当レポートは、英語による2020年1月発行「MULTI-ASSET MONTHLY」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

投資環境概観

金融市場がいくつもの地政学的イベントを切り抜けることとなった昨年を経て、この新しい年は比較的平穏なものになってほしいとの願いは、年明け最初の週末を迎える前に打ち砕かれた。米政権がイランの軍最高幹部の1人に対する殺害攻撃を承認したことから、2020年のリスク資産は不安定なスタートを切った。原油価格は急騰、安全な資金避難先とされる資産が上昇してグローバル株式は下落した。もちろんこれは投資家が望むような1年の始まりではないが、一方で落ち着きを保つとともに昨年の教訓を肝に銘じておくことは重要である。

ホルムズ海峡上でのイランによる米軍ドローンの撃墜、サウジアラビアの石油インフラに対する攻撃、トルコによるシリア北東部への侵攻など、2019年のグローバル株式には中東において闘わなければならない問題が数多くあった。そのような様々なイベントは、重大性については意見が分かれるかもしれないが、すべてに共通して見られた議論の流れとして、コメンテーターに最悪の場合のシナリオを描かせることになった。それでもなお、2019年の米国および欧州株式は依然として良好なパフォーマンスを示し、市場リターンが米ドル・ベースで25%を超えた。特に米国株式にとっては、2019年は過去30年で年間リターンが25%を超えた8つの年の1つとなった。そのような大幅上昇を経た市場は一息つくだろうと予想したくなるが、モメンタムもまたパワフルな力であることを心に留めておく必要がある。米国株式の年間リターンが25%を超えた8つの年はそれぞれ、その後の数年もプラス・リターンが続いており、高リターンの反動に怯えるのは有効な投資戦略とはならなかったようだ。

中東イベントの陰に隠れることとなった他の2つの懸念材料、つまり米中貿易交渉とブレグジット(英国のEU離脱)は、不吉なトーンが明らかに後退している。前者については、1月に貿易協定「第1段階」の調印が行われる見込みであり、これによって当面は米中間の報復関税合戦が続くリスクが低下する。一方、英国は、総選挙でボリス・ジョンソン首相率いる保守党が大勝利を収めたことにより、同国がついにEU(欧州連合)を離脱するための協定合意に必要な過半数を超える多数議席が同首相にもたらされた。両イベントの結果は、年の始まりにあたって健全なリスク選好度の持続を促し米国以外の株式のリターン向上に貢献するものと思われ、それらの市場は過去数年にわたってアウトパフォームしてきた米国に追いつくことができるだろう。

このような荒れた年初めから最初に恩恵を受けたのはグローバル債券で、安全な避難先を求める資金が流入して利回りが低下した。それでも当社は、国債は年が進むにつれプラスのリターンを維持するのに苦しむと見ている。そもそも年初時点で利回りが非常に低いかマイナスの水準にあることは、債券のパフォーマンスにとってしぶとい逆風となるだろう。国債は引き続きマルチアセット・ポートフォリオにリスク低減特性をもたらすが、債券は世界経済の見通しが改善した場合にパフォーマンスで他の資産クラスに劣後しないのは難しいため、投資配分を減らすのが得策になると想定される。

資産クラスの選好順位(2019年12月末時点)

資産クラスの選好順位(2019年12月末時点)

* 株式、ソブリン債およびクレジットのスコア平均は時価総額ベースで加重平均して算出。
上記のアセットクラスおよびセクターは、マルチアセットチームの現在の投資見解を反映したものです。これらは投資リサーチまたは投資推奨に関する助言に該当するものではありません。セクターや経済、市況トレンドに関する予見、予測または予想は、それらの将来の状況またはパフォーマンスを必ずしも示唆するものではありません。

当社の見方

各資産クラスの見方と選好順位について、以下に述べる通りの調整を行った。

グローバル株式

グローバル株式においては、日本株式に対する強気スタンスを若干引き上げた。その背景には、経済成長見通しの改善と、米中貿易協定「第1段階」の完了や英国総選挙の有利な結果を受けた「ハード・ブレグジット」(英国がEU離脱を同連合との合意なしに強硬的に行うこと)の可能性の低下といった地政学的リスクの後退がある。

しかし、中東における最近の地政学的リスクの高まりは、予想される通り円高をもたらしており、円高はこれまでも日本株にとって短期的な逆風となってきた(チャート1参照)。米国・イラン間での直接戦争という最悪ケースの可能性をはらみながら、中東情勢が引き続き悪化した場合は、円高が日本株の重石となるマクロ的展開が続くと想定されるが、当社ではこれを基本シナリオとはしていない。

チャート1:TOPIX(東証株価指数)と日本円の対人民元レートの推移

チャート1:TOPIX(東証株価指数)と日本円の対人民元レートの推移

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間: 2017年2月1日~2020年1月13日

日本円は安全資産への資金逃避が起きて債券利回りが世界的に低下する局面で上昇する傾向があるが、米国・イラン間でのさらなる緊張激化はさしあたって回避されたことから、債券利回りは経済成長見通しの改善を受けて上昇する可能性の方が高いと考える。債券利回りの上昇は円安を伴うことが多く、したがって日本株にとっては好材料となりやすい。

日本株は日本円の「リスクオフ」の動きに追随する傾向がある一方、経済成長の回復が続くなか、魅力的なバリュエーションや企業収益見通しの改善など好調なファンダメンタルズにも依然下支えされている。

グローバル債券

国債が2019年の良好なパフォーマンスを繰り返すのは難しく、一部の市場は他市場以上に苦戦するものと見ている。英国国債は当社が世界の他国の市場に劣後すると予想する市場の1つだ。英国が国民投票でEU離脱を決定してからの過去3年は、企業にとっても消費者にとってもまさに困難なものであった。チャート2が示す通り、2016年の投票以降、企業および消費者の景況感指数が明確な低下基調を辿ってきている。この悲観的ムードは、市場によるイングランド銀行の金融政策の織り込みにも表れており、年内の追加緩和実施が予想されている。

チャート2:英国の企業および消費者の景況感指数

チャート2:英国の企業および消費者の景況感指数

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2016年11月30日~2019年12月31日

当社では、2020年に英国および世界各国の経済が安定化してその後回復するにつれ、英国国債市場には「失望感」が広がると見ている。選挙での保守党の目覚ましい勝利によって、英国の首相は秩序だったやり方でEU離脱を行うのに必要な議会での票数をついに獲得することができた。今後の欧州との貿易関係をめぐってある程度の不透明感が残るのは確かだが、混乱を伴う離脱の恐れは基本的に最小化された。イングランド銀行はハード・ブレグジットとなった場合には対策を講じる構えだったが、これで警戒姿勢を解くことができる。ハード・ブレグジットが起きなかった場合の同中銀の経済見通しはポジティブであり、それがクローズアップされる結果、イールドカーブのスティープさが増すとともに、英国の政策金利における次の動きは引き上げである可能性を考慮する向きが増えるだろう。

グローバル・クレジット

グローバル・クレジット・セクター内で重要となる配分決定は、ハイイールド債と投資適格債の間の選択である。債券の個別銘柄への直接投資は流動性や規模を考慮すると難しい場合があるため、投資家はそのようなエクスポージャーをとるのにETF(上場投資信託)を活用することがよくある。この場合に重要なのは、投資判断の主要材料としてETFが連動する指数の特性を熟慮することだ。主要な要素は2つで、そのクレジット・リスクをとる見返りとしてのリターンを表す加重平均利回りと、基準となる国債利回り水準の変化に伴う金利リスクを表す修正デュレーションである。

米国のハイイールド債と投資適格債について、それぞれブルームバーグ・バークレイズの該当インデックスを用いて利回りと修正デュレーションにおける両者間の格差を見てみた。当然のことながら、ハイイールド債は一貫して投資適格債よりも高い利回りを提供しているが、足元の利回り格差は2.25%と過去10年のレンジの下限に近い水準にある。反対に、投資適格債のデュレーションはハイイールド債よりもかなり長く、足元の格差は5年と過去10年超で最も大きい。

当社では、このデータから2つの興味深い見解を導き出している。1つ目は、投資適格債に対してハイイールド債を選ぶことの見返りとして得られる2.25%の利回り格差は、過去との比較においては小さいものの、見かけ以上に魅力度が高い可能性があるということだ。その理由は、以前に利回り格差が同様の小さい水準にあった2014年や2017年から2018年にかけての期間では、デュレーションにおける格差が2.5~3.5年と現在の5年よりもとても小さかったからである。言い換えると、足元ではハイイールド債に投資することにより、投資適格債に比べてより低いデュレーション・リスクでより大きな利回り格差を受け取ることができる。2つ目は、デュレーション格差が大きいことから、2020年にハイイールド債と投資適格債のいずれがリターンにおける勝者となるかは、基準となる国債の利回り水準の変化が重要な決定要因になるということだ。

チャート3:米国のハイイールド債と投資適格債におけるイールド・トゥ・ワースト(投資家にとって最も不利な時点で償還が行われた場合の利回り)および修正デュレーションの格差

チャート3:米国のハイイールド債と投資適格債におけるイールド・トゥ・ワースト(投資家にとって最も不利な時点で償還が行われた場合の利回り)および修正デュレーションの格差

出所:バークレイズ・インデックスなど、信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2010年1月14日~2020年1月10日

通貨

米ドルは、大きなサプライズなく年越しを迎えるなかで12月に下落したが、その後は米国・イランの軍事的緊張が高まって安全資産需要を押し上げたことから反発した。新興国通貨は、米中が貿易協定「第1段階」の調印に向けて進展を見せたことを受けて上昇した。英国では、イングランド銀行が自国経済の鈍化を背景に利下げを示唆したことや、ブレグジット法案が可決されたことを受けて、選挙後の楽観ムードが徐々に冷めるなか、英ポンドが反落して選挙前の水準に戻った。

2019年最終四半期の日本円はレンジ内での推移となったが、VIX指数(米国株式の30日の予想ボラティリティ)とドル円レートの6ヵ月の相関性は0.57と高い水準にある。円のパフォーマンスは、直近ではイラン・米国間の地政学的緊張が激化した際に見られたように、リスクオフ期においては安全な資金避難先としてのステータスに密接に結びついている。実際、予想ボラティリティの上昇は、伝統的なリスク回避先資産とされている金の価格上昇よりも円高との相関性の方が高い。日本では低金利環境のため投資家が巨額の海外資産やキャリー取引ポジションを保有しており、これもリスクオフ・イベントの際に円需要が高まる原因の一部となっている。

今後の見通しとしては、経済成長が概して債券利回りの上昇を促すと予想され、したがって円安が見込まれる。しかし、地政学的展開次第ではリスク・センチメントの変動が続く可能性があり、そのような状況下では円は引き続きリスクオフ期の安全な資金避難先資産としての動きを見せるものと想定される。

チャート4:VIX指数とドル円レートの推移

チャート4:VIX指数とドル円レートの推移

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2019年8月1日~2020年1月14日

コモディティ

米中貿易協定「第1段階」の項目のなかで、合意および実行が最も容易なのはおそらく農産物の注文だろう。中国は農産物にとって世界最大の市場であり、国連食糧農業機関によると世界の大豆輸入の41%を占めるが、一方で米国は世界最大の穀物生産国で、トランプ大統領の再選にとって農家の票は非常に重要だ。二国は完璧な補完関係にあり、中国の大豆輸入は2000年から2017年の間に6倍に拡大した。

米中貿易戦争は米国の農家と農作物の価格に打撃を与えた。中国が2018年9月から2019年初めにかけて米国からの輸入をほぼ完全に停止したためだが、これは季節的に米国からの輸出の大半が行われる非常に重要な期間である。貿易協定「第1段階」で中国が求められる米国からの購入の増加は、たとえ貿易戦争前の水準に戻すにとどまったとしても、大幅なものになるだろう。

チャート5:米国産大豆の中国への累積輸出

チャート5:米国産大豆の中国への累積輸出

出所:米国農務省など、信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間: 2015年1月15日~2020年1月2日

しかし、制約要因が存在する。米国の農家は2018年に大きな打撃を受けた結果として作付量を減らしており、一方で穀物収穫量は2019年夏の悪天候を受け一貫して下方修正が続いている。需給要因は農作物価格にとって強い追い風となっており、当社では依然不振な農作物価格の回復が続くと見ている。

チャート6:米国産大豆の供給

チャート6:米国産大豆の供給

出所:米国農務省など、信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2015年1月31日~2020年1月2日

リートおよびインフラ

不動産投資信託(リート)は、不動産物件に投資して、それらの資産からの収益(主には賃貸収入)を定期的に投資家に分配するものである。投資する不動産物件はショッピングモールやオフィスビル、産業用建物、ホテルなどだ。一般的にリートは、課税所得の90%を配当として投資家に還元しなければならず、その結果として伝統的な株式に比べ配当利回りが高い。加えて、リートのリターンは通常、低金利環境から恩恵を受ける。リートにとって、資金調達コストが低下するとともにバリュエーションが向上するからだ。このことから、リートは株式分野における債券代替資産としても知られる。主要なリスクとしては、金利リスクの他に、物件の空室率上昇や深刻な景気悪化から生じる賃貸料収入の大幅減少が挙げられる。

チャート7:リートと株式の配当利回り比較

チャート7:リートと株式の配当利回り比較

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
2020年1月13日時点

2019年はリートおよびインフラ資産にとって最良の年の1つとなった。当社がカバーしている主要なリート市場(アジア、米国、日本)はすべて20%を超えるトータル・リターンを達成し、アジアと日本のリートはそれぞれの国の株式市場をもアウトパフォームした。2019年におけるリートの並外れたパフォーマンスの主なドライバーとなったのは、金利(ソブリン債利回り)が低下したことと、リスク回避志向を強めた投資家からの資金がリートを含むディフェンシブ株に流入したことだった。リートは伝統的な株に比べて高い配当を提供するとともに、キャッシュフローが比較的安定しており、これが景気低迷と貿易関税をめぐる不透明感を伴う昨年の環境において投資家に選好された。

チャート8:リートと株式のパフォーマンス比較

チャート8:リートと株式のパフォーマンス比較

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2018年12月31日~2020年1月13日

現在、リートに対する当社の資産クラス・スコアは、割高なバリュエーションや悪材料となり得るマクロ面の逆風要因を考慮して「中立」となっている。昨年の12月、米中は貿易協定「第1段階」に合意し、英国のボリス・ジョンソン首相は総選挙で大多数を勝ち取り着実な形で政権を再び獲得した。これらの2つのイベントは市場の予想をやや上回るものであり、地政学面のテールリスクは(少なくとも当面は)概ね取り除かれた。リスク資産は上昇し、米国債や日本国債など安全な資金避難先と見なされる資産は下落した。リートのパフォーマンスは金利上昇環境下では苦戦する傾向にあり、ソブリン債に対する当社の見通しは最近弱気である。リート市場内では、金利上昇への感応度が最も強い米国リートの選好順位を最下位へと引き下げた。一方、よりグロース性が強いアジアのリート(シンガポールおよび香港)については、相対的に有望視している。

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

当資料は、日興アセットマネジメント アジア リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のチャート、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント アジア リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。