本稿は2021年12月15発行の英語レポート「Harvesting Growth, Harnessing Change」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 当月のアジア株式市場(日本を除く)は、新型コロナウイルスの新たなオミクロン変異株の流行拡大によって、世界各国の国境再開計画が見直しを迫られ、景気回復が遅れるかもしれないとの懸念を受けて下落し、月間リターンが米ドル・ベースで-3.9%となった。
  • 北アジア市場は総じてアンダーパフォームした。中国および韓国市場は、国内の新型コロナウイルスの流行が重石となり、香港市場はテクノロジー企業の低調な収益などが嫌気されて下落した。一方、台湾市場は、力強いGDP成長率が見込まれることなどを受けて米ドル・ベースの月間リターンが2.2%と良好なパフォーマンスを示した。
  • アセアンおよびインド市場も、オミクロン変異株の影響が投資家のあいだで意識されたことや、一部の政府が渡航制限を強化し始めたことなどを受けて低調なリターンとなった。一方、フィリピン市場は、GDP成長率が市場予想を上回ったことが追い風となり、米ドル・ベースの月間リターンが2.6%と域内で最も良好なパフォーマンスとなった。
  • 多くの変異を持つオミクロン変異株の出現は、これまで根強いインフレの高まりを主に懸念してきた市場に新たな不透明感をもたらしている。こうしたなか、当社では成長や変化を捉えたボトムアップによる銘柄選択アプローチに基づいてこうした不透明な時期を引き続き切り抜けていく。

市場環境

当月のアジア株式は下落
当月のアジア株式市場は、新型コロナウイルスの新たなオミクロン変異株の流行拡大によって、世界各国の国境再開計画が見直しを迫られ、景気回復が遅れるかもしれないとの懸念を受けて下落した。その他、ジェローム・パウエル米FRB(連邦準備制度理事会)議長は、インフレは予想よりも長く継続する可能性があると述べ、金融緩和策のより早期のテーパリング(漸進的縮小)を足元で主張するなど、米 FRBは予想よりも早期に利上げを実施する可能性があることを月末に示唆した。

アジア株式(日本を除く)の月間市場リターンは、米ドル・ベースで-3.9%となった。国別では、リターン(米ドル・ベース)がプラスとなったのはフィリピンと台湾のみで、タイとシンガポールが最も低調なパフォーマンスをみせた。

北アジア市場はアンダーパフォーム
北アジア市場は総じてアジア市場全体をアンダーパフォームした。中国は、国内の新型コロナウイルスの感染者数が急増し、上海で航空便の運航が停止されたことや、学校が閉鎖されたことを受けて市場センチメントが悪化した(米ドル・ベースの月間市場リターンが-6.0%)。不動産セクターも、住宅販売が減少し新築住宅価格が下落するなど苦戦が続いた。その他、中国の製造業PMI(購買担当者景気指数)は、電力不足の緩和を受けて50.1へと予想外に回復し、3ヵ月ぶりに景気拡大を示す水準となった。香港市場は、グローバル市場の全般的な動きに追随して下落した(米ドル・ベースの月間リターンが-5.3%)。テクノロジー企業の低調な収益や継続するマカオのカジノ関連セクターに対する規制強化を受けて月中に投資家の懸念が強まった。

韓国は、日次平均で4,000人を超える新型コロナウイルスの感染者数が報告されるなど、同ウイルスの感染者急増に対処した(米ドル・ベースの月間市場リターンが-4.6%)。韓国の中央銀行は、インフレの高まりと家計債務の増大に対する懸念を理由に今年2度目となる利上げを実施し、政策金利を0.25%引き上げた。他では、台湾市場は良好なパフォーマンスを示し、米ドル・ベースの月間リターンが2.2%となった。台湾経済は、力強い輸出動向を受けて、2021年に10年ぶりの高水準となる6%の成長を遂げることが予想されている。

アセアン市場もフィリピンを除いて下落
アセアン市場も、新型コロナウイルスのオミクロン変異株の影響が投資家のあいだで意識されたことや、政府が渡航制限を強化し始めたことなどを受けて低調なリターンとなった。インドネシア(米ドル・ベースの月間市場リターンが-2.8%)、マレーシア(同-4.7%)、タイ(同-6.0%)は、新型コロナウイルスに関連する規制が再び強化されたことなどにより、第3四半期に経済が縮小した。一方、シンガポール(同-7.5%)は、国内の回復が一様ではなく、また世界の経済成長をめぐって不透明感が続くなか、2022年の経済成長率が3~5%に減速すると政府は予想している。対照的に、域内で最も良好なパフォーマンスをみせたのはフィリピン(同2.6%)で、第3四半期のGDP成長率が前年同期比7.1%と市場予想を上回ったことが追い風となった。

インドはオミクロン変異株の報道が重石に
インド市場も、新型コロナウイルスの新たな変異株に対する恐れが打撃となり、米ドル・ベースの月間リターンが-3.0%となった。他のニュースとして、インド政府は議論を引き起こしている一連の農業改革法を廃止することを表明した。同法による市場の自由化によって農業セクターの保護が失われるとみられており、この1年農業従事者による大規模な抗議活動が起きていた。

今後の見通し

規律立った銘柄選択アプローチに基づいて不透明な環境を切り抜ける
多くの変異を持つオミクロン変異株の出現は、これまで主に根強いインフレの高まりを懸念してきた市場に新たな不透明感をもたらしている。本稿の執筆時点で、新たな変異株による正確な影響を把握するには時期尚早だが、世界経済の回復がさらに後ずれする可能性がある。とは言え、現在では世界は継続しているパンデミックに対処する体制がより整っており、また数ヵ月以内に最新のワクチンや薬が開発される可能性がある。アジアでは、供給逼迫の緩和を受けて経済成長が回復するなか、引き続き向こう数四半期に幾分の追い風が見込まれる。また、コア・インフレは引き続き抑制されており、経常収支が比較的強固であるなど、アジア地域はより堅調な状況にある。こうしたなか、当社では成長や変化を捉えたボトムアップによる銘柄選択アプローチに基づいてこうした不透明な時期を引き続き切り抜けていく。

中国では産業テクノロジーやAIソフトウェア、再生可能エネルギー、電気自動車といった分野に注目
変化と言えば、中国は過去数十年で最大級の政策転換を進めている。2017年の中国共産党第19回全国代表大会(第19回党大会)以降、当社では一貫して中国の「量から質を重視した」構造的転換に言及してきたが、この転換の動機となっているのが3つのS、つまりsocial(社会)、stability(安定)、state(国家)に関する検討であることが次第に明らかになりつつある。特に、現在は社会に関する検討事項が政策の主なドライバーとなりつつあり、不動産、教育、ヘルスケアの費用に加えて労働待遇やエンターテインメント分野における数多くの規制がそれを示している。一方、3Sに当てはまらず政府の意向にそぐわない企業には容赦なく対処していることも明らかになっている。これらは、ESG分析を非常に重視する当社の取り組みが、過去6ヵ月間にわたって強みを見せている重要な理由である。こうした環境下、3Sに即した企業は恩恵を受ける可能性が高いとみられる。消費者の生活費低減を目指す事業を手掛ける企業だけでなく、産業テクノロジーやAIソフトウェア、半導体、再生可能エネルギー、電気自動車などの分野を含め、国家に関する検討事項に即した事業を行う企業にも投資機会を見出している。

韓国と台湾についてはバリュエーションの魅力が高まる
向こう数四半期にわたって半導体チップや出荷の不足が緩和される兆候が高まっていることから、韓国や台湾のテクノロジー企業は近い将来より良いサポート要因を見出す可能性がある。あらゆるもののデジタル化には、最終的にコンピューター処理とメモリチップが必要となるが、台湾と韓国の企業はその両分野において優れている。最近の調整を受けてバリュエーションの魅力が高まっているとみられるなか、IC設計やコンテンツ関連、ソフトウェアなどの分野を引き続き有望視している。

インドはバリュエーションを注視、アセアンはアウトパフォームすると予想
インドでは改革が大幅に進展しており、経済における投資拡大が引き続き進むとみられる。インフォーマル経済のフォーマル化や都市化の進展のほか、製造業振興策「メイド・イン・インディア」などのローカライゼーション政策が、引き続き同国の資本支出サイクルの重要な長期ドライバーになるとみられる。短期的には、エネルギー価格が落ち着きの兆しをみせていることから、インド市場はやや持ち直す可能性がある。当社では、構造的成長を享受しておりバリュエーションに依然上昇余地がある不動産、民間銀行、「ニュー・エコノミー」、ヘルスケアなどの分野に引き続き投資機会を見出している。

新型コロナウイルスのパンデミックは、アセアン地域を中心とした新興国の「ニュー・エコノミー」にとって重要な加速要因となっている。シンガポールやインドネシア、フィリピンなどの一部の国は、より質の高い経済成長を遂げていくための要素が揃っており、他の国々よりも経済活動再開が進んでいる。こうしたことから、当社ではアセアン市場に対する見方を数年ぶりに変更し、同地域がアウトパフォームすると現在予想している。


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