本稿は2021年6月8日発行の英語レポート「Are rising yields a concern for Asian REITs?」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

当社では、アジアおよびその他の地域で力強い景気回復が維持されるなか、債券利回りが過度に上昇しない限り、アジアのリートは好調なパフォーマンスが続くとみている。短期的な問題はいくつかあるものの、アジアのリートの見通しは有望であり、同資産クラスに投資するメリットの有効性は依然揺るぎないと考える。

景気回復への楽観的な見方がインフレ懸念を凌駕

世界経済は大規模な財政出動と超緩和的な金融政策措置を背景として勢いを増しており、継続的なインフレ急上昇への不安につながっている。世界的な景気回復への楽観的な見方にインフレ懸念が加わって、世界的な債券利回りの大幅上昇を引き起こすとともに一連のインカム性資産の重石となっている。

しかし、それに耐性を示しているのがアジアの不動産投資信託(リート)で、2月には一定の利益確定売りに晒されたものの、新型コロナウイルスのワクチン接種の進行に伴って域内の景気が回復すると期待する継続的な楽観ムードが、インフレおよび債券利回りの上昇をめぐる根強い懸念を凌駕するなか、年初来のリターンではなんとかプラスを維持している(2021年4月末現在)

債券利回りが上昇しインフレが世界的に加速しているものの、アジアでは多くの国が新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)が引き起こしたリセッション(景気後退)から底堅い景気回復を見せ続けていることを受けて、アジア・リートの見通しは引き続き明るいと考える。

アジア諸国の景気回復は本格化しており、それがアジアのリートにインカムの拡大と新たな収益機会をもたらしている。当社では、債券利回りの上昇が過度なものとならずアジアおよびその他の地域で力強い経済成長が維持される限り、アジアのリートは好調なパフォーマンスが続くとみている。

アジア・リートの代表的なインデックスであるFTSE EPRA Nareit Asia ex Japan REITs 10% Capped Indexの年初来リターンは、2021年4月30日現在、シンガポールドル・ベースで3%近くとなっている。

債券利回り上昇の要因における違い

長期金利の上昇は将来の配当の現在価値を低下させインカム性資産のバリュエーションを悪化させることから、債券利回りの大幅で継続的な上昇がリート全般の上値を限定的なものとするのはほぼ間違いない。通常これが当てはまるのは、中央銀行が景気過熱時に加速の一途を辿るインフレを抑制しようと積極的な利上げを行った結果、債券利回りが上昇する場合である。金融政策の積極的な引締めは大抵、経済全体の鈍化につながる。そして経済成長の減速は、個人および企業の支出に悪影響を及ぼし、オフィスや商業用賃貸スペースの伸びを失速させたり妨げたりするとともに不動産に対する需要全体を低下させるが、これらはすべてリートの収益およびインカム・ストリームに打撃を与える要因となる。

確かに、経済成長の正常化に伴いインフレが世界的に加速するリスクはある。新型コロナウイルスの引き起こしたリセッションから回復する最初の主要国となった中国では、中央銀行による漸進的な金融政策の引き締めがすでに行われている。米FRB(連邦準備制度理事会)など欧米の中央銀行が量的緩和の規模を縮小し始め、いずれ超緩和的金融政策に終止符を打つことになれば、資金流動性のタイト化が世界規模で起きる可能性がある。

しかし、そのようなシナリオは今のところ現実化しておらず、依然として多くの国が2020年に新型コロナウイルスによって受けた深刻な打撃からの回復の初期段階にあるなか、近い将来に同シナリオのような展開になることも考えにくい。当社の考えるところ、最近の債券利回りの上昇は、非常に低いベースからの世界的な景気加速と世界の消費者物価における2020年のデフレ水準からの必然的加速を市場が織り込もうとした結果にすぎない。したがって当社では、今後12ヵ月から24ヵ月は債券市場が過度に上昇することはないと予想している。景気が新型コロナウイルス前の水準へと着実に回復していくなかで債券利回りが緩やかに上昇するのであれば、アジア・リートにとっては追い風の環境となるはずだ。

企業収益が拡大するとともに消費支出が増える景気回復局面では、リートのインカム・ストリームも同様に、賃貸料の伸びの正常化に伴い改善し始めるとみられる。そのような環境は、たとえある程度のインフレ圧力が生まれ長期債券利回りの上昇がもたらされるとしても、アジアのリートにとってプラスになると当社では考える。

アジア・リートの見通し

短期的な逆風材料はあるものの、アジア・リートの中長期的な見通しは依然ポジティブ

短期的には債券利回りの上昇やアジアの一部の国における新型コロナウイルスの感染再拡大といった逆風材料があるものの、アジア・リートの中長期的な見通しは依然ポジティブだ。

アジアで進行中の構造改革や、世界の経済成長のリーダーシップが米国からアジアへとシフトしつつあることを示す兆候、データセンターやeコマースの物流施設など構造的成長に伴う新たな不動産分野の台頭といった長期的ドライバーが、引き続きアジア・リートの収益成長を支えファンダメンタルズを向上させるものとみられる。

当社では、eコマースや物流、データセンターといった分野を中心に長期の構造的成長を伴うアジア・リートに対して楽観的な見方を続けている。これらの分野はすべて、長期投資を行う妥当性が裏付けられているように見受けられる。しかし、そのような資産を保有するリートはポジティブな材料の大半をすでに織り込んでおり、足元では相対的に割高となっているのも事実だ。短期的には、バリュエーション面の理由から、当社ではeコマースおよびデータセンター関連の資産を保有するリートに対して若干慎重かつ選別的な姿勢に転じている。とは言え、長期ベースで優れた成長が見込まれるそのようなリートを有望視しているのに変わりはない。

小売りやオフィスのリートは着実な回復が予想される

2020年に新型コロナウイルスのパンデミックがもたらした大きな打撃から順調に回復しつつあるもう1つのリート・サブセクターとして、小売りが挙げられる。例えば、シンガポールの一部の郊外型ショッピング・センターでは、売上げがコロナ前の水準まで回復している。売上げさえ順調であれば、多くの小売りリートにおいて堅実な賃貸料収入が見込まれる。暗かった2020年を経て、最悪局面は過ぎたように見受けられるアジアの小売りリートの多くでは、2021年にそれなりの収益成長が見られる可能性がある。

小売りに続いて回復する次のグループは、オフィス・リートになると予想している。欧米の多くの国ではテレワークが標準の勤務環境になるかもしれないが、ここアジアでの動向は異なる。アジアの住居は欧米にくらべると相対的に狭く、例えば香港の平均的なマンションの広さは500~600平方フィート(約46~56平方メートル)程度で、多くの居住者は非常に狭いスペースでのテレワークを余儀なくされている。だからこそ、2020年のパンデミックの真っ最中ですら香港の労働人口の半分は依然としてオフィスに出社していたし、香港の住人の多くはむしろオフィスで勤務する方を望んでいるとみられる。他に一因となっていると考えられるのがアジアの「対面交流」文化で、上司は物理的に会社にいることを重んじる傾向にあるため部下に出社してもらいたいと考えている。

インドやフィリピンといった国では、インフラの整備不足によりテレワークが困難となっている。結局のところ、アジアのオフィス・リートは、パンデミックが続いているにもかかわらず依然としてそれなりの賃貸料収入を得ている。今後3、4年にわたりオフィス・スペースの供給においてタイトな状況が続くとみられるシンガポールでは、オフィス・リートがテクノロジー・セクターの好況に支えられて非常に底堅いパフォーマンスを見せると予想している。多くの大手テクノロジー企業がアジアの拠点をシンガポールに構えようとしており、この動きが同都市国家におけるオフィス・スペース需要を押し上げている。

アジア諸国で新型コロナウイルスの集団ワクチン接種が加速しロックダウン(都市封鎖)措置が解除できるようになるにつれ、小売りやオフィス、ホスピタリティ(ホテル等)といったサブセクターのアジア・リートは経済活動、外国人渡航者受け入れおよび企業活動の再開から恩恵を受けるものとみている。また、アジアの製造業セクターが大幅な回復を見せていることから、産業用施設リートの見通しも改善する可能性がある。

香港はスイートスポット

国・区域別で見ると、足元では香港がスイートスポットだと考えている。香港のリートはバリュエーションが過去最低水準にあり、経済活動の再開をまだ織り込んでいない。香港は、新型コロナウイルスのもたらした混乱以外に、過去2年半にわたって政情不安局面にも見舞われている。香港で国家安全維持法が新たに制定されたことにより、中国本土の人々にとって同特別行政区での買い物や事業運営が行いやすくなった。56,000平方キロに及ぶ粤港澳大湾区(香港・マカオ・広東省9都市にまたがるグレーター・ベイエリア)の開発によって、香港が非常に重要な拠点都市となる可能性がある。大湾区の開発は香港の不動産にとって長期的にプラスになると予想される。加えて、金融ハブおよび中国への玄関口としての同行政区の地位は、引き続き香港のオフィス・リートに優位性をもたらす。したがって、当社では、香港のリートに対してポジティブな見通しを持っており、中国・香港間の往来が再開された際に最も大きな恩恵を受けるセクターの1つになり得ると考えている。

インドのリートの見通し

インドは現在、新型コロナウイルス感染拡大の大規模な波のなかで短期的に困難に直面しているものの、当社では同国のリートの長期的な見通しは引き続きポジティブであるとみている。インドは有望な改革期の最中にあり、同国経済は今後10~20年で飛躍的な発展を遂げる可能性がある。インドのリートは改革の恩恵を最も受けやすく、特にそれが顕著な物流や産業団地、オフィス・パークといった分野はすべて、テクノロジー・セクターからの需要が追い風となっている。インドではeコマースも軌道に乗り始めている。さらに、インドの不動産市場は業界再編が進みつつあり、大手デベロッパーの台頭によって当該有力企業が一等地の不動産資産をリートに転換できるようになってきている。これは強力な構造的トレンドへと発展し、今後10年にわたってインドで上場リートが大幅に増加することになるかもしれない。

ホテル・リートに対しては慎重

アジアのリートのなかで、ホテル関連のセクターに対しては短期・中期の両方において慎重な見方をしている。これは、同セクターの回復には多くが予想しているよりも時間のかかる可能性があるのに加え、企業文化が構造的な変化を遂げつつあるからだ。コロナ後の世界では、Zoomその他のインターネット・ベースのミーティング・アプリが普及したことにより、出張がパンデミック前の水準にまで回復するには長い時間がかかるかもしれない。日常生活が多くの面で通常の状態に戻ったとしても、バーチャル方式でのビジネス・ミーティングがなくなることはないと当社ではみている。したがって、出張の需要がすぐに回復しないのであれば、ホテル・リートはインカムの低迷に見舞われ続けるものと考える。

トータルリターンは依然魅力的、長期的なポジティブ材料は変わらず

トータルリターン面(ユニット当たりの配当による定期インカム+キャピタル・ゲインの可能性)は変わらずアジア・リートの最も魅力的な特性である。

債券利回りが上昇基調にあるものの、アジア・リートのトータルリターンは2021年4月現在で10%を超えており、債券やその他多くのインカム性証券に対する相対的魅力度が依然として高い。例えば、シンガポールのリートの平均DPU(ユニット当たり配当)とシンガポール国債10年物との利回り格差は通常2.5%を超える。

加えて、アジアのリートは引き続き相対的に低い借り入れコストを生かして追加的な不動産買収を行える可能性があり、そのような資産の購入は買収元リートのDPUの増加につながる。

さらに、アジア・リートの長期的な投資魅力に変わりはない。リートは引き続きアジアにおいて最も早く成長している資産クラスの1つであり、深さと幅広さの両面で拡大している。また、グローバル・リートとの相関性が比較的低いことから、投資家に分散効果も提供している。

総合的にみて、利回り水準が比較的高く持続可能なインカム・ストリームと域内の大手不動産経営者へのエクスポージャーを提供するアジアのリートは、長期スタンスの投資家にとって魅力的な資産クラスであり続ける。短期的には、域内で新型コロナウイルス・ワクチンの集団接種が進むのに伴い、経済活動、外国人渡航者受け入れおよび企業活動の再開がアジアのリートの追い風になるとみている。

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