当レポートは、英語による2019年10月発行「Emerging Markets Quarterly: Coming Out of the Storm」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

米中貿易戦争は8月に入って激化し、2大経済大国による報復関税発動の応酬は制御不能の様相を呈した。しかし、最近になって米国政府と中国政府が休戦に合意したことにより、ここ数週間で新興国を含む世界市場の見通しは著しく改善している。当社の基本シナリオは、関税はさらなる賦課が回避され、おそらくそれほど遠くない将来に引き下げられるというものであり、そうなれば中国、米国、そして世界全体に好影響が及ぶことになるだろう。

関税は交渉の初期段階であれば武器として有効だったかもしれないが、現在ではその負の連鎖がついに米国経済に悪影響を及ぼし始めており、もはや貿易戦争のさらなる激化はドナルド・トランプ米大統領に有利に働かなくなっている。トランプ大統領は、より限定的な内容の合意で手を打とうとしているように見受けられるが、これは新たな関税、特に12月に発動予定の対象品目リスト「4B」への関税による痛みを回避したいからだろう。これらの関税は米国の消費者にとって大きな打撃になるとみられ、同国経済をリセッション(景気後退)へと押しやる可能性もあるため、トランプ大統領の2期目当選の可能性を脅かすことになる。

詳しい情報はまだ出てきていないものの、中国では強硬派が意見を通し、合意内容の実施にあたって法律改正を必要としない、より対等なアプローチを取り付けた可能性があるようだ。これ以外の点では、中国による米国への「譲歩」は大方、改革計画にすでに盛り込まれてきた。例えば、求められている米国産の大豆や豚肉の購入拡大は、中国にとって達成可能であると思われる。

米中によるテクノロジー覇権争いは依然として続いており、華為技術(ファーウェイ)などの中国企業は引き続き米国サプライヤーから締め出されるリスクがある。しかし注目すべき点として、中国は輸出向け製品製造から半導体などのハードウェア分野への転換が確実に進んできており、経済成長の押し上げが促されるとともに当てにならない国外サプライチェーンへの依存度が低下している。

当社では、貿易戦争の休戦や追加関税発動回避への期待によって不透明感が取り除かれ、世界的なリセッション入りは避けられる可能性があると考えている。2012年や2015年の状況と同じく、製造業はすでに世界的不況に陥っており、先行き不透明感が大幅な在庫積み上がり局面を招いている。そうした不透明感をもたらしているのは貿易をめぐる対立だけでなく、2018年に製造業減産のきっかけとなったテクノロジー・ハードウェア需要の弱まりも要因となっている。

そうした大幅な在庫積み上がり局面が終わりつつあるかもしれないことを示す初期兆候はある。貿易戦争が収まりを見せるにつれ、それを受けた在庫の取り崩しが製造活動を押し上げる可能性がある。製造活動の加速は世界経済の成長を押し上げるが、発動済みの関税や先行き不透明感の長期化によってすでにもたらされた打撃が、ある程度足かせにはなるだろう。

世界各国の中央銀行による緩和的な金融政策は追い風材料であるものの、先進国には政策の選択肢があまり残されていない。しかし、米FRB(連邦準備制度理事会)が金融引き締めから緩和へと転換し、月額600億米ドルの米短期国債を購入するとしたことは、バランスシートのフローにおける大きな変化を表しており、当社ではこれによって新興国全般の流動性環境が緩和されるものと考える。

財政政策面では、中国がインフラ投資への配分拡大など引き続き政策ミックスの調整を実施しているが、その何れも世界の需要に大きな影響を及ぼすとは予想されない。一方、足元では欧州が財政緩和へと傾いている。当社では、一部の国による財政面からの景気刺激策、景況感の回復、製造活動の加速により、世界経済は成長軌道に戻ることができると考える。

アジア:中国製造業の重点シフトに伴いサプライチェーンが変化

アセアン諸国は、サプライチェーンの再編がこれまでFDI(外国直接投資)の増加につながってきており、その恩恵に浴している。台湾についても、米中貿易問題や中国企業を標的とした制裁措置、貿易をめぐる日韓の対立を受けてサプライチェーンが大きく混乱するなか、テクノロジー覇権争いが追い風となっている。

同域内において、サプライチェーン再編の最大の恩恵を受けているのは引き続きベトナムと見られる。6月にその熱気を冷やしたのは、トランプ米大統領の「ベトナムは我々をいいように利用している。中国よりも酷い」というコメントだった。同大統領が指摘していたのは、米国の対ベトナム貿易赤字額が2019年前半で40%増加したことだったが、そうした輸出の一部は、関税を逃れるために元は中国製の製品を「ベトナム製」と表示変更したものと見られていた。しかし、ベトナムは概ね、トランプ大統領の逆鱗に触れるのをなんとか回避できており、同国株式市場のパフォーマンスは域内トップを維持している。

他のアセアン諸国は、サプライチェーン関連のFDIや金融緩和、財政政策による景気刺激策といった要因が組み合わさり、中国からの需要減少分を一部埋め合わせるのに貢献していることから、経済成長が引き続き安定的に推移している。台湾は、同国製半導体への需要増加を受けて成長が加速している。韓国については、貿易をめぐる日本との対立によって半導体生産に必要な主要原材料の輸入が制限されていることもあり、成長が劣後している。

インドの成長は依然軟調だ。同国では、銀行システムが自己資本不足状態にあるとともに、シャドーバンキング部門も凍結状態が続いていることを背景に、消費や投資が引き続き低迷している。先日発表され大きなサプライズとなった法人税引き下げは、企業収益と経済成長の両方を押し上げる可能性があるものの、それには時間を要するだろう。

資産クラス別スコア

資産クラス別スコア

スコアについて:各国および各資産クラスのスコアは、中立が白色、プラスが緑色、マイナスが赤色で表されている。総合スコアは右側、個別スコア(バリュー、モメンタム、政治/マクロ)は左側に示されている。灰色の枠線は、対象四半期中のスコアに変化がなかったこと、緑色の枠線はスコアが引き上げられたこと、赤色の枠線はスコアが引き下げられたことを示している。
上記のアセットクラスは、マルチアセット・チームの現在の投資見解を反映したものです。これらは投資リサーチまたは投資推奨に関する助言に該当するものではありません。セクターや経済、市況トレンドに関する予見、予測または予想は、それらの将来の状況またはパフォーマンスを必ずしも示唆するものではありません。

中国の企業収益は貿易戦争をめぐる不透明感に反して好調維持

中国経済の健康状態を示す伝統的指標は、固定資産投資やクレジット・インパルス(与信の対GDP比伸び率)を含めて依然軟調である。このことは、輸出先である中国の需要に依存している世界の他の国々にとっては失望的だ。しかし、民間企業の業況をより正確に示す指標である財新のPMI(購買担当者景気指数)は、8月のかろうじて50を上回る水準から、9月には2018年序盤以来となる51.4へと上昇した。

減税や調達コストがより安い資金へのアクセス拡充といった景気刺激策が、民間セクターの追い風となっているのは確かだ。しかし、注目すべきは、減少している輸出向け製品需要に代わって、今では半導体やその他のハイテク部品に対する国内需要が伸びてきていることだ。米国がファーウェイや場合によっては他の中国企業への部品供給も停止すると警告しているなか、これは重要な展開である。

売上高の伸びや利益率の向上を通じ、中国A株市場上場企業の収益予想は1月末以降上昇している。長期的には株価は常に企業収益に追随するものだが、貿易戦争が投資家心理に悪影響を及ぼし株価の下方乖離を招いてきた。しかし、これによって、もし通商合意に達した場合には十分な株価上昇余地が残されていると言える。

チャート1:中国A株は企業収益が増加するも株価は横這い

チャート1:中国A株は企業収益が増加するも株価は横這い

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2014年10月17日~2019年10月16日

中国A株指数は期待外れなパフォーマンスとなっているが、一方で従来の中国経済の原動力となってきた「オールド・チャイナ」型セクターの構成比率がより高いMSCIチャイナ・インデックスは、貿易戦争の影響やオールド・チャイナ・セクターの成長低迷継続を受けて、パフォーマンスが大幅に劣後している。

チャート2:中国A株指数(CSI 300)vs. MSCIチャイナ・インデックス

チャート2:中国A株指数(CSI 300)vs. MSCIチャイナ・インデックス

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2018年11月1日~2019年10月16日

インドは予想外の法人税大幅減税を実施

インドのモディ政権は9月下旬、法人税率を30%から25%へと引き下げ市場を驚かせた。減税額は200億米ドル相当(対GDP比0.7%)に上り、向こう2~3年間において経済成長率を0.65~2.00%押し上げると推測されている。また、この法人税引き下げによって、2020年度の企業利益が即座に9%増加することになる。インド株式市場の出来高が急増していることは、今回の法人税減税の重要さを如実に示しており、これまで期待外れの成長が重石となってきたインド株式市場にとって上昇の追い風となっている。

チャート3:法人税減税のニュースを受けてインド株式市場の日次出来高は急増

チャート3:法人税減税のニュースを受けてインド株式市場の日次出来高は急増

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2000年1月24日~2019年10月15日

法人税減税による歳入減少分については、ある程度の歳出削減により一部埋め合わせられるだろう。財政赤字が対GDP比で3.3%から同3.8%へと拡大することはそれなりの悪化ではあるものの、渇望されている経済成長をもたらすというメリットの方が上回る。今回のニュースを受けて、インド債券の利回りは6.76%から一気に0.12%上昇し6.89%となったが、国内のインフレ率が低水準にある(9月のCPI上昇率は3.2%)ことや追加利下げが予想されることから、足元の水準においてもインド債券には引き続き投資妙味がある。

財政および金融政策による景気対策を受けて確かにインドの成長見通しは改善したが、本格的な回復を遂げるまでには長い時間がかかるだろう。人口が並外れて多いインドにおいて雇用者数が増加してきた不動産セクターの低迷などを主な要因として、失業率は6.1%と45年ぶりの高水準に上っている。

雇用市場の低迷に伴って消費が軟調に推移しており、また、不良債権比率が9.1%に上昇するととともにシャドーバンキング部門に信用収縮が続くなど、信用環境にも危うさがある。8月、政府は銀行に対する7000億インドルピーの自己資本増強策を前倒しで行ったが、それでもなお救済策の規模は不良債権問題の規模に比べると小粒に見える。足元では法人税減税を受けてインド株式の魅力がやや高まっているが、相対的な投資魅力ではインド債券に分がある。

EMEA(欧州・中東・アフリカ):まちまちだがポジティブ・サプライズも

トルコは驚くべき早さで経済改革を指揮し、なんとかインフレの鈍化と経済成長の回復に漕ぎ着けた。これを受けて資産価格は大幅に上昇したが、最近トルコが米国と協力関係にあるクルド人を攻撃することなどを目的としてシリアに侵攻したことにより、地政学的リスクの新たな波が引き起こされた。

南アフリカは、シリル・ラマポーザ大統領が自身の党「アフリカ民族会議」内の強力抵抗派閥に屈せず改革案を実行できるかどうかについて、市場が確信を失いつつあることから、資金流出に苛まれている。経済が低迷している上に「双子の赤字」が拡大していることから、格付機関ムーディーズによる格下げは避けられないものと見られるが、そうなればWGBI(世界国債インデックス)の構成国から除外されるため、資金流出は一段と増大するだろう。

東欧はついに他の欧州諸国に並んで景気が減速してきているが、成長鈍化はインフレ圧力の緩和というポジティブな効果ももたらしている。同地域では、EU(欧州連合)の求める予算計画の順守に逆行するポピュリスト(大衆迎合主義者)政策が、EU政策当局との間で摩擦を生み出し続けている。最もリスクが高いのはルーマニアで、その大幅な双子の赤字は、世界金融危機を経て一度は改善に向かったものの、一転して再び拡大しつつある。

ロシアは引き続き健全な政策の中心的存在となっており、双子の黒字を生み出している。同国は今や原油価格への依存度が大きく後退し、利下げを受けて実質経済成長率が加速し始めており、企業収益も改善しつつある。

資産クラス別スコア

資産クラス別スコア

スコアについて:各国および各資産クラスのスコアは、中立が白色、プラスが緑色、マイナスが赤色で表されている。総合スコアは右側、個別スコア(バリュー、モメンタム、政治/マクロ)は左側に示されている。灰色の枠線は、対象四半期中のスコアに変化がなかったこと、緑色の枠線はスコアが引き上げられたこと、赤色の枠線はスコアが引き下げられたことを示している。
上記のアセットクラスは、マルチアセット・チームの現在の投資見解を反映したものです。これらは投資リサーチまたは投資推奨に関する助言に該当するものではありません。セクターや経済、市況トレンドに関する予見、予測または予想は、それらの将来の状況またはパフォーマンスを必ずしも示唆するものではありません。

トルコ債券は魅力的だがボラティリティも伴う

トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領は、またもや米国の忍耐力を試している。トランプ米大統領が突然の米軍シリア撤退で世界を驚かせると、トルコは米国と協力関係にあるシリア北東部のクルド人に対する攻撃を含め、シリアに軍事侵攻した。米国はトルコに対する制裁および関税を発表し、トランプ大統領はトルコ経済を「早急に壊滅させる」と警告すらした。以降、トルコはシリアでの攻撃を中断し、米国はトルコに対する制裁を解除したが、状況は依然として明らかに流動的である。

このように地政学的環境は悪化したものの、トルコではファンダメンタルズ面に上振れが見られた。最も重要な材料として、インフレが劇的に減速したことにより、トルコ中央銀行は2ヵ月にわたって7.5%の利下げを行うことができ、12月には1.5%の追加利下げが予想されている。2018年10月に25%を超えていたインフレは9月には9.26%にまで急減速し、実質金利が世界で最も魅力的な水準へと上昇した。

チャート4:国別実質金利

チャート4:国別実質金利

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
2019年10月現在

トルコは経済成長も上振れし、好調な信用拡大や財政出動、堅調な輸出、消費回復を受けて第2四半期のGDP成長率が前期比1.2%となった。銀行のバランスシートが既にかなり肥大していることから、信用拡大は懸念材料である。財政支出の増大も然りであり、財政再建に遅れが生じないか、注視していく必要がある。一方で、景気の回復は銀行のバランスシートの修復や政府の歳入増加も促す。政治的リスクの高まりは依然として主な懸念材料であるが、トルコ債券は魅力的であり、総合スコアを中立に引き上げるのが妥当と判断する。

ロシアは制裁を切り抜けて成長が回復

ロシア資産は、制裁と新たな制約の警告に伴う不透明感の長期化に苦しんできた。直近で制裁が科されたのは8月だが、トランプ大統領の署名したこの制裁が軽微な度合いのものであったことから、今後より大幅に厳しい制裁が立法化される可能性は低下している。

のしかかる制裁警告と国内の引き締め政策の板挟みとなったロシアの経済は、当然ながら大幅に鈍化した。しかし、低インフレや複数回の利下げ、一定の財政緩和によって、ロシアのGDP成長率は回復し始めており、2021年までには2.1%へ加速すると予想されている。経済成長はアジア諸国に比べると依然見劣りするが、ロシア株式のバリュエーションに割高感はないなか、企業収益にとって追い風であることに変わりはない。

経済にとってさらなる支援材料となっているのが堅実な政策で、これが奏功してロシアは(経常収支と財政収支の両方で)世界最高水準の双子の黒字を達成している。双子の黒字が通貨を下支えする一方、同国の堅実な政策によって経済の原油価格変動からのディカップリング(切り離し)が促進されており、今後の企業収益の安定化をもたらすものと思われる。

チャート5:ロシア株式の企業利益と原油価格

チャート5:ロシア株式の企業利益と原油価格

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2014年10月11日~2019年10月10日

中南米は成長の源泉を見出すのに苦戦

中南米地域は経済成長の低迷と改革の失敗に苦しんでいる。これが劇的に露わとなったのがアルゼンチンで、大統領選に向けた8月の予備選挙がポピュリスト政策への回帰を実質的に確実とする予想外の結果となったことを受けて、同国通貨が大暴落し同国は数週間内にテクニカル・デフォルト(返済原資はあるが元利金払いが滞る状態)に陥った。

ブラジルは改革路線を継続しているが、国民の間でも政治家の間でもともに忍耐が限界に近づきつつある。改革は景気回復をもたらすはずだったが、未だに実現していない。政治家が開けた財政の栓は、同国がその財源をどうにも賄うことができないなか、来たる選挙を控えてリスク・ファクターとなっている。

その他の国々でも、経済成長は同地域にわたって低迷している。メキシコでは現在、微細にわたり自身でコントロールしようとする大統領が企業にとって有利性の低いポピュリスト政策を推し進めているが、政権は少なくとも財政面の規律は忠実に守っている。同国の債務状況はブラジルに比べて遥かに健全であり、一方で利回り水準はほぼ同じであることから、依然としてブラジルよりもメキシコの債券を選好する。

資産クラス別スコア

資産クラス別スコア

スコアについて:各国および各資産クラスのスコアは、中立が白色、プラスが緑色、マイナスが赤色で表されている。総合スコアは右側、個別スコア(バリュー、モメンタム、政治/マクロ)は左側に示されている。灰色の枠線は、対象四半期中のスコアに変化がなかったこと、緑色の枠線はスコアが引き上げられたこと、赤色の枠線はスコアが引き下げられたことを示している。
上記のアセットクラスは、マルチアセット・チームの現在の投資見解を反映したものです。これらは投資リサーチまたは投資推奨に関する助言に該当するものではありません。セクターや経済、市況トレンドに関する予見、予測または予想は、それらの将来の状況またはパフォーマンスを必ずしも示唆するものではありません。

ブラジルは改革が進むもリスクも増大

ブラジルは世界でも最も積極的に改革路線を推し進めている。しかし、外部環境の悪化や(アルゼンチンのケースではっきり示されたように)改革が必ずしも成果をもたらすとは限らないと認識され始めた可能性などから、市場の楽観は後退しつつある。

表面上では、改革路線は軌道に乗っているように見える。10月終盤までには年金改革の発表が予想されており、他にも多くの積極的な改革案が控えている。ジャイル・ボルソナロ大統領の支持率は44%で安定しているが、議会に味方がいないのが同大統領の弱みとなっている。

ゆっくりとではあるが、積極的な改革が引き続き進められている。これは明らかに、政治家にとって再選への唯一の切符である同国の景気回復のためには、改革が必要であると広く認識されているからだ。しかし、既に危険なほど高水準にある同国の対GDP債務比率の上昇に伴って通貨レアルの下落が続いており、忍耐は限界に近づきつつある。

チャート6:対GDP債務比率の上昇を反映して続くブラジルレアル安

チャート6:対GDP債務比率の上昇を反映して続くブラジルレアル安

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:1999年11月~2019年9月

2022年の選挙が近づくなか、主な懸念材料は政治家が改革を断念して財政出動に戻るかもしれないということだ。政府に財政出動を行う余裕はなく、市場は容認しないだろう。通常、改革が成長を生み出すのには時間がかかる。改革の姿勢はそれでも、それが生み出すと想定される機会によって外国資本を惹きつけ、それが当面の成長を下支えする。ブラジルの場合、改革は進んでいるのだがそのペースが遅く、外国資本を惹きつけるのに必要な信頼感を生み出せていないため、景気が低迷したままとなっている。外国投資家はそのような懸念から依然としてブラジル資産をアンダーウェイトとしており、同国市場を下支えしているのは国内投資家のみのようだ。こういったリスクに照らすと、ブラジル資産は割高に見える。

望みが絶たれたアルゼンチン

8月半ばに行われたアルゼンチン大統領選の予備選挙は、マウリシオ・マクリ現大統領から対立候補のポピュリスト政党党首アルベルト・フェルナンデス氏への交代を実質的に確実とする結果となり、市場に大きなショックを引き起こした。アルゼンチンの改革は大規模で痛みを伴うものであるが、インフレ減速と景気回復をもたらしマクリ大統領の2期目続投を可能にするとの期待が持たれていた。

しかし、インフレは高止まりし、景気は低迷が続いた。このツケとしてマクリ大統領は8月の予備選挙に敗れ、アルゼンチンは再び企業に不利な政策を採用していくものと見られる。予備選挙の結果を受けて通貨ペソは約25%急落し、同国は2週間以内にテクニカル・デフォルトに追い込まれ、政府は支払えない債務の満期延長を求めた。

アルゼンチンの外貨準備は、IMF(国際通貨基金)からの資金注入により一時的に増加したものの、その後再び激減し、チャート7が示す通りまたもや危険水準へと減少している。アルゼンチンはIMFから史上最大規模の救済を受けたが、次の54億ドルの支払いが依然保留中となっていることから、同国は損失を受け入れ通貨と金融システムを崩壊させるしか手がないのかもしれない。

チャート7:アルゼンチン中央銀行の外貨準備は急減

チャート7:アルゼンチン中央銀行の外貨準備は急減

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2017年9月1日~2019年10月11日

アルゼンチンにとっての最大の希望は、フェルナンデス氏が大統領に選出された場合に、同氏の副大統領候補であるクリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネル前大統領が実施したような悲惨な政策を再導入するのではなく、より中道寄りのスタンスにシフトすることだと当社は考える。

当資料は、日興アセットマネジメント アジア リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント アジア リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。