当レポートは、英語による2020年10月21日発行の英語レポート「Positioning for reflation」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

潜在成長率を下回る成長が続いた10年を経て、世界の需要は、大規模な金融緩和および財政出動や、世界が新型コロナウイルス感染症(Covid-19)への対処を学ぶなかでの需要の最終的な正常化を受け、近いうちに持ち直す可能性がある。

世界金融危機以降、積極的な金融緩和が行われたにもかかわらず、世界の生産活動は潜在成長力まで回復することはなかったが、その一因は財政出動の規模が比較的小さかったことだ。しかし、今回はより適切な政策ミックスが世界規模で見られており、これが向こう数年にわたってリフレを伴う成長を下支えする可能性が高い。

リスク資産にとって見通しは明るく、投資機会が拡大している。しかし、リフレ圧力には債券利回りを押し上げる傾向があり、また債券利回りが年初来で低下していることを考慮して、当社では債券に対し慎重な見方をするとともにバランス型ポートフォリオの構築におけるディフェンシブ資産の選択にあたって選別的な姿勢を維持している。

成長形勢の変化

過去10年間の大半において、「経済の痛手が最も小さい」国とみなされ、また破壊的テクノロジーにおいて優位にある米国は好調な資金流入に浴し、その分、欧州やアジア、その他の新興国など米国以外の国への資本還流が細った。こうした米国への資本流入によってドルが堅調を維持する一方、このドル高が世界の他の国にとって成長の主な逆風となる状態が続いた。

世界金融危機以降、各中央銀行が緩和的な金融政策を維持する一方、財政出動については全くと言っていいほど見られなかった。欧州は緊縮財政が支配的となり、米国は引き締め気味の財政を続け、中国は景気刺激策が実体経済に波及することなく好景気が定着しなかった。その結果、世界では需要の低迷が続いた。

しかし、今回は状況が異なる。世界のほぼすべての国において政府がCovid-19対策として大規模な財政出動を実施しており、また中国の対象を絞った景気対策はついに実体経済に届きつつある。重要な点として、世界中で大型財政出動に加えてかつてない規模の金融緩和が実施されており、世界同時の経済成長を可能にしている。

3月末にかけて加速的に実施された景気刺激策を受けて、資本が世界中の新たな投資機会へと向かうにしたがい、ドルも弱含んでいる。当社ではリフレ圧力によってドル安が続く可能性が高いとみているが、ドル安が続けばそれ自体が需要の回復を強めることになる。

投資機会の拡大

コロナ後の世界では、テクノロジーが引き続き成長の主な源泉となるだろう。Covid-19のパンデミック(世界的な流行)が引き起こした行動様式の変化によってテクノロジー需要がさらに押し上げられ、破壊的革新の進行は一段と加速している。当社では引き続きテクノロジー・セクターを選好するが、一方で、リフレ圧力がより幅広いリスク配分機会をもたらしている。

資本の流れが米国から世界の他の地域へとシフトしている様子がすでに見られているが、当社ではこのトレンドが継続すると見ている。これまでのところ、欧州がそうした資金流入の恩恵を受けており、北アジアも同様である。残りの新興国は、ドルの下落やコモディティ需要の高まり、そして最終的にはより持続的な資本流入から恩恵を受ける立場にある。

重要な点として、成長機会の拡大によってポートフォリオ分散の余地が広がるが、このことはリフレが本格化するにしたがってますます重要になると見られる。テクノロジー・セクターは過去数十年にわたり極めて高いパフォーマンスを実現してきたが、この好調な相対パフォーマンスの一因は、高めのバリュエーションを支える傾向のある超低金利だ。リフレによって金利が上昇するにつれ、テクノロジー・セクターは割高感が強まることになるだろう。

米国以外では、中国が消費、そして現在ではインフラにおいても、最も力強い成長ストーリーとしての役割を依然演じている。米中貿易戦争とその後のCovid-19に起因するサプライチェーンの混乱を受けて、投資が加速している。注目すべき点として、持続可能な成長のための資本投下は民間セクターの方が効率的であることにようやく気付いた中国政府は、成長の焦点を公共セクターから民間セクターへとシフトしている。

中国の旺盛な需要は、アジアや欧州を含む中国のサプライチェーンを通じて、また中南米やアフリカなど世界の様々な地域で生産される原材料への需要を通じて、他の国の需要増大も促す。

財政の蛇口が開かれたことによる恩恵が最も大きいのは欧州かもしれない。過去10年にわたる欧州の緊縮財政は、周縁国にデフレをもたらしたことを考えると明らかに間違った対処法だったと言える。より重要な点として、欧州連合は財政統合に向けた重要な一歩を踏み出しており、これは、完了には程遠いものの、持続可能な未来に向けた重要な心理的変化である。

成長に伴う代償とディフェンシブ・ポジションのとり方

世界の成長見通しは確かに改善したものの、重要なのはそれに伴う代償や関連リスクを認識することである。前例のない財政コストは間違いなく注視すべきものの1つだが、これはおそらくより長期的なリスクだろう。しかし、金融緩和も空前の規模となっており、中央銀行は低金利を長期間維持すると確約しているものの、最終的にはそうした政策がリフレによって試されることになると見られる。

Covid-19が世界を襲ってから、米国債利回りは過去最低水準へと大幅に低下した。これまでのところ、景気低迷が続いていることと中央銀行がかなりの長期にわたって金利をゼロ%に維持すると確約していることの両方を受けて、米国債利回りは低水準にとどまっている。しかし、需要が正常化しリフレが本格化するにつれて、中央銀行が金利を現在のような低水準に維持するのは次第に困難になるだろう。

マルチアセットのポートフォリオでは、先進国の債券は通常ディフェンシブな資産とみなされるが、利回りがすでにかなり低水準にある場合は必ずしもそうではない。リフレの兆しは通常、利回りを上昇させて債券価格を下落させる。中央銀行は長期金利を抑えるために新たな政策を採用する可能性があるが、そうした政策がもたらす新たなリスクがどのようなものであるかは未知の部分が多い。

当社では大半の先進国のソブリン債リスクについて慎重な見方をしているが、中国の債券については、ディフェンシブな特性と十分に伝統的な政策に裏打ちされた高い利回り水準から、ポジティブな見方をしている。投資適格債も、利回りの上乗せや利回り上昇時の影響を相殺する信用スプレッドの縮小余地を踏まえると、ディフェンシブな資産として魅力的である。

また、ポートフォリオを守る別の方法として、金に注目している。金価格は、債券利回りの低下を一因として、またインフレ期待が高まったこともあり、過去最高値を更新した。この動きは、需要(およびインフレ期待)の正常化が続くとともに米FRB(連邦準備制度理事会)が当面のあいだ金利を超低水準に維持することを目指すなか、今後も続くと見られる。その意味で、金はリフレ環境における優れたヘッジ資産と言える。

投資機会とリスクのバランスを取る

金融緩和と財政出動が同時に実施されていることによって、より幅広い成長機会の見通しが開かれ、これが全体として運用目標の達成におけるより優れた分散機会をもたらしている。成長は決して確実なものではなく、ショックがすぐ間近に迫っている可能性もあることから、バランス型のポートフォリオではディフェンシブ資産を保有する。この分野において、当社では中国債券、投資適格クレジットおよび金を選好しており、これらの資産がグロース資産にとって不利となる様々な市場展開において下方インパクトを和らげるのに最も適していると考える。

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