オーストラリアのRMBS(住宅ローン担保証券)は、一貫したインカム創出を伴う高格付け資産である。この証券を目にした時にすぐに思い浮かぶ疑問は2つある。どれくらいのリスクがあるのか、そしてどのようにプライシングされるべきかということだ。本稿で後に論じるが、RMBSは実際以上にリスクが高いと悪評を立てられることが多い。これが故に、2つ目の疑問は適切だ。つまり、RMBSのスプレッドは魅力的かという点だ。

当社の見解では、オーストラリアのRMBSはポートフォリオにおいて魅力的な投資になり得る。ただ、流動性に欠ける場合もあり得ることから、傾向として目標投資期間が長期的で短期トレーディングに主眼を置いていないポートフォリオにより適している。

ポートフォリオに適度な規模でRMBSを保有することにより、ポートフォリオ全体の信用の質を維持または向上しながら直利を高めることができる。ディールのストラクチャリング(組成)の結果として、信用力が高いトリプルA格の証券から低格付けまたは格付けなしの最劣後クラス銘柄まで、様々な種類の証券が提供されている。

銘柄のポジション規模や選別を検討するにあたっては、まず検討するRMBS銘柄のストラクチャー(構造)を把握して当該証券が付与されている信用格付けに真に見合うものであると確認することが必要不可欠だ。そのような分析はまた、銘柄間比較の土台ともなる。ストラクチャーや担保資産が多様であることから、すべてのRMBSが等しく作られているわけではない。

信用の質が把握できれば、提供される投資価値を検討することができる。

RMBSの信用の質:一見見受けられる以上に住宅価格の下落に対する補完厚い

RMBSは、その信用の質を把握する過程で、証券間の差異を見極めるのに注視すべき点が3つある。

  • 担保資産の質
  • 銘柄/発行体の実績
  • 担保資産に対する請求権の優先順位

担保資産の評価

担保資産の質の評価は様々な面から行うことができる。比較の主要分野としては、LVR(ローン資産価値比率)、住宅ローンの条件、住宅ローン支払い額対比での借り手の収入、地理的分布、住宅ローンの借り手の信用実績、所得証明の水準、返済方法(金利のみか元利返済か)、住宅購入目的(所有者の居住か投資か)、などが挙げられる。

RMBS投資家の観点からすると、まず注目すべき点は通常LVRとなる。これが担保資産に対する第1の補完だからだ。例えば、LVRが70%であれば、住宅価格が30%下落しない限り所有物件の売却価格が投資額を下回ることはない。

しかし、他の要素もまた重要であることから、RMBSの住宅ローン・プールに対する当社の初期分析では、リスクがより高いグループ(国内で経済的ストレスがかかっている地域・セクターなど)における住宅ローンの集中度の把握に注力している。

発行体/銘柄の評価

一般的に、RMBSの銘柄はプライムとノンコンフォーミングに分類することができる。オーストラリアでは、プライム・ローンは貸し手の住宅ローン保険(LMI)の対象となるローンと定義されており、一方でノンコンフォーミング・ローンとは銀行の融資基準を満たさない借り手に対する住宅ローンを指す。通常はノンコンフォーミング・ローンの方が損失が大きい。発行体の実績を比較する典型的な方法は、その住宅ローン・プールにおける支払い遅延および不履行の水準を、ローンがプライムかより質が低いものかで調整した上で調べることだ。何年か前、当社が投資機会の提示を受けた発行体は、プライムの貸し出し基準を主張していたが支払い遅延はノンコンフォーミングの水準にあった。両者が整合性に欠けていたことから、当社では当該発行体に対し、後に支払い遅延が大幅に減少するまで、非常に慎重なスタンスで臨んだ。

請求権優先順位の評価

しかし、いかなるRMBS銘柄の評価において最も重要で綿密な精査を必要とするのは、請求権の優先順位である。これを把握するには、銘柄のストラクチャーを完全に理解する必要がある。ここでは、ストラクチャーの簡単(であるが一般的)な例を見てみよう(ただし、多くの場合、ストラクチャーはより複雑でプロセスの微調整が必要となる)。

考察する例は、92%のシニア・トランシェと8%の劣後トランシェ(格付けなし)から成るプライムRMBSだ。

以下は、住宅ローンが債務不履行に陥った場合に、損失がストラクチャーでどのように負担されるかの解説である。

  1. 担保物件が差し押さえられ売却される。売却代金はできる限り住宅ローンの返済(当該ローンの経過利息およびその他の経費を含む)に充てられる。
  2. 売却代金が住宅ローンの残債金額に足らなければ、住宅ローン保険が適用され(大抵の場合、LVRが80%超のローンにはLMIが付帯している)、不足分は保険契約に対して請求される。
  3. LMIが保険金請求の一部または全部の支払いを拒否するか、またはLMIがない場合は、超過スプレッド(住宅ローン金利とRMBSの利率の差異)ができる限り不足分の支払いに充てられる。
  4. それでも依然不足がある場合、その損失はまず劣後トランシェの元本額から差し引かれる。
  5. 劣後トランシェの元本を全額使っても補いきれない場合のみ、そのさらなる不足分がシニア債から差し引かれる。

注:ステップ1において損失が発生するのは、担保物件の売却が住宅ローンの現在の残債に売却関連経費を加えた額を下回る価格で行われた場合のみで、つまり住宅ローンのLVRは損失に対するバッファーを提供する。

さらなる補完の層として、オーストラリアでは住宅ローンは個人的債務であり担保物件の売却に伴う損失を住宅ローンの借り手から回収できることも、RMBS証券の損失を軽減している(また、個人的債務であることによって、担保物件の価格が住宅ローンの残債額を下回った場合に、米国の多くの州とは異なり借り手が責任を逃れられないことから、あえて差し押さえに委ねるインセンティブは低い)。

図1:RMBSにおける損失吸収

図1:RMBSにおける損失吸収

出所:日興アセットマネジメント

「追加的補完」の有効性の証左として、スタンダード&プアーズ社が最近示したところによると、同社が現在格付けしているすべてのディールについて、格付けなしトランシェを含むいずれのトランシェにおいても債務償却は起きておらず、つまり担保物件の売却におけるすべての損失はLMIまたは超過スプレッドで補われている。

追加的補完を除いたとしても、以下の非常に簡易的で保守的な例が示すように、シニア・トランシェが影響を受ける可能性は極めて低い。この例では、すべて単一のLVR(90%、80%または70%)の住宅ローンから成るプールにおいて、全住宅ローンの4分の1が(返済が始まる前に一斉に)債務不履行に陥り、追加的補完からの恩恵は一切ないものと想定し、その上で3段階の住宅価格下落率(一律)について考察している。

表1:債務不履行率25%とした場合の住宅ローン・プールにおける損失率

表1:債務不履行率25%とした場合の住宅ローン・プールにおける損失率

出所:日興アセットマネジメント

例えば住宅価格が20%下落してすべての住宅ローンのLVRが90%であった場合、プールの価値の3%が失われることになる。シニア債には8%の劣後部分によるバッファーがあることを考慮すると、元本の損失は生じないことになる。上の表で言うと、LVR80%のローン・プールで住宅価格が50%下落した場合に若干の損失が生じる。つまり、リスクはLVRが非常に高いプールで住宅価格が極端に下落した場合ということになる。注記すべき点として、格付機関はこれを十分に認識しており、プールのLVRがこれほど高い場合、シニア債をトリプルA格とするにはもっとうんと高い劣後比率要件を設定するだろう。

したがって、シニア・トランシェが損失を被るケースを想定することは計算上可能だが、そういったケースは非常に極端であり経済のシステミックな破綻を示唆するものだ。そのようなケースに基づいて投資判断を行うのであれば、国債にのみ投資し、想定しているほど深刻な住宅市場の破綻に対して脆弱な銀行劣後債をはじめ、金融関連銘柄は完全に避けるのが賢明だろう(当社では、そのようなシナリオは可能性が極端に低く、いかなる投資テーマもそれをベースとすべきではないと考える)。

市場にストレスがかかった時に予想される損失率水準を、現実的にチェックしてみよう。ウェストパック銀行は、直近の決算発表で、過去30年間のいくつかの主要な経済難局における損失率をベーシスポイントで提示した(チャート1参照)。最悪だったケースはオーストラリアの直近のリセッション(景気後退)局面だが、その時ですら損失は11ベーシスポイントにすぎず、これはRMBSにおける通常の年間超過スプレッドの5分の1にも満たない。住宅ローン・プールが偏っている可能性や他の貸し手のリスクがより高い可能性には注意する必要があるが、ストレス局面の損失率が依然そのような低水準にとどまっていることから、プライム・プールにおける損失の影響は格付けが最も低いトランシェですら考えにくい。

チャート1:住宅ローンの損失率

チャート1:住宅ローンの損失率

出所:ウェストパック銀行

RMBSシニア債への投資に安心感を与えるさらに説得力のある理由は、ストレスの強い局面においても上記のような状況が観察されていることで、英国やアイルランドのRMBSシニア債は、金融危機の最悪局面にこれらの国々で住宅価格が最大50%まで下落した時でも、デフォルト(債務不履行)に陥らなかった。

RMBSの格付け:現実を反映しているか

RMBSの信用の質について最後に述べておきたいのは、際立つ懸念として、格付けが妥当で役立つものであるかという点だ。2007年の金融危機にかけて格付機関が米国のサブプライム証券やCDO(債務担保証券)において犯したひどい誤りを考えると、格付機関がストラクチャード・ファイナンス物に付与する格付けを疑問視するのは全くもって妥当と言える。しかし、オーストラリアのRMBSに対する格付機関の格付けは同様の弱さは見せておらず、金融危機の間に何らかの困難を経験したのはノンコンフォーミング銘柄のシングルBまたは格付けなしのトランシェのみである。

投資家や規制当局からの(もっともな)批判への対応として、格付機関は評価基準を厳しくするとともに、信用の質に影響を与える様々なファクターに対する調整を取り入れることによって、より透明性が高く厳格なRMBS格付手法を生み出した。

格付機関は、RMBSのディールをモニターし、その結果を用いてLVRや地理的分布、返済方法(金利のみか元利返済か)、住宅購入目的(所有者の居住か投資か)など様々なファクターの影響を評価する。その後、これらのファクターを用いてディールが抱えるリスク量を評価し、ディールに必要な劣後比率水準を設定する。この水準はプライム物ディールの間ですら大きく異なる。足元の四半期では、トリプルA格のプライム物ディールの最低劣後比率は2.3%~7.5%の範囲にわたっており、その違いは主にLVRの水準に由来するが、地理的分布やその他の構成ファクターも影響している。

前述のRMBSの信用力の強さを踏まえると、格付機関は分析の改善を経て、RMBSに対しかなり一貫した意味のある格付けと分析を行っているように見受けられる。したがって当社では、RMBSの評価において、自社の分析に加え格付けも考慮している。

RMBSのプライシングとトレーディング

当社ではRMBSの信用の質が劣後の低いところに至るまで信用度が高いとみなしており、残る疑問はRMBSの劣後に至るトランシェの価値が適切に評価されているかということだ。格付けのみに基づけば、RMBSは割安に見える。足元では、ダブルA格の銀行債3年物のスプレッドが60ベーシスポイント近くであるのに対して、平均残存期間約3年のプライム物ディールのトリプルA格シニア債がスワップ・レート対比100ベーシスポイント超でプライシングされている。より対照的なのはトリプルA格のメザニンで、スワップ・レート対比のスプレッドが200ベーシスポイントにも上ることがある。シングルA格の5年トランシェは300ベーシスポイントに近いスプレッドでプライシングされているものもあり、これはダブルB格のバンクローンと同等の水準だ。

しかし、話はこれらのスプレッド比較ほど単純ではない。2007年~2009年の金融危機の時にRMBSを保有していた投資家は、RMBSの時価がどれほど下落し得るか知っている。当時、担保プールのパフォーマンスに問題がなくても、トリプルA格のRMBSシニア債においてディスカウント幅が20%にも上るケースが見られた。

このケースでは、RMBSのスプレッドが事前に縮小しすぎていたという事実がある。シニア債ディールは対スワップ・レートで13ベーシスポイントもの低いスプレッドで発行されており、5年物のメザニン・トランシェでも16ベーシスポイントもの低さとなっていた。このような水準で発行されたRMBSは、ネガティブなイベントに対する感応度が非常に高くなっており、金融危機が起きた時には価格が大きく下落した。この非合理的なプライシングは、RMBSも他のすべての投資資産と同様にミスプライスされることがあり、投資を避けるべき時もあるという事実を強調している。

このような非合理的なプライシングが起きる理由は、それ自体が啓発的である。それらのトリプルA格資産は、レバレッジ度の高い投資家により全く安全なものとして買われていた。基準が厳しくなったことによって金融システム内のレバレッジが絞られた時、レバレッジ度の高い投資家は買い手がほとんどいないなかで売却せざるを得なくなった。RMBSは、それらの投資家がポートフォリオで保有している他の多くの資産と違って信用が減損したわけではなかったため、売却が可能であったが、価格は非常に不利な水準とならざるを得なかった。つまり、このケースでは、価格が下落した原因は信用懸念ではなく、極端な需給不均衡であったと言える。

売却せざるを得ない投資家からの供給が市場に溢れた時、他の投資家は自身の保有銘柄を売却するのを非常に嫌がった。市場が落ち着いてRMBSの供給氾濫が収まっても、保有投資家が売りたい価格水準と買い手が払おうと考える価格水準の格差は、他の多くの資産クラスに比べて大きかった。今日においてすら、RMBSのビッド・オファースプレッドの広さは売買を行いにくくしている。

留意すべきもう1つの点は、オーストラリアRMBSのプライシングが月次定率期限前償還率の管理業務と、証券の時価の観点からより複雑であるということだ。オーストラリアRMBSはトランシェによりマージンが定率期限前償還率の速度に敏感であり、例えばマージンがパーから乖離してプライシングされた場合は定率期限前償還率の速度に対する予測値が変化するからである。(とは言っても、この感応度は米国の固定金利RMBSに比べれば取るに足らないが)。

ビッド・オファースプレッドがより広いのに加え売買取引が相対的に複雑である結果として、RMBSは取引されるスプレッドにおいて「低流動性」プレミアムの付加が必要となる。このプレミアムの適正水準は、投資家の観点によって異なる。投資ホライズンが短期である投資家にとっては、RMBSが提供しているプレミアムは不十分に映るかもしれないが、中長期の投資ホライズンであれば、足元のプレミアムは魅力的なように見受けられる。

金融危機以降の過去10年、オーストラリアのRMBSのスプレッドは2007年までのどの期間と比べてもかなり広い水準で推移してきた。概して、スプレッドは主要銀行発行のシニア・トランシェで90~120ベーシスポイントのレンジが通例の模様であり、他の銘柄はこれらのベンチマーク銘柄に対しスプレッドが上乗せされた水準でプライシングされている。スプレッドが90ベーシスポイントを下回るとディールに対する投資家からの買い意欲が後退し、120ベーシスポイントを上回ると発行体である銀行が他の資金調達戦略により注力する傾向にある。このレンジ内であれば、RMBSは魅力的な投資であるように思われる。オーストラリアのRMBS市場は参加者が増えてきていることから、レンジの上方は特に縮小しやすくなるかもしれない。

しかし、RMBSは、スプレッドの相場観に基づいて売買を行うような戦略には不向きである。RMBSは標準的な銘柄ストラクチャーというものがなく、ビッド・オファースプレッドが相対的に広い上に、月次の期限前償還による不確実性を伴うため、相場観に基づくポジションのパフォーマンスを損なう可能性がある。

プライム物シニア・トランシェ以外の銘柄

本稿での議論は、概ねプライム物のシニア債銘柄に焦点を当ててきた。発行されるRMBSの大半はプライム物のシニア債が占めるため、それに焦点を当てたことは妥当と言える。プライム物シニア債の市場がより長期スタンスの投資家に価値を提供するという議論は劣後トランシェにも当てはまるが、スプレッドが大幅に広いことから、リスク許容度がより高い投資家にとって魅力的であるとも言える。

ノンコンフォーミング物については、格付機関により厳しい基準で評価されることから、劣後部分の比率が大幅に高くなっている。これに加えて、スプレッドがより大きいことから、やはり魅力的な投資対象となり得る。実際、劣後部分が厚い分、ノンコンフォーミング物のシニア・トランシェはプライム物のシニア・トランシェよりも堅固と言えるかもしれない。

まとめ

本稿で論じてきた通り、RMBSは長い保有期間を検討している投資家に最適である。月次払いのパススルー債であり、その結果として元本返済のタイミングが不確実であることから、流通市場での取引には(決して克服不可能ではないものの)複雑さが生じる。しかし、主要なメリットとして、RMBSは、魅力的なスプレッドを提供するとともに、一部の市場解説者が示唆するよりも住宅価格動向へのエクスポージャーが小さい堅実な信用特性を有している。

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