本稿は、2021年6月4日発行の英語レポート「If inflation is hanging around, time to tune in to Future Quality」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

グレイグ ブライソン


インフレが続くなら、「フューチャークオリティ」に注目すべきとき

家でテレビのクイズ番組をみているとき、挑戦者によるどうしようもない誤回答に思わずテレビへ向かって叫んだ経験は誰にでもあるのではないだろうか。信じられない気持ち、フラストレーション、無力感はみな、そうした状況でよく覚える感情だが、少なくとも、最後には笑って楽しい時間を過ごせるのが普通だ。


そうした感情は、世界の株式に投資する際にも感じることが多いだろうが、自分の顧客のために適切な答えを出せない場合にはそれほど笑っていられる問題ではなくなる。このたとえ話は明らかにこじつけ感が強くなるが、世界経済がテレビでのクイズ番組だとすれば、米FRB(連邦準備制度理事会)の議長は最も重要な挑戦者となるだろう。近年では、投資家が極めて緩和的な金融政策環境に慣れてしまっており、リスクは相当高まっている。もしFRBが答えを間違えた場合は何が起こるのか。おそらく株式市場にとって何も良いことはないだろう。

失敗する余裕があまりないように感じられることは確かだ。もしFRBが過度に高いインフレ率予想をもとに政策サポートを大幅に削減し始めれば、資産価格は大きく下落する可能性がある。もしFRBが過度に低いインフレ率予想を示し、インフレの定着を容認しても、結果はほとんど改善しないだろう。

コモディティは次の「スーパーサイクル」到来か?

足元で投資家が直面している最も重要な問題の1つは、過去20年のディスインフレ圧力がいまや吹き飛んで、インフレが復活しているのかという点だ。インフレは、現在の多くの投資家が実際には経験したことのないものである。当社では、テクノロジーやグローバル化によるディスインフレ効果が一巡したとは考えていないが、政治家たちはようやく近年よりも拡張的な財政政策を実施しているようだ。

(米国を中心とする)政府債務によって賄われる大規模なインフラ投資と、エネルギー転換への継続的な投資が組み合わさることで、コモディティの長期的な需給バランスのシフトをもたらすことはできるだろうか。

次の「スーパーサイクル」を期待する投資家にとって、重要な注目ポイントとなってきているのは銅である。これは理にかなっているとみられる。インフラ投資はかなり銅集約度が高いとともに、銅は世界経済の電動化と特に関連の深い原材料であり、よって(相対的な話として)ESGの議論においては正解の側にある。銅に投資すべき根拠の妥当性はこれまでよりも高まっているようだが、さらにどれだけ高まるだろうか。

米国のインフラ法案は、支出額をめぐる議論が依然続いていることや、中国などの管理経済に比べてインフラ整備計画プロセスが大幅に長引くとみられることから、どれだけ早く銅の現物への需要に転換されていくかという点についてかなり懐疑的な見方をしている。また、その世界最大の経済大国は世界の銅需要に占める割合が10%未満であることも注目に値する。したがって、米国の需要が次第に増加する場合も、世界的な需要動向に変化をもたらす効果は割とない可能性が高いだろう。

一方で、脱炭素化の動きは勢いを増しており、より魅力的とみている。世界中の政治家たちは電動化の時流に乗っており、発表された数々の目標が無事達成されるとの楽観的ムードに満ちている。以下に示すように、「グリーン」な銅需要(150万トン)は足元で世界の供給の約5%ほどだが、2020年代終わりには3倍に増加し、その後もさらに伸びると予想されている。銅供給が品位の低下により脅かされていることから、その他の点において変化がなければ銅市場が構造的な品薄状態となる可能性があるというのはもっともであるように思われる。

しかし、何かしらの変化が起こり得るだろうか。例えば、中国からの需要が世界の銅需要に占める割合は現在60%にのぼっている。過去には、我々よりも深い知見を持つ専門家の多くが、中国需要の大幅な減少を予測して(間違って)きた。しかし、人口動態が悪化していることや、政府が原料集約度のより低い代替手段への投資を優先していることを受けて、ゆくゆくは中国の銅需要が減少していく可能性は非常に高いとみられる。アナリストたちは、中国に関する予想を外してしまうことにうんざりしているのかもしれない。ひょっとすると、株式投資家に求められる病的なまでの楽観論を助長する方が単純に自分のキャリアのためにより良いのかもしれないが、世界第2位の経済大国の需要下振れリスクを探ることにはあまり関心がない様子であり、その代わりに主な焦点は、より興味をそそる今後の成長ドライバーに当てられている。


当社のグローバル株式戦略では、気候変動対策がもたらす長期的な投資機会に強い確信を持っており、そうした銘柄を多数ポートフォリオに組み入れている(SolarEdge、JohnsonMatthey、Schneider Electric、Kingspan、Carlisle Group、Daikinなど)。これらのいずれの企業も、イノベーションへの投資を継続しているとともに、資本集約度を低下させており、事業の成長加速を後押ししているコモディティに比べ、投資魅力がより高く、長期にわたってより安定的に高水準のキャッシュフロー投資利益率をもたらすとみられる。

このスーパーサイクルが、2004年から2007年にかけてコモディティ価格の急上昇をもたらしたものより持続性があるかどうかについては、今後明らかになるだろう。経済活動の再開が進んでいくなか、サプライチェーンの調整に時間がかかり、物価がコロナ禍を受けた低水準から回復していくことから、向こう数ヵ月間のインフレ・データは、このスーパーサイクルの火にさらなる燃料を加える要因になるとみられる。

当社がより注目しているのは、こうしたコロナ禍の反動、つまり感染拡大が最も深刻化していた時期との比較による企業の増益が一巡したあと、そして、世界的な流動性拡大が鈍化し始めるときのデータである。波の上からみえる景色は素晴らしいものの、その波が頂点に達して下がっている時には格段に怖くみえる場合がある。潤沢な流動性は確かに足元で楽観的な視点をもたらしているものの、そうした状況が永遠に続くことはおそらくないだろう。今回は違うかもしれないが、近年の事例が示唆するように、世界最大のコモディティ消費国が金融市場の流動性引き締めを続けているなかにあって、足元の銅価格水準の持続は難しいかもしれない。

個別銘柄への言及は例示目的のみであり、当社の運用戦略に基づいて運用するポートフォリオにおける保有継続を保証するものではなく、また売買推奨を示すものでもありません。

バリュエーション軽視のグロース投資

しかし、今後の見通しに欠陥のある可能性があるのは、政策当局やコモディティ・トレーダーだけではない。決してそうではない。おそらく、資産運用会社の顧客の(すべてではないにしても)大半は、机を挟んでファンドマネジャーと議論しているとき、まだ起きていないイベントに関して示された(一見非常に自信のある)見解に疑問を持った経験があるだろう。これは、「次に来るもの」を売り込むときに特に当てはまる場合がある。世界的な流動性の波は、ここ数ヵ月間でバリュースタイルの多くの船を押し上げてきたが、それを言うなら、過去数年間にわたりグロース株に与えてきたインパクトはさらに際立っている。

ここ数ヵ月間でグロース株からバリュー株へのローテーションが割と急激に進んだ理由の一部は、このトレードの出発点に遡ってみることで説明することができる。長年にわたる超低金利と潤沢な流動性環境によって、すでにリスク・テイクのための土壌ができていたところに、コロナ禍というトンネルの終わりの光がちらつき始めたことでユーフォリア(市場の高揚感)がもたらされ、グロース株がさらに急上昇するきっかけとなった。

以下に示すように、2020年夏頃から新規上場企業(その大部分は未知数のビジネスモデルを持ち、キャッシュ創出力はさらに不透明)の株価が急上昇し始めたことは、昨年市場の一部でみられた行き過ぎの事例のほんの1つに過ぎない。特別目的買収会社(SPAC)に対する歴史の審判が寛大なものになるとはまだ確信できないほか、暗号通貨の最終的な価値(や環境へのインパクト)については、本稿執筆時点でも引き続き大きな話題となっている。


確かに、過去1年間ほどにおいては投資するIPO案件が不足する状況はなく、2021年は米国でのIPO実施件数が記録的水準にのぼる年となるだろう。プライベート・エクイティのスポンサーは、長期的には継続しない可能性のある足元の環境についてなんらかの投資妙味を見い出している様子である。


これらの企業の一部は本物の実力を備えており、実際に既存の業界構造を破壊し、それぞれの顧客にとって不可欠な存在となっていくだろう。だが、多くの企業はそうではない。

たとえ勝ち組企業であっても、買ってもよいと考える株価水準について細心の注意を払うことが極めて重要だ。バリュエーションは、当社のグローバル株式戦略の投資プロセスにおける重要な柱であることに変わりはない。長期的な売上高成長、収益性およびキャッシュ創出力の規律正しい分析評価を通じて、当戦略では過去数四半期にわたって情報技術セクターへのエクスポージャーを徐々に引き下げてきた。

結論

結論として、インフレの潮目は変わりつつあるのかもしれない。確かに、我々が毎日モニター上で目にしている状況は、ここ数年間ほど単純明快なものではないように見受けられる。差別化されていないビジネスモデル、過剰な競争、価格決定力の欠如は、一部のバリュー株セクターにおける利益率の持続可能性にとって大きな脅威となり続けている。もし事業運営コストが本当に上昇しているなら、利益率や現金収益率を維持または改善できるかどうかが鍵になる。

ブルームバーグ・ターミナルに向かって無意味に怒り、無力ながら大きな声を出すのではなく、当社ではいわばリモートコントロール・モードでのフューチャークオリティ投資を追求しており、雑音を遮断して、マクロ経済情勢がもたらす問題にかかわらずキャッシュフロー投資収益率の上昇が見込まれる企業を発掘することに集中している。

当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。