当レポートは、英語による2019年12月発行「ASIA CREDIT OUTLOOK 2020」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • アジア諸国のマクロ経済環境は引き続き安定している。GDP成長率は中国や香港を筆頭に伸び率が鈍化する可能性があるものの、政策面での追い風があることおよびデフォルト率の上昇が世界平均と比較して緩やかとなっていることが、2020年のクレジットのパフォーマンスを下支えするだろう。
  • 中国をはじめとするアジアの大半の国では、引き続き財政政策が成長の下支えとなり、外需や民間内需の低迷を相殺するものと見ている。インフレが抑制された状態が続く中、大半のアジア諸国では中立的または緩和的な金融政策が維持されるだろう。
  • 経済環境はポジティブである一方、企業収益の伸びが緩やかな水準となっていることからアジアの社債のファンダメンタルズはやや軟化すると見ている。しかし、アジアの企業収益に目立った悪化は予想していない。優れた経営陣を持ち、厳しい事業環境および資金調達環境において運営実績のある企業のクレジットが選好されるだろう。中国のハイイールド債分野では、当社は資本財よりも短期の不動産セクターの債券を有望視している。

2020年 アジアクレジットの見通し

ファンダメンタルズ

マクロ経済
アジアのマクロ経済環境は引き続き安定している。国際通貨基金(IMF)の予想では、アジアの経済成長は2020年に5.1%と比較的健全なペースを維持するとされている1。さらに、政策面での追い風があることやデフォルト率の上昇が世界平均と比較して緩やかとなっていることが、2020年のクレジットのパフォーマンスを下支えするだろう。GDP成長率は、中国や香港を筆頭に伸び率が鈍化する可能性があるが、ハードランディングは予想していない。輸出の伸びは、既存の追加関税による影響が深まり減速することが見込まれる。しかし、特に世界経済の成長懸念によってコモディティ価格全般が横ばいないし小幅下落となる場合には、輸入も鈍化するだろう。したがって、純輸出のGDP成長率への寄与度低下は2019年比わずかなものに収まることが予想される。とは言え、クレジット投資において引き続き焦点となるのは大幅な経常赤字を抱える国と見られ、米ドルおよび原油価格の大幅な上昇に対して脆弱な状態が続くだろう。

当社では、中国をはじめとするアジアの大半の国では、引き続き財政政策が成長の下支えとなり、外需や民間内需の低迷を相殺するものと見ている。インフレが抑制された状態が続く中、大半のアジア諸国では緩和的な金融政策が維持されるだろう。中国では、政策の焦点が民間セクターや地方の公共インフラプロジェクトへの適切な資金供給に当てられていることから、信用状況は徐々に改善していくと予想する。香港については、社会不安が高まっていること、および中国の経済成長が減速していることを受けて、長期的な景気後退局面入りする可能性がある。インドは、2019年の成長がシャドーバンキング問題および低調な内需によって製造業および建設活動が落ち込んだ影響を受けており、今後の動向が注視されるだろう。

クレジット
経済環境はポジティブである一方、企業収益の伸びが緩やかな水準となっていることからアジアの社債のファンダメンタルズはやや軟化すると見ている。しかし、アジアの企業収益の目立った悪化は予想していない。総じて、アジアのスプレッドは緩やかな政策緩和、それによる国内の経済成長、アジアの低水準なデフォルト率に下支えされるだろう。一方、主なリスクとしては、貿易戦争による米ドル/人民元のボラティリティ上昇、コモディティ価格の下落、アジアの住宅市場における在庫増加、香港での政治的緊張の高まりなどがある。ただし、貿易摩擦で何らかの合意がなされる場合、または米国や中国が金融緩和を実施する場合は、アジアクレジットにとって好材料となるだろう。

アジアの投資適格社債セクターでは、過去数年にわたりレバレッジ比率および債務返済率が改善している。企業業績の伸びは、大半のセクターで妥当な水準を維持したが、2020年はやや鈍化する可能性がある。マクロ環境がこれまでほどポジティブではなくなる結果、企業業績が伸び悩み、資金調達コストが上昇すると考えられるものの、アジアの投資適格社債の信用力が2020年に大幅に低下することはないと予想する。

ハイイールド債の分野では、セクター内、セクター間とも2020年に差別化が続くと見られる。中国の不動産セクターでは、プレセール(建設着工前の段階における販売)の伸びが2020年に鈍化する可能性があるが、比較的規模の大きな不動産デベロッパーは優位な立場にあることからより堅調に推移するだろう。資金調達チャネルに対する管理強化も不動産融資を鈍化させ、不動産価格は上昇力を弱めるものと見られる。成長見通しは力強さに欠け、デベロッパーは信用力を維持するために、キャッシュおよびキャッシュフローの回収に注力するだろう。2019年同様、中国のハイイールド債分野の信用評価は個別銘柄要因が大きい傾向となり、また依然としてオンショアの資金調達環境が厳しいものとなっていることからセクターにわたって圧力がかかると考えられる。

当社では借り換えリスクは総じて引き続き対処可能だと考えている。とは言え、事業環境は厳しく、依然として信用供給が逼迫しているため、中国の資本財・サービスセクター発行体に対する流動性は限定的であり、アジアのハイイールド債分野のデフォルト率は2~3%と歴史的に高水準なレンジに留まるとみられる。

バリュエーション

アジアクレジットのスプレッドは2019年に縮小した。投資適格債のスプレッドは20bp縮小して185bp2、ハイイールド社債は約46bp縮小して569bpとなった。投資適格債およびハイイールド社債のスプレッドはともに、世界金融危機後の中央値を引き続き下回っている。

チャート1:アジア投資適格債のスプレッド

チャート1:アジア投資適格債のスプレッド

出所: J.P. Morgan、Bloomberg、2019年11月15日時点

チャート2:アジアハイイールド社債のスプレッド

チャート2:アジアハイイールド社債のスプレッド

出所:J.P. Morgan、Bloomberg、2019年11月15日時点

アジアクレジットは米国のクレジットと比較して依然魅力的である。最近アンダーパフォームしたことを受けて、米国のクレジットに対する上乗せ利回りは22bp拡大して84bpとなった2。アジアの投資適格のクレジットにおいては、「A」格に対する「BBB」格の上乗せ利回りは引き続き過去5年平均である約70bpの水準にある。従って当社では、上乗せ利回りの高さから「A」格よりも「BBB」格を有望視している。また、アジアのハイイールド債も米国のハイイールド債に対して魅力的な上乗せ利回りを提供している。アジアのなかでは、「B」格分野は「BB」格に対する上乗せ利回りが223bpまで大きく拡大したことから相対価値が高い2

需給

アジアの需給動向は引き続き良好である。新興国ファンドへの外部からの資金流入はかなり好調に推移するだろう。LIBOR金利が低水準にあることから、資金調達コストの低下が民間銀行の資金動向をけん引すると見ている。年の大半において低調な経済環境だったにもかかわらず新規発行が活発だったように、現地投資家からの需要も依然損なわれていない。中国をベースとする投資家による米ドル建て中国クレジット需要は、ドル預金が十二分にあることから高まるだろう。デフォルトリスクは管理可能と見込まれる。2019年通年の新発債供給は2,950億米ドルと最高水準近辺となったが、2020年は約2,600億米ドルに減少する可能性がある。この減少の要因となるのは、2020年に満期を迎える債券の償還資金の事前調達(prefunding)が行われたこと、マクロ環境の厳しさが増すなかで設備投資のための資金調達が減少すること、中国の不動産企業に対する債券発行要件が厳格化されたこと、金融機関が資本調達ニーズをオンショア市場に振り向けていることだと見られる。これは、需要が堅調さを維持すると予想されることから、需給にとってはポジティブである。

戦略

米国債の利回りおよび信用スプレッドは、当面の間レンジでの推移を続け、バイアスとしてはスプレッドが小幅に縮小、金利は上昇し、リターンは主にキャリーから得られると見ている。優れた経営陣を持ち、厳しい事業環境および資金調達環境において運営実績のある企業のクレジットが選好されるだろう。中国のハイイールド債分野では、当社は資本財よりも短期の不動産セクターの債券を有望視している。当社の当面の見通しに対する主なリスクは、中国と米国が部分的な「第1段階」の貿易協定の合意に失敗することで、その場合は米国債利回りが大きく低下して信用スプレッドが拡大するだろう。中期的には、依然としてダウンサイドリスクがある。「第1段階」の貿易協定が合意に達したとしても、米中貿易協議で合意に達する範囲は、米国が目指す包括的な合意内容には程遠いものとなるかもしれない。これらの問題が解決するにはかなりの時間がかかると考えられ、米中間の緊張は続くと見られることから、貿易摩擦は2020年に再び激化する可能性がある。

セクター別の見通し

金融

銀行セクターについては、景気見通しの悪化からクレジットコストが幾分上昇することが予想されるが、総じて十分な資本バッファーが同セクターの安定性を下支えするだろう。中国ではリスクを抑制するために、当局が中小銀行の再編や資本補填のサポートに取り掛かっている。当社では、リスク管理能力がより高く、業績の低調な民間企業に対する融資のエクスポージャーが低い大規模銀行に対して強気な見方を持っている。香港では、政府に対する抗議活動が事業に打撃となっていることから、クレジットコストは2020年に上昇すると見ているが、香港の銀行にはこうしたリスクに耐えられる十分な資本および貸倒引当金がある。韓国やシンガポールの銀行セクターについては、その強固な財務基盤が経済成長鈍化に対するバッファーになることから、安定した状態が続くだろう。インドでは、資産の質や資本力にやや改善が見られるものの、ノンバンク金融機関/住宅金融会社セクターの流動性危機が継続しているほか、通信会社が一段と厳しい状況に直面していることが今後も資産の質の悪化圧力になると考えられる。

当社では、中国の資産管理会社(AMC)やリース会社を有望視している。中国のAMCについては回復傾向にあり、従来のディストレス資産管理事業に再び注力している。マクロ経済環境が悪化するなか、AMCの不良債権処理の役割は高まっている。リース会社は、親銀行のシニア債に対して引き続き相当なスプレッドの上乗せ分がある。このような銀行関連のリース会社は、定款に明記されている流動性・資本面の支援といったタイムリーなサポートを親会社から適宜受けると見られる。

不動産

中国の不動産デベロッパーのハイイールド債は、ファンダメンタルズの安定化が見込まれるとともにバリュエーションも魅力的な水準にあることから、当社では投資妙味があると考えている。発行減により需給も改善するだろう。下記3つのトレンドによって、信用力の安定が予想される。

  1. 当局がデベロッパーおよび消費者双方の資金調達を厳格化するためにマクロプルーデンス措置を導入しており、デベロッパーの間で規律が向上し債務の伸びが抑制される可能性があること。
  2. 大半のデベロッパーが十分な流動性を維持していること3
  3. 多くのデベロッパーは前年以前の販売済み物件からの売上および利益が好調に推移するとみられること4

インドネシアでは不動産需要の低迷が続いており、デベロッパーの大きな重石となっている。インドネシアの総選挙後に需要は回復しておらず、住宅の購入を直ちにけん引する材料は当面見当たらない。当社では、インドネシアのデベロッパーの信用評価は、2020年にさらに悪化すると考えている。

インフラ

当社では、2020年は大半のアジア諸国にわたって経済成長が一段と鈍化すると予想している。各国政府の財政政策は、景気を安定せるものとして引き続き成長を下支えするだろう。中国では、政府がインフラプロジェクトをサポートし経済成長の鈍化に対処する措置を引き続き実施すると見られる。2020年の固定資産投資については、受注残が積み上がっていることから旺盛さを維持すると予想する。土木建築企業の設備投資や運転資本は高水準で推移するだろう。その結果、レバレッジは引き続き上昇傾向を辿ることが予想される。信用評価の全体的な悪化を認める一方で、大半のインフラ関連企業には政府の後ろ盾があり、経済成長における戦略的な役割を担っていることから、当社ではインフラセクターに対して総じて強気な見方を維持している。さらに、政府が債務を抑制していることからインフラ支出が大きく拡大するとは考えておらず、官民連携プロジェクト(PPP)の管理が厳格化されていることおよび地方政府が特別債を発行することも建設企業にかかる資本面の圧力を一部相殺するだろう。

電気通信、メディア、テクノロジー

アジアの電気通信セクターは、新規企業の参入によって競争圧力の高まりに直面しているほか、5G導入のためにさらなる投資を実施する可能性がある。そのため、当社では電気通信セクターの信用評価は2020年に悪化すると予想しているが、市場のリーディング企業については、財務状態が強固であり収益源が多岐にわたることから業界内でより好調に推移し、格付けを維持すると見ている。

テクノロジーセクターについては、中国のインターネット関連企業の信用評価は2020年に総じて安定的に推移するだろう。これらの企業のキャッシュ残高は潤沢であり、投資活動は創出したキャッシュフローのなかで賄うことが予想されるため、信用評価は安定すると見られる。経済成長の減速、競争力の高まり、オンライン広告の供給増加を受けて、同業界は前年に比べると業績の伸びの鈍化が見込まれるものの、大手企業は中小企業からシェアを奪い引き続き健全な売上高の伸びを実現するだろう。コンテンツや顧客獲得のための投資が拡大することにより、利益率は低下すると見られる。

ハードウェアテクノロジーセクターは、携帯電話の出荷の落ち込みや経済成長の鈍化を受けて2019年に業績が低迷した。しかし、2020年は投資を進めてきた5Gの導入や5G対応の携帯電話の販売によってやや上向く可能性がある。そのため、同セクターにおけるリーディング企業の売上高は2020年に伸びが小幅回復すると見ている。利益率は、競争の高さや米中貿易戦争の影響により引き続き圧力に晒される可能性が高い。

石油・ガス

2019年の原油価格は概ねレンジでの推移となり、平均で1バレル=63米ドルとなった。当社では、石油輸出国機構(OPEC)と非OPEC主要産油国とで構成するOPECプラスが積極的な供給管理を行っていることから、原油価格はこの水準を維持すると見ており、アジアの石油・ガスセクターのアップストリーム部門(探鉱・開発企業)の信用評価は安定するだろう。一方、ダウンストリーム部門(精製・販売企業)は、予想を下回る原油需要によって総精製マージンが圧力に晒されていることから、信用評価には陰りが見られるかもしれない。硫黄分濃度の規制を強化するIMO2020の発効によって、ディーゼル関連の石油製品の売上増大から利益を得られる総合精製企業は、全体的な収益性がある程度押し上げられる可能性がある。とは言え、当社ではアジア地域の石油精製企業の信用評価は、全体的なマージン縮小の影響で悪化すると見ている。

脚注

1Regional economic outlook, Asia and Pacific、国際通貨基金(IMF)、2019年10月

2J.P. Morgan、Bloomberg、2019年11月15日時点

3十分な流動性があるが、資金調達チャネルへのデベロッパーのアクセスには格差が広がり、小規模なデベロッパーは流動性がより低いなど圧力がかかると見られる。

4経済成長の減速、世帯形成の変化、都市化によって、売上の伸びは最終的に鈍化する可能性がある。都市ランクの低い地域では政府がスラム街の再開発目標を引き下げたことから、より高い圧力に晒されるかもしれない。

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