本稿は2021年12月20日発行の英語レポート「On the ground in Asia」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
サマリー
- 11月の米国債市場は利回りが低下し、月末の米国債利回りは10年物で前月末比0.108%低下の1.45%となった。アジアでは、10月のインフレ圧力がフィリピンを除くほとんどの国で高まった。域内諸国の第3四半期のGDP(国内総生産)は、当該期間における新型コロナウイルス感染者数の増加を受けて前年同期比の成長率が鈍化した。韓国銀行が0.25%の利上げを実施する一方、フィリピン、インドネシア、タイ、マレーシアの中央銀行はそれぞれの政策金利を据え置き、景気回復が確実に持続するよう需要を下支えしていく姿勢を示した。
- 11月のアジアのクレジット市場は、信用スプレッドが0.114%拡大した影響を米国債利回りの低下が和らげ、月間リターンが0.24%となった。アジアの投資適格債とハイイールド債とのあいだでは、当月もパフォーマンスの乖離が続いた。投資適格債は、信用スプレッドが0.084%とやや拡大したものの米国債利回りの低下がそれを相殺し、月間市場リターンが0.51%となった。しかし、ハイイールド債は中国の不動産セクターをめぐる懸念が引き続き重石となり、信用スプレッドが0.431%拡大して月間市場リターンが-0.82%となった。
- 新型コロナウイルスの新しい変異株であるオミクロン株が出現し、WHO(世界保健機関)がこれを「懸念される変異株」に指定したことを受けて、当社では当面、アジアの現地通貨建て債券のデュレーションに対しては中立の見方、アジアの通貨については若干慎重なスタンスをキープする。
- アジアでは、マクロ環境と企業の堅調な信用ファンダメンタルズが信用スプレッドの追い風になり続けるとみている。アジアの多くの国では新型コロナウイルスの感染状況がとりあえず改善しており、2021年半ばに見られた景気の停滞は一時的なものに終わるだろうとの当社の見方を裏付けている。ワクチン接種の進行や多くの国における経済活動の段階的再開、依然緩和的な財政・金融政策を受け、経済成長は2022年にかけて再び勢いを増すとみられる。
アジア諸国の金利と通貨
市場環境
11月の米国債市場は利回りが概ね低下
月末の米国債利回りは10年物で前月末比0.108%低下の1.45%となった。月初は、米国の10月の非農業部門雇用者数が53.1万人増と前2ヵ月の平均39.8万人増から加速し、失業率も4.6%に低下したにもかかわらず、米国債利回りが低下した。その後、米国の総合およびコアCPI(消費者物価指数)上昇率の加速を受けて米国債利回りは上昇に転じ、ジェローム・パウエル氏が米FRB(連邦準備制度理事会)議長に再任されると、同中銀が現在の政策正常化路線を継続するとの見方が強まって利回りへの上昇圧力が続いた。月末にかけては、新型コロナウイルスの新たな多重変異株であるオミクロン株が発見され、リスク選好度が後退して投資資金が安全な避難先とみなされる資産に向かったことから、利回りが急低下した。当月最終日には、パウエルFRB議長がテーパリング(量的緩和の漸進的縮小)のプロセスを「数ヶ月」早めることへの支持を示したため、短期ゾーンの利回りが跳ね上がった。
10月のインフレ圧力はほとんどの国で加速
アジア諸国の10月の総合CPI(消費者物価指数)上昇率は、中国、韓国、インド、マレーシア、タイ、シンガポール、インドネシアで前月から加速する一方、フィリピンでは減速した。シンガポールの総合CPIの上振れは、住居費の上昇加速が一因となったのに加えて民間道路輸送費の上昇加速も響いた。タイの総合インフレ率も、国内の燃料価格や野菜価格の上昇を受けて前年同月比2.38%へと加速した。同様にマレーシアでも、燃料価格の上昇と電気料金割引適用の停止とが相まって総合CPIの加速をもたらした。韓国のCPI上昇率は、エネルギー価格の上昇を主因として前年同月比3.2%へと加速した。また、中国のCPI上昇率加速は、野菜価格の大幅上昇や燃料価格・公共料金の上昇が一因となった。
第3四半期のGDP成長率は鈍化
域内諸国の第3四半期のGDPは、各国が当該期間に新型コロナウイルス感染者数の増加への対応を余儀なくされたことから、前年同期比の成長率が鈍化した。7月~9月期のGDP成長率はタイで前年同期比-0.3%、マレーシアで同-4.5%となり、インドネシアではベース効果の反転もあって同3.51%へと減速した。一方、フィリピンでも同様に経済成長率が鈍化したものの、過去数ヵ月のロックダウン(都市封鎖)からの繰延需要を反映して民間消費が大幅に拡大したため、市場予想を著しく上回った。
韓国銀行は0.25%の利上げを実施
韓国銀行は、年内最後となる政策決定会合で政策金利を0.25%引き上げることを決定した。同中銀の総裁は、政策金利が依然緩和的水準にとどまっていること、利上げの動きは金融政策の引き締めというよりもシステム内の過剰な緩和状態を抑えるためのものであることを強調した。一方、フィリピン、インドネシア、タイ、マレーシアの中央銀行はそれぞれの政策金利を据え置き、景気回復が確実に持続するよう需要を下支えしていく姿勢を示した。
今後の見通し
デュレーションに対しては中立、通貨については若干慎重
WHOはオミクロン株を「懸念される変異株」に指定したが、オミクロン株が公衆衛生にもたらすリスクやこの新変異株に対する既存ワクチンの有効性など、未知の部分が依然多く残されている。したがって、当社では、アジアの現地通貨建て債券のデュレーションに対しては当面中立の見方、アジアの通貨については若干慎重なスタンスをキープするのが賢明と考える。
アジアのクレジット市場
市場環境
11月のアジアのクレジット市場は米国債利回りの低下を受けて月間リターンがプラスに
11月のアジアのクレジット市場は、信用スプレッドが0.114%拡大した影響を米国債利回りの低下が和らげ、月間リターンが0.24%となった。アジアの投資適格債とハイイールド債とのあいだでは、当月もパフォーマンスの乖離が続いた。投資適格債は、信用スプレッドが0.084%とやや拡大したものの米国債利回りの低下がそれを相殺し、月間市場リターンが0.51%となった。しかし、ハイイールド債は中国の不動産セクターをめぐる懸念が引き続き重石となり、信用スプレッドが0.431%拡大して月間市場リターンが-0.82%となった。
アジアのクレジット市場では当月、中国の不動産セクターが市場の焦点となり続けるなか、かなりのボラティリティに晒された。月初は、中国の不動産企業に関するネガティブなニュースが引き続き市場センチメントの重石となった。投資家が不安感を募らせるにしたがって、売りが中国の財務状況がより健全な不動産デベロッパー銘柄へも広がり、全体のスプレッドが大幅に拡大した。月半ばになると、中国の政策当局が経営難に直面している不動産セクターの資金調達条件を緩和するとのニュースを受けて当面の波及リスクが和らぎ、中国の不動産銘柄は大きく値を戻した。経営難に陥っていた中国の不動産企業数社がデフォルト回避措置の発表に漕ぎ着けると、市場の基調は引き続き改善した。中国華融資産管理(China Huarong Asset Management)が国有金融機関から大規模な資本注入を受けるとのニュースは、投資家心理にとって一段のてこ入れとなった。しかし、月末にかけては、オミクロン株の発見をきっかけに移動制限や社会活動の再抑制が幅広く実施される可能性が懸念され、リスク・センチメントが全体的に悪化した。
当月発表された経済指標では、米国のマクロ・データが比較的良好であった一方、中国の数値は対照的に低調となった。月中、米国のバイデン大統領と中国の習近平国家主席が、1月の同大統領就任以来初となる首脳会談をオンラインで行った。この会談では米中関係の突破口となるような進展はほとんど見られなかったが、2022年の交渉への道が開かれたと言える。
当月は国別のパフォーマンスにばらつきが見られた。積極的な国境開放により経済見通しが改善したタイのクレジットものは、スプレッドが0.045%縮小しアウトパフォームした。反対に、インドネシアは、オミクロン株をめぐる不安や米FRBの政策引き締めへの懸念からリスク資産が売り込まれて長期ゾーンのソブリン債や準ソブリン債に影響を及ぼし、スプレッドが0.156%拡大してパフォーマンスが劣後した。中国のクレジットものも、不動産セクターの下落がより格付けの高い不動産デベロッパー銘柄や他のセクターにも広がり、スプレッドが0.091%拡大してアンダーパフォームした。一方、格付け機関のフィッチ・レーティングスは、インドの債務水準傾向に対する懸念を理由として、同国のソブリン債格付けおよびその見通しを「BBB-/ネガティブ」に据え置いた。
11月は発行市場の起債活動が概ね低調に
発行市場では、市場センチメントの低迷が引き続き主因となって起債活動が低調にとどまり、新発債発行が42件(総額147.9億米ドル)に終わった。投資適格債分野では、SF Holding Investmentsのディール(3トランシェで総額12億米ドル)やDBS Holdingsのディール(2トランシェで総額10億米ドル)、香港のソブリン債ディール(総額10億米ドル)を含め、計27件(総額約113.4億米ドル)の新規発行があった。一方、ハイイールド債分野の新規発行は計15件(総額約34.5億米ドル)となった。
今後の見通し
アジアの信用スプレッドはファンダメンタルズを追い風としながらも下方リスクが高まっている
アジアでは、マクロ環境と企業の堅調な信用ファンダメンタルズが信用スプレッドの追い風になり続けるとみている。アジアの多くの国では新型コロナウイルスの感染状況がとりあえず改善しており、2021年半ばに見られた景気の停滞は一時的なものに終わるだろうとの当社の見方を裏付けている。ワクチン接種の進行や多くの国における経済活動の段階的再開、依然緩和的な財政・金融政策を受け、経済成長は2022年にかけて再び勢いを増すとみられる。
アジア企業は、収益の伸びが2021年比では若干ペースが落ちるとしても好調さを維持するとみられ、全体として堅調な信用ファンダメンタルズが続くと予想している。アジアの企業の負債比率とインタレスト・カバレッジ・レシオは、セクターによって多少の差が生じるとみられるものの、全体として管理可能な水準にとどまると予想される。注目すべき点として、販売の低迷や流動性圧力が中国不動産セクターの財務体質がより脆弱なデベロッパーに影響を及ぼし続け、財務危機やデフォルトといったイベントの増加につながる可能性がある。しかし、システミック・リスクにつながりかねない過度な調整を防ぐため、中国当局が資金へのアクセスと市場センチメントを安定化させるような介入を行う兆候がとりあえず見られている。銘柄選択が重要であることに変わりはないが、全般的なバリュエーション水準や今後の政策環境の改善を受けて、スプレッドの縮小による投資機会が見込まれる。
2022年におけるアジアのクレジット市場の主な下方リスクとしては、中国経済の減速がより深刻化すること、高インフレ長期化への対応として米国その他の主要国で金融政策の引き締めがより積極化することなどが挙げられる。既存のワクチンが効かないような新変異型ウイルスが発生すれば、コロナ禍からの景気回復は後戻りを余儀なくされるかもしれない。また、足元ではポジティブな進展が多少みられているものの、米中関係に係る不透明感も依然として燻っている。
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