本レポートは、2019年12月発行の英語版「ASIAN EQUITY MONTHLY」の日本語訳です。内容については英語の原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 11月も引き続き、米中通商協議の一進一退と両国による通商協定「第1段階」の合意期待に市場のムードが大きく左右された。月末にかけては、米国で香港の民主主義運動参加者を擁護する新法が成立したことで、米中貿易交渉が難航する可能性があるとの懸念が強まり、投資家のリスク回避姿勢が強まった。こうしたなかでも、11月のアジア株式市場(日本を除く)は、米ドル・ベースのリターンが0.2%と小幅ながらプラスとなった。
  • 域内の株価上昇を牽引したのは中国株式で、同国中央銀行が金融政策の緩和を継続していることやMSCIが中国A株の同社インデックスへの部分組み入れを完了したことを受けて、月間市場リターンが米ドル・ベースで1.8%となった。また、台湾市場も、インデックスに占める構成比率の高い台湾積体電路製造(TSMC)や他のテクノロジー銘柄の株価上昇が押し上げ要因となって、良好なパフォーマンスを見せた。
  • インド株式は、主にインドルピー安が響き、月間市場リターンが米ドル・ベースで-0.6%となった。格付け会社ムーディーズは、景気減速への政府の対策不足に対する懸念を理由に、同国のソブリン債格付け見通しを「ネガティブ」へと引き下げた。また、アセアン地域の株式市場もパフォーマンスが劣後し、なかでも特に下げ幅が大きかったのはフィリピンとインドネシアであった。
  • アジア市場は、少なくとも短期的には米中貿易協議関連のニュースに左右される状況が続くが、一方では、中国およびインドにおける広範な金融緩和や財政面からの的を絞った景気対策、前向きな構造改革など、よりポジティブな構造的変化の進行も窺われている。バリュエーションは域内全般にわたって依然として魅力的な水準にあり、当社では、構造的な成長性が過小評価されているとともにファンダメンタルズにポジティブな変化が見られる分野を引き続き選好している。

アジア株式市場

市場環境

アジア株式市場は小幅ながらプラスのリターン
11月も引き続き、米中通商協議の一進一退と両国による通商協定「第1段階」の合意期待に市場のムードが大きく左右された。米国株式は貿易問題をめぐる楽観ムードを受けて史上最高値を更新する展開となったものの、アジア株式はレンジ圏内での慎重な値動きとなった。月末にかけては、米国で香港の民主主義運動参加者を擁護する新法が成立したことで、継続中の米中貿易交渉が難航する可能性があるとの懸念が強まり、投資家のリスク回避姿勢が高まった。こうしたなかでも、当月のアジア株式市場(日本を除く)は、米ドル・ベースのリターンが0.2%と小幅ながらプラスとなった。域内では、中国および台湾が最も良好なパフォーマンスを見せる一方、フィリピンとインドネシアはパフォーマンスが劣後した。

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2018年11月末~2019年11月末
(注) アジア株式(日本を除く)はMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI Emerging Marketsインデックス、グローバル株式はMSCI AC Worldインデックスを、2018年11月末を100として指数化(すべて米ドル・ベース)。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(期間)2009年11月末~2019年11月末
(注) アジア株式(日本を除く)はMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)、新興国株式はMSCI Emerging Marketsインデックス、グローバル株式はMSCI AC Worldインデックスのデータ。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

中国と台湾市場は相対的に堅調なパフォーマンス
中国株式は、同国中央銀行が金融政策の緩和を継続していることやMSCIが中国A株の同社インデックスへの部分組み入れを完了したことを受けて、月間市場リターンが米ドル・ベースで1.8%となった。また、中国政府発表の公式の製造業PMI(購買担当者景気指数)が市場予想を上回る50.2へと上昇し、生産の拡大を示唆した。

台湾株式は、インデックスに占める構成比率の高い台湾積体電路製造(TSMC)や他のテクノロジー銘柄の株価上昇が押し上げ要因となり、米ドル・ベースの市場リターンが1.5%となった。台湾経済は、2019年第3四半期の成長率(確定値)が前年同期比2.99%と速報値の同2.91%から上方修正されて改善を示し、これも投資家の強気姿勢を後押しする要因の一つとなった。

前月まで数ヵ月にわたり大きく上昇してきた韓国株式は、11月は利益確定売りの動きに押され、月間市場リターンが米ドル・ベースで-1.5%となった。悪化傾向にある同国の輸出が11月に前年同月比14.3%の大幅減となったことも、投資家心理に打撃を与えた。

香港株式は、反政府デモの継続や経済見通しの弱さが引き続き重石となり、月間市場リターンが米ドル・ベースで-1.5%となった。香港の10月のPMIは史上最低の39.3へと低下した。

インド市場は反落、アセアン市場はパフォーマンスが劣後
インド株式は、主にインドルピー安が響き、月間市場リターンが米ドル・ベースで-0.6%となった。インドの2019年7-9月期の経済成長率は前年同期比4.5%へと減速し、2013年以来の低水準となった。ムーディーズは、景気減速への政府の対策不足に対する懸念を理由に、同国のソブリン債格付け見通しを「ネガティブ」へと引き下げた。

アセアン地域の株式市場は、11月の米ドル・ベースの月間リターンがフィリピンで-3.3%、インドネシアで-2.8%、マレーシアで-2%となる一方、相対的にアウトパフォームしたシンガポールおよびタイでは、それぞれ-1.3%、-0.2%となった。月の初めに発表されたMSCIインデックスの構成比率見直しは、アセアン諸国の株式市場全般にとって重石となったが、特に大きな打撃を受けたのはフィリピンであった。フィリピンのコングロマリット大手の1つで会長兼CEOを務めるハイメ・アウグスト・ソベル・デ・アヤラ氏が同国不動産市場は頭打ちしたとコメントしたことも、フィリピン株式への売り圧力を強めた。その他、シンガポール経済は2019年第3四半期に持ち直して成長率が前年同期比0.5%と市場予想を上回る一方、インドネシアの2019年第3四半期GDP成長率は同5.02%となった。

アジア株式(日本を除く)のリターン
過去1ヵ月間(2019年10月31日~2019年11月30日)

アジア株式(日本を除く)のリターン 過去1ヵ月間(2019年10月31日~2019年11月30日)

過去1年間(2018年11月30日~2019年11月30日)

アジア株式(日本を除く)のリターン過去1年間(2018年11月30日~2019年11月30日)

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注) リターンはMSCI AC アジア・インデックス(除く日本)およびそれを構成する各国インデックス(すべて米ドル・ベース)のもので、実績データに基づく。過去のパフォーマンスは将来の投資成果等を約束するものではありません。

今後の見通し

バリュエーションは域内株式市場全般にわたって依然魅力的
アジア市場は、少なくとも短期的には米中貿易協議関連のニュースに左右される状況が続くが、一方では、アジアを代表する成長エンジンである中国およびインドにおける広範な金融緩和や財政面からの的を絞った景気対策、前向きな構造改革など、よりポジティブな構造的変化の進行も窺われている。バリュエーションは域内株式市場全般にわたって依然として魅力的な水準にあり、当社では、構造的な成長性が過小評価されているとともにファンダメンタルズにポジティブな変化が見られる分野を引き続き選好している。

中国は経済成長の「量より質」を優先する方針を堅持していることから、同国政府がかつてのようにインフラ/不動産政策による大規模な景気刺激策を投入する可能性は低いと見られる。その代わりに、中国は、半導体、5G、ヘルスケア、保険など戦略的に重要な産業・福祉分野の発展に重点を置いている。金融セクターには、中国政府が市場原理に基づくリスク・プライシングを容認する姿勢を強めている証左が見られ、結果として中国債券市場のデフォルト率は他の市場で一般的に見られる水準まで上昇してきている。このことは歓迎すべき動きであり、中国人民銀行が3年にわたって取り組んできたリスク削減策の一環でもあるが、ストレスがこうした政策による副作用の範囲を超えて広がる可能性には引き続き警戒している。

インドの経済成長は2013年序盤以来の低水準に鈍化しているが、同国は金融や財政、その他の政策面からの景気支援策を強化している。これまでに実施されてきたGST(物品サービス税)、不動産規制法、倒産法などの構造改革は効果の浸透に時間がかかっているが、これらが長期的な構造的成長への地固めになると見ている。最近実施された法人税減税は、通常であれば経済への効果が現れるのに9~12ヵ月かかることから、来年前半にかけて経済活動が上向いてくると予想する。当社では、インフォーマル経済(小規模・零細企業の非正規雇用者層経済)のフォーマル化、国内普及率の低さ、長期的な成長性が追い風になると見込まれる分野、具体的にはプライベートバンキング、不動産、物流などを引き続き選好している。

テクノロジー・セクターの見通しが改善
台湾および韓国経済はかなり低調な状態が続いているが、両国のテクノロジー・セクターはそれぞれ、中国による設備投資支出加速やサプライチェーン再編を背景に、需要と企業収益がともに改善している。当社では引き続き、ヘルスケア分野や環境関連技術分野、5Gの長期的な恩恵が見込まれる分野に注目している。

アセアン地域も、現状では中国依存度が高いサプライチェーンの再設計から恩恵を受けるとみられる。なかでも注目されるのはコスト競争力の強いインドネシアで、ジョコ・ウィドド大統領が再選されあらためて信任を得たことにより、長年の懸案であった本格的な構造改革が実現する可能性がある。

参考データ

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

(出所)信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメント アジア リミテッドが作成
(注) PER、PBRともにMSCI AC Asiaインデックス(除く日本)のデータ。実線の水平ライン(中央)は表示期間のデータの平均を、点線の水平ラインは±1標準偏差を示す。グラフ・データは過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。

当資料は、日興アセットマネジメント アジア リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のチャート、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント アジア リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。