本稿は2021年4月16日発行の英語レポート「MULTI-ASSET MONTHLY」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

投資環境概観

米国の新たな景気刺激策と新型コロナウイルスのワクチン接種の概ね順調な進行がリフレの動きを下支えし、景気の回復がそれをすでに示しているなかで、リフレ・トレードは市場動向からみると少々消耗してきているようだ。しかし、当社では足元の動きを終わりというよりは小休止とみている。米国債利回りの上昇に加えて米国の好調な経済成長見通しがドルのサポート材料となっており、ドル高は通常ディスインフレ効果をもたらす。当社ではそのような当面の追い風要因を受けてドルに対する見方を引き上げたが、この動きが長期にわたって続くとは考えていない。

米国の新たな財政出動と迅速なワクチン接種展開は、明らかに同国に当初の成長優位性をもたらしている。しかし、このスタートでのリードは、他の国々が追いつくにつれ、夏季のあいだに少なくとも部分的には縮まるとみている。この格差縮小の要因となるのはすでに高まっている米国の需要で、財政赤字が依然非常に大きいところに需要が経常収支を悪化させることからドルは再び軟化すると予想しており、そうなればリフレ見通しへの確信が回復するだろう。

金利感応度を高めとするポジショニングは、今年に入ってから明らかに痛みを伴うトレードとなっている。しかし、イールドカーブのスティープ化の度合いが大きかったことから、速度の点から見た調整の最悪局面は、少なくとも今のところは収まりつつあるのかもしれない。もちろん、経時的ベース効果により見込まれる総合インフレの数字の加速が再び市場を動揺させる可能性はある。特に、予定されている多額の米国債の発行が米国債利回りにさらなる上昇圧力を加えていることを考えるとなおさらだ。それでも、需要の加速は企業収益の伸びを促し、これを受けて株式市場は第1四半期に見られたようなボラティリティを伴いながらもじり高となるだろう。

クロス・アセット

リフレ圧力の高まりが債券利回りを押し上げている一方で米FRB(連邦準備制度理事会)が急激な相場調整を抑制しようとしないなか、当社ではグロース資産に対する確信度を維持するとともにディフェンシブ資産に対する慎重度を若干強めた。1.9兆米ドルの景気刺激策によって個人貯蓄超過は約2兆米ドルへ押し上げられると推定され、それがもたらす潤沢な手元資金は繰延需要を満たすとともに、以前の景気刺激策実施後に見られたようにおそらく一部が株式市場に流入するだろう。

一方、新型コロナウイルスのワクチン接種は米国と英国を中心に順調に進んでいるが、他の国々ではワクチンの入手にあたってより大きな障害に直面していたり、欧州の場合は接種の計画・実行に幾分の不備があったりしている。景気刺激策とワクチン接種の進行における差異により今後数ヵ月の経済成長には格差が生じると想定され、米国が世界をリードする可能性が高い。米国における債券利回りの上昇と相対的に良好な同国の経済成長見通しがドルにとって大きなサポート材料となっており、これが債券利回りの急上昇をきっかけに生じたリスク回避ムードを強めている。短期的にはこの動向が続くかもしれないが、年後半には米国の成長優位性は後退すると想定され、最近のドル高も終わる可能性が高い。

資産クラスのレベルでは、経済活動再開の恩恵を最も受けやすいリートのスコアを引き上げ、その分、ドル高が当面逆風となる新興国の株式および債券のスコアを引き下げた。ディフェンシブ資産では、バリュエーションに割安感のなくなった投資適格クレジットのスコアを引き下げて見方を中立とし、その分、大幅に相場調整したインフレヘッジ資産のスコアを引き上げた。また、足元ではドルが優位とみていることから、グロース通貨のスコアをディフェンシブ通貨対比で引き下げた。

マルチアセット・チームのクロス・アセット見解は、(1)グロース対ディフェンシブ、(2)グロースおよびディフェンシブ資産内でのクロス・アセット、(3)各資産クラス内での相対的な資産の見方、という3つの異なる段階で示しています。これらの段階は、選好順位の水準は資産クラスが予想可能な形で似た動きあるいは異なる動きを見せるという当社のリサーチおよび直感的認識を表しており、したがって、資産クラスのクロス・アセットでのスコアリングは理に適っているとともに、最終的により熟考された堅固なポートフォリオ構築につながると考えます。

資産クラスの選好順位

当社の見方

グロース資産

マネーの価格、つまり資金調達コストは他のすべての資産価格の基準となる土台であり、米国金利は依然として世界的な資金調達コストの最も重要な参考指標である。最近見られた米国のイールドカーブの急速なスティープ化のようにマネーの価格が急変すると、グロース株からバリュー株への急速な資金ローテーションなど、他の資産クラスにわたって急激で極端な価格の見直しの起こる可能性がある。もちろん、価格の見直しが一服して、3月半ばから見られているようにイールドカーブの動きがレンジ内に収まれば、ローテーションが一服しても不思議ではない。

FRBの政策、特にその転換点は、リスク資産市場の方向性を予想するのに非常に重要であるが、それでも指標の1つに過ぎない。今のところ、FRBは多少「良い警官・悪い警官」を演じているところがあり、一部の理事が早ければ年内にも景気刺激策のテーパリング(漸進的縮小)を開始すべきと主張している(悪い警官)一方、ジェローム・パウエル議長は「テーパリングの検討を考えることすらしていない」と長期的な緩和継続の姿勢を繰り返し示している(良い警官)。

それでも、市場が政策の先行きを示唆する言葉に一言残らず執着する強迫観念的反応を見せているなかで思い出すべきは、FRBの政策が重要である一方で、最も大事なのはファンダメンタルズ面の成長ドライバーであるということだ。いつかはFRBが引締めプロセスを開始する時がやってくるが、同中銀は新たな対称的インフレ目標という任務を達成するためには景気の過熱を容認することも厭わないと繰り返し述べてもいる。この観点から考えると、財政および金融政策によるかつてない規模の支援が手厚いセーフティーネットとなってきた世界経済が活動を再開することで、世界的な同時景気回復が加速するという環境下、見通しはかなり明るいと言える。


ローテーションは一服

ここ数ヵ月何度も述べてきた通り、米国債利回りの急上昇はグロース株のバリュー株に対する相対パフォーマンスを悪化させる重要な要因である。グロース株は(かなり先の将来の収益に対するプレミアムを伴う)金利感応度の高い資産に相当することから、そのような相対パフォーマンスの動きは理に適っている。おそらく意外なのは、ここ数週間、長期金利が低下したわけではなく、米国債10年物の利回りが1.70%を決定的に突破できず長期金利が単に安定化しただけで、グロース株が大幅に回復していることだろう。

チャート1

バリュー株へのローテーションは終わったのか。当社ではそうはみていない。テクニカル的観点からは、グロース株からバリュー株へのローテーションは(長期金利の上昇がそうであったように)行き過ぎたのかもしれない。ファンダメンタルズの観点からは、世界の経済成長が加速し続けていずれFRBが金融緩和のテーパリングを「検討」し始めるにつれ、長期金利には再び上昇圧力がかかり、バリュー株がグロース株に対してアウトパフォームする可能性が高い。

米国債利回りに関係して反トレンド要因となるのは、債券利回りの上昇に加えて新たな景気刺激策と順調なワクチン接種展開を受けた当面の成長優位性がともに追い風となっている米ドルである。反トレンド要因となる理由は、債券利回り上昇の示唆する経済成長見通しの改善が対グロース株でバリュー株に有利に働く一方、ドル高自体のもたらすディスインフレ効果や世界の経済成長への逆風がバリュー株にとってマイナス材料となるからだ。

当面は、米国が経済成長において他国を上回るとみられ、これが米ドルを継続的に下支えするだろう。しかし、2021年後半には、他の国々で集団免疫獲得が進むとともに米国の景気刺激策が最終的にインフラ支援という形でさらに拡大し世界の需要を力強く支えるにしたがって、ドル高の動きは後退するものと当社では予想している。

今後数ヵ月は、金利上昇と復活した米ドル高とのあいだで綱引きが続くとみている。とは言っても、この動きは米国以外の国々における経済成長の加速が米ドル高の中和を促す一方で金利が徐々に上昇するにしたがって自然に解消するとみており、そのような環境ではバリュー株がグロース株に対して有利となりやすい。


グロース資産に対する確信度の強い見解

  • 新興国資産のスコアを引き下げ:新興国通貨は今のところそこそこ安定を維持しているものの、ドル高が逆風となる可能性があることから、新興国資産のスコアを株・債券ともに引き下げた。中長期的には成長が追い風となることから新興国の見通しは依然ポジティブだが、当面は長期金利の急上昇とドル高が相まって最終的に新興国通貨と新興国への資金流入全般を低迷させる可能性がある。
  • リートのスコアを引き上げ:リートはバリュエーション面の魅力度が依然高いため、他の市場分野が売り圧力に晒されても持ち堪えやすい。また、リートは世界の経済活動再開へのエクスポージャーを提供する。不動産は新型コロナウイルスから受けた打撃が特に大きく、市場の一部はまだダメージが続くと思われるものの、経済活動再開の影響は全体として追い風になるとみられる。
  • グロース通貨のスコアを引き下げ、その分ディフェンシブ通貨のスコアを引き上げ:米国債利回りの上昇に下支えされた米ドル高が当面続く可能性があることから、ディフェンシブ通貨のスコアを引き上げてマイナス幅を縮小させた。しかし、日本円は依然低迷しており、実際年初来では世界で最も弱い通貨となっている。

ディフェンシブ資産

今月はディフェンシブ資産に対する慎重度を若干強めた。米国の大規模財政出動は、米国議会が1.9兆米ドルの米国救済計画法を可決したことを受け、今や現実となっている。同国では新型コロナウイルスのワクチン接種が全国で急速に進んでおり、力強い経済成長の環境が整いつつある。しかし、欧州ではワクチン接種の進行がより遅く、景気回復が米国に比べて遅れるとみられる。各国中央銀行は金利が今後何ヵ月にもわたって低水準にとどまると市場に納得させるのに最善を尽くしているが、そのようなメッセージは新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)の出口が視野に入り始めた今となっては売り込みにくく、経済成長見通しの改善とインフレ圧力の高まりが債券利回りに上昇圧力をかけ続けるものと想定される。

投資適格クレジットは現在、信用スプレッドがパンデミック前の水準へと回復しており、一部の分野ではバリュエーションが割高になりつつある。世界経済の好調な回復が企業の信用クオリティにとってプラス材料となるのは間違いないが、基準となる国債利回りの上昇によって投資家が晒されるデュレーション・リスクも浮き彫りとなっている。結果、当社では投資適格クレジット・セクターについて、対ソブリン債では依然選好しながらもより中立的な見方をとることとした。

反対に、インフレヘッジ資産についてはスコアを引き上げてプラス幅を若干拡大した。多くの先進国では財政出動が引き続き焦点となっているとともに、消費者のバランスシートがパンデミックを通じ全体として健全な水準に保たれてきており、結果として見込まれる需要の力強い伸びが物価上昇の圧力につながるとみられる。このようなよりインフレ的な環境へのシフトは、インフレヘッジ資産への追い風となり続けるだろう。


米国の序列

年初以来、米国債券のなかで当社が最も懸念を抱いてきたのは米国債の見通しである。追加財政出動と新型コロナウイルスのワクチン接種の組み合わせを受けて、当社や他の市場参加者は2020年の並外れた金融政策が今後1年で終わるだろうとの結論に至った。ソブリン債、投資適格社債およびTIPS(米国物価連動国債)の高格付債ユニバースのなかで、トータルリターンにおいて劣後してきたのは米国債である。チャート2は、これら3資産クラスの年初来リターンを、デュレーションの差異を最小化すべく7~10年満期セクターで比較したものだ。

チャート2

投資適格クレジットのリターンもイールドカーブ全体にわたる米国債利回りの上昇によって打撃を受けたが、基準となる国債利回りの上昇は対米国債スプレッドの漸進的な縮小によって一部吸収され、社債のプラスの利回り格差も対米国債でアウトパフォームするのに貢献した。当社では、このような相対パフォーマンス傾向が続くと予想している。景気の加速が企業の信用クオリティにとって追い風となるため、多くの投資家が国債よりも社債の提供する利回りプレミアムを選好するだろう。

高格付債グループの3つ目の資産クラスであるインフレ連動国債は、固定利付国債と社債の両方に対して明らかな勝者となってきた。インフレ期待の高まりが、米国債利回りの上昇局面でもインフレ連動国債への需要を支えてきた。ブレークイーブン・インフレ率(期待インフレ率)は名目債券利回りとともに調整して上昇し、世界的な債券利回りの上昇は実質利回りには波及しなかった。しかし、10年のブレークイーブン・インフレ率が2.5%近辺で天井を付け始めていることから、名目債券利回りがここからさらに上昇した場合は、その上昇分がよりフルに実質利回りの上昇につながるとみられる。今後数ヵ月の見通しとして、米国債券内では前四半期に確立されたのと同じ序列が維持されるものと予想する。

ディフェンシブ資産に対する確信度の強い見解

  • 中国国債を選好する:中国の債券は相対的に大幅に高い利回りを提供しており、世界の債券利回りがさらなる上昇に見舞われても下値抵抗力を示すと想定される。
  • インフレ連動国債を固定利付国債に対して選好する:インフレ期待の高まりと予想ベースの物価圧力指標の上昇がインフレ連動国債の需要を下支えするとみられる。

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

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