本稿は、2020年5月13日発行の英語レポート「FUTURE QUALITY INSIGHTS:INVESTMENT INSIGHTS」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

ジキル博士とハイド氏

ジェームズ・キングホーン

エジンバラでは、ロックダウン(都市封鎖)が5週目に入っており、外出が認められているのは運動を目的とした1日1時間のみだ。週にわたって、筆者はいつもこの1時間を朝一番の犬の散歩に費やす。これはもう何年にもわたって続けている日常の習慣の1つだが、以前は当たり前だと思っていたこの散歩が、最近の規制により1日のうちで非常に貴重な時間となっている。

ブレイドバーン・バレー公園のマートル

筆者が散歩する公園には非常に興味深い歴史がある。左の写真を撮った場所から数メートルのところにある「Fly Walk」と呼ばれる小道は、地元では有名で、ロバート・ルイス・スティーヴンソン1がスワンストン(市の南)の自宅とエジンバラ市のあいだを行き来するのに辿った道だ。

スティーヴンソンといえば、「宝島」や「誘拐されて」、「ジキル博士とハイド氏」など多くの素晴らしい小説でよく知られている。しかし、彼は文学以外でも非凡な一生を送った。人生の大半において健康障害に苦しんでいたにもかかわらず、広く旅をしたのだ。

彼は、晩年を過ごしたサモアで自身の傑作のいくつかを著すとともに、人権、正義、自由および平等を擁護する活動家として名を上げた。サモア社会の一員となり、その文化と価値観のために戦った。

実際、彼が熱心に推進した価値観には、当戦略の投資対象企業やその経営陣に期待するものの多くと重なる。すべてのステークホルダーに配慮し、多様性を奨励して従業員に活力を与え、自らが事業を営む地域コミュニティーにサービスを提供するとともに、サプライヤーと共感・協力でき顧客に評価される企業だ。

ロバート・ルイス・スティーヴンソン(提供元:iStock)

1 ロバート・ルイス・スティーヴンソンはエジンバラで生まれ育ち、人生最初の29年の大半を同市近郊で過ごした。当時の感銘を与える天才的な創造者の多くがそうであったように、同氏も今日の基準で言えば短い生涯を送り、1894年にサモアにおいて44歳の若さで亡くなった。


上場企業の大多数は、そのESG(環境・社会・ガバナンス)およびサステナビリティ(持続可能性)報告書に企業バリュー(企業組織としての価値観)を掲載している。この情報は、投資家が投資先企業の価値観や従業員、顧客、サプライヤーおよびコミュニティーに対する当該企業の配慮の深さを把握するにあたって、重要な一助となる。

ここ数年そうであったように、世界中の国々の経済が好調なときは、企業がステークホルダーの利益に配慮するのは比較的簡単だ。しかし、厳しい状況ではそれがはるかに難しくなる。ロバート・ルイス・スティーヴンソンの小説「ジキル博士とハイド氏」はその良い例えだ。現在のCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)危機によって、ジキル博士のような行動を示し自社の企業バリューを忠実に守る企業と、ハイド氏のようになり、危機が拡大するにつれESGに関する万事に背を向けてしまう企業との違いに注目が向けられると思われる。この兆候はすでに観察されつつあり、今回の危機によって企業はかつてない形で試されることになるだろう

辞書に載っている「ジキルとハイド」(提供元:iStock)

持続可能なビジネスモデルは、 好調なときでも困難なときでも全てのステークホルダーに配慮するものでなければならない。企業のクオリティは、単にバランスシートの強さや収益性の高さに留まるものではなく、それらを大きく超えた領域に及ぶ。企業の行動も、長期的な勝者になる企業を特定するのに役立つ。市場のストレス局面で正しいことを行う企業は、評価すべき存在だ。

当戦略では、運用ポートフォリオで投資している企業の過去数ヵ月の行動を注視してきた。明らかに、大半の産業にわたって需要が大きく減少するなか、大部分の企業では売上げ・利益が深刻なストレスに晒されている。しかし、危機はまた機会ももたらす。企業の評判を向上させ、世界が危機を脱する際に市場シェアの獲得を進める機会だ。

当戦略の運用ポートフォリオで投資している企業は、正しい行動を取ってステークホルダーを支えている。

アジアの生命保険会社であるAIAは、域内の数百万人の顧客、従業員および販売員に対し、COVID-19保険を無償で提供した。数千品目の個人用保護具を寄付し、あらゆるCOVID-19関連の健康問題に対する補償承認を促進する取り組みを実施するとともに、加入者の自己負担金を免除した。また、診療所に資金提供を行い、アジア中の多くの病院で従業員向け総合リスク補償保険を提供した。

米国の自動車・火災保険会社であるProgressive Corpは、加入者の大半が通常ほど車を使っていないことに鑑み、10億米ドルの保険料を加入者に返金した。保険の更新や保険料の支払いを行う余裕のない顧客に対しては、保険期間を通じて補償を継続する救済措置を提供した。代理店は助成金支援を受けており、大半の従業員が在宅勤務可能である一方、そうできない従業員はやはり助成金支援を受けている。

世界的な消費財企業であるUnileverは、石鹸、消毒剤、食料品の形で1億ユーロ超の寄付を行った。また、顧客やサプライヤーに対し、今回の危機を通じて事業運営を支援すべく5億ユーロの義援金を提供している。そして従業員に対しては、今回の混乱を受けて全人員に3ヵ月の収入補償を行っている。

欧州のヘルスケア機器メーカーであるPhilipsは、フィリップス財団を通じて画像診断や患者モニタリング用の機器、呼吸器などを寄付した。また、イタリアでは、個人用保護具の購入に対し資金援助を提供した。そして、人口呼吸器および持続陽圧呼吸器の増産に注力しながら、発展途上国に対して当該製品への公平なアクセスを確保している。

「フューチャー・クオリティ」2 投資の本質は、企業のあらゆる面を分析してその持続可能な競争優位性を把握することにあり、当社では、企業はその競争優位性を維持するためにはすべてのステークホルダーを優遇する必要があると固く信じている。どんなに優れた事業も難局を経験する。現在の危機によって、多くの企業が非常に大きな困難に見舞われており、この状況はしばらく続くとみられる。これらの企業の行動は、そのステークホルダーの記憶に残るだろう。ロバート・ルイス・スティーヴンソンは時として、「人生は良いカードを揃えられるかどうかではない、悪い手を上手く扱えるかどうかだ」という名言で取り上げられる。大半の企業は今回の危機で「悪い手」が回ってきているが、この局面の乗り切り方や行動のし方の影響は長年にわたって残るだろう。

2 フューチャー・クオリティーとは当戦略が理想的な投資対象と考える企業を指しており、高水準のキャッシュフロー投資収益率を達成し維持することができる企業のこと。


投資機会

最近の市場の混乱は、優れた企業にかなり割安な株価で投資できる機会をいくつかもたらしてくれた。最近投資した銘柄としては、Palomar HoldingsKerry Groupなどが挙げられる。3月には、米国の損害保険会社Palomar Holdingsを新規購入した。同社はテクノロジー主導型の革新的な保険会社で、サービスが不十分な米国の保険市場をターゲットとしており、売上げの大半は地震保険が占める。同社は、その優れた情報技術およびデータ分析により、競合他社に比べてよりきめ細かいプライシングやより柔軟な商品を顧客に提供することが可能となっており、販売を拡大するとともにニッチな販路を新たに加えている。急速に成長しているが、その優れた契約査定・リスク移転プログラムにより好調な利益を生み出している。

また、特殊食品成分の分野をリードする欧州の食品企業Kerry Groupを新規購入した。同社は、健康・ウェルネスやインスタントもの、クリーンラベル(食品原材料のシンプルで分かりやすい表示。人工的・化学的な合成原料・添加物の不使用を表す場合もある)、サステナビリティなど、変化する消費者トレンドに対応するのに優位な立場にある。同社はテクノロジーに多額の投資を行っており、この独自のITインフラおよび総合ソリューション・プラットフォームが同社の競争優位性を高めている。世界中の加工食品メーカーにソリューションを提供する成長への大きな助走路的存在だ。

最終的考察

1964年に初めてコロナウイルスを発見したのは、優秀なスコットランド人のジューン・アルメイダ氏であった。当社は、今日の科学者がこの新型コロナウイルスの治療法を開発して混乱や苦難の軽減を促す一助となってくれるのを、辛抱強く待っている。COVID-19に関してはここ数週間、多くの専門家が予測不可能なことを予測しようと努めてきているが、当社はそのような騒ぎに参加するつもりもなければ、生活が「ニューノーマル」へ戻る時期を知っているふりをするつもりもない。

当社がわかっているのは、将来のどこかの時点で、政府が国民の仕事への復帰を認めなければならないということだ。世界経済に深刻なダメージが続いているのはわかっており、このダメージの修復を促すべく世界中で財政および金融政策により多額の流動性がシステムに注入されていることもわかっている。また、COVID-19危機がどこかの時点で過ぎ去ることもわかっている。

持続可能で息の長い事業、明確で堅固な戦略および企業バリューを持った経営陣、そして良好なバランスシートを有する企業に、常に適正な価格で投資することは、引き続き資産運用への賢明なアプローチであると言える。

個別銘柄への言及は例示目的のみであり、当社の運用戦略に基づいて運用するポートフォリオにおける保有継続を保証するものではなく、また売買推奨を示すものでもありません。

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