本稿は2021年3月17日発行の英語レポート「MULTI-ASSET MONTHLY」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

投資環境概観

年初に好調なスタートを切ったグローバル株式市場は、2月には今年最初の難局にぶつかった。大半の国の株式市場は年初来で依然プラス・リターンを維持しているものの、程度こそ異なれ高値から反落している。この主因は債券イールドカーブの大幅なスティープ化で、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミック(世界的流行)の真っ最中においてその恩恵を最も受けてきた市場に悪影響を及ぼしている。テクノロジー株の占める割合が大きいナスダック指数は10%の調整に見舞われ、年初来の上昇分をすべて吐き出した。バリュー色の強い「復興」株をより多く含む市場全体の指数は、相対的に良好なパフォーマンスを見せている。

年初からこれまでのところ、ソブリン債と株式はマルチアセット・ポートフォリオにとって厄介な相互作用を示している。株式の下方リスクに対してプロテクションを提供するという本来の債券の役割が後退し、今や債券利回りの上昇自体が株式市場のボラティリティの上昇要因となっている。「避難先がない」といった感じだが、これは債券利回りが上昇しているからというよりも、その上昇幅が大きいからだ。インフレ期待もまるで景気がすでに過熱しているかのように過去数年で最も高い水準へと急上昇しており、投資家の間では米FRB(連邦準備制度理事会)が金融緩和策を終え引締めに転じざるを得ないのではないかとの懸念が広がっている。

もちろん、世界経済は過熱からは程遠く、依然としてパンデミックからの悪影響を受けている。しかし、米国で新たな大規模財政出動が予定されているなど追加の景気支援策が控えているのに加え、新型コロナウイルス・ワクチンの接種実施が進んでいるという明るい材料もある。市場は、昨年世界経済が大底を打つ前に具体的な兆候を待たずして景気回復を織り込みにいったのと同様に、確かな証拠を待つことなく好景気を見込んだポジションを取りつつある。

これまでのところ、FRBは、金融政策は奏功しているとの最近のコメントが示唆する通り、債券利回りの上昇を容認している模様だ。FRBの視点から見れば、イールドカーブのスティープ化とインフレ期待の上昇はコロナ後の景気回復が近づいていることに対する自然な反応であり、投資家の楽観的見方を反映するものだ。一方で、実体経済に痛手をもたらす可能性がある債券相場の無秩序な乱高下をFRBが望んでいないのも明らかだ。最近の債券利回りの大幅上昇が株式市場のボラティリティを高めたことを考えると、FRBは微妙なバランス調整を求められることになるだろう。しかし、投資家がここで一息ついて、危ういバブル状態にある分野から景気回復局面で好パフォーマンスが期待されるバリュー株へと資金を再シフトさせるのは、健全な動きとも言えるかもしれない。リフレが根付くなか、イールドカーブのスティープ化圧力は続くとみられるが、投資家は最初のショックをすでに経験済みであることから、グロース資産は緩和的政策が当面維持される環境下の成長経済において(いつも通り)良好な投資成果をもたらすと想定される。

クロス・アセット

当社では従来の見方に対する確信度を強めており、選好しているグロース資産のスコアを若干引き上げてディフェンシブ資産のスコアを小幅に引き下げた。グロース資産内のスコア引き上げは、実質金利の上昇が見込まれるリフレ環境下でバリュー色の強い株式が上昇を牽引するとの前提に立っている。イールドカーブは世界的にスティープ化が続いており、米国では議会が1.9兆米ドルの景気対策を可決したことを受けて10年物国債の利回りが1.5%を超えた。債券利回りの上昇はグローバル株式市場の上昇を遮っており、COVID-19のパンデミック下で最も恩恵に浴してきたグロース株が目立って売られている。それでも、新たな財政出動、緩和政策の長期維持に対するFRBのコミットメント、新型コロナウイルス・ワクチンの接種実施を考えると、グロース資産の見通しはかなりポジティブだ。強気ポジションが過熱気味であったことから、最近のリスク選好ムードの後退は健全な調整という結果になる可能性が高い。

資産クラス・レベルでは、リートのスコアを「中立」へと再度引き上げ、その分、需要の継続的な正常化に伴う上値ポテンシャルがともにより小さいとみられるインフラ資産およびハイイールド債のスコアを引き下げた。他の資産クラスについてはすべてスコアを据え置いており、新興国を中心に株式の選好を継続している。また、新興国のソブリン債も、残りのグロース資産に対して選好している。ディフェンシブ資産では引き続き、ソブリン債に対してインフレヘッジ資産および投資適格クレジットを選好している。

マルチアセット・チームのクロス・アセット見解は、(1)グロース対ディフェンシブ、(2)グロースおよびディフェンシブ資産内でのクロス・アセット、(3)各資産クラス内での相対的な資産の見方、という3つの異なる段階で示しています。これらの段階は、選好順位の水準は資産クラスが予想可能な形で似た動きあるいは異なる動きを見せるという当社のリサーチおよび直感的認識を表しており、したがって、資産クラスのクロス・アセットでのスコアリングは理に適っているとともに、最終的により熟考された堅固なポートフォリオ構築につながると考えます。

資産クラスの選好順位

当社の見方

グロース資産

2月は、イールドカーブの急速なスティープ化を背景に、株式のローテーションが一段と積極的に進められた。バリュー株はここ数ヵ月グロース株をアウトパフォームしているが、当月は経済環境の回復に伴って収益成長の改善が見込まれる金融やエネルギーといったバリュー色の強い銘柄の買い漁りが進み、一方でバリュエーションの割高な銘柄が一層売り込まれた。

FRBは、いかなる形の引締めもまだずっと先の話だと市場に確約し続けているが、一方で長期金利の上昇を自らの政策が奏功している証しとして歓迎してもいる。もちろん、米国債10年物利回りの1.5%超えは、2020年8月初旬に付けた0.5%という最低水準からは大幅な上昇のように感じられるものの、COVID-19危機が襲う直前の2020年序盤に見られた1.90%を依然として下回っている。言い換えれば、金融政策が引き続き緩和状態にあることは間違いないが、金利の調整は株式市場の最もバブル的な部分に対するバリュエーションの見直しを正当化している。

FRBが「ツイスト・オペ」(長期国債と短期国債とで逆方向の公開市場操作を同時に行うことにより、資金供給量を変えることなくイールドカーブの動きを逆方向に導く市場操作)か何らかの形の長期金利操作を発表すると予想する向きもあったが、そのような操作を行う必要はないかもしれない。新型コロナウイルス・ワクチンの接種実施が今のところ順調に進んでいるのに加え、もうすぐ追加される1.9兆米ドル分を含め財政政策サイドから十分な景気刺激策が講じられているからだ。論理的には、景気支援に複数の柱があることを考えるとFRBが景気支援のために長期金利をコントロールする必要はなく、しばらく金利を成り行きに任せることは、いずれ行わなければならない資産購入削減の影響を和らげる適切な対処法と言えるかもしれない。

経済成長見通しがポジティブでなお改善を続けていることを考えると、グロース資産は依然として魅力的だが、バリュエーションの割高なグロース資産についてはさらなる調整の可能性があり、慎重な見方をしている。


高成長への準備

新型コロナウイルス・ワクチンの接種実施は大半が予想したよりも順調に進んでおり、一方で3月の第1週に米上院で可決された1.9兆米ドルに上る景気対策も市場予想を上回った。実際、米国はあと1四半期で集団免疫を獲得できるかもしれず、そうなれば完全な経済活動再開が可能となり繰延需要が一気に勢いづくと想定される。世界の企業収益の回復に先行する傾向のある日本の機械受注が持ち直すなど、成長のエンジンはすでに準備段階に入っている。

チャート1

製造業と企業収益は、経済・政策ショックとそれに続く緩和がもたらすミニ・サイクルに沿って盛衰を繰り返してきたが、今回のサイクルでは、パンデミックのショックの深さや繰延需要に今や火をつけようとしている景気刺激策の規模の大きさから、過去10年には見られなかった劇的な成長が見込まれる。

弱体化した銀行と過剰債務を抱えた消費者によって成長が阻害された世界金融危機後の局面とは異なり、今日の銀行および消費者のバランスシートは非常に良好で、景気刺激策の大部分が消費者に直接渡っていることから改善しつつある。そのような貯蓄のうちどれくらいが繰延需要を満たすために使われるかを推測するのは難しいが、かなりの規模に上ると見込まれおそらく近年のどの景気回復よりも力強いものになると言って差し支えないだろう。

戦時中を除けば、政府がここまで惜しみない財政出動を実施したことはかつてない。これは新しい時代であり、「リフレ的」という言葉だけでは十分に表すことができない。FRBは敢えて経済をヒートアップさせ平均インフレ率を2%へ上昇させようとしているが、これまでのところはなかなかこの水準に手が届かない状況が続いている。当社ではFRBが今度こそ成功すると考えているが、その過程で同中銀がインフレ期待を野放しにしないことを願うばかりだ。

いずれにしても、向こう数四半期における企業収益の伸びは非常に力強いものとなり、これを受けて株式は(中央銀行が容認すれば)利回り上昇が続かざるを得ない債券よりも優れたディフェンシブ資産となるだろう。


グロース資産に対する確信度の強い見解

  • リートの見方を「中立」へと引き上げ:リートは、市場の特定のセグメントにおいて依然痛手を負っているかもしれないが、バリュエーションが引き続き魅力的な水準にあることと、夏季に需要が正常化し始めれば収益の押し上げが見込まれることから、最良の「景気回復ポジション」になる可能性がある。反対に、景気回復をすでに完全に織り込んでいる米国ハイイールド債とインフラ資産については、慎重な見方を強めている。
  • 引き続き新興国市場を先進国市場に対して選好:新興国市場は、最近の株式市場のボラティリティ上昇に加えて米ドル高が嫌気され、ある程度の資金流出に見舞われている。しかし、当社では、ドル高は一時的なものでやがて収まり、世界経済の成長回復の恩恵を最も受ける資産クラスの1つである新興国市場に投資資金の流れが戻ってくるとみている。

ディフェンシブ資産

ディフェンシブ資産に対してはすでにネガティブな見方をしていたが、スコアをさらに引き下げた。2月は、債券市場のモメンタムがマイナスに転じ投資家が中央銀行によるサポートの最終的な巻き戻しを見越し始めたのに伴い、世界的なイールドカーブのスティープ化傾向が加速した。多くの国で新型コロナウイルス・ワクチンの接種実施が進んでいるのに加え、パンデミック対策の財政出動が続いていることから、世界の経済見通しは急速に改善するとみられる。当社では、中央銀行が忍耐強さを示すと予想しており、景気へのサポートを早計に引き上げる可能性は低く、むしろリフレが十分に定着するまで待つものとみている。結果として、COVID-19収束後の旺盛な需要はインフレ圧力の高まりを招き、投資家は、今年増加が予想されるソブリン債の供給を吸収するにあたって、より高い名目金利という形で対価の増大を求めるだろう。

投資適格クレジットは2月に信用スプレッドが若干縮小し、基準となる国債利回りの大幅上昇を部分的に相殺した。利回り水準の上昇を受けて短期的には投資家の関心が回復すると思われるが、利回りがさらに上昇すればトータルリターンの足かせとなり続ける。それでも、投資適格クレジットの提供する上乗せ利回りを考えると同資産クラスはソブリン債よりも望ましい投資対象と言え、当社では対ソブリン債で選好するスタンスを維持している。

インフレヘッジ資産もリフレ環境下で好パフォーマンスが続くとみられ、当社では引き続き有望視している。最近のインフレ指標は依然として低調であるものの、ブレークイーブン・インフレ率(期待インフレ率)は上昇してきており、先を見越すと実際のインフレ率も加速すると予想している。ベース効果が年間インフレ率を押し上げると想定されるとともに、世界経済の回復が勢いを増すにつれて企業の価格決定力が改善するだろう。これは期待インフレ指標の上昇にすでに表れており、インフレヘッジ資産にとって継続的な追い風になるとみられる。


イールドカーブで進むリフレの織り込み

ソブリン債の年初来のリターンは、控え目に言っても失望的な水準だ。債券利回りは昨年10月から世界的に上昇基調にあるが、最近では満期が長めのものを中心に上昇ペースが加速している。主な発端となったのは米国のイールドカーブの大幅なスティープ化で、これにカナダやオーストラリアといったドル圏の仲間が巻き込まれている。欧州中核国の債券は多少ましで、中国や日本、イタリアの国債はこれまでのところ小幅なプラスか小幅なマイナスのリターンとなっている。チャート2は、上述3グループの各国国債市場について、年初来のトータルリターンを示したものだ。

チャート2

債券利回りの大幅上昇に寄与した要因は世界レベルでも各国レベルでも数多くあるが、投資家がCOVID-19収束後の需要の急拡大を予想して世界経済の見通しを引き上げているのはほぼ間違いない。結果として、過去1年に提供されてきた金融政策による桁外れの支援が終わりに近づきつつあるかもしれないことを示す兆候がないか、中央銀行に大きな注目が集まっている。中央銀行としては、これまでのところ、今後何ヵ月にもわたって低金利が続くとのフォワード・ガイダンスを堅持している。

このようなフォワード・ガイダンスが債券投資家にある程度の安心感を与えているのは確かだが、イールドカーブへの織り込みが実際のガイダンス変更に十分先んじて起こるものであることも事実だ。大半の中央銀行が政策金利の変更を行う前に量的緩和(QE)の資産購入を削減したいと考えていることから、当社ではまずQE削減に注目している。各中央銀行のQE政策へのコミットメントに対する投資家の捉え方は、ソブリン債のリターンの行方を左右する要因と当社が考えているものの1つである。

このQEへのコミットメントとそれを受けた巻き戻しへの躊躇について、まずは最大の支持者から評価を始めよう。日銀とECB(欧州中央銀行)は、いつかQEを終えることができるとして、最も長くQE政策を続けることになると予想している。反対に、オーストラリア準備銀行はQE政策へのコミットメントが最も低いとみており、カナダ銀行とイングランド銀行がそれに続く。両極の間を占めるのがFRBだが、現職議長の下ではハト派色が強いことから、より最初のグループに近い立ち位置にあると考える。

中央銀行の行動に関するこのような見識は、足元のソブリン債間の利回り格差に対する見方にも寄与する。英国がその一例で、当社ではイングランド銀行がQEを終える最初の中央銀行の1つになるとみているが、英国債10年物の利回りは、当社がより長期のQE継続を予想している米国の国債利回りを大きく下回っている。これはおそらくブレグジット(英国の欧州連合離脱)をめぐる不透明感と同国の新型コロナウイルスとの苦闘による影響の名残りと思われるが、当社の評価が正しくイングランド銀行がQE政策から撤退する最初の中央銀行の1つになるとすれば、英国債に対しては慎重なスタンスが妥当であるのは確かだ。

ディフェンシブ資産に対する確信度の強い見解

  • 長期金利は上昇圧力が続く:インフレ期待の高まりと物価圧力の先行指標の上昇を受けて、イールドカーブのスティープ化傾向が続くとみられる。
  • 英国債は特に割高:英国では、新型コロナウイルス・ワクチンの接種プログラムが急速に進んでいるとともに、中央銀行が他国よりもタカ派色の強いスタンスを見せるかもしれない一方で、現在の英国債利回りはドル圏各国の水準を大きく下回っている。

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。