当レポートは、英語による2020年2月発行「EMERGING MARKETS QUARTERLY」のの日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

製造業の底入れ、中央銀行による潤沢な資金流動性提供、そして世界中の景況感回復を促した米中貿易協定「第1段階」の締結を受けて、経済成長に回復の兆しが見え始めた。しかし、最近のコロナウイルスの流行により、今後数週間から数ヵ月に渡るまったく新たな難題がもたらされている。

1月の前半までは、新興国の経済成長見通しはかなり明るいように見受けられた。2019年第4四半期には世界的に景気不安が広がったものの、製造業の底入れ(特にテクノロジー・セクターで顕著)や中国からの需要増加の兆候が、世界の経済成長が回復に向かっていることを示した。米中貿易協定「第1段階」の調印も景況感を一段と押し上げた。

重要な点として、米FRB(連邦準備制度理事会)は2019年後半、利下げと量的引き締めから量的緩和への急転換をもってハト派シフトを実行した。チャート1が示す通り、世界中の中央銀行はまたもやバランスシートを拡大させて資金流動性を押し上げており、これが投資家のリスク選好度を一層高めている。

チャート1:中央銀行のバランスシート拡大は加速

チャート1:中央銀行のバランスシート拡大は加速

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2015年1月31日~2020年1月31日

しかし、コロナウイルスの流行は、これを封じ込めようとする広範な取り組みがその過程において世界の貿易を鈍化させることから、新たな逆風となる。2003年のSARSの流行に比べると、コロナウイルスはより早いペースで感染が広がっているが、一方でその封じ込めにはより強力な対策もとられている。 コロナウイルスの流行による中国の消費低迷はアジア地域の重石になると想定されるが、この感染拡大がサプライチェーンに及ぼす影響についてはそれほど明確ではない。少なくとも封じ込め策の有効性と副次的損害の程度がよりはっきりと見えてくるまでは、慎重な姿勢をとるのが妥当である。多くの死者を生むパンデミック(世界的流行)は回避されるというのが可能性の高い基本シナリオだが 、その想定に立った場合、需要は2003年のSARS流行後と同様に大きく回復するとみられる。

アジア:投資機会は北部に

アジアの需要は回復してきており、特に北アジアではそれが顕著である。台湾と韓国は、製造業サイクルがようやく好転するなか、半導体や電子機器を中心としてついに貿易に回復が見られてきた。中国の経済成長は、勢いに欠けるものの質は高く、したがって民間セクターに成長および収益として返ってくるものと思われる。

コロナウイルスは当面の中国の需要にとって明らかに悪材料だが、ウイルスの封じ込めが有効に行われれば失われた需要の大半は回復が見込まれる。中国およびアジアの景気回復は依然として初期段階にあり、したがってウイルスが引き起こす需要ショックは需要の回復サイクルを再び頓挫させる可能性がある。しかし、必要となれば、当局には需要を支えるために自由に使える政策手段が十分にある。

中国以外では、台湾と韓国は主にサプライチェーン混乱のリスクに晒されている。ASEAN諸国は中国の消費減少の影響を受けると想定され、それが最も顕著となるのはほぼ休業同然となっている観光業だろう。ASEANは、依然としてサプライチェーンの再構成と近々期待される財政出動が追い風となっているが、域内の需要はまだ比較的弱く、地域全体として脆弱な状況が続いている。

インドは景気低迷に苦しんでいるばかりでなく、その対策として打てる手が限られている。最近実施された法人税減税は、経済成長にあまり大きな効果をもたらすとは思われず、また、政府が将来とり得る政策の選択肢を狭めてしまっている。インドのインフレは最近急上昇しており、これも同国の金融緩和余地を小さくしている。インドは比較的閉鎖性の強い経済であり、したがって中国の需要への依存度は相対的に低い。しかし、同国はインフラが弱体であり、コロナウイルスの流行が壊滅的な影響を及ぼす可能性もある。

資産クラス別スコア

資産クラス別スコア

スコアについて:各国および各資産クラスのスコアは、中立が白色、プラスが緑色、マイナスが赤色で表されている。総合スコアは右側、個別スコア(バリュー、モメンタム、政治/マクロ)は左側に示されている。灰色の枠線は、対象四半期中のスコアに変化がなかったこと、緑色の枠線はスコアが引き上げられたこと、赤色の枠線はスコアが引き下げられたことを示す。 上記のアセットクラスは、マルチアセットチームの現在の投資見解を反映したものです。これらは投資リサーチまたは投資推奨に関する助言に該当するものではありません。セクターや経済、市況トレンドに関する予見、予測または予想は、それらの将来の状況またはパフォーマンスを必ずしも示唆するものではありません。

中国では(質の高い)需要が回復

2019年を通じて、中国の需要を軌道に戻すためには一段の景気刺激策が必要だと考えた人が多かったが、当局は台本に忠実だった。政府は大規模な信用誘導型の景気回復を演出することはせず、代わりに改革路線を貫き、その改革の大半は、インフラや不動産への資本配分という従来の手段による対処よりも、民間セクターの需要喚起を目的としたものとなった。

中国政府は依然として投資支出を増やしている。しかし、今では、従来型の事業セクターよりも、Huaweiのような企業への製品供給を断つという米国の警告を受けて重要性が一段と増したコンピューターや通信を選択している。10月には、政府は2回目となる大規模な半導体向け国家支援ファンドの立ち上げを発表し、290億米ドル相当に上る資金を調達した。中国は今や世界の半導体供給の5%を生産しており、実質ゼロだった1年前から大きく伸びている。

テクノロジーにおける中国の野心は、目前に迫った5G(第5世代移動通信方式)の展開と相まって、ハードウェア・サイクルを健全な形で後押ししている。もちろん、コロナウイルスの流行が引き起こしているサプライチェーンの混乱について、その度合いを現段階で正確に推し測るのは難しい。しかし、感染拡大の最中に病院からの生中継などが行われたことにより、コロナウイルスに関するニュースを求めている民衆のあいだで、5Gに対する注目度が図らずも高まった。さらに、台湾と韓国は5Gの展開から恩恵を受けやすい有利な立場にある。

(注) 個別銘柄への言及は、当運用戦略に基づいて運用されるポートフォリオにおいて当該銘柄の保有が継続されることを保証するものではなく、また当銘柄の売買を推奨するものでもありません。

チャート2:テクノロジー・ハードウェア・サイクルの回復

チャート2:テクノロジー・ハードウェア・サイクルの回復

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2010年1月31日~2019年12月31日

中国のテクノロジー、ソフトウェアおよび消費関連セクターの収益見通しは好調だ。しかし当面は、コロナウイルスの流行を受けて、消費が概ねオンラインでの販売に限定される可能性がある。一方、MSCIは中国A株について、11月下旬にインデックス組入係数を15%から20%へと引き上げることにより、自社インデックスにおける構成比率を引き続き拡大させている。香港から中国本土へ「北上」する投資資金フローは増加し続けているものの、投資家のポートフォリオでは依然としてA株が大幅にアンダーウェイトとなっている。

チャート3:「北上」資金フロー(20日間移動平均)はコロナウイルスの影響で足元では弱含みながらも加速傾向:

チャート3:「北上」資金フロー(20日間移動平均)はコロナウイルスの影響で足元では弱含みながらも加速傾向

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2016年1月4日~2020年1月23日

インドは予想外のインフレ加速と財政難

インドは、2019年初めには2%超であったCPI(消費者物価指数)上昇率が、12月には食品(より具体的にはタマネギ)価格の上昇を主因として7.35%へと加速した。中央銀行は今のところ政策金利を据え置いているが、債券市場のボラティリティは12月初めから高まっている。たいていの場合、食品価格を原因とするインフレ加速は、将来の収穫で供給が正常化すると予想されることから、一時的なものとなることが多い。

インフレ圧力は後退するかもしれないが、財政悪化は債券利回りを高止まりさせる要因として重要性がより高いと言える。8月の減税後、財政赤字は対GDP比3.3%の見通しで予算計上されていたが、大半は赤字幅が計画よりもある程度悪化して同4%近くになると見ており、同国には追加の景気刺激策をとる余裕がなくなっている。

チャート4:インドのCPIは政策金利の水準を突破

チャート4:インドのCPIは政策金利の水準を突破

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2015年1月31日~2019年12月31日

インドの鉱工業生産とPMI(購買担当者景気指数)は製造業の回復を反映して若干拡大/上昇したが、投資と消費は低調にとどまっている。建設分野を中心とする景気低迷は農村部の雇用に打撃を与えており、その結果として消費低迷は長期化が予想される。銀行のバランスシートが脆弱であるとともに、当局に財政・金融政策面での追加景気刺激策を行う余力が限られるなか、明るい材料を見出すのは難しい。それでも同国株式は2020年の予想利益に対して依然PER(株価収益率)21倍の水準にあり、経済成長見通しが低調なことを考えるとバリュエーションは特に割高だと言える。

EMEA(欧州・中東・アフリカ):脆弱さと強さが混在

驚くことではないが、EMEA地域の通貨もコロナウイルスの流行が大きな打撃となっている。南アフリカランドは、中国の対資源需要が減少しているのに加え、同国の財政見通しが非常に厳しくムーディーズによるソブリン債格付けの引き下げが近いと見受けられることから、特にパフォーマンスが低迷している。

トルコリラはここ数週間、比較的安定した推移を見せている。それでも、2019年の第4四半期には、トルコ中央銀行が積極的な利下げを続け実質金利のバッファーを事実上取り去ってしまうなか、同通貨はEMEA内で最も弱い通貨となった。トルコ株式は割安で、マクロ環境の影響が限定的である高クオリティ企業のなかには、興味深い投資機会がいくつか出てきている。

EMEA内では、当社はロシアの株式および債券が最も投資魅力が高いと引き続き考えている。経済成長は回復基調にあるが、最も重要な点として、同国は財政・経常収支が大幅な黒字であることから、不安定さを増す外的環境に対する耐性が他国に比べてかなり強い。

資産クラス別スコア

資産クラス別スコア

スコアについて:各国および各資産クラスのスコアは、中立が白色、プラスが緑色、マイナスが赤色で表されている。総合スコアは右側、個別スコア(バリュー、モメンタム、政治/マクロ)は左側に示されている。灰色の枠線は、対象四半期中のスコアに変化がなかったこと、緑色の枠線はスコアが引き上げられたこと、赤色の枠線はスコアが引き下げられたことを示す。

上記のアセットクラスは、マルチアセットチームの現在の投資見解を反映したものです。これらは投資リサーチまたは投資推奨に関する助言に該当するものではありません。セクターや経済、市況トレンドに関する予見、予測または予想は、それらの将来の状況またはパフォーマンスを必ずしも示唆するものではありません。

トルコの債券は脆弱な様相

トルコ中央銀行は積極的に利下げを行ってきており、2019年6月に24%であった政策金利は2020年1月には11.25%まで引き下げられた。債券市場は利下げを好感し、利回りが低下して価格がかなり上昇した。しかし通貨トルコリラは、当初は同様に利下げを好感したものの、8月初旬には再び下落に転じ、1月下旬にかけて8%超売り込まれた。

チャート5が示す通り、トルコの実質金利バッファーは、同国のCPI上昇率の加速に伴い消えてしまった。インフレ率は12月に11.8%へと加速し、しばらくはそのような水準での高止まりが予想されている。一方、財政赤字は2018年の対GDP比2.0%から2019年には同2.8%へと悪化したが、1回限りの歳入を除くと実際の赤字幅は同5.0%となり、同国の切迫した財政状況を際立たせている。

チャート5:各地域新興国の実質金利

チャート5:各地域新興国の実質金利

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成(2020年1月末時点)

これを受けてトルコ資産のスコアを引き下げたが、トルコ株式については、特定の銘柄にバリュエーションの観点からの投資機会が見出されるため、中立のスタンスを維持する。そのような投資機会には、生活必需品のようにマクロ環境悪化の影響を相対的に受けにくいセクターの高クオリティ企業が含まれる。

ロシアは底堅さを維持

市場のショックは新興国資産への悪影響が常に大きい。しかし、ストレスが長期化する環境下では、対外収支がより長期間にわたる勝者と敗者を分ける要因となる。チャート6に見られるように、ロシアは大規模な構造的調整を経て、現在では経常・財政収支が大幅な「双子の黒字」となっている。

チャート6:ロシアの双子の黒字

チャート6:ロシアの双子の黒字

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2009年12月31日~2019年9月30日

対外債務は、ロシアがその外貨準備で完済可能な水準にまで減少してきている。言い換えれば、同国は資金源を国外に頼る必要のない自立した状況にあるということだ。原油価格の下落が同国の交易条件を悪化させ短期的に資産市場のボラティリティを高める一方、同国の対外収支が黒字であることは通貨および経済全体を自然に安定化させる作用をもたらす。

当社では引き続きロシア債券を選好しているが、ただし同国の金融緩和サイクルは概ね終わっている。またロシア株式は、昨年に世界各国市場のなかでパフォーマンス上位となったものの、配当利回りが8%近くと世界で最も魅力的な水準にあり、依然として割安に見受けられる。魅力的なバリュエーション、企業の好調な収益性、妥当な自社株買い計画というサポート材料が揃ったロシア株式には、まだ他国市場をアウトパフォームする可能性が残っていると考える。

中南米は依然脆弱

2019年の中南米市場は、チリでの大規模な暴動や(規模はより小さいが)コロンビアでのデモなど、複数のショックに見舞われた。同地域の国々は市場に有利な改革を予定通り着実に進めたが、そのような取り組みの効果も不満と社会不安の拡大によって最終的に打ち消された。例外となったのはブラジルで、国会議員は依然、改革こそが景気を回復させ結果として自身の政治的立場を保持する最良策だと見ている。

2011年以来、中南米はおそらく新興国のなかで最も苦しんだ地域で、中国を中心とする外需の後退とコモディティ価格の大幅下落への適応を余儀なくされた。コロナウイルスの脅威も、貿易を冷え込ませコモディティ価格の一段の急落を招いており、確実に状況を悪化させている。

メキシコとペルーを除いて、中南米諸国の通貨は2019年を通じて軟調な推移が続いた。例えば、ブラジルレアルは、政府が年を通じて主要な改革を成立させたにもかかわらず下落した。実際ブラジルはようやく改革の効果が現れてきたようで、ついに景気に回復の兆しが見え始めている。しかし、中南米全体としては、政情が依然不安定であることから経済成長の低迷が地域にわたって続いており、外的ショックに特に脆弱だと言える。

資産クラス別スコア

資産クラス別スコア

スコアについて:各国および各資産クラスのスコアは、中立が白色、プラスが緑色、マイナスが赤色で表されている。総合スコアは右側、個別スコア(バリュー、モメンタム、政治/マクロ)は左側に示されている。灰色の枠線は、対象四半期中のスコアに変化がなかったこと、緑色の枠線はスコアが引き上げられたこと、赤色の枠線はスコアが引き下げられたことを示す。
上記のアセットクラスは、マルチアセットチームの現在の投資見解を反映したものです。これらは投資リサーチまたは投資推奨に関する助言に該当するものではありません。セクターや経済、市況トレンドに関する予見、予測または予想は、それらの将来の状況またはパフォーマンスを必ずしも示唆するものではありません。

中南米は依然として世界の需要への感応度が高い

2019年の第4四半期のグローバル市場は、差し迫った米中貿易協定「第1段階」や景気回復の兆し、中央銀行による潤沢な資金流動性供給を材料として、全般的に楽観ムードが強まった。それでもなお、中南米諸国の通貨は、チリにおける政治的リスクの高まりも一因となって下落が続いた。意外だったのは、チリペソの下落にブラジルレアルも連動したことだ。ブラジルは、改革を順調に推進していたにもかかわらず、通貨安に見舞われることとなった。

チャート7:チリペソの下落に続くブラジルレアル

チャート7:チリペソの下落に続くブラジルレアル

出所:信頼できると判断した情報をもとに日興アセットマネジメントアジアリミテッドが作成
期間:2018年12月31日~2020年1月30日

チリおよびブラジルの中央銀行はともに、自国通貨を支えるべく11月下旬に介入を行った。為替介入は少なくとも2020年初めまでは奏功したように見受けられたが、その後、両国通貨は再び売り込まれた。チリとブラジルにはこの急落相場と闘う余力はまだ残っているが、両国通貨の見通しは依然厳しい。コロナウイルスは世界の需要にショックをもたらしており、外需のさらなる冷え込みが国内の社会不安を悪化させる可能性がある。

当資料は、日興アセットマネジメント アジア リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在(2月4日)の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント アジア リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。