本稿は、2020年12月3日発行の英語レポート「Investing for improving returns in a COVID-19 world」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

新型コロナウイルス流行下でのリターン向上に向けた投資

ウィリアム・ロー

また四半期が過ぎたが、(英国では)依然として出張やオフィスでの会合が制限されている。筆者は空き時間を過ごすために、新鮮で面白い新作映画を探すものの結局見つからず、「ジェイソンボーン」シリーズなど自分にとっての定番物を鑑賞することに落ち着いてしまうことが多い。これらの映画が公開されて以降のテクノロジーの進化や、ハリウッド映画が描写するような人々の居場所を追跡する様子がいつの間にか誰にとっても現実となったことを目にするのは興味深い。その他にも面白いと思ったのは、次に何がやってくるか分からず、予想だにしない旅へと導かれることを魅力として強調する点だ。

予想外の展開は目を離せないものだが、株式投資家はその真逆を求めている。最初からどこへ向かっているか知ることを望み、投資という旅における紆余曲折を回避したいのである。しかし、2020年はどちらかと言えばハリウッド映画のストーリーのようであり、新型コロナウイルスや米国選挙など多くの急展開に見舞われてきた。また、これら予想外の展開には、すべてのニュースキャスター、そしておのずと多くの投資家が釘付けとなった。政治評論家や感染症専門家の数がやけに増えた感もある。

実際の世界において、自分がどこへ向かっているかを知る方法はここ数世紀で信じられないほど進化してきた。1700年代には六分儀が発明されたが、現在ではGPSによって正確な位置がセンチメートル単位で測定できるようになっている。今ではモデルによって、すべての投資先企業の長期的な利益率を詳細に予測し、これらのインプットに基づいて企業のフェア・バリューを細かく予測することができる。この精密さは、投資案件を検討する上で大いに役立っている。しかし、インプットのうち主観的要素は、足元の環境で起こっていることの影響を受けやすく、それによって近視眼的な見方や強力な直近効果(Recency Bias)が助長される可能性がある。

前述した不測の事態のあおりを受けて予定コースから外れている現状においては、自分の進むコースを示すナビゲーションもGPSではなく六分儀を使っているように感じられるかもしれない。

出所:Shutterstock

そうした環境下でGPSの役割を果たしてきたのが「フューチャー・クオリティ」の投資哲学である。我々が株主としての旅をスタートする際は必ず、投資先企業が強固なフランチャイズ(競争優位性)を有しており高い投下資本利益率を達成すると確信を持っている。つまり、信頼できる経営陣を擁し、将来の良い時期に躍進できるだけでなく悪い時期も乗り切ることができる強固な財務基盤を有している企業だ。新型コロナウイルス危機などの不測の事態が起こるとき、これらの信頼を裏打ちする特性はその価値を証明してきた。

株主としての旅においては、高い投下資本利益率を達成し、さらに維持できる成長企業に投資することが必要となる。これには、放っておけば資本コスト程度の水準に収れんしてしまう投下資本利益率を周囲の見方を覆し高水準に維持できる企業、また同時に、投下資本利益率が改善傾向にある企業でありながら、それがまだ市場に認識されていない企業を含んでいる。今はコロナ禍でもあり(また、政治を巡る茶番も一因となるかもしれないが)、その株主としての旅路が混沌としてくる場合、我々はひたすら、当初のロジックや予測が引き続き妥当であるかどうか、フューチャー・クオリティとしての特性が満たされているかどうかを繰り返し精査し続ける。

我々が求めるフューチャー・クオリティの評価指標については以前から当レポートで詳しく取り上げており、これらは四半期毎に変わるようなものではない。したがって、今回のアップデートでは、グローバル株式戦略ポートフォリオの全組入銘柄において検討してきた以下の重要な問いに注目することにする。

  1. 利益が改善しているか? 今後の利益成長の軌道は、優位な株価リターン達成のカギであり、我々が企業のリサーチを行う際に大きな関心を持っている点である。企業に求める条件は、最低でも今後5年にわたり成長し、極めて高水準の投下資本利益率を維持すること、あるいは、こうした相対的に高水準の投下資本利益率を達成しつつある過程にあることだ。企業がそうした過程にあることを投資家たちが認識していない場合、株主にとってかなり良好な成果をもたらす傾向がある。
  2. バリュエーションが魅力的または割高か? 企業の評価を行う際の時間軸を大多数の市場参加者よりも長い5年超という長期に設定していることで、我々は歴史的に見て割高と言える、プレミアムが上乗せされたバリュエーション水準にある場合も落ち着いていることができる。この「プレミアム」は、その後に並外れた成長を遂げ高い投下資本利益率を維持する場合や、典型的には投下資本利益率が改善する場合、すぐにプレミアムとは言えなくなる。しかし、将来利益の現在価値は、楽観的な見方の継続する期間と度合いの両方に左右さればらつきが出る可能性があり、また、バリュエーションにすでに最良の結果が織り込まれている場合には、より良好な他の選択肢を優先して売却するきっかけになるはずである。

フューチャー・クオリティ企業への投資は、市場サイクル全体を通してのアウトパフォームにつながると考えている。当社のグローバル株式戦略では、ファンダメンタルズに着目したボトムアップのリサーチを土台としており、したがってセクターおよび国別配分は銘柄選択の結果として決まる。当戦略では、高い確信度に基づいて集中投資を行う、アクティブ・シェアの高いポートフォリオを構築している。

新型コロナウイルス流行下でのリターン向上に向けた投資

当たり前のことを言うようだが、2020年は多くの人にとって惨禍の年となった。経営がしっかりとした企業でさえも、賛否の分かれる在宅勤務かオフィス勤務かという考え方の悪い方からの影響を受けている。否応なしに自宅デスクやビデオコミュニケーション技術、通勤の中断に慣れなければならなくなり、誰もが変化を強いられてきた。とりわけ、これによってすでに始まっていた様々な構造的トレンドが加速し、グローバル株式戦略の主要保有銘柄の多くがより速く成長し増益を達成している。以下の保有銘柄(ポートフォリオの60%程度を占める)は、こうした構造的トレンドの広がりや加速の恩恵を受けている。


ゲーム
Nintendo, Tencent, Sony
クラウドの普及
Microsoft, Adobe, Accenture, Amazon
ヘルスケア・ソリューション
LHC, Philips, Anthem, LabCorp, Danaher, Bio-Techne, LivaNova, Encompass Health
ホームデリバリー
Meitaun Dianping, HelloFresh, Amazon
データ分析の力
TransUnion, Verisk, AON, Palomar, Progressive

バリュエーションはさて置き(後ほど取り上げる)、これらの企業が有する卓越したクオリティや成長性は維持されるとみられる。また、これら企業は、我々が求める軌道に乗り続けており、しかもそのペースは想定を上回っている。

一方で、新型コロナウイルス流行下の世界では勝ち組と負け組の明暗が大きく分かれており、よって大多数の投資家がワクチン開発動向や社会経済活動の正常化、企業利益の回復期待をつぶさに注視している。我々は、一貫して感染症動向は専門外であることを自認してきたが、そのうち社会経済活動の回復は確かに起こると引き続き安心している。その時が訪れるまで、市場は以下の課題に対処し続けなければならないだろう。

  • グローバル化の波の終わり。中国が国内事情を優先するようになり、また、世界のテクノロジー覇権争いによる分断が続いている。貿易や資本の移動の自由はより制限されるようになるとみられ、こうした変化のペースは政治家によって決定されるだろう。
  • 格差が広がっている社会での失業率の上昇は厄介な組み合わせであり、各国政府は可能なあらゆる手を尽くして企業支援や雇用創出に取り組むだろう。多くの産業においてゾンビ企業が事業運営を続けることになり、今後の企業の価格決定力にとっての障害になるとみられる。
  • 拡大している政府の債務負担は、量的緩和(QE)によって借入れコストを抑制し続けなければ賄うことができない。これによって、多数の金融機関は債券投資による収益が悪化し、こうしたQEによる債券利回り管理を実施できない国は相対的にみて負け組になっていくだろう。

勝ち組の側に目を向けると、例えば、誰もが直面している環境課題への取り組みにおいては政府支出の拡大が見込まれる。「グリーン・ディール」は本格化すると考えており、したがって、適切な商品やソリューションによってこれらの課題を解決し、顧客基盤を拡大していくであろう企業にとっては、大きな機会があるとみている。当社グローバル株式戦略で保有する Daikin、Kingspan、Schneider、SolarEdge、Johnson Matthey、Woodward、Deere & Co はみなこうしたトレンドの恩恵を受けると確信している。

新型コロナウイルス流行サイクルの先を見越した場合、やがて需要はコロナ前の水準へと徐々に回復していくとみている。ただし、それに要する期間は、対極に位置する航空会社と中古車販売会社との間では相当異なるだろう。後者は、欧米における公共交通機関利用に対する根強い慎重な見方が追い風となっている。我々は、投下資本に対する高いキャッシュフロー利回りや強固な財務基盤を常に重視しており、新型コロナウイルスが逆風となっている投資先企業については、この厳しい環境を生き延び実際に回復局面が訪れた場合にその恩恵を享受する準備が整っていると確信している。リサーチにおいて現在重点的に取り組んでいるのは、新型コロナウイルスの打撃を受けた企業の事業活動正常化をめぐる投資家の期待が早すぎるか、遅すぎるかの評価である。

ただし、何より重要な点として、投下資本利益率の改善軌道は常に企業毎に異なるものであり、当社では、投資先企業のリサーチを行うにあたってこの点を特に重視している。ポートフォリオ組入状況について、投資テーマ別に説明することはできるが、つまるところは高い確信を持つ個々の投資アイデアが集まったものなのである。

バリュエーションのばらつき - 精査し直す時か?

バリュエーションはグローバル株式戦略の重要な柱の1つであり、すべての保有銘柄は、フューチャー・クオリティとみなされるためにはバリュエーション面の条件を満たさなければならない。当社では、投資先企業の今後、最低でも向こう5年間の成長、収益性、キャッシュフローを予測している。これらの予測が各企業の分析に用いるバリュエーションモデルに反映され、それらによってバリュエーション面の支えがあるか否かを評価している。大半の投資家の場合、バリュエーションは過去の利益指標に基づいているが、そのように利用可能な過去データに基づく定量的指標を重視している場合、成長の加速と高水準または改善する投下資本利益率の相乗効果を見逃すことが多い。したがって、我々は、よりクオリティの高い企業に投資する場合にプレミアムを払うことについていつも楽観している。それは、その後のキャッシュフロー創出によって、そうした割高感が錯覚であると証明される傾向にあるからである。

主要中央銀行は、新型コロナウイルス禍への対応として、量的緩和策により金融システムへ大規模な流動性を供給し、必要に応じてその規模を拡大する構えを示してきた。そうした措置を講じることができる国について、無リスク資産の低利回りが長期化すると投資家が想定していることは合理的と言える。これは、株式市場全般のバリュエーションを下支えしている主な要因となっている。キャッシュや国債などの他の資産クラスの実質ベースのリターンは取るに足らない水準にあり、大半のアセットオーナーのリターン目標を達成するための解決策となる可能性は低いと考えられる。

しかし、これは市場全般のバリュエーション水準を合理的に説明しているものの、個別銘柄の適正株価を評価する際にはしっくりこなくなる。投資家の間では、優れた成長性や収益性について高い確信を持てる企業を求める動きが続いており、その顕著な例は時価総額がより大きい一部のテクノロジー銘柄や消費者向けインターネットビジネス関連銘柄である。ここまでは合理的な部分だ。合理性が弱い部分は、一部の投資家が足元でより魅力が高いとみなされている市場分野で短期的に一儲けしたいと望んでいることだ。投資テーマや株価モメンタムに促されて特に個人投資家の資金が流入しており、こうした魅力度はより表面的なものとなっている感がある一方、利益やキャッシュフロー創出動向などのファンダメンタルズは目下ないがしろにされている。市場の熱狂とパニック局面を度々経験してきた投資家からすれば、足元では市場の一部は過度な熱狂に包まれていると言える。それは主にテクノロジー・セクターである。

高水準の株価リターンの要因が今後の利益改善ではなく主にバリュエーションの上昇である場合、我々は投資魅力度について見直しを行っている。当戦略の投資プロセスでは、独自の「銘柄ランキングツール」を用い、規律ある方法でこうした事例が検知されるようになっている。企業のランキングが低下する場合、当該銘柄のウェイトを引き下げて他のより有望な保有銘柄のウェイトを引き上げるウェイト調整を行い、また、場合によっては新しいより良好な投資アイデアを優先して当該銘柄を全売却する。過去数ヵ月間、こうした調整を実施してきた結果として当戦略ではテクノロジー銘柄の保有比率が低下している(チャート2参照)。

ポートフォリオ全体では、過去データに基づく当戦略のバリュエーション・プレミアムは適切な水準に維持されてきている。当戦略では、投資家に複利効果の高いリターンを提供することを目指しており、バリュエーションの柱における規律あるアプローチはその上で重要な役割を果たしている。

こうしたプロセスの一環として、過去数ヵ月間で2つの銘柄を新規に組み入れた。これらは、フューチャー・クオリティ特性を有するとみられるとともにバリュエーション面の支えもある銘柄の好例と考えられる。

Deere & Co - テクノロジーの採用は多くの産業における重要な成長ドライバーとなっているが、それは米国の農業機器大手であるDeere & Coにも当てはまる。同業界は景気循環の影響を多少受けやすいものの、足元では老朽化しつつある既存の農業機器の交換需要があり好況期に入りつつある。さらに興味深いポイントは、精密農業のためのテクノロジー・ソリューションの提供が重点化されており、それが構造的な利益率向上をもたらすとみられることだ。これに加え、引き続きコスト効率の向上に取り組んでいることから、投下資本利益率は景気サイクルの影響を受け難くなっており、当社のフューチャー・クオリティの条件を満たす水準で推移し続ける見通しである。

Encompass Health - 新型コロナウイルスが医療関連のニュースの見出しを独占しているなか、不幸な現実として、他の疾患も絶えず存在しており、高齢化社会における高品質で費用対効果の高い医療へのニーズはかつてないほど大きい状況が続いている。Encompass Healthは、米国の入院リハビリ施設(IRF)運営会社最大手であり、不運にも脳卒中や他の深刻な症状に見舞われた場合には同社の質の高い入院または在宅医療サービスをありがたく感じるだろう。投資家は新型コロナウイルス流行の恩恵を受けている企業に注目してきており、それによって業界リーダーである同社のより長期的な成長見通しが見過ごされていると我々はみている。

変化への備え

これまでの好調な市場リターンを分析評価することはジレンマと言える。これは顧客のためにしなければならないことなのだが、筆者としては、ほぼ現実離れした、かなり不公平な環境下でそれを行っているようで心地悪さを感じている。金融市場の参加者やアセットオーナーは、世界金融危機後に明確な勝ち組となり、この現在の危機局面においても同様の展開となりつつある。筆者の個人的な見解ではあるが、これは公平な結果とは言えず、それに対する社会の反発が強まるのは時間の問題だろう。その形やタイミングは大きな未知数であるが、潮目の変化に備えておく必要がある。実利的で変化を受け入れる姿勢、そして、今後の政策の方向性に左右されない投資哲学を持っていることは、この先数年間において顧客資産を運用する良きスチュワードであるためのカギとなるだろう。

当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。