本稿は2021年6月14発行の英語レポート「Asian Equity Monthly」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 当月のアジア株式市場(日本を除く)は、域内の複数国での新型コロナウイルス感染者急増に対する懸念や根強いインフレ不安をよそに、同地域で継続中の景気回復をめぐる楽観ムードを追い風として底堅い推移を見せ、月間リターンが米ドル・ベースで1.2%となった。
  • 国別では、インドとフィリピンが最も良好なパフォーマンスを示した。インド株式は、新型コロナウイルスの日次新規感染者数の減少や一部の州におけるロックダウン(都市封鎖)措置の緩和が上昇材料となった。フィリピン株式のリターンを押し上げたのは、同国の主要貿易相手国からの旺盛な需要を受けて3月の輸出が10年超ぶりの大幅な伸びを見せたことを背景とするフィリピンペソ高だった。
  • 反対に、新型コロナウイルスの感染者数の大幅増加を受けて政府が規制措置を強化したマレーシアと台湾はパフォーマンスが劣後した。台湾市場については、テクノロジー株が世界的にアンダーパフォームしたことも重石となった。
  • 新型コロナウイルスの感染拡大の新たな波と共存できるような世界への移行が続くなか、政策や封じ込め状況、ワクチン接種率における各国間の乖離がこれまで以上に明確となるだろう。アジアは欧米に比べると、ワクチン接種の実施ペースが遅く外国からの渡航者の受け入れ再開に非常に消極的である。この状況が当面続くかもしれない可能性を考慮し、当社では国内市場の規模が大きい国や構造的な需要のあるセクター(具体的にはヘルスケア、環境およびテクノロジー分野)を引き続き選好していく。

市場環境

アジア株式の月間リターンはプラスに
当月のアジア株式市場(日本を除く)は、域内の複数国での新型コロナウイルス感染者急増に対する懸念や根強いインフレ不安をよそに、同地域で継続中の景気回復をめぐる楽観ムードを追い風として底堅い推移を見せ、月間リターンが米ドル・ベースで 1.2%と良好なリターンとなった。国別のパフォーマンス(MSCIインデックスの米ドル・ベースのリターンに基づく)では、インド、フィリピンおよび香港が最も良好となる一方、マレーシア、台湾、タイが最も劣後した。

香港、中国および韓国はプラス・リターン、台湾株式は下落
北アジアでは、香港株式と中国株式の月間リターンがそれぞれ1.3%、0.8%とプラスになった。香港株式は、中国政府がコモディティ市場の大幅な価格上昇を抑制すると明言したことによるインフレ懸念の後退が好感された。中国で月中に発表された国内の製造業活動の指標が低調であったことから政策引き締めへの不安が和らぎ、一方で人民元高を受けて海外からの投資資金が流入した。

韓国株式は、インデックスに占める比重の大きいSamsung Electronicsがアンダーパフォームしたにもかかわらず、月間リターンが米ドル・ベースで0.4%と小幅ながらなんとかプラス領域にとどまった。韓国銀行は当月、政策金利を据え置いたものの、自国経済が回復を見せるなか、過去最低の金利水準からの秩序だった脱却に向けて準備を進めていることを示唆した。

台湾株式は、同国における新型コロナウイルスの感染者数の急増を嫌気して下落し、月間リターンが米ドル・ベースで-1.2%となった。台北とその周辺都市で新型コロナウイルス関連の規制措置が強化されたのに加え、テクノロジー株が世界的にアンダーパフォームしたことも、当月の台湾株式の重石となった。

インドはアウトパフォーム、アセアンのリターンはまちまち
インド株式は、国内で月中に新型コロナウイルスの日次新規感染者数が減少し始めたことやデリーをはじめ一部の州でロックダウン措置が緩和され始めたことから大きく上昇し、月間リターンが米ドル・ベースで8.7%となった。インド準備銀行によって個人や中小企業向けに新たな一連の支援策が実施されたことも同国株式を押し上げた。

アセアン地域の各国市場は月間リターンがまちまちとなった。フィリピンとインドネシアが最も良好なパフォーマンスを示し、米ドル・ベースのリターンがそれぞれ5.6%、1.3%とプラスになる一方、マレーシア、タイおよびシンガポールは米ドル・ベースのリターンがそれぞれ-1.9%、-0.6%、-0.1%と劣後した。当月のフィリピンは、株式市場が4月の低迷から力強く回復するとともに、同国の主要貿易相手国からの旺盛な需要を受けて3月の輸出が10年超ぶりの大幅な伸びを見せたことを背景に通貨ペソが上昇した。一方、マレーシアでは、新型コロナウイルスの新規感染者数の急増を抑えるために6月14日まで2週間の全国規模のロックダウンを実施すると発表したため、株式市場と通貨リンギットが下落した。

今後の見通し

国内市場の規模が大きい国や構造的な需要のあるセクターを選好
新型コロナウイルスの感染拡大の新たな波と共存できるような世界への移行が続くなか、政策や封じ込め状況、ワクチン接種率における各国間の乖離がこれまで以上に明確となるだろう。アジアでは複数の国が新型コロナウイルス感染の第2波あるいは第3波にすら見舞われており、これを受けて各国株式市場間のパフォーマンス格差も大きくなっている。

欧米諸国は積極的なワクチン接種プログラムが山場を越えつつあり、その結果として需要が観光や消費サービスにシフトしていくとみられる。アジアは欧米に比べると、ワクチン接種の実施ペースが遅く外国からの渡航者の受け入れ再開に非常に消極的である。この状況が当面続くかもしれない可能性を考慮し、当社では国内市場の規模が大きい国や構造的な需要のあるセクター(具体的にはヘルスケア、環境およびテクノロジー分野)を引き続き選好していく。

より質の高い持続可能な成長への地固めを進める中国
中国は、大幅な政策引き締めは控えているものの、社会的関心が高く企業が不当利益を得ていると見なされている分野での監視を強めている。これを受けて、教育やフィンテック、eコマースといった分野でビジネスモデルに大きな変化が起きている。不動産セクターも、システム内の全体的な負債構成とともに、厳しい監視の目にしばらく晒されている。当社では、これらの「改革」は短期的な調整が伴うもののそれによって将来のより質の高い持続可能な成長への道が整備されると考えており、そのような再編を遂げつつある一部のサブセクターにおいて継続的に投資アイデアを吟味していく。当面は、政策環境がより有利な分野、つまり環境や産業高度化、ソフトウェア、ヘルスケアに関連する分野の選好を継続する。

韓国と台湾については見方の強気度をやや縮小
韓国と台湾は、新型コロナウイルスの流行への対処に成功したのに加え、自国の輸出品に対する世界からの需要が高まっていることが追い風となっている。しかし、自国への多額の資金流入が国内に過剰流動性をもたらし始めており、これを受けて直近では韓国銀行が金融政策の正常化が近いことを示唆したが、これはアジア地域では初であり影響が大きい。当社では、両国に対する見方の強気度をここ数ヵ月でやや後退させたが、コンテンツやヘルスケア、テクノロジーの一部のサブセクターといった分野では、引き続きボトムアップ・ベースで魅力的な投資アイデアを見出すことができる。

インドは感染拡大に伴うリスクはあるもののファンダメンタルズのポジティブな変化が依然進んでいる
インドでは、新型コロナウイルスの流行における直近の波はピークを打ったように見受けられるが、ワクチンの接種率が低いことから州間移動制限の解除がリスク要因であることには変わりはない。政府がワクチン接種を加速させる措置を講じていることは好材料であり、経済成長と改革推進の可能性を高めるために必要である。企業レベルでは、サブセクターの再編加速や経営における利益追求、イノベーション(革新)の発展が進行している例が引き続き複数見られている。このようなファンダメンタルズのポジティブな変化を受けて、当社では民間銀行、物流、不動産および「ニュー・エコノミー」分野を選好している。

インターネット経済は引き続きアセアンにおけるもっとも重要な投資機会の1つ
アセアン諸国は、パンデミックの影響による経済面の痛手から徐々に脱しつつあり、また経済の「グリーン」化においてこれまで取り組みが進んでいなかった分だけ非常に大きな機会が見込まれる。石油や石炭の火力エネルギーへの依存から脱却し再生可能なエネルギー源へと移行していくのに伴い、各国政府の財政状況が改善するとともに、生産コストの低下が製造業分野に好機をもたらすとみられる。ただし、同地域で見られる政局の混乱や停滞から、経済のグリーン化に伴うポテンシャルを実現するための道のりは控えめに言っても険しいものになると想定される。したがって、当面、アセアン諸国で最も魅力的な投資機会が見出されるのは市場の再編やインフォーマル経済のフォーマル化であるとみている。GDPに占める割合からすると、インターネット経済が引き続きアセアンにおいてアジア地域の他国対比で最も重要な投資機会の1つであると考える。

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