当レポートは、英語による2020年11月17日発行「MULTI-ASSET MONTHLY」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

投資環境概観

米国大統領選挙が終わった今、候補2名はパラレルワールドを進んでいるようだ。明らかな勝者であるジョー・バイデン次期大統領は政権移行プランと就任のことを考えているが、ドナルド・トランプ大統領は選挙プロセス自体に異議を唱え続けている。そのような状況ながら、明白なことが1つある。民主党が大統領選で圧勝するとともに上院での過半数を覆すといういわゆる「ブルーウェーブ」は実現しなかった。上院は接戦の模様だが、それでも2021年1月に行われる2議席の決選投票を経て共和党が過半数を維持する見通しである。ポートフォリオ・ポジショ二ングの観点で言うと、ブルーウェーブは「リフレ・トレード」と密接な関係があった。米国で大型の追加景気対策パッケージが実施されれば、債券利回りが上昇してグロース株からバリュー株への資金シフトが起きるであろうからだ。選挙後の数日で市場が異なる結果へと再調整するなか、当初は債券利回りの低下を受けてグロース株がバリュー株をアウトパフォームした。

トランプ陣営が選挙に異議を唱えるという法的選択肢を追求し続ける一方、バイデン氏も勝利が確定したとしても「ねじれ議会」に直面することになる。ねじれ議会は、民主党の公約政策を行き詰まりに追い込み、リフレ・トレードの主要な原動力であった同党の大規模な新型コロナウイルス関連救済策パッケージの計画に当面暗雲を投げかけるだろう。たとえトランプ氏が何らかの方法で勝利を手にしたとしても、結果は概ね変わらず、景気対策はより限定的なものとなる。選挙結果が未だ「明確な」勝者を示していないこと、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のワクチン開発の散発的なニュースが投資家にとって乗り切らなければならない逆流を生み出すと想定されることから、当社では市場のポジショニングについて流動的な状況が続くと予想している。当面は、バリュー株がグロース株からグローバル株式の主導権を奪おうとする一方、米国債利回りはボラティリティが高止まりするとみられる。新興国市場は最近アウトパフォームした分の巻き戻しが幾分起こる可能性があるが、中国との貿易・テクノロジー戦争においてバイデン氏がトランプ大統領ほどのアグレッシブさを見せると予想する向きはほとんどいないことから、中国市場はバイデン政権の誕生から恩恵を受けるかもしれない。

しかし、リフレ・トレードは終わったのだろうか。当社では終わっていないと考えている。ブルーウェーブが起きていればより規模の大きい財政支出がより早いタイミングで実施されたのは確かだが、バイデン政権となってもトランプ政権のままでも景気対策は依然近い将来に実施される見込みであり、また、重要な点として、金融政策は非常に緩和的な状態に維持されている。加えて、財政・金融政策は米国以外の国々でも緩和状態が継続しており、一方で需要は中国を中心に回復を続けている。最近の欧州でのロックダウン(都市封鎖)など、COVID-19の逆風は変わらないが、それでも世界は新型コロナウイルスと共存する方法を学びつつあると当社ではみており、ワクチンが開発されれば来年は需要の正常化が加速すらするだろう。より長期的には、このようなリフレ環境が依然としてドル安、債券利回りの上昇、グロース株からバリュー株への一定の資金シフトを促すものと考える。

クロス・アセット

当社では、腰を据えてグロース資産の中立スコアを維持する一方、ディフェンシブ資産のスコアについては若干マイナスに引き下げた。米国選挙リスクの後退が続くなか、バイデン氏の勝利が確定したとしてもトランプ大統領が政権を維持したとしても、何らかの新しい景気対策が近く実施されるだろう。これは世界のグロース資産にとって脅威とはならず、新しい景気対策の見通しが立てば米国債のイールドカーブはスティープ化するだろう。一方、北半球が寒さの増す冬季に入るのに伴い、米国や欧州はCOVID-19のパンデミック(世界的流行)に再び見舞われている。ウイルスを封じ込めるために一部の都市でロックダウンが実施される可能性はあるが、感染者の大半が若い世代であり死亡率が低位にとどまっていることから、広範な経済活動の停止は依然として非常に考えにくい。

景気対策第4弾が遅れているにもかかわらず米国の需要は堅調を維持しているが、追加財政支出の見込みについて失望的なニュースが新たにもたらされるかが明らかな注目点であることに変わりはない。グロース資産のなかでは、先進国および新興国の株式について中立スコアを維持する一方、さらなる経済活動制限の影響をより受けやすいリートのスコアを若干引き下げ、インフラ資産のスコアを引き上げた。ディフェンシブ資産では、リフレ環境を目指して拡張的な金融・財政政策協調が行われていることから、ソブリン債および投資適格クレジットのスコアを引き下げてインフレヘッジ資産のスコアを引き上げた。また、通貨については、グロースおよびディフェンシブ通貨ともに中立スコアを維持した。

マルチアセット・チームのクロス・アセット見解は、(1)グロース対ディフェンシブ、(2)グロースおよびディフェンシブ資産内でのクロス・アセット、(3)各資産クラス内での相対的な資産の見方、という3つの異なる段階で示しています。これらの段階は、選好順位の水準は資産クラスが予想可能な形で似た動きあるいは異なる動きを見せるという当社のリサーチおよび直感的認識を表しており、したがって、資産クラスのクロス・アセットでのスコアリングは理に適っているとともに、最終的により熟考された堅固なポートフォリオ構築につながると考えます。

資産クラスの選好順位

当社の見方

グロース資産

グロース資産の見通しは、COVID-19の再流行を主因とする主要リスクの入れ替わりに依然として微妙に影響を受けている。通常、グロース資産の相場はかなり先の将来を織り込むものだが、現在のCOVID-19に見舞われた世界では、パンデミックの終息見通しが立つまで、あえて将来を織り込もうとする市場参加者はほとんどいない。さらに言えば、パンデミック終息後の世界においてですら、需要行動がパンデミック前の標準的状態に戻るとは限らない。商業不動産や出張といった一部のケースでは、元に戻らないのは明らかだ。しかし、需要行動の変化の度合いは依然未知のままである。

現在のところ、当社が注目しているのは引き続き選挙リスクで、これは後退した。しかし、より重要な点として、当社では今や各国政府、そして新型コロナウイルス対策としての経済活動制限と経済成長のバランスを取ろうとするその試みにも注目している。慎重なスタンスは変わらないが、最終的には各国政府が活動制限を来年序盤まで延長することはないとみている。


北アジア以外の新興国は峠を越したのか

今年、北アジア以外の新興国ほど大きな打撃を受けた資産クラスはおそらくほとんどないだろう。これらの国々の政府は概して新型コロナウイルスの封じ込めに失敗し、内需の刺激に使える財源が限られている一方で自国のコモディティ輸出に対する外需も低迷した。これらの国々ではテクノロジーやインターネットといった新しい経済セクターの占める割合が小さく、投資機会が極めて稀となった。当然のことながら、これらの国々の株式市場は大きく出遅れ、最近では相対バリュエーションが過去最低水準に落ち込んでいる。

チャート1

しかし、11月初旬における米国の選挙と有望なワクチン開発のニュースの余波を受けて、アセアン、欧州・中東・アフリカおよび中南米の新興国市場は目覚ましい上昇を見せており、数日で新興国全体を8.5%もアウトパフォームしている。グローバル環境はこれらの市場にとってより追い風に転じているのだろうか。当社ではおそらくそうだとみているが、それにはいくつかの理由がある。ディープ・バリュー株(バリュー度が際立って強い銘柄)は強い不透明感が要因となっていることが多く、その不透明感が若干薄まるだけでも力強い上昇を引き起こすのに十分だ。米国の選挙をめぐる不透明感は概ね晴れてきており、一方でワクチン開発の見通しが立ってきたことで需要の正常化が促されるとみられる。

先行き不透明感が払拭されたのかといえば、もちろんそうではない。欧州や米国では新型コロナウイルスの流行が新たに発生しており、さらにワクチンの承認時期は不明で、幅広く行き渡るまでにはかなりの時間を必要とする可能性がある。それでも、パンデミックの終息が視野に入ってきたように見受けられるなか、その恩恵を受ける可能性がある一方で現在バリュエーションが非常に割安となっている銘柄に投資することは妥当だと言える。また、最近のCOVID-19の再流行が需要回復の重石になるとみられるものの、財政政策が追い風で金融政策もさらに強い追い風であることに変わりはなく、このサポートが少なくとも来年いっぱいは続くものとみられる。こうして考えると、北アジア以外の新興国市場の最悪期は終わりを迎えているように見受けられ、やがて開発されるワクチンへの期待のなか、見通しは大幅に好転している。

しかし、北アジア以外の新興国市場がすべて同様というわけではない。当初の反発においてはクオリティの低い国々の資産が債券も含めて一斉に急騰し、アルゼンチン債ですら上昇したが、やがては差別化が進むものとみられ、クオリティの高い国の市場は高いパフォーマンスの継続が期待される一方、クオリティの低い国の市場は再び苦戦することになる可能性が高い。


グロース資産に対する確信度の強い見方

  • バーベル・ポジションを保持:投資スタンスに若干の変更を加え、米国と北アジアのテクノロジー株を選好するとともにバリュエーションの割安感が強い欧州および日本株式も選好する一方、新興国市場全体については今のところ中立スタンスとしている。

ディフェンシブ資産

パンデミックの波が押し寄せるなか、世界中の中央銀行は引き続き市場のサポートを公約するとともに自国政府に財政支出による支援を促している。米国の新たな財政パッケージの規模は選挙を経ても不透明だが、当社では、最終的な選挙結果にかかわらず議会が追加の新型コロナウイルス関連救済策パッケージを承認すると予想している。結果として、そのようなリフレ推進策がワクチンの開発見込みも手伝って最終的にパンデミックの影響に対し奏功するのに伴い、国債利回りは上昇基調を辿るとみられる。これを受けて、ソブリン債のスコアを若干引き下げた。

投資適格クレジットについては、国債対比での選好を継続する。信用スプレッドは先月の拡大からやや回復し、パンデミックが始まって以来で最もタイトな水準へと縮小している。スプレッドが現在の水準から大きく動くことは考えにくい一方、基準となる国債の利回りに上昇圧力がかかることはクレジット市場のリターンにとって逆風となるだろう。

インフレヘッジ資産は、スコアを引き上げてディフェンシブ資産内での選好順位を最上位とした。世界中の中央銀行が経済指標に大幅な改善が見られるまで金融緩和政策の維持(および必要な場合は追加)にコミットしており、各国政府がパンデミックの長期化を受けて財政支出を増やし続けるなか、インフレに対するプロテクションを講じることの妥当性は強まっている。貯蓄率の高さとワクチン開発の急速な進展から、2021年にはインフレが加速する可能性がある。

米国債にとっての今後の逆風材料

世界の主要中央銀行は、パンデミックの影響への対応として伝統的金融政策と量的緩和の両方を使った積極的なアクションをとってきており、持続的な景気回復が根付いて実際のインフレが目標に達するかそれを超えるまで、そのような緩和的政策を維持することを公約している。加えて、中央銀行は金融政策アクションの補完として財政支出を使うよう自国の政府に呼びかけており、この助言は概ね聞き入れられている。当社では、この金融・財政政策による大掛かりな協調支援が、2021年前半にワクチンが広く行き渡るようになるまで、パンデミック下の世界経済を支えるのに成功すると予想している。そのような見通しが広がれば、投資家は次第に将来の世界経済の回復とインフレ圧力の高まりを見越すようになり、世界各国のイールドカーブのスティープ化が始まってソブリン債のリターンが悪化するだろう。

グローバル債券市場のペースメーカーと言える米国債10年物は、米国選挙の前からすでに下落し始め、選挙後もCOVID-19の感染者数が増加しているにもかかわらず下落基調が続いている。向こう3ヵ月から6ヵ月における米国債利回りレンジの上限水準を考察するにあたって、当社が注視しているのは実質利回りとブレークイーブン・インフレ率(市場に織り込まれた期待インフレ率)だ。米FRB(連邦準備制度理事会)は緩和的な金融環境を維持したい意向をかなり率直に示しており、自らの「対称的な」インフレ目標である2%を達成するためにインフレ加速を促している。これを受けて、当社では、FRBが10年国債の実質利回りを着実にマイナス領域(当社の予想レンジは-0.5%~-1%)に保ちブレークイーブン・インフレ率を少なくとも2%に向かって上昇させたいと考えているとみている。-0.5%の実質利回りと2%のブレークイーブン・インフレ率を考え合わせると、米国債利回りは1.5%ということになり、これが当社の予想する利回りレンジの上限となる。米国債利回りが突然急上昇した場合はFRBが市場の下支えに回ると想定されるが、ブレークイーブン・インフレ率の上昇も伴っているのであればFRBは徐々に米国債の上昇を許容するようになるだろうと考える。

チャート2

米国選挙の結果が明確になるにつれ、バイデン氏と民主党は財政政策による追加景気対策を、たとえそれが選挙前に提案した野心的なパッケージからは規模を縮小したバージョンになったとしても、実現させようとする可能性が非常に高い。この追加財政支出には、国債発行の増額も必要となる。しかし、当社では、FRBが債券購入プログラムを増額して国債供給の増加を大幅に相殺するものと予想している。米国債利回りは供給懸念よりもインフレ圧力の高まりによって上昇するというのが当社の見方だ。

当社の見通しには2つの主要なリスクがある。1つ目のリスクは、米国大統領選挙のプロセスが「勝者」を宣言することができず、米国の次期政権の成立をめぐって不透明感が極度に強まる局面がもたらされることだ。しかし、そのようなリスクは後退しつつあるようで、本稿執筆時点ではバイデン次期大統領が最も重要な激戦州におけるリードを伸ばし続けている。2つ目のリスクは、COVID-19のワクチンの有効性試験が順調に進まず、同ワクチンが近いうちに開発されるとの期待が裏切られることだ。しかし、これまでのところのニュースはポジティブなものであり、研究機関はワクチンの有効性および安全性の証明において大きく前進しているように見受けられる。最終的にこれらのリスクの1つでも現実化することになった場合は、米国債はいつもの「安全な逃避先」資産として役割を演じることになり、利回りは当社の見通しに反して低下するだろう。


ディフェンシブ資産に対する確信度の強い見方

  • 投資適格クレジットのスプレッドを享受:投資適格クレジットの信用スプレッドが提供する対ソブリン債での利回りプレミアムは引き続き魅力的であり、これによって投資適格クレジットはソブリン債をアウトパフォームすると想定される。
  • イールドカーブはスティープ化の見通し:当社では、投資家が金融・財政の政策協調とワクチン開発の成功による2021年の世界経済の大幅回復を次第に見越すようになるにつれ、 イールドカーブがスティープ化すると予想している。

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。