ月で一段の減産を行うことを表明した。12月の協約で合意された減産の大半を実施したサウジアラビアには、引き続き政治的圧力が高まっていくと思われる。加えて、トランプ政権は、イラン産原油の禁輸免除延長の可能性という大きな供給カードを依然握っている。結果として、エネルギー価格については、ここからの上値はこれまでほどはないと見ている。

これとは対照的に、ベースメタルについてはそのような上値抵抗要因はないと見ている。したがって、コモディティの選好順位では、エネルギーを最上位から引き下げるとともにベースメタルを農作物の上位に引き上げた。

チャート8:OPECプラスの累積減産量

チャート8:OPECプラスの累積減産量

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成

農作物では、中国が貿易協定の一環として米国産大豆の輸入を再開することから、当然ながら農産品価格が上昇すると見られていた。しかし、農作物インデックスのパフォーマンスは実際には低迷した。この一因として考えられるのは、中国は単に輸入先を他の国と入れ替えているだけであり、需要の総量は変わっていないという説明だ。したがって、ブラジル産大豆の価格競争力が増してきているなか、大豆価格の上値はかなり限定的だと言える。

チャート9:ブラジル産大豆のベーシス

チャート9:ブラジル産大豆のベーシス

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
期間:2018年3月12日~2019年3月10日

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

当資料は、日興アセットマネジメント アジア リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のチャート、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント アジア リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。