本稿は2021年1月8日発行の英語レポート「2021 Asian Credit Outlook」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

サマリー

  • 2021年は大半のアジア諸国の国内総生産(GDP)成長率が堅調に回復し、アジア企業のファンダメンタルズが安定的ないし若干改善することに支えられて、今後数カ月の間はアジアクレジットのスプレッドが徐々に縮小すると予想される。
  • 大半の先進国および新興国では、追加的に導入された緩和措置の規模が縮小される可能性があるものの、企業業績を支える財政・金融政策は継続するものと予想される。新型コロナウイルス感染症のワクチン開発と治療法のさらなる進展は、今でさえ良好な状況のさらなる良化に寄与する。
  • だが、ここ数ヶ月で信用スプレッドが急激に縮小したことを踏まえると、バリュエーションはもはや割安ではなく、スプレッドの縮小傾向が進むと市場が調整局面入りする可能性がある。
  • 2021年年初の現時点においては、2021年はアジアのハイイールド債の方が、アジアの投資適格債よりも高いトータルリターンが獲得できると予想されることから、当社はアジアのハイイールド債を選好する。アジアのハイイールド債はスプレッドに縮小余地がある上、デュレーションが短いために米長期国債利回りの上昇による影響を受けにくい。ハイイールド債の分野では、中国、インド、インドネシアの産業セクターよりも、中国の不動産セクターの比較的短いデュレーションの債券を有望視している。アジアの投資適格債セクターでは、スプレッドの縮小余地が大きいことから「A」格以上よりも「BBB」格を選好する。

2021年 アジアクレジットの見通し

ファンダメンタルズ

マクロ経済

2020年は新型コロナウイルス感染症のパンデミックと、感染拡大を抑制するために施行された移動制限によって世界経済が大きな打撃を受けた1年だったが、2021年にはアジア諸国の経済が確実に回復すると予想されており、国際通貨基金(IMF)はアジアの新興市場国・発展途上国のGDP成長率が8%になると予測している。1こうした回復は、特に内外のサービス部門を中心に移動制限と経済活動の段階的な正常化、並びに財政・金融政策の継続的な支援により促進されるだろう。正常化の鍵を握るのは、世界における新型コロナウイルス感染症ワクチンの接種が進むことだ。これにより、航空、観光、飲食業界など、パンデミックの打撃を最も強く受けたセクターが2020年の深刻な低迷から回復することが可能となる。大半のアジア諸国では、すでに製造業が回復し始めており、2021年も回復基調は継続するとみられている。2021年には主要先進国も回復するため、大半のアジア諸国では一段と堅調な外需に支えられ、輸出の伸びが加速するはずだ。特にコモディティ需要が引き続き拡大すれば、その傾向は強まるだろう。民間投資は2021年前半こそ低調推移となろうが、企業と消費者の信頼感が改善するにつれ、後半にはモメンタムが強まる可能性がある。

国・地域別のパフォーマンスでは、少なくとも2021年前半は中国をはじめとする北アジア諸国が引き続き一歩リードするだろう。一方、インドや東南アジア諸国は、2020年後半の景気回復が他のアジア諸国よりも遅れたほか、面積の広い南アジア・東南アジアの国々ではワクチンの接種実施に時間がかかるとみられる。だが、2021年後半にかけてそうした遅れを取り戻し、より強い経済成長を示す可能性がある。また、これらの地域では財政政策の余地が限られている国もあり、2021年初めは北アジア諸国に比べて財政刺激による景気後押しがほとんどできない可能性がある。

当社では、アジアの大半の国が緩和的な財政・金融政策を維持するとみている。ただし、成長のペースが予想通り改善する場合は、年内に緩和措置の一部終了に動く可能性がある。こうした動きは、中国が最初に行う公算が大きい。とはいえ、アジアの大半の国では国内のインフレ率が依然低い水準にあり、内需拡大とともに緩やかに上昇すると考えられるが、当面は先進諸国の中央銀行が利上げに踏み切る可能性は低く、2021年は大半のアジア諸国でも緩和的な金融政策が維持されるとみられる。

アジアの大半の国のソブリン格付けは、2021年も大きな変化がないと予想される。依然として最大のリスクは、格付け見通しが「ネガティブ」のインドだ(ムーディーズの格付けは「Baa3」、フィッチの格付けは「BBB-」)。当社は基本シナリオとして、少なくとも2021年中にインドが非投資適格に格下げされることはないとみる。だが、それはインドのGDP成長率が力強い回復を遂げるかどうか次第であるとともに、インド政府が財政赤字と対GDP債務比率に対処できるにかかっている。また、マレーシアのGDP成長率が十分に回復せず、財政健全化の軌道に戻れない場合、S&Pがフィッチの格下げに追随し、マレーシアの格付けを「BBB+」にする可能性も若干ながら存在する。

クレジット

足元の景気回復に加え、潤沢な流動性供給による融資態勢を確実なものにしようとする政府の緩和措置が継続することを踏まえれば、2021年のアジア企業のファンダメンタルズは、収益回復と総じて安定した債務水準により、安定もしくは緩やかに改善していくと予想する。2020年と比べ、格下げによって投資不適格級となる「フォーリン・エンジェル(堕天使)」の事例は少なくなるとみられる。だが、信用評価がソブリン格付と連動する多くのインド国営の銀行や企業は、依然として不確実性を抱える。アジアのハイイールド債のデフォルト率は、2021年も2.5%前後と対処可能な水準に留まる可能性が高い。

アジアの投資適格企業は、パンデミックが収益に影響を与えたにもかかわらず、全体的には2020年前半まで安定したレバレッジ比率および債務返済率を維持することができた。当然ながら、セクターによって状況はまちまちとなっている。例えば、小売や運輸などのセクターは大きな打撃を受けたが、その一方でテクノロジーなどのセクターは在宅勤務への移行や消費者支出パターンの変化を追い風に改善を示した。さらに、債務残高の水準が概ね安定的に推移する中、世界的な金利低下に伴い、借入コストも全体的に低下したとみられ、一部の企業では債務返済率が改善した。アジアの投資適格級の非金融企業でも、信用力が安定、または緩やかに改善する傾向は2021年も継続すると予想される。アジアの銀行は薄い利ざやが収益を圧迫する恐れがあるものの、大半の銀行で返済猶予残高が減少するなど、融資の返済状況に改善がみられていることから、2021年に政府による金融緩和措置が終了しても、銀行の資産の質の悪化は対処可能な範囲に収まると予想する。また、景気回復の初期段階において銀行の融資に混乱が生じないよう、規制当局は銀行への支援措置を継続すると当社は見込んでいる。

ハイイールド債の分野では、2021年はセクター間、セクター内ともに差別化が続くとみられる。中国の不動産セクターでは、2021年のプレセール(建設着工前の段階における販売)は横ばいもしくは小幅な伸びが予想される。比較的規模の大きな不動産デベロッパーは優位な立場にあり、資金調達手段が多様であることから、全国平均をアウトパフォームして堅調に推移するだろう。中国の不動産セクターでは、不動産開発企業の過剰債務を抑制し、財務の健全化を促すことを目的とした引き締め策である「三条紅線(3本のレッドライン)」の要件を満たさなければならない期限が迫っていることから、積極的な土地取得やレバレッジ上昇策が行われる可能性は低い。2019年・2020年と同様、中国の工業セクターのハイイールド債の信用評価は企業ごとに異なる傾向が続く見込みだが、厳しくなる国内の与信環境はセクター全体への圧力となる可能性がある。またインドネシアとインドでは、流動性の逼迫が、近々に借り換え需要がある企業を中心に、一部のハイイールド債銘柄にとって圧力となる恐れがある。

バリュエーション

アジアクレジットのスプレッドは、パンデミックによる影響への懸念から2020年第1四半期に大幅に拡大後、3月末以降は大幅に縮小したものの、依然として2020年年初の水準を若干ながら上回っている。アジアの投資適格債の足元のスプレッドは217bp2で、2019年末の水準を約40bp上回っている。一方、アジアのハイイールド債のスプレッドは656bpで、2019年末から約122bp拡大した。投資適格債およびハイイールド債のスプレッドはともに、世界金融危機後の中央値を引き続き上回っている。

アジアクレジットは米国クレジットと比較して依然魅力的だ。アジア投資適格債の米国投資適格債に対する利回り格差は、年初の50bpに対し、現在は85bp2となっている。アジアの投資適格債においては、「A」格債と「BBB」格債の利回り格差は89bpとなっており、過去5年平均である69bpを若干上回っている。したがって当社では、利回り格差の観点から「A」格よりも「BBB」格を有望視している。またハイイールド債に関しても、アジア社債の米国社債に対する利回り格差は魅力的だ。アジアのなかでは、「B」格債の「BB」格債に対する利回り格差が471bp2まで大幅に拡大し、相対価値が高いのは事実であるが、銘柄選択の重要性は引き続き高い。

チャート1

チャート2

需給

アジアクレジットの需給は引き続き堅調に推移するだろう。2020年第1四半期の急激な資金流出の後、新興国への資金流入は回復している。さらに、市場や経済の不確実性が低減するに伴い、世界の潤沢な流動性が再び比較的高いリスクの資産に配分されることを受けて、新興国債券は2021年も堅調に推移する可能性が高い。加えて、資金調達コストの低下が引き続き民間銀行による需要を押し上げるとみられる。中国に関しては、最近の国内の信用懸念による影響が、体力が脆弱な投資不適格の民間企業と地方の国有企業が海外で発行した債券の一部に限られていることから、中国国内投資家による米ドル建て中国企業社債に対する需要は今後も堅調に推移すると予想される。2020年通年の新規発行額は3,150億米ドルに迫り、再び過去最高を更新したが、2021年も3,000億米ドル〜3,500億米ドルと高水準を維持する見込みだ。なお、新発債の大部分は既存債務のリファイナンスを目的としており、純粋な新規発行額は1,000億米ドル程度と消化可能なレベルにとどまる。債券発行規制の厳格化を背景に、中国の不動産企業による米ドル建て債券の発行は抑制される公算が大きい。ただし、歴史的な低コストのうちに債務の長期化を図る投資適格企業による発行や、的を絞ったM&Aの資金調達のための債券発行が増える可能性はある。

戦略

アジアクレジットのスプレッドは今後数ヶ月で徐々に縮小すると予想される。発表頻度の高い経済指標は、アジアの大半の国々で景気回復が進んでいることを示唆しており、企業業績のファンダメンタルズを全面的に下支えする要因となろう。また、大半の先進国および新興国では、追加的に導入された緩和措置の規模が縮小される可能性があるものの、企業業績を支える財政・金融政策は継続するものと予想される。新型コロナウイルス感染症のワクチン開発と治療法のさらなる進展は、今でさえ良好な状況のさらなる良化に寄与する。ハードカレンシー建て新興国社債市場への資金流入が堅調さを維持することが見込まれるなど、良好な需給環境が続くだろう。とはいえ、ここ数ヶ月で信用スプレッドが急激に縮小したことを踏まえると、バリュエーションはもはや割安ではなく、今後は市場が上昇・調整を繰り返すようになることが見込まれる。

先進国におけるワクチン接種の進展と政策主導によるリフレ期待の高まりを踏まえると、2021年には米国債の超長期利回りが上昇し、イールドカーブがスティープ化する可能性がある。そうなれば、信用スプレッドの縮小がもたらすプラス効果が相殺されることにもなり得る。その結果、リターンの主な源泉がキャリー収益となり、2021年のアジア投資適格債のリターンが1桁台前半にとどまる可能性がある。当社では、アジアのハイイールド債の方が、より高いトータルリターンをもたらすと見込む。アジアのハイイールド債はスプレッドに縮小余地がある上、デュレーションが短いために米長期国債利回りの上昇による影響を受けにくい。このような理由から、2021年年初の現時点においては、アジアのハイイールド債を、アジアの投資適格債よりも選好する。ハイイールド債では、中国の不動産セクターの期間が比較的短い債券を有望視している。アジアの投資適格債セクターでは、スプレッドの縮小余地が大きいことから「A」格以上よりも「BBB」格の社債を選好する。

2021年にアジアクレジット市場で注視すべき最大のダウンサイドリスクは、米国バイデン新政権が米中関係の安定化に失敗することだと当社は考える。バイデン次期大統領は外交政策の柱として多国間主義の重要性を繰り返し強調しており、4年間の無秩序状態が終了し米中関係がリセットされることに期待が高まっている。しかし、米中間の技術面およびイデオロギー面での緊張が根強く存在することから、そうした期待は打ち砕かれる可能性もある。このような地政学的な問題に加え、現行の緩和的な財政・金融政策の早すぎる終了もダウンサイドリスクとして挙げる。これらの緩和措置が時期尚早に終了すれば、アジアクレジットを含むリスク資産のポジティブな見通しが損なわれる恐れがある。

セクター別の見通し

金融

アジアの大半の金融機関で返済猶予残高が減少するなど、融資の返済状況に改善がみられていることから、2021年に政府による中小企業向けの返済猶予が終了しても、銀行の資産の質の悪化は対処可能な範囲に収まると予想する。また、年内には各国の規制当局・政府が慎重に財政刺激措置や量的緩和政策の規模縮小に動き出すと見込まれるものの、社会・経済に対して銀行がもつ重要な役割を果たし、経済成長を下支えできるよう、銀行への支援措置は継続されるものと予想する。

中国、香港、韓国、シンガポールでは、パンデミックが比較的うまくコントロールされており、経済活動は徐々に回復している。なお、2021年も銀行の収益性への圧力は継続し、クレジットコストが高止まりする可能性がある。だが、十分な自己資本と強固なファンダメンタルズを有し、リスク管理能力が高く、脆弱なセクターや業績の振るわない中小企業に対する融資額が小さい大規模銀行が発行する劣後債等の返済順位の低い債券に、魅力的なリスク・リターンが期待できる。また、アジアの銀行が引き続き資本市場の良好な環境を享受する中、自行の評判に長期的に悪影響が及ぶことは回避したいとの考えから、コーラブル条件付き社債がコールされるリスクはほとんどないと判断する。インドでは、ノンバンク金融会社による債権回収が順調に進んでいるにもかかわらず、資産の質は依然脆弱だ。小規模なノンバンク金融会社の低迷が続いており、このセクターに対する弱気な市場心理にとって引き続き重しとなるだろう。

当社では、中国の銀行シニア債よりも、中国の資産管理会社(AMC)や銀行系列のリース会社の債券を選好する。中国のAMCについては、ディストレスト資産管理における戦略的役割や銀行に課せられたデレバレッジの継続的な取り組みの重要性は高まっており、資産の質の悪化と収益率の縮小のリスクを相殺する以上に期待がもてると考える。また、国内の強力な銀行の系列リース会社は、事業が親銀行と一体化されていることに加え、親銀行から流動性や資本援助を受けられると会社の定款に明記されていることから、国内の強力な銀行の系列にない同業他社よりも高い収益性を誇っている。

不動産

不動産に関しては、当社は中国を有望視し、香港についてはニュートラルな見方をしており、インドネシアにはあまり投資妙味がないと考える。逆風環境に強いファンダメンタルズ、魅力的なバリュエーション、市場の需給動向の改善にけん引されて、中国の不動産デベロッパーには引き続き投資妙味がある。

下記のトレンドによって、ファンダメンタルズの安定化が予想される。

  1. 住宅需要:堅調な住宅需要が継続することが見込まれる。世帯形成や都市人口の増加が追い風となっているほか、パンデミック下でも住宅需要は力強い伸びを示している。
  2. マクロ・プルーデンス政策の厳格化:規制当局はマクロ・プルーデンス政策の厳格を進めており、これがデベロッパーに自制をきかせ、その結果債務の伸びが抑制されることになると当社は考える。今後、不動産企業に対して、段階的かつ対応可能な政策が導入されるだろう。
  3. 資金調達構造の改善:多くのデベロッパーはデレバレッジや資金調達構造の改善計画を有しており、すでに実行に移し成果を挙げているデベロッパーも多く存在する。

香港では、バリュエーションが市場心理とファンダメンタルズの悪化が適切に反映され割安な状態にあるが、投資不動産物件の賃料と占有率が低下傾向を辿る可能性が高い。インドネシアでは不動産販売の低迷に加え、流動性の確保とリファイナンスへの懸念が引き続き重しとなり、バリュエーションにあまり魅力がないと考える。

インフラと運輸

2021年の土木建築企業は、増加する受注残を背景に、売上高が着実に伸びると予想している。中国政府は新たに打ち出した「双循環戦略」の下、これまでほどインフラ投資を徹底的に推進することはないかもしれない。だが、経済がパンデミックから徐々に回復する中で、インフラ投資は経済成長を支える重要な柱であることに変わりはない。米ドル建て債券を発行する土木建築企業の多くは、中国の国有資産監督管理委員会(SASAC)の管理下にあり、経済を安定的に成長させる重要な役割を果たしている。これらの土木建築企業は設備投資や運転資金の調達が必要であることから、レバレッジは高止まりすると予想される。全体的にみるとレバレッジは対処可能な水準であるため、当社はインフラセクターに対して総じて強気な見方を維持する。

アジアの有料道路・港湾事業セクターでは、各国でロックダウン(都市封鎖)措置が緩和されたことで、2020年の交通量はV字回復を遂げた。効果のあるパンデミック対策とワクチン開発により交通量はさらに増加し、2021年中にはパンデミック以前の水準に回復すると当社は見込んでいる。

航空セクターはパンデミックの影響を最も受けたセクターの1つであり、目立った回復はまだ確認できない。今後の状況次第ではアルファを獲得できる可能性があるというセクターに分類しているが、ワクチン接種が開始され、航空輸送が回復し始めることが確実な状況になれば、一部の航空関連銘柄について強気な見方へとスタンスを変える可能性がある。

テクノロジー

アジアの電気通信セクターの競争は、ここ数ヶ月間は一部の国で緩和されているが、この傾向は2021年も続く可能性がある。音声からデータへのシフトおよびデータ量使用動向の変化は、業界企業の利益率を圧迫する構造的なトレンドであることに変わりない。したがって、通信事業者は2021年もコスト管理に焦点を当て、5G導入投資に慎重な姿勢を維持するだろう。電気通信セクターのリーディング企業は2021年も安定した信用評価の維持に尽力すると予想されることから、このセクターに対する当社の見解は中立的である。

中国のインターネット関連企業の業績格差は2021年に一段と拡大し、大手企業が健全な売上高の伸びを実現する一方、中小企業は横ばいまたは売上減になると予想される。業界全体ではプラス成長を達成するものの、比較対象である2020年の売上実績が高水準だったことや競争激化が止まらないことを背景に、前年比の売上高増加率が鈍化することが見込まれる。中国のインターネット関連の債券発行企業の大半は、強固な資本基盤と潤沢な流動性を有していることにより、2021年も総じて安定的な信用評価を維持できるだろう。しかし、引き続き規制リスクや緊張が高まる米中関係が同業界にとって重しであると思われる。

ハードウェアテクノロジー企業の一部は、テクノロジー業界が在庫を補充する動きを見せたことや、5Gインフラや5G対応の携帯電話機の発売に向けて投資を進めてきたことで、2020年はまずまずの回復を遂げた。この傾向は2021年も続くだろう。しかし、米中貿易摩擦の影響を受けやすかった一部の企業は遅れをとっている。米国の政権交代で状況が一転する可能性がなくはないが、2021年も米中貿易摩擦の影響は続く公算が大きい。よって総合的には、米国の新大統領の方針が明らかになるまでは、当社は慎重な姿勢を維持する。なお、米中貿易戦争の影響を受けにくく、強い資本基盤を有し、多様な製品構成と顧客層を持つ企業には、魅力的な投資機会があると考える。

石油・ガス

2020年の新型コロナウイルス感染症のパンデミックによる原油価格の下落は、石油・ガス企業の2021年の収益性を大きく圧迫すると予想される。石油輸出国機構(OPEC)と非OPEC主要産油国で構成するOPECプラス、および国際石油資本(石油メジャー)による減産を背景に、需給不均衡の懸念は大幅に緩和された。だが、ウイルス感染の再燃や航空輸送の制限が続いていることで、原油の総需要は抑制されている。待望されるワクチン開発により、2021年にはウイルスを封じ込めることができると思われ、パンデミックが収束すれば、原油の需要と価格は回復すると見込まれる。

アジアの石油・ガスセクターのアップストリーム部門(探鉱・開発企業)は、短期的には減益となる可能性が高い。大半の企業の採油事業はコスト競争力が高く、原油安局面でもプラスのキャッシュフローを生み出すことができるはずだ。こうした企業は状況に合わせた慎重な対応を取っており、流動性を維持するために設備投資や生産量目標を引き下げている。一方、ダウンストリーム部門(精製・販売企業)も原油需要の低迷によって精製マージンが軟調に推移していることから、収益性が悪化するとみられる。また、原油精製の収益率は当面回復する見込みが薄い中、アジア地域における精製能力拡大の影響を受けるだろう。堅調に回復するかどうかは、世界経済動向次第であろう。

概して、当社は短期的に同セクターの信用評価が悪化すると見込んでいる。しかし、アジア諸国の代表的な石油企業の大半が政府系であるため、政府の全面的な支援を背景に、高い信用評価を有している。石油輸入国にとって、これらの企業はエネルギー安全保障を維持する上で戦略的に非常に重要であり、短期的な原油価格の変動とは関係のない次元の議論であり、このことは今後も変わらない。したがって、当社はアジアの石油・ガスセクターについて中立的な見方をしている。

カジノ・ゲーミング

外国人観光客に大きく依存するセクターとして、アジアのカジノ運営企業は新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響を大きく被った。マカオとシンガポールのカジノ企業では、2020年の第2四半期および第3四半期に来客数がほとんどゼロとなった。その後、マカオとシンガポールは新型コロナウイルス感染者数をほぼ抑制することに成功したが、統合型リゾートの来客数はパンデミック以前の水準を大きく下回ったままだ。厳しいソーシャルディスタンスと旅行に関する規制は、カジノ観光を思いとどまらせる要因となっており、カジノ・ゲーミングセクターは2021年も引き続き低調な業績が予想される。だが、これらの困難な状況にもかかわらず、カジノ運営企業は健全な流動性を維持し、銀行の与信枠にも余裕があるため、不況を乗り切る条件を有していると当社は考える。また、カジノ運営企業は流動性を維持するため、配当や裁量的な設備投資を延期している。パンデミックがいずれ収束し、外国人観光客が回復するにつれ、同業界は徐々に回復するだろう。当社はアジアのカジノ・ゲーミングセクターについて、中立的な見方をしている。

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