本稿は2021年10月13発行の英語レポート「Asian Equity Monthly」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 当月のアジア株式市場(日本を除く)は下落し、月間リターンが米ドル・ベースで-4.2%となった。中国の経済成長見通しに対する懸念や米FRB(連邦準備制度理事会)のテーパリング(量的緩和の漸進的縮小)計画が、市場センチメントの主な悪化要因となった。
  • 北アジア市場は、中国の不動産デベロッパー恒大集団(Evergrande Group)の債務危機が混乱をもたらすなか、総じてアンダーパフォームした。韓国は、中国と同じ道をたどるかのように、当局がインターネット企業を取り締まる動きをみせた。台湾は、同国の電子機器企業や半導体企業が工場を構える中国の一部の省で電力供給が制限されたことによって、市場センチメントが悪影響を受けた。
  • 一方、新型コロナウイルスの深刻な感染拡大第2波から脱しつつある模様のインドは、月間市場リターンが米ドル・ベースで0.6%と小幅のプラスになった。その他でリターンがプラスとなった市場はインドネシアのみで、1,900億米ドル相当の国家予算案が議会で承認されたことや8月の輸出が過去最高水準を記録したことを追い風として、米ドル・ベースの月間リターンが3.4%となった。
  • 当社では、引き続き規律立ったボトムアップ・ベースの銘柄選択アプローチに基づいて現在の不透明な環境を切り抜けていく方針であり、ポジティブな構造的変化や持続可能な利益を実現している企業を強く選好していく。

市場環境

当月のアジア株式は下落
当月のアジア株式市場は下落した。当月は、中国恒大集団の債務危機や中国の多くの製造拠点で発生した停電が大きく報道されるなか、同国の経済成長見通しに対する懸念が市場センチメントの主な悪化要因となった。他の材料としては、米FRBが、早ければ11月にも資産購入規模を緩やかに縮小し始める可能性があると示唆するとともに、現在同中銀の政策決定メンバーの半数が2022年の利上げを予想していると述べた。

当月のアジア株式(日本を除く)の市場リターンは米ドル・ベースで-4.2%となった。北アジア各国とタイが最も劣後する一方、米ドル・ベースの月間市場リターンがプラスとなったのはインドネシアとインドのみだった。

北アジアは総じてアンダーパフォーム
北アジア各国市場の米ドル・ベースの月間リターンは、中国が-5.0%、香港が-6.1%、韓国が-6.6%、台湾が-4.1%といずれもマイナスになった。中国の不動産デベロッパー恒大集団が債務の返済に必要な資金を賄えないのではないかとのニュースを受けて、市場は世界的に混乱に見舞われた。同社の債務は3000億米ドル相当を超えることから、同社が債務不履行(デフォルト)に陥れば中国の不動産セクターや金融システムに影響が波及し得るとの懸念が広がった。中国で続いている電力不足が当月の製造活動の足かせとなったことも、市場センチメントを悪化させた。

香港市場ではカジノ・ゲーム株が下落したが、この要因となったのは、マカオが予想外にも資本流出に対する管理を強化する方針を打ち出したこと、また香港の不動産デベロッパーが国家への奉仕を求められるのではとの懸念が広がったことだった。韓国株式は月次では2020年3月以降最大の下落幅を記録した。韓国は、中国と同じ道をたどるかのように、インターネット大手Kakao Corpへの独占禁止法絡みの調査など当局がインターネット企業を取り締まる動きをみせるとともに、金融商品の宣伝を行っているオンライン・プラットフォームへの規制を強化した。

一方、台湾は同国の電子機器企業や半導体企業が工場を構える中国の一部の省で電力供給が制限されたことによって、市場センチメントが悪影響を受けた。一方、台湾中央銀行は、輸出の好調さを背景に自国の2021年の経済成長率予想を従来の5.08%から5.75%へと上方修正した。

インドはじり高、アセアン各国のリターンはまちまち
新型コロナウイルスの深刻な感染拡大第2波から脱しつつある模様のインドは、月間市場リターンが米ドル・ベースで0.6%と小幅のプラスになった。また、インド政府は運転資金難に苦しむ国内の電気通信セクターへの救済措置を承認した。これにより携帯電話会社は債務の返済を先送りすることが可能となる。

アセアン各国市場のリターンはまちまちとなった。域内で最も良好なパフォーマンスをみせたのはインドネシア(米ドル・ベースの月間市場リターンが3.4%)で、1,900億米ドル相当の国家予算案が議会で承認されたことや8月の輸出が214.2億米ドルと過去最高水準を記録したことが追い風となった。シンガポール(米ドル・ベースの月間市場リターンが-0.1%)とフィリピン(同-1.9%)は新型コロナウイルスの感染者数の急増を受けて行動制限を再実施する一方、マレーシア(同-3.7%)はワクチン完全接種率が目標である成人人口の80%に達した。タイは、国内のワクチン接種率が目標を下回るなか主要都市での外国人観光客の受け入れ再開計画を延期したことが嫌気され、株式市場が下落(米ドル・ベースの月間市場リターンが-7.1%)するとともに通貨安となった。

今後の見通し

規律立った銘柄選択アプローチに基づいて不透明なマクロ環境を切り抜ける
アジアは最近、中国の自発的な規制強化やテクノロジー業界から自動車業界にわたるサプライチェーン問題など、幾つもの困難な問題に耐えてきたが、足元ではこれに先進諸国の金融引き締めやエネルギー価格の上昇といった問題が加わっている。不透明感の強い環境下、当社ではそれを引き続き規律立ったボトムアップ・ベースの銘柄選択アプローチに基づいて切り抜けていく方針であり、ポジティブな構造的変化や持続可能な利益を実現している企業を強く選好していく。特に、最近の大幅な市場調整により、消費や革新的ヘルスケア、環境、一部の産業技術など、政策が追い風となっている構造的成長分野で買いの好機がもたらされている。

中国では環境・産業テクノロジーやソフトウェア、革新的ヘルスケアといった分野に注目
中国おける市場の注目が最も脆弱な不動産デベロッパーへとシフトしたのは無理もないが、当社が改めて強調したいのは、これは中国が「共同富裕」を目指して「量的成長」から「より持続可能で質の高い成長」の時代へ移行しようとする当局の取り組みの一環で、自発的に行っているものであるということだ。中国では、一部の省における新型コロナウイルスのデルタ株の流行や半導体チップ不足に今や電力不足が加わったことによって、国内景気がこれまでよりも急速に鈍化し始めており、当社では向こう数四半期にかけて政策緩和の兆候を注視していく。こうしたなか、当社では引き続き中央政府の目標、つまり環境・産業テクノロジーやソフトウェア、革新的ヘルスケアといった分野に焦点をしっかり合わせている。バリュエーションの魅力度が大幅に増した中国市場で、幾つかの新たな投資アイデアの可能性について見極めを続けている。

韓国と台湾についてはより選別的な姿勢
終わりの見えない世界的な半導体チップ不足問題は、自動車メーカーなど多くの産業にとって痛手となり続けているものの、台湾や韓国の一部のテクノロジー企業にとっては追い風となっている。チップセットの価格は供給制約が続くなかで高止まりしている。一方、PC用メモリーの見通しが悪化していることや、米国や中国におけるテクノロジー・サプライチェーンへの大規模な投資という形でテクノロジー業界の競争が世界的に激しさを増していることは、業界内の一部の大手企業にとって逆風となっている。したがって、テクノロジー企業のバリュエーションが依然として非常に割安とは言えないなか、当社ではテクノロジー・ハードウェア分野に対して選別的な姿勢を維持しながら、コンテンツ関連やソフトウェア、ニッチなIC(集積回路)設計といった分野において魅力的な投資機会を引き続き見出している。

インドはバリュエーションを注視、アセアンではデジタル化の進展を有望視
インド市場は、他の市場でボラティリティが高まった最近の局面において、顕著な耐性をみせた。同国では新型コロナウイルスの深刻な感染第2波を経て景気回復が加速するなか、当社が選好する企業について明るい見通しが示されるケースが徐々に増えている。しかし、同国がアジアのなかでエネルギー価格の上昇からより打撃を受けやすい国の1つであり、そのためバリュエーションが割高な分野は利益確定売りの標的にされる可能性があることも認識している。当社では引き続き、不動産、民間銀行、「ニューエコノミー」、ヘルスケアといった分野に強力な構造的成長ドライバーを見出している。

アセアンについては、域内諸国の大半が新型コロナウイルスの感染拡大への対処を続けるなか、これが同諸国のデジタル化の進展を劇的に加速させていることに注目すべきだろう。また、フィリピンなどの国で再生可能エネルギーを広げる称賛すべき取り組みが進められている。当社では、こうしたポジティブな構造的変化にボトムアップ・ベースの投資アイデアが加わることにより、アセアンが何年かぶりにアウトパフォームし得るのではと考えている。当社が今のところ同地域でポジティブな見方をしているのは、引き続きインドネシア、フィリピン、シンガポールである。


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