本稿は2021年7月16発行の英語レポート「Asian Equity Monthly」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 当月のアジア株式市場(日本を除く)は、域内で新型コロナウイルスの感染者数が最近急増していることなどが重石となり、小幅に下落して月間リターンが米ドル・ベースで-0.1%となった。インフレの加速をめぐる根強い懸念や、米FRB(連邦準備制度理事会)のテーパリング(量的緩和の漸進的縮小)が予想よりも早く実施されるのではとの不安も、市場センチメントを冷え込ませた。
  • 北アジア市場はアウトパフォームした。テクノロジー銘柄や輸出関連株の占める割合が高い韓国・台湾市場は、テクノロジー株のパフォーマンスが世界的に良好だったことや輸出統計が堅調だったことが追い風となった。中国株式は、同国の中央銀行による金融政策引き締めへの懸念がなかなか払拭されないものの、月間リターンが米ドル・ベースで0.1%と辛うじてプラスになった。
  • アセアン地域では、月間市場リターンがプラスとなったのはフィリピンのみで、インドネシア、マレーシア、タイ、シンガポールは、東南アジアにおける新型コロナウイルスの感染者数の急増が嫌気され、いずれも大幅に下落し北アジア市場をアンダーパフォームした。
  • 新型コロナウイルスの感染拡大の波が再来する一方で投資家が引き続きインフレ期待の問題に対峙するなか、市場には不透明感が広がっている。当社では、こうした不透明なマクロ環境を乗り切るのに規律立ったボトムアップ・ベースの銘柄選択アプローチを引き続き重視しており、ポジティブな構造的変化や持続可能な利益を実現している企業を選好していく。

市場環境

アジア株式の月間リターンは米ドル・ベースで小幅なマイナスに
当月のアジア株式市場(日本を除く)は、域内における最近の新型コロナウイルス感染者数急増の原因となっている感染力の強いデルタ変異株への懸念が高まったことなどが重石となり、小幅に下落した。インフレの加速をめぐる根強い懸念や、米FRBのテーパリングが予想よりも早く実施されるのではとの不安も、市場センチメントを冷え込ませた。

当月のアジア株式市場(日本を除く)の月間リターンは、米ドル・ベースで-0.1%と小幅なマイナスとなった。国別のパフォーマンス(MSCIインデックスの米ドル・ベースのリターンに基づく)では、フィリピン、韓国、台湾が最も良好となる一方、インドネシア、マレーシア、タイが最も劣後した。

北アジア市場はアウトパフォーム
テクノロジー銘柄や輸出関連株の占める割合が高い韓国・台湾市場は、テクノロジー株のパフォーマンスが世界的に良好だったことや輸出統計が堅調だったことを追い風に、月間リターンが米ドル・ベースでそれぞれ1.4%、0.6%となった。両国の5月の輸出額(米ドル・ベース)は、半導体や電子機器の旺盛な需要に押し上げられ、前年同月比で韓国が45.6%、台湾が38.6%増加した。その他の出来事として、韓国の中央銀行は月中、同国の経済が予想よりも早く回復していることから年内に利上げを実施する用意があると述べた。

中国株式は、同国の中央銀行による金融政策引き締めへの懸念がなかなか払拭されないものの、月間リターンが米ドル・ベースで0.1%と辛うじてプラスになった。当月、中国政府は個別学習指導セクターに対する規制強化を実施するとともに、暗号資産取引への引き締めを一段と強めた。一方、中国の国家統計局が発表した6月の製造業PMI(購買担当者景気指数)は50.9と、5月の51.0から若干低下した。香港株式は、中国の製造業活動指標の低迷を受けてエネルギー株やIT株が反落したことから、米ドル・ベースのリターンが-1.8%となった。

インドはマイナス・リターン、アセアン市場は大半がアンダーパフォーム
インド株式は、新型コロナウイルスの感染者数が安定したことを受けて月中に国内のロックダウン(都市封鎖)規制が緩和されたものの、米ドル・ベースの月間リターンが-0.7%となった。インド準備銀行は、主要政策金利であるレポ金利を4%に据え置く一方、エネルギー価格の上昇がインフレを助長する可能性を警告するとともに、今年度(2021年4月~)の経済成長率予想を10.5%から9.5%へと引き下げた。

アセアン地域では、月間市場リターンがプラスとなったのはフィリピン(米ドル・ベースで2.0%)のみで、インドネシア(-6.1%)、マレーシア(-3.9%)、タイ(-3.4%)、シンガポール(-2.6%)、は、東南アジアにおける新型コロナウイルスの感染者数の急増が嫌気され、いずれも大幅に下落し北アジア市場をアンダーパフォームした。フィリピン市場は、同国の経済活動が徐々に再開されるなか、5月の失業率が4月の8.7%から7.7%(速報値)へと改善したことを好感して、4ヵ月超ぶりの高値をつけた。他では、インドネシアとタイが国内の新型コロナウイルスの感染拡大に対処するために新たな社会的規制措置を発表し、一方でマレーシアは日次新規感染者数が4,000人を下回るまでロックダウン措置を無期限延長した。

今後の見通し

不透明なマクロ環境を乗り切るのに規律立った銘柄選択アプローチを重視
今年も半分が過ぎたが、新型コロナウイルスの感染拡大の波が再来する一方で投資家が引き続きインフレ期待の問題に対峙するなか、依然として市場には不透明感が広がっている。世界経済が向こう6ヵ月を超えて力強い成長を続けた場合に世界の中央銀行は予想よりも早くテーパリングを余儀なくされるのか、それとも、新型コロナウイルスの感染再拡大や中国の政策引き締め、フィスカルドラッグ(インフレの進行に伴う名目所得の上昇によって累進課税制度上の所得税率が上がり、実質増税が起こって経済に悪影響が及ぶこと)の強まりが相俟って経済成長を十分に鈍化させるであろうことから、実はインフレ期待はすでにピークを過ぎていると言えるのか、投資家は見極めに苦戦している。

現実が二者択一になることはめったにないが、これら2つのシナリオはともに域内市場に重大な、しかし正反対の影響をもたらす。様々な材料から先行きを見通すなかで、当社では、こうした不透明なマクロ環境を乗り切るのに規律立ったボトムアップ・ベースの銘柄選択アプローチを引き続き重視しており、ポジティブな構造的変化や持続可能な利益を実現している企業を特に選好していく。これには、国内市場の規模の大きさから恩恵を受ける企業や構造的分野(具体的にはヘルスケア、環境、一部のテクノロジー分野)が含まれる。

中国の新たな政策調整はより質の高い持続可能な成長をもたらす見込み
中国では景気の過熱を抑制する政策が引き続きとられており、負債削減の推進やインフレの抑制への断固とした姿勢が示されている。金融政策を活用する他に、中央政府は、社会的懸念が強い分野や企業が社会的安定を犠牲にして不当利益を得ていると見なされる分野に対し、機を見て規制強化も行っている。これによって、フィンテック、eコマース、教育といった分野のビジネスモデルに大きな変化がもたらされており、教育関連企業など、それらの事業の一部は最盛期のような状態には二度と戻れないかもしれない。とは言え、それ以外の企業にとっては、新たな政策調整がもたらすのは将来のより質が高くより持続可能な成長に過ぎない。そのような分野は、数多くの質の高い企業に割安な株価で投資できる好機を提供しているとともに、環境や工業高度化、ソフトウェア、ヘルスケアなど政策環境がより有利な分野への投資ポジションを補完するものとなるだろう。

韓国と台湾についてはより選別的な姿勢
韓国と台湾は、市場リターンにおいてアウトパフォームしたものの、経済に決して懸念材料がないわけではない。韓国ではワクチン接種率が向上しているにもかかわらず、両国ともに新型コロナウイルスの感染者数が依然としてかなりの高水準にとどまっている。バイデン米政権が台湾との二国間関係を強化しようとしているのに伴い、台湾については中台間リスクが足元で高まってきている。韓国では、国内の過剰流動性が懸念材料となるなか、韓国中銀の姿勢がタカ派度を増していることも、市場にまた別の逆風材料をもたらしている。こうしたことから、当社では両国市場について選別姿勢を強めているが、それでも、コンテンツやヘルスケア、テクノロジーの一部のサブセクターといった分野において、引き続きボトムアップ・ベースで魅力度の非常に高い投資アイデアを幾つか見出しているのも事実である。

インドとアセアンの景気回復はワクチン接種のペース次第
新型コロナウイルスの感染拡大の波に再び見舞われたインドとアセアンでは、経済が深刻な痛手を被っている。これらの国々にとっての主な焦点はワクチン接種のペースにほかならず、ペースを改善できる国は遅れをとる国に対して優位となるだろう。より重要な点として、インドやインドネシアなどのように経済の重大なボトルネック要因を解消すべく大幅な改革が推し進められている国は、より長期的に最も大きくアウトパフォームすることが見込まれる。インドでは引き続き、サブセクターの再編加速、経営における利益追求、イノベーション(革新)の発展を遂げつつある企業を見出している。そうしたファンダメンタルズ面のポジティブな変化を受けて、当社では民間銀行、物流、不動産および「ニューエコノミー」といった分野を選好している。アセアンについてはその他に、インターネット経済が変わらずアジア地域の他国対比で最も重要な投資機会の1つであると考える。

当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。