本稿は2021年2月19日発行の英語レポート「MULTI-ASSET MONTHLY」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
投資環境概観
1月の市場は特に月末にかけて不安定な展開となったが、当社ではこのような状況がしばらく続くと予想している。2020年3月下旬以降ほぼ休むことなく続いているリスク資産の力強い上昇が、11月初旬の米国選挙を受けて再び勢いを増したからだ。当月初旬、民主党が連邦議会下院および行政府の支配に加えて上院の支配も獲得すると、このいわゆる「ブルーウエーブ」を市場はまたもや歓迎した。明確な要請には至っていないものの、バイデン新政権はさらに内容の豊かな景気刺激策を推し進める余裕がより大きいのは確かだ。その上、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のワクチン接種の実施によって年後半には需要が正常化し始める可能性がある。
特に問題はない、と思われるだろうか。確かに環境は力強いリフレ・ストーリーを後押ししているが、大量の流動性注入に加えて目を見張るような景気刺激策が実施されていることにより、資産価格バブルで膨らんだ懐(当然ながら市場を神経質にさせている)など、意図しない結果がもたらされるのは間違いない。
最近のボラティリティは一過性のもののように見受けられる。不特定多数の個人投資家による反乱といったところだろうか、多額のショート(空売り)・ポジションが積み上がっている株の小幅な株価調整においてヘッジファンドが「スクイーズ」(空売り筋が一斉に買戻しに追い込まれること)され、レバレッジ・ポジションの巻き戻しを余儀なくされた。この「ダビデ対ゴリアテ」(劣勢の者が強者を倒すたとえ)のストーリーには興味をそそられるが、その過程で個人投資家によって誘発された明らかなバブル自体、ストレスが高まったのと同じぐらい速いスピードで崩壊し、金融市場はとりあえずのところ通常の状態に戻ることができている。
とは言え、このボラティリティ・イベントは、すでに過ぎてしまったように思われる一方で、次の2つのことを示している。1点目は、金融システムにはそもそも当該イベントを可能とした潤沢な流動性があり、この過剰流動性が依然残っていてバブルを生み出していること、2点目は、景気対策の恩恵を享受しているのが多数の者ではなく概ね少数で、富の格差がCOVID-19のパンデミック(世界的流行)中に加速の一途を辿っているという明白な理由により、一般大衆が怒りを募らせているということだ。
それでも、当社では楽観的な見方を維持して依然グロース資産を選好しており、リスク資産が全般的に恩恵を受けるというリフレ・トレードをずっと支持している。この根拠となっているのは、非常に緩和的な金融・財政政策による支援を受けた需要の正常化だが、そのような大規模な政策措置は意図しない結果ももたらすのが常だ。じゃぶじゃぶの流動性は、需要の大幅な悪化を防ぐのに有効だが、資産バブル、そして将来のインフレがそれほど穏やかなものではなくなる可能性、という形での明らかなリスクももたらす。
バイデン政権が米国の深い分断の修復に成功することを期待したいところだが、社会のシステムによって不当に扱われている人の数が増えていることを考えると、かなりの難題と言えるだろう。当社では、そのような動向とそれがもたらし得るボラティリティの上昇を注視し、必要に応じて下方プロテクションを講じられるよう準備を整えていく。
クロス・アセット*
当社では、引き続きディフェンシブ資産よりもグロース資産を選好しているが、資産クラスのあいだで比較的小幅の調整を加えた。米国における民主党支配の「ブルーウエーブ」は、今後さらなる財政出動が見込まれることを意味するが、一方米国では、引き続きCOVID-19ワクチンの接種が着実に進むことにより、夏季には集団免疫が達成される可能性ある。欧州でのワクチン接種の実施は米国ほど順調ではなく、その他の世界各地は進展度合いに格差があるが、それでも年内には全般的に接種が実現する見込みである。リスクは残るが、年後半までにはある程度の「常態」に戻り、その過程で繰延需要が高い貯蓄率と潤沢な流動性に支えられて解き放たれるだろう。当社では、景気回復の進行度合いを資産クラスのスコアに継続して反映させており、リートのスコアを再び引き上げてマイナス幅を縮小させるとともに、その分、今回は昨年3月以降の大幅上昇によってさらなる上昇の余地が減少してきている先進国株式およびハイイールド債のスコアを引き下げた。その他の資産クラスについてはスコアを変更しておらず、依然として新興国を中心に株式を選好しており、また新興国のソブリン債を残りのグロース資産に対して選好している。ディフェンシブ資産のなかでは、引き続きインフレヘッジ資産と投資適格債を先進国のソブリン債に対して選好している。
*マルチアセット・チームのクロス・アセット見解は、(1)グロース対ディフェンシブ、(2)グロースおよびディフェンシブ資産内でのクロス・アセット、(3)各資産クラス内での相対的な資産の見方、という3つの異なる段階で示しています。これらの段階は、選好順位の水準は資産クラスが予想可能な形で似た動きあるいは異なる動きを見せるという当社のリサーチおよび直感的認識を表しており、したがって、資産クラスのクロス・アセットでのスコアリングは理に適っているとともに、最終的により熟考された堅固なポートフォリオ構築につながると考えます。
当社の見方
グロース資産
インフレ期待の継続的上昇を支えているのは、追加財政出動の見込み、依然非常に緩和的な金融政策、COVID-19ワクチン接種の順調な進行見通しだ。これらの要因は引き続きリフレ・トレードの大きな追い風となっているように感じられるが、足元の経済指標の低迷をあえて未だ材料視しようとしない極端なコンセンサスは、当該要因のいずれかに遅れが生じた場合に当面の後退に見舞われるリスクを伴っている。
月に見られたドル高は最終的に健全なものと言えるかもしれず、一定の踊り場を経て2月初旬に次の上昇局面が始まっている。企業収益がテクノロジー・セクターを中心に引き続き好調であることから、(リフレから恩恵を受ける)バリュー株と(多くの産業に破壊的革新をもたらし続けるテクノロジー・セクターなど)長期的成長株とをバランスよく保有するバーベル・トレードが依然として理に適っている。
当社は、資産運用会社として、見方を調整せざるを得ないと感じる時もあるが、従来の見方をそのまま成り行きに任せた方が妥当であると判断する場合もある。ただし、コンセンサスとなっているポジションを取るのは、他の人々がゆっくりと惹きつけられつつあるにすぎない見方を果敢に取るのに比べると、決して落ち着かないものではある。当社では当面のところ、全般として楽観的な現在の見方を変えるかもしれない材料に警戒しながら、しっかりと様子を見守っていく。
景気対策は過剰か
COVID-19危機が始まってから、政策当局は危機対策として「やり足りない」よりは「やり過ぎる」方を選ぶことを示してきた。確かに、金融・財政政策はともに惜しみなく緩和的だが、米国でワクチン接種の実施が加速し夏季までに集団免疫が見込まれるなかで2兆ドル近い追加財政出動が行われようとしていることを考えると、潜在的リスクに配慮して緩和策を一時休止するのが妥当と言える。
追加の景気対策は必要か。答えはイエスだ。あれほどの規模が必要か。おそらく必要ないだろう。これまで積み上がってきた貯蓄の高さ、製造業の耐性の強さ、そしてワクチンにより文字通り数ヵ月で集団免疫を達成し得る一方で需給ギャップがすでに埋まりつつある事実からすると、景気対策の規模は大きいように思われる。
2014年の経験に照らしてみると、実際のインフレ率が依然安心できない低水準にある一方でブレークイーブン・インフレ率(期待インフレ率)が通常に近い水準にようやく戻ったばかりである現在の状況で、弱気スタンスになるのは確かに難しい。とは言え、広く知られている通り、期待は振り子の動きのようにどちらの方向にも行き過ぎてしまうものだ。はたして、政策当局は7年前のようにインフレ期待を通常レベルに回復させるのに見事に成功するのか、それとも「やり過ぎ」てしまうリスクがあるのか。当社では後者の可能性が高いと考えている。
また、もう1つ指摘しておきたいのは、直近の景気対策も過去2回と同様、援助資金のかなり多くの部分が株式市場に流れ込むであろうという点だ。景気対策資金がそれを最も必要としているところに行きつくのは間違いないが、ショットガン・アプローチ(ターゲットを定めずむやみやたらに試みるやり方)であるが故に、それほど援助を必要としていない層にも渡る額がかなりあり、これが過剰貯蓄となって株式市場に流れ込む。
当社では長いあいだリフレ・トレードのポジションを取ってきたが、そのようなポジションがコンセンサスの見方になってきたばかりでなく、政策当局が過剰になったとしても追加し続けたい模様の景気対策をサポート材料とするものであることに、懸念を募らせている。インフレ期待の急上昇という形であれ、資産バブルが危険水準に達するという形であれ、潜在リスクは存在する。当社はポジティブな見方を維持しつつも、それとは反対の方向に市場を引っ張る可能性のある材料をくまなく注視していく。
グロース資産に対する確信度の強い見解
- 先進国株式のスコアを引き下げ、その分リートのスコアを引き上げ:依然として先進国株式を選好するとともにリートに対して慎重なスタンスであるものの、先進国株式の一部のバリュエーションが割高となっている一方、COVID-19の集団免疫達成見込みがリートの追い風になるとみられることから、当該2資産クラス間のスコア格差を縮小させる変更を行った。
- ハイイールド債は割高、そのスコア引き下げ分をやはりリートに追加:米国ハイイールド債は、スプレッドが若干拡大しているものの、絶対利回りが4%を下回る過去最低水準にある。通常のスプレッド水準への回復は概ね済んでいるため、ハイイールド債のスコアを引き下げ、その分をやはりリートのスコアに追加した。
ディフェンシブ資産
ディフェンシブ資産に対しては相対的に弱気な見方を維持する。先進国の大半では、COVID-19第3波との闘いにおいてロックダウン(都市封鎖)その他の規制を通じた対策が奏功し始めている模様であり、ワクチン接種プログラムの展開も本格化している。金融・財政政策の組み合わせによって切望されていた世界経済への支援がもたらされ、今や繰延需要が高い貯蓄率の切り崩しと低い借入コストの活用によって世界経済を押し上げようとしている。このような環境下、世界の債券利回りは上昇基調が続くと予想している。
1月の投資適格債はスプレッドが安定的に推移し、大半の地域でCOVID-19のパンデミック前のレンジに落ち着いた。スプレッドが景気回復によって下支えされることから、ソブリン債に対する上乗せ利回りによってクレジットリターンは向上するとみられる。トータルリターンでは基準となるソブリン債利回りの上昇が足枷要因となるだろうが、それでも投資適格債の上乗せ利回りは対ソブリン債で選好する理由となる。
インフレヘッジ資産については、当月も相対的に強気の見方を維持している。米国の追加財政出動プログラムの見込みと多くの国におけるCOVID-19ワクチン接種プログラムの実施を受けて、将来のインフレを示す指標は上昇している。各国中央銀行は、景気回復が十分に進行するまで非常に緩和的な金融環境を確保することを公約しており、緩和政策の長引かせによる政策ミスの可能性が高い。インフレヘッジを講じる根拠は引き続き強まっており、TIPS(米国の物価連動国債)や金などインフレヘッジ資産への需要が高まっている。
中国は世界の他の国々から乖離
中国は、COVID-19の感染拡大封じ込めに早期に動いた後、2020年の成長がプラスとなった唯一の経済大国として傑出しており、このため、経済運営についても異なるシナリオを描き始めている。12月の中央経済工作会議で、最高指導部は2021年に政策正常化を始めることを明確に示した。財政政策を「より持続可能な」ものにする必要があるとの示唆は、以前の「より積極的で効果的な」スタンスから変化している。これは控えめな変化ではあるが、他の経済大国におけるエンジン全開の財政政策との比較において重要な変化であると言える。
チャート2の当社のクレジットインパルス(新規与信対GDP比の伸び率)・モデルが示すように、この緩やかな変化はすでに始まっている。信用全体の伸びは、社債発行とシャドー・バンキングの減速を受け、11月以来2ヵ月連続で若干鈍化している。地方債の発行も、中央政府が予算全体を引き締めていることから、今後数ヵ月に減少するものとみられる。結果として、中国の経済成長は向こう数四半期に鈍化し始めるかもしれない。
これは世界の他の国、特に米国とは全く対照的だ。ジョージア州で行われた連邦上院議員選挙の決選投票で民主党が過半数を確保すると、バイデン政権は、12月に景気対策パッケージ第4弾が実施されたばかりであるにもかかわらず、早急に追加財政出動を1.9兆ドル規模まで拡大させた。この追加支出とCOVID-19ワクチン接種を通じた需要回復の組み合わせにより、米国は強い経済成長とインフレ加速の両方を手にする可能性が高い。他の主要国も、自国経済を支えるために同様の政策ミックスを追求している。
債券市場はすでにこれに気付いている。米国債10年物の利回りは今年に入って0.25%超上昇しているが、一方で中国国債10年物の利回り上昇幅は0.09%にとどまっている。中国国債への海外からの資金流入は当月、230億米ドルと過去最高額を記録した。当社では、中国の債券利回りは世界的な景気回復をすでに織り込んで上昇しており、中国の経済成長とインフレが今後鈍化する可能性があることを考えると、現在の水準でより投資魅力が高いとみている。
ディフェンシブ資産に対する確信度の強い見解
- イールドカーブは世界的にスティープ化が続く:イールドカーブのスティープ化トレンドは、金融・財政の協調政策に世界中でのワクチン接種の取り組みが加わるなか、勢いを増しつつある。
- 中国国債はソブリン債のなかで最も有望:中国の債券利回りは世界的な景気回復をすでに織り込んで上昇しており、現在の水準で他国のソブリン債よりも投資魅力が高い。
プロセス
リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:
当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。