本稿は2022年1月17日発行の英語レポート「On the ground in Asia」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 12月の米国債市場は利回りが上昇し、月末の水準は10年物で前月末比0.066%上昇の1.51%となった。アジアの大半の国では、供給の不足を受けて11月のインフレ圧力が引き続き高まりを見せた。当月、アセアン諸国の中央銀行とインド準備銀行は政策金利を据え置き、自国景気の回復を持続させるべく緩和的環境を維持することとした。中国人民銀行は、RRR(預金準備率)と1年物LPR(「ローンプライムレート」、最優遇貸出金利)を引き下げ、一方で外貨RRRを2.00%引き上げた。その他、中国共産党の最高意思決定機関である中央政治局常務委員会は、2022年の経済における最重要課題として「安定」を強調した。
  • 12月のアジアのクレジット市場は、スプレッドの縮小によるプラス効果が米国債利回りの上昇によるマイナスの影響を相殺しきれず、-0.24%の月間リターンとなった。アジアの投資適格債とハイイールド債とのあいだでは、当月もパフォーマンスの乖離が続いた。投資適格債は、信用スプレッドが0.063%縮小したにもかかわらず、月間市場リターンが-0.07%となった。一方、ハイイールド債は、信用スプレッドが1.705%縮小したものの、中国の不動産セクターをめぐる懸念が引き続き重石となり、月間市場リターンが-0.94%となった。恒大集団(Evergrande Group)や佳兆業集団(Kaisa Group)といったデフォルト銘柄は月末時点で主要債券インデックスから除外されたが、それでもマイナス・リターンは免れなかった。
  • 新型コロナウイルスのオミクロン株をめぐる不透明感や主要国の中央銀行のタカ派化を受けて、アジアの現地通貨建て債券のデュレーションに対してはやや慎重なスタンス、アジア通貨についても若干ディフェンシブなスタンスで臨むのが賢明と考える。
  • アジアでは、マクロ環境と企業の堅調な信用ファンダメンタルズが信用スプレッドの追い風になり続けるとみている。アジア企業は、収益の伸びが2021年比では若干ペースが落ちるとしても好調さを維持するとみられ、全体として堅調な信用ファンダメンタルズが続くと予想される。アジアの企業の負債比率とインタレスト・カバレッジ・レシオは、全体として管理可能な水準にとどまるとみられるが、セクターによって多少の差が生じるだろう。銘柄選択が重要となることに変わりはないが、全般的なバリュエーション水準や今後の政策環境の改善から、アジアのクレジット市場ではスプレッドの縮小による投資機会が見込まれる。

アジア諸国の金利と通貨

市場環境

12月の米国債市場は利回りが概ね上昇
12月の米国債市場は利回りが上昇し、月末の水準は10年物で前月末比0.066%上昇の1.51%となった。米国の11月の雇用統計では、非農業部門雇用者数が21万人増と市場予想の約57万人増を下回る一方、失業率は4.6%から4.2%へと低下した。CPI(消費者物価指数)は総合が6.8%、コアが4.9%へとともに加速した。米国債利回りを押し上げたのはパウエル米FRB(連邦準備制度理事会)議長の発言で、同議長は、インフレがより幅広い分野に広がっており予想されたよりも長引く様相であることから、テーパリング(量的緩和の漸進的縮小)の終了が前倒しされる可能性を示唆した。インフレの脅威が増すなか、他にも数名のFRB高官がよりタカ派的なスタンスへとシフトし続けた。12月のFOMC(連邦公開市場委員会)会合では、資産購入の縮小ペースを早めることが確認されるとともに、ドット・プロット(FOMCメンバーによる将来の金利予測の分布をチャート化したもの)でより早くより大幅な利上げの道筋が示唆されたため、債券利回りへの上昇圧力が持続した。一方、新型コロナウイルスのオミクロン株の感染が様々な国で急速に拡大したことから、同変異株をめぐる懸念が強まった。

チャート1

インフレ圧力の高まりは11月も継続
アジアの大半の国では、継続的な供給不足を受けて11月の総合インフレ率が加速した。中国では、比較対象となる前年の水準が低いというベース効果や食品価格の上昇加速を一因として、CPI上昇率が前月の前年同月比1.5%から同2.3%へと加速した。シンガポールでは、輸送費や電気料金の上昇を受けて、総合インフレ率が市場予想を上回る前年同月比3.8%へと大きく加速した。マレーシアのCPI上昇率は、輸送費と住宅費の上昇を主因として、前月の前年同月比2.9%から同3.3%へと加速した。インドネシアでも同様にインフレ圧力が高まり、CPI上昇率が前月の前年同月比1.66%から同1.75%へと加速した。

アセアン諸国とインドの金融当局は政策金利を据え置き
当月、アセアン諸国の中央銀行とインド準備銀行は政策金利を据え置き、自国景気の回復を持続させるべく緩和的環境を維持することとした。タイ中央銀行は、政策金利を据え置くとともに、オミクロン株を景気へのリスク要因として2022年の経済成長率予想を3.9%から3.4%へと引き下げた。また、同中銀はタイバーツ高への懸念も表明し、必要となれば一段の上昇を抑えるために行動を起こすことを検討すると述べた。フィリピン中央銀行も同様に主要政策金利を据え置いたが、オミクロン株の出現にもかかわらず景気回復は続くとの見通しを示した。インドネシア中央銀行は政策金利を3.5%に据え置き、国内インフレが加速するまでは金利を安定的に保つと示唆した。注目すべき点として、同中銀は、2021年には「成長重視」スタンスであった金融政策が、2022年は通貨ルピアの安定をより重視する「安定重視」型になることを強調した。その他では、インド準備銀行が、政策金利を据え置き成長・インフレ目標を維持しながらも、14日間VRRR(変動金利リバースレポ)の入札額増額を発表した。

中国人民銀行がRRRと1年物LPRを引き下げ、外貨RRRは2.00%引き上げ
中国では中央銀行が景気てこ入れに動き、主要商業銀行に対するRRRを0.50%引き下げるとともに、1年物LPRを3.85%から3.80%へと引き下げた。なお、LPRの引き下げは2020年4月以来となる。また、同中銀は当月、金融機関が準備預金においてより多くの外貨を保有する必要が生じると発表した。中国人民銀行は、人民元が対米ドルで2018年5月以来の最高値へと上昇した翌日、2021年2度目となる外貨RRRの引き上げを実施して9%とした。

その他では、中国共産党の最高意思決定機関である中央政治局常務委員会が当月の会議後に声明を発表、2022年の経済における最重要課題として「安定」を強調し、景気の鈍化が続いていることへの懸念を示した。

今後の見通し

アジアの現地通貨建て債券のデュレーションおよび通貨の両方に対してやや慎重なスタンス
新型コロナウイルスのオミクロン株の感染拡大は、結果として社会的行動の制限や航空便の欠航、観光旅行の減少その他のネガティブな展開につながっており、世界経済の回復見通しに影を落としている。オミクロン株をめぐっては、公衆衛生システムへのリスクやワクチンの有効性など、依然として不透明感が残る。とは言え、イギリスと南アフリカで発表された予備調査によると、オミクロン株によって起こる症状は以前の変異株に比べて軽いようだ。一方、主要国の中央銀行は、インフレ圧力と景気回復を背景にタカ派色を強めている。したがって、アジアの現地通貨建て債券のデュレーションに対してはやや慎重なスタンス、アジア通貨についても若干ディフェンシブなスタンスで臨むのが賢明と考える。


アジアのクレジット市場

市場環境

12月のアジアのクレジット市場は米国債利回りの上昇を受けて再び低迷
アジアのクレジット市場は、スプレッドの縮小によるプラス効果が米国債利回りの上昇によるマイナスの影響を相殺しきれず、-0.24%の月間リターンとなった。アジアの投資適格債とハイイールド債とのあいだでは、当月もパフォーマンスの乖離が続いた。投資適格債は、信用スプレッドが0.063%縮小したにもかかわらず、月間市場リターンが-0.07%となった。一方、ハイイールド債は、信用スプレッドが1.705%縮小したものの、中国の不動産セクターをめぐる懸念が引き続き重石となり、月間市場リターンが-0.94%となった。EvergrandeやKaisaといったデフォルト銘柄は月末時点で主要債券インデックスから除外されたが、それでもマイナス・リターンは免れなかった。

月初のアジアのクレジット市場は、引き続きボラティリティの高い相場展開となった。向こう2~3ヵ月に償還を迎えるいくつかの大型銘柄を中心に、中国の不動産セクターをめぐってネガティブなニュースが続き、また中国の11月の不動産販売が市場予想を大きく下回った。テクノロジー・セクターやマカオのカジノ銘柄に関するネガティブなニュースも、中国のクレジット物へのさらなる逆風となった。30日の猶予期間を経てもクーポンの支払いを行えなかったEvergrandeについてデフォルト(債務不履行)が正式に発表されると、中国の様々な官庁や規制機関が住宅ローンや優良デベロッパーの資金調達に対して支援を行うことを強調したため、市場センチメントは改善した。デフォルトの波及的影響をさらに和らげた要因として、中国人民銀行が予想外のRRR引き下げを行って1.2兆人民元の流動性を解放し、2022年における政府の政策重点が経済成長の安定確保へとシフトしていることが示された。このシフトは、中央経済工作会議後に発表された声明でも確認された。しかし、オミクロン株の急速な感染拡大によって世界の人流や景気回復に悪影響が及ぶ可能性を投資家が熟慮するなか、リスク・センチメントは全体的に抑制された状態が続いた。

アジアのクレジット市場内では、中国とその他の域内諸国とのあいだで引き続き著しいパフォーマンス格差が見られた。当月は、中国の信用スプレッドが拡大する一方、インドやインドネシアなど他の主要国のスプレッドは縮小した。月末にかけては、中国の政策当局や規制当局から安心させるようなコメントが相次いだため、主要債券インデックスからの除外が予想されていたデフォルト銘柄を除き、同国の不動産セクターの低迷はかなり収まった。インドやインドネシア、フィリピンの債券に対する需要は、ハードカレンシー建て新興国債券に再び資金が流入し始めたことによって引き続き下支えされた。タイのクレジット物は、最近のオミクロン株の感染者数急増を受け同国政府が入国時隔離免除制度への申請受け付けを一時的に停止したとのニュースを一因として、パフォーマンスが弱含んだ。セクター別では、不動産セクターで大幅なスプレッド拡大が見られたが、その他のセクターは概ねスプレッドが縮小して月を終えた。

発行市場の起債活動は鈍化
当月のアジアのクレジット市場では、年末に向かって起債活動が鈍化し、新発債発行が28件(総額63.7億米ドル)にとどまった。投資適格債分野では、中国建設銀行(China Construction Bank)のディール(総額5億米ドル)や光銀国際(CEB International)のディール(総額3億米ドル)を含め、計8件(総額約29.5億米ドル)の新規発行があった。一方、ハイイールド債分野の新規発行は計20件(総額約34.2億米ドル)となった。

チャート2

今後の見通し

ファンダメンタルズはアジアの信用スプレッドにとって追い風、ただし下方リスクも高まっている
アジアでは、マクロ環境と企業の堅調な信用ファンダメンタルズが信用スプレッドの追い風になり続けるとみている。アジアの多くの国では新型コロナウイルスの感染状況がとりあえず改善しており、2021年半ばに見られた景気の停滞は一時的なものに終わるだろうとの当社の見方を裏付けている。ワクチン接種の進行や多くの国における経済活動の段階的再開、依然緩和的な財政・金融政策を受け、経済成長は2022年にかけて再び勢いを増すとみられる。

アジア企業は、収益の伸びが2021年比では若干ペースが落ちるとしても好調さを維持するとみられ、全体として堅調な信用ファンダメンタルズが続くと予想している。アジアの企業の負債比率とインタレスト・カバレッジ・レシオは、全体として管理可能な水準にとどまるとみられるが、セクターによって多少の差が生じるだろう。注目すべき点として、販売の低迷や流動性圧力が中国不動産セクターの財務体質がより脆弱なデベロッパーに影響を及ぼし続け、財務危機やデフォルトといったイベントの増加につながる可能性がある。しかし、システミック・リスクにつながりかねない過度な調整を防ぐため、中国当局が資金へのアクセスと市場センチメントを安定化させるような介入を行う兆候がとりあえず見られている。銘柄選択が重要となることに変わりはないが、全般的なバリュエーション水準や今後の政策環境の改善から、アジアのクレジット市場ではスプレッドの縮小による投資機会が見込まれる。

2022年におけるアジアのクレジット市場の主な下方リスクとしては、中国経済の減速がより深刻化すること、高インフレ長期化への対応として米国その他の主要国で金融政策の引き締めがより積極化することなどが挙げられる。既存のワクチンがあまり効かないような新変異株が出現すれば、コロナ禍からの景気回復は後戻りを余儀なくされるかもしれない。また、足元ではポジティブな進展が多少みられているものの、米中関係に係る不透明感も依然として燻っている。


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