本レポートは、2020年5月18日発行の英語版「ASIAN EQUITY MONTHLY」の日本語訳です。内容については英語の原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 新型コロナウイルス(COVID-19)の1日当たりの感染者数が複数のアジア諸国で減少し始めたことを受けて、4月のアジア株式市場は大幅に反発した。財政出動および金融緩和策が継続されたことも市場センチメントを押し上げた。アジア株式(日本を除く)の月間市場リターンは、米ドル・ベースで9.0%と大幅なプラスになった。
  • インド株式は、ソブリン債の信用格付けが引き下げられるとの噂が材料視されず、当月の市場リターンが米ドル・ベースで16.1%と大幅なプラスになり、域内のすべての他国市場をアウトパフォームした。アセアン地域でパフォーマンスの好調さが目立ったのはタイおよびインドネシアで、米ドル・ベースで2桁台の月間リターンを達成した。
  • 中国株式は、同国の2020年第1四半期のGDPが前年同期比6.8%減となったことを受けて投資家が慎重姿勢に転じたため、米ドル・ベースの月間リターンが6.3%にとどまり、域内の他国市場に対して劣後した。
  • 世界経済はこれまですでに打撃を受けており、2020年内は苦境が続く可能性があるものの、当社では将来に向けて有利な立場にあると考える企業の価値と株価の大幅な乖離に注目を続けている。総じて、技術革新の期待できる分野を選好しており、引き続きインドやアセアン地域よりも北アジアの市場をより有望視している。

アジア株式

市場環境

4月のアジア株式は大幅反発
アジアの株式市場は、3ヵ月連続で月間リターンがマイナスとなった後、4月はCOVID-19の日次新規感染者数が複数のアジア諸国で減少し始めたことを受けて大幅に反発し、下落基調にようやく歯止めがかかった。アジア各国の政府や中央銀行が財政出動および金融緩和策を継続していることに加えて、各国がロックダウン(都市封鎖)措置を徐々に緩和し始めるなかで楽観ムードが高まったことも、当月のアジア株式を押し上げた。原油市場はOPEC(石油輸出国機構)とロシアなど非加盟主要産油国で構成する「OPECプラス」の協調減産合意を経ても大きな混乱を見せたが、アジアの株式市場への影響は限定的だった。

日本を除くアジアの大半の通貨は、対主要通貨で横這いとなった米ドルに対して前月末比で上昇した。セクター別では景気敏感株がディフェンシブ株をアウトパフォームし、スタイル別ではバリュー株が大幅にアウトパフォームする展開となった。アジア株式(日本を除く)の月間市場リターンは米ドル・ベースで9.0%となり、域内の各国市場は月間リターンが軒並みプラスとなった。国別では、インドおよびタイが最も好調なパフォーマンスを見せる一方、マレーシアと中国は劣後した。

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

過去1年間におけるアジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場の推移(トータル・リターン)

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

アジア株式市場(日本を除く)、新興国株式市場、グローバル株式市場のPER(株価収益率)の推移

インドとタイはアウトパフォーム
インド株式は、ソブリン債の信用格付けが引き下げられるとの噂が材料視されず、当月の市場リターンが米ドル・ベースで16.1%と大幅なプラスになり、域内のすべての他国市場をアウトパフォームした。市場センチメントを押し上げた要因としては、インドの中央銀行がレポ金利を0.25%引き下げて3.75%としたことや、インド政府がロックダウンによる制限を一部緩和して(モールなどの集合商業施設を除く)近隣型商店や独立型店舗の営業を認めると発表したことが挙げられる。

アセアン地域では、タイおよびインドネシアの株式市場が米ドル・ベースで2桁台の月間リターン(前者が16.0%、後者が12.1%)となる一方、フィリピン、シンガポール、マレーシアの月間市場リターンは米ドル・ベースでそれぞれ9.0%、8.4%、5.5%となった。2020年第1四半期の多くの経済指標が市場予想を下回ったものの、大半のアセアン市場では、コロナウイルス感染者数の減少、政府による追加景気刺激策、対米ドルでの通貨上昇がセンチメントの追い風となった。シンガポールでは、寮に住む外国人労働者のあいだで感染率が急速に高まったことを受けて、地域社会におけるCOVID-19の感染拡大を抑制するため、政府が月初に一連の「サーキット・ブレーカー」措置(職場や学校を閉鎖する措置)を発表した。

中国株式は域内の他国市場に対して劣後
北アジアの各国市場はアジア域内の他国市場の力強い反発に追随し、米ドル・ベースの月間リターンが台湾で14.1%となる一方、韓国および香港はそれぞれ8.2%、7.3%となった。韓国では、文在寅大統領率いる与党「共に民主党」が4月の総選挙で勝利し、1987年に同国が民主化されて以降どの政権政党が手にしたよりも多い過半数議席を獲得した。他では、中国株式の月間リターンが米ドル・ベースで6.3%にとどまり、域内の他国市場に対して劣後した。中国の2020年第1四半期のGDPが前年同期比6.8%減となったことを受けて、投資家が慎重な姿勢に転じたためだ。中国のGDPが減少するのは、同国が1992年に四半期データの公表を開始して以来、今回が初めてである。一方、中国は「両会」と総称される全国人民代表大会(「全人代」、国会に相当)および全国政治協商会議(「政協」、国政助言機関)の開催日程をようやく決定した。当資料作成日現在、市場は、先行き見通しの指針としてこれらの会合の結果を注視している。

アジア株式(日本を除く)のリターン

アジア株式(日本を除く)のリターン

今後の見通し

パンデミックによって脆弱性が露わになったものの、耐性が向上
ベストセラーの小説シリーズ「氷と炎の歌(A Song of Ice and Fire)」(ドラマ化作品「ゲーム・オブ・スローンズ」としてより知られる)の著者ジョージ・R・R・マーティンは、「人々は真実を切望しているとよく主張するが、いざ真実に直面するとほとんどそれを好まないものだ」と記したが、これはCOVID-19のパンデミックによって明らかになったことにも当てはまる。今回のパンデミックにより、国家主義、保護貿易主義、(国家間および国民のなかでの)社会的・経済的な不平等、(ヘルスケアを中心とする)インフラ不足、ビジネスモデルおよびビジネス上の関係の脆さ、政府の効率的な機能(およびその欠如)、自然に与えたダメージが白日の下に晒された。より明るい側面では、人間の創意工夫力や耐性、協調力、(2008年以降、脱グローバル化が進んでいるものの)グローバルな相互関連性にも光が当たった。

長期投資への影響としては、世界のサプライチェーンの再編、かつてない拡大を見せるデジタル化、ESG(環境・社会・ガバナンス)における環境やサステナビリティ(持続可能性)の認識向上といったいくつかのトレンドの加速や、サービスおよびテクノロジー・インフラへの投資における方向転換、現代貨幣理論、国際関係悪化の可能性などの新たなトレンドの台頭が挙げられる。したがって、世界経済はこれまですでに打撃を受けており、2020年内は苦境が続く可能性があるものの、持続的な競合優位性と明確なESG方針を持ち合わせ、当社が考える将来の見通しに対して有利な立場にある企業の価値と株価の大幅な乖離に引き続き注目している。

技術革新の期待できる分野を選好
中国は、国内経済の刺激にあたって慎重なアプローチを取ってきており、インフラ支出を過去の重点分野ではなくテクノロジー、ネットワーク、再生可能エネルギー関連といった新しい分野に向けている。国内市場では当面の方向性の材料として両会に注目が集まっているが、インフラ支出に見られるような「量より質」への継続的なコミットメントや(財政および金融両面での)十分な政策余地は、より長期的な安心材料である。これを反映して、当社では、ソフトウェア企業やオンライン・サービス企業に加え、保険やヘルスケア、産業オートメーションといった銘柄を選好している。

「チャイナプラスワン戦略」(生産拠点などの中国集中リスクを回避するため、中国以外の国・ 地域へも展開する経営戦略)によって、テクノロジー分野を中心にサプライチェーンの再編が進んでいるが、このことは台湾や韓国にとって有利な兆候と言える。この両国は、世界の多くの主要テクノロジー企業が拠点としており、また良好な財政収支を誇っている。当社は、テクノロジー・セクター内でこれらの国を引き続き有望視している。

インドおよびアセアン地域については選別的な姿勢
インドは、未発達な医療体制や大規模な現金主義のインフォーマル経済を考慮すると、経済がCOVID-19の流行によって厳しい試練を受けると想定される。しかし、過去数年にわたって着手された改革から生じるより長期的な効果は明白である。当社では、インフォーマル経済のフォーマル化やデジタル関連の普及率拡大といった構造的なトレンドに引き続き注目しており、民間銀行、デジタル・サービス、物流などの銘柄を選好している。

アセアン地域もまた、インドと同様、政治面の対策が後手に回っているとともに経済が厳しい状態にあることから、COVID-19のパンデミックの対応において困難な状況にある。当社ではアセアンに対して全般的に慎重な見方を維持し、世界的なトレンドからの恩恵が期待される厳選した銘柄のみを有望視している。

参考データ

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPER

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

アジア株式市場(日本を除く)のPBR

当資料は、日興アセットマネジメント アジア リミテッド(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに、日興アセットマネジメント株式会社が作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社および日興アセットマネジメントのファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社および日興アセットマネジメントが保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社および日興アセットマネジメントのものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。日興アセットマネジメント アジア リミテッドは、日興アセットマネジメント株式会社のグループ会社です。