本稿は2021年8月19発行の英語レポート「Asian Equity Monthly」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 当月のアジア株式市場(日本を除く)は、中国での個別学習指導事業およびテクノロジー関連セクターへの政府による規制強化を受けて同国株式が売り込まれたことが重石となり、下落して米ドル・ベースの月間リターンが-7.5%となった。域内諸国で新型コロナウイルスの感染者数が再び増加したことも、アジア株式に対するセンチメントを悪化させた。
  • 国別では、中国とフィリピンがアンダーパフォームした。中国株式は、教育、不動産、テクノロジーといったセクターに対する同国政府の規制への不安が高まったことから、下落して米ドル・ベースの月間リターンが-13.8%となった。フィリピン株式は、格付機関フィッチが同国のソブリン債格付見通しを「安定的」から「ネガティブ」へと引き下げたことが嫌気され、大幅に下落した。
  • 反対に、シンガポールとインドはアウトパフォームし、米ドル・ベースの月間リターンがそれぞれ1.3%、0.9%となった。シンガポール株式は、製造業関連の統計が堅調な内容となったことや経済成長率が市場予想を上回ったことが下支えとなった。インドでは、新型コロナウイルスのワクチン接種が加速するなか、インド準備銀行が2022年度(2021年4月~2022年3月)のGDP成長率予想を9.5%から10.5%へと引き上げた。
  • グローバル化が頭打ちしてしばらくになることもあり、当社では、一部のテクノロジーやヘルスケア、脱炭素化など、国内市場の規模の大きさから恩恵を受ける企業や構造的成長分野に引き続き注目している。

市場環境

当月のアジア株式は大幅に下落
当月のアジア株式市場(日本を除く)は、中国での個別学習指導事業およびテクノロジー関連セクターへの政府による規制強化を受けて同国株式が激しく売り込まれたことが重石となり、大幅に下落した。感染力の強いデルタ変異株により域内諸国で新型コロナウイルスの感染者数が再び増加したことやインフレをめぐる懸念が続いたこともアジア株式に対するセンチメントを悪化させ、月間リターンは米ドル・ベースで-7.5%となった。国別のパフォーマンス(MSCIインデックスの米ドル・ベースのリターンに基づく)では、中国、フィリピン、タイが最も劣後する一方、シンガポールとインドが最も底堅さをみせた。

当月の中国株式はアンダーパフォーム
中国株式は、教育、不動産、テクノロジーといったセクターに対する同国政府の規制への不安が高まったことから、下落して米ドル・ベースの月間リターンが-13.8%となった。月中、中国は主要教科での営利目的の個別学習指導事業を禁止する規制を発表した。この新たな規制を受けて、中国の教育関連株の多くが暴落した。また、最近上場した配車サービス大手の滴滴出行(Didi)に政府によるサイバーセキュリティ調査が入ったことに加えて、中国政府が海外で上場する中国企業への監視を強化すると発表したことも、市場の不透明感を一層強めた。

他の北アジア市場はアジア地域の全般的な下落に追随
他の北アジア市場も中国の規制枠組み強化による悪影響を受け、韓国、香港、台湾の株式は米ドル・ベースの月間リターンがそれぞれ-5.7%、-2.9%、-2.2%となった。韓国および台湾の株式市場は、感染力の強いデルタ変異株によって新型コロナウイルスの感染者数が再び増加したことも重石となった。

アセアンで最も打撃が大きかったのはフィリピン、タイ、マレーシア、インドはアウトパフォーム
アセアン地域で最も打撃が大きかったのはフィリピン(米ドル・ベースの月間リターンが-11.7%)、タイ(同-6.9%)、マレーシア(同-4.0%)だった。フィリピン株式は格付機関フィッチが同国のソブリン債格付見通しを「安定的」から「ネガティブ」へと引き下げたことを嫌気して急落し、タイ株式はデルタ変異株を主因に国内の新型コロナウイルスの感染者数や死者数が過去最高水準となったことを受けて値を下げた。同様に、マレーシア株式も新型コロナウイルスの感染者数が急増するなかで下落し、同国の野党連合のリーダーであるアンワル・イブラヒム氏が内閣不信任案を提出し、与党連合の一角である統一マレー国民組織もムヒディン・ヤシン首相の辞任を要求する(最終的に首相は8月16日に辞任)という政治的な混乱が(またしても)起きたことによって、一段と押し下げられた。しかし、アセアン諸国の市場がすべて惨憺たる状況だったわけではなく、シンガポール(米ドル・ベースの月間リターンが1.3%)やインドネシア(同-2.0%)は辛うじて域内の他国市場をアウトパフォームした。シンガポール市場は、製造業関連の統計が堅調な内容となったことや第2四半期の経済成長率が前年同期比14.3%と市場予想を上回る大幅な伸びをみせたことが下支えとなった。

インド市場も当月は底堅く推移し、米ドル・ベースの月間リターンが0.9%となった。インドは新型コロナウイルスのワクチン接種を加速させており、当月は接種プログラムがこれまでで最も大きな進展をみせるなか、インド準備銀行が2022年度のGDP成長率予想を9.5%から10.5%へと引き上げた。当月の同国ではIPO(新規株式公開)のペースも加速し、Zomato(フード・デリバリーのスタートアップ企業)などが上場を果たしたが、今後も他に多くのテクノロジー企業の上場が見込まれている。

今後の見通し

国内市場の規模の大きさから恩恵を受ける企業や構造的成長分野に注目
インフレによって予想よりも早期の金融引き締めを余儀なくされるか否かという議論が続いているのに加え、新型コロナウイルスのデルタ変異株による新たな感染拡大の波が期待される景気回復に遅れをもたらすことが懸念されている。4年以上前に、当社では、中国の「大手テクノロジー企業」は公益事業としての機能(料理の注文、通勤、食料品の購入、レストランの予約、買い物など)を遍在的にほぼ無料で提供しているとともに政府の支援に大きく依存しているという点において、実は世界の他地域の規制公益企業に類似しており、したがってそのようなものとして評価されるべきだとの見方を示した。これは、当時は興味深い考え方という程度だったが、現在では不都合な現実となっている。アジアおよび世界の新興国の投資ユニバースにおいて最大の市場である中国の代表的インデックスの構成上位銘柄に影響が及んでいることは、ただでさえ投資家が直面している困難な状況をさらに悪化させている。

このような環境下、グローバル化が頭打ちしてしばらくになることもあり、当社では一部のテクノロジーやヘルスケア、脱炭素化など、国内市場の規模の大きさから恩恵を受ける企業や構造的成長分野に引き続き注目している。

中国では政策環境が良好なクオリティの高い企業を選好
中国では、政府が「三座大山」(中国語で3つの大きな山という意味)と呼ばれる不動産、ヘルスケア、教育セクターに取り組む動きがみられており、投資家は中国株式投資に内在するリスクプレミアムの根本的な見直しを迫られている。これが特に顕著なのが、中国の政策の矢面に立たされているセクターだ。大半の企業に付随的影響が及んでいるなか、当社では環境や工業高度化、ヘルスケアなど政策環境がより有利な分野で国内事業に注力するクオリティの高い企業を変わらず有望視している。

韓国と台湾については選別的な姿勢
台湾に対しては、中国との緊張の高まり(今回はバイデン政権が台湾との関係強化に取り組んでいることに起因する)、割高な株式のバリュエーション、新型コロナウイルスの感染者数の高止まりを受けて、選別的なアプローチが妥当とみられる。韓国についても、同様に新型コロナウイルスの感染者数が多く、また金融政策の引き締めが見込まれることから、慎重な姿勢が求められる。とは言え、当社ではコンテンツ制作やヘルスケア、一部のテクノロジー・サブセクターにおいて魅力的な投資機会を引き続き見出している。

インドに対してはポジティブな見方を維持するが、アセアンについては慎重姿勢
アセアン諸国とインドは、新型コロナウイルスの感染再拡大に見舞われて経済の回復が妨げられているとともに、ワクチン接種率が低水準にとどまっている。インドでは、過去数年のあいだに着手された改革が景気低迷により経済に大きな成果をもたらせていない状況にある。とは言え、当社では、壊滅的な感染拡大の波が再び発生しなければ、インド経済は一時的な急加速だとしても今後数四半期のうちに回復するとの見方を維持しており、インフォーマル経済のフォーマル化とデジタル化の着実な進展が物流、不動産、民間銀行、「ニュー・エコノミー」といった分野で投資機会を提供していると考える。アセアンについては、インドネシアの改革進展がまだら模様であるのに加え、タイやマレーシアで政局の混乱が続いているため、慎重な見方をしている。同地域で有望視しているのは、デジタル・エコノミーや脱炭素化といった分野に散在する投資機会にとどまる。

当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。