本稿は2021年12月15日発行の英語レポート「2022 Asian Credit Outlook」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
サマリー
- アジアの信用スプレッドは、マクロ環境と企業の堅調な信用ファンダメンタルズが引き続き追い風となっている。2022年にかけては、アジアの多くの国で経済成長が再び勢いを増すと考える。アジア企業は、収益の伸びが2021年比では若干ペースが落ちるとしても好調さを維持するとみられ、全体として堅調な信用ファンダメンタルズが続くと予想される。
- 当社では、新型コロナウイルスのワクチン接種の進行や複数の国における経済活動の段階的再開、依然緩和的な財政・金融政策が、ポジティブな環境の補強材料になると予想している。
- 2022年にかけて、アジアではディフェンシブ寄りの姿勢を若干強め、ハイイールド債よりも投資適格債を選好している。このスタンスを変更する重要なきっかけとなり得るのは中国の不動産セクターにおける政策変更で、これが実現すれば、スプレッドの縮小によりハイイールド債の方がより高いリターンをもたらす可能性がある。ハイイールド債のなかでは、財務体質がしっかりしている中国のBB格の不動産銘柄を選好する。投資適格債では、A格以上のセグメントよりもスプレッドの縮小余地が大きいとみているBBB格の銘柄を引き続き選好する。
- 2022年のアジアのクレジット市場における主要な下方リスクとしては、中国経済の成長減速の深刻化、米国の金融政策引き締めの積極化、新型コロナウイルスの新しいオミクロン株をめぐる状況展開などが挙げられる。
2022年のアジア・クレジット市場の見通し
ファンダメンタルズ
マクロ環境
2021年の第2・第3四半期の大半は、アジアおよび世界の多くの国で新型コロナウイルスのデルタ株の感染拡大によって国内需要が低下するとともに供給の混乱が目立つようになり、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大第1波から持ち直しつつあった景気回復の勢いを鈍化させた。しかし、2022年にかけては、アジアの多くの国で新型コロナウイルスの感染状況が一時的に改善しており、景気の停滞は一時的なものになるだろうとの当社の見方を裏付けている。新しいオミクロン株の感染拡大をめぐる動向については注視を続けているが、ワクチン接種の進行や、大半の国における「ウィズコロナ(新型コロナウイルスとの共生)」戦略への転換に沿った経済活動の段階的再開、依然緩和的な財政・金融政策を受け、2022年にかけて経済成長が再び勢いを増すとみられる。
2022年の景気回復は、航空会社やレジャー・娯楽、宿泊施設や外食産業など、コロナ禍で最も打撃を受けたセクターが2020年と2021年の深刻な低迷から復興するのに伴い、サービス・セクターが牽引役になると予想する。製造業の活動はまずまずの水準が続くとみられるが、2021年にすでに大きな伸びを見せたことや2022年には物品輸出の伸びが正常化する可能性があることから、2022年の製造業の成長ペースは2022年が進むにつれて緩やかになるかもしれない。外需は堅調さを保つと想定されるが、モノからサービスへの支出の移行が世界的に加速するにつれ、幾分鈍化する可能性がある。ただし、2022年前半は受注残の処理や依然堅調なコモディティ需要が輸出の伸びを支えるとみられるため、外需の鈍化は年後半の話となるだろう。内需、特に民間消費は、行動制限の緩和が一段と進んで一般家庭が接触を必要とするサービスをより気楽に利用できるようになるにしたがい、年を通じて強まるとみられる。民間投資は、企業心理と消費見通しが改善するとともに、足元のサプライチェーンのボトルネックを受け半導体や産業機器、再生可能エネルギーなど多くの産業にわたって新たな設備投資が促されるのに伴い、需要に拍車が掛かると予想される。
国別の経済パフォーマンスでは、少なくとも2022年の序盤にはアジア内である程度の乖離が生じるとみている。中国では、2022年前半はGDP(国内総生産)成長率が低水準にとどまるものの、年後半には回復すると予想される。中国政府は、「共同富裕」とマクロ経済の債務削減という目標を追求するなか、2021年半ばから不動産やテクノロジー、民間教育を中心に様々なセクターにわたって一連の規制・信用引き締め措置に乗り出している。こういった政策が経済活動に下方圧力をもたらし、2021年後半の経済成長の大幅鈍化へとつながった。コモディティ価格の高騰、環境目標を達成するための製造活動・発電の抑制、「ゼロコロナ」戦略の下での散発的なウイルス感染拡大が、同国経済の晒されている逆風を強めている。政府はそのような逆風を認識しはじめており、金融・信用・財政政策を緩和する可能性を示唆しているが、経済活動の足枷は2022年序盤まで続き景気が回復するのは年後半になるとみられる。しかし、経済の長期的な耐性強化を目指す構造改革および規制措置の全般的な推進が完全に巻き戻されるとは考えにくく、中国経済の回復は前回の緩和サイクルほど強いものとはならないかもしれない。インドと東南アジア諸国では、2021年半ばにデルタ株の感染拡大によって景気回復の流れが中断したが、各国が「ウィズコロナ」戦略へとシフトしワクチン接種率の上昇に伴って経済活動を徐々に再開させていることから、2022年を通じて好調な「追いつき」成長が期待される。
金融政策はアジアの大半の国で緩和的姿勢が維持されると予想しているが、各国間である程度の乖離が生じる可能性が高い。韓国やシンガポールなどより発展している国では、金融政策の引き締めがすでに始まっている。しかし、他のアジア諸国では、需給ギャップがマイナスにとどまっており国内のインフレが依然抑制されていることから、初期段階にある景気回復を支えるために緩和的スタンスをより長く維持できる余裕が中央銀行にある。同様に、財政政策も成長重視スタンスに維持されるとみられ、大半の国で大幅赤字での財政運営が続くと想定される。しかし、過去2年で費やされた財政規模を考えると、政府は中期的な財政再建および債務の持続可能性を達成する必要性と拡張的財政運営とのバランスを取らなければならないだろう。
2022年は、大半のアジア諸国のソブリン債格付けが安定的に維持されると予想している。だたし、スリランカは例外で、外貨準備の枯渇と国内経済における複数の逆風により、近いうちに対外債務を返済できなくなるリスクに直面している。インドのソブリン格付けについては、景気回復や金融セクターのリスクの低下、対外収支の強さから、投資不適格へと引き下げられるリスクが大幅に後退した。とは言え、債務水準の高さは依然インドにとって弱点であり、政府はいずれ対処が必要になるだろう。
クレジット環境
景気回復が勢いを取り戻すとともに信用状況が依然追い風であることから、アジア企業のクレジット・ファンダメンタルズは、多少の乖離が見られる可能性はあるものの、大半の国やセクターで全体的に堅調さを維持すると予想している。企業の売上げや利益は、2021年から若干ペースが落ちるとみられるものの、好調な伸びが続くと思われる。財務コストは2022年の終わりにかけてじりじり上昇し始める可能性があるが、過去に比べれば低水準にとどまると想定され、インタレスト・カバレッジ・レシオは高水準に保たれるだろう。中国の不動産セクターを中心に多くのセクターで負債削減と流動性管理への注力が続いているのに加え、アジアで合併・買収や設備投資を積極的に進めるのはファンダメンタルズが強固な信用格付けの高い企業に限られるとみられるため、全体的な負債水準/ギアリング比率/レバレッジ比率が大きく上昇することは考えにくい。
コモディティ価格は内需が回復を受けて高止まりが続くとみられ、石油・ガスや金属・鉱業など川上産業の収益の追い風となる一方で川下の製造業やサービス業にとっては利益率への下方圧力要因になると考えられる。景気回復の初期段階では家計所得や財務見通しにおいて脆弱な状態が続くため、アジアの消費財メーカーや小売業者は先進国の同業者ほどコスト上昇分を最終消費者に転嫁することができず、結果として利益率への圧迫が続く可能性がある。ただし、取引量が低水準から回復することは、収益成長のサポート要因となるかもしれない。
当社では、外国人旅行者の入国受け入れが再開されたことや前年比の対象となるベースが低いことから、2022年は航空会社や空港、ショッピング・モール、ホテル運営会社といった観光関連のサービス企業が大幅な収益成長を遂げると予想している。中国の不動産開発企業は、少なくとも年の序盤には販売低迷の続く可能性があり、流動性圧力が同分野の財務体質がより脆弱なデベロッパーに引き続き影響を及ぼす可能性がある。しかし、システミック・リスクにつながりかねない過度な調整を防ぐため、中国当局が資金へのアクセスと市場センチメントを安定化させるような介入を行う暫定的な兆候が見られている。規制要件を満たすための業界再編と業界全体にわたる負債削減は、財務体質がより強固で質の高いデベロッパーにとって中期的な追い風となるだろう。中国のテクノロジー企業も政府の規制措置によって収益成長が鈍化し利益率が圧迫される可能性があるが、この分野では大半の企業の信用指標が高い水準を維持している。
アジアの銀行は、モラトリアム(返済猶予)下のローンが減少したにもかかわらず延滞率が予想を下回っていることから、金利の上昇に伴い純利ざやの拡大が期待できる。さらに、中国および香港の銀行の大半は、中国の不動産セクターに対するエクスポージャーが管理可能な規模に収まっており、十分な資本比率を維持している。インドの銀行は、事業環境の改善を背景に資産の質が安定してくるとみられる。銀行セクターの見通しは全体的に良好で、同セクターではデジタルチャネルを通じたビジネスが増加しているが、これは同セクターに持続的なプラスの影響をもたらすポジティブな変化と言える。
2022年のアジアのクレジット市場では、投資適格債とハイイールド債とのあいだ、およびハイイールド債のなかで乖離が拡大すると予想する。ハイイールド債分野では、セクター内での乖離が2022年も続くと思われる。中国不動産セクターでは、複数のステークホルダーからの信頼を失った財務体質のより脆弱なデベロッパーが、当面のあいだ引き続き苦戦を強いられる可能性が高い。中期的には、同セクターの見通しは都市化の進行や世帯数の増加に伴って改善するとみている。政府の政策が緩和された場合、その恩恵をより直接的に享受するのは相対的に財務体質が強固で質の高いデベロッパーであるため、当社では当該セクターに対し慎重なスタンスで臨みたいと考えている。2020年および2021年と同様に、中国のハイイールド債銘柄における信用評価の傾向は銘柄に依るところが大きくなると予想されるが、国内の信用状況のタイト化によってセクター全体に圧力がかかる可能性はある。流動性のタイト化は、インドネシアやインドの一部のハイイールド企業、特に近々のリファイナンス(債務借り換え)・ニーズに直面している企業にも圧力をもたらすかもしれない。
2022年には、中国不動産セクターの投資適格銘柄のなかで投資不適格へと格下げされるものが増える可能性があるが、このセグメント以外では、投資適格から投資不適格へと格下げされる個別銘柄は2021年に比べて減少するとみている。アジアのハイイールド社債のデフォルト率は2022年に3.0~3.5%になると予想しているが、これは深刻な財務危機に陥っている中国の不動産会社数社の動向やデフォルト・イベントの発生時期に大きく左右される。
バリュエーション
2021年はアジアのクレジットもののあいだで大きな乖離が見られ、ハイイールド債のスプレッドが中国のハイイールド不動産セクターの低迷を受けて大幅に拡大する一方、投資適格債のスプレッドは年を通じてある程度のボラティリティが見られたものの縮小が続いた。現在、アジアの投資適格債のスプレッドは2020年12月末比で0.47%縮小の1.69%、アジアのハイイールド債のスプレッドは同1.91%拡大の8.09%となっている。投資適格債のスプレッドは世界金融危機後の平均水準を下回っているが、ハイイールド債のスプレッドは同様の水準を大きく上回っている。
アジアのハイイールド債と投資適格債のスプレッド格差は現在6.40%と、過去5年間の平均である3.75%を大幅に上回っており、一見ハイイールド債は非常に魅力度が高いように見える。しかし、アジアのハイイールド債のあいだには大きなばらつきがあり、足元のスプレッド水準は、財務危機に直面しておりデフォルト・リスクが高い特定の中国不動産銘柄の大幅なスプレッドを反映している。アジアのハイイールド債のスプレッドには絶対ベースでも投資適格債対比でも縮小の余地があることは確かだが、そのような可能性が実現するには中国のハイイールド不動産セクターが大きく好転することが必要であり、これは当該セクターに対する規制・信用政策がより大幅に緩和されるかにかかっている。
アジアの投資適格債内では、BBB格のA格に対するスプレッド格差が現在0.90%と、2020年末の0.84%から拡大しているとともに過去5年間の平均である0.77%を上回っている。したがって、ファンダメンタルズが堅調ななかで上乗せスプレッドを提供しているBBB格をA格に対して引き続き選好しており、特に中国のBBB格銘柄はバリュエーションの魅力度が高いと考える。
需給環境
アジアのクレジット市場の需給環境は、2022年序盤は軟調にとどまるものの年が進むにつれて好転していくと思われる。米FRB(連邦準備制度理事会)がテーパリング(量的緩和の漸進的縮小)に着手しており2022年後半には利上げを開始する可能性もあることから、年初は投資家がより慎重なリスク・スタンスを取るなかで新興国債券への需要は振るわないとみられる。しかし、これまでの投資資金の流れからすると2013年のような「テーパータントラム」(FRBが量的緩和の縮小に言及したことによって引き起こされた金融市場の混乱)になるとは示唆されておらず、市場で先進国の金融政策正常化の織り込みが進むにつれて、新興国への資金の流れは好転するかもしれない。中国不動産セクターの低迷もアジアのクレジットものに対する投資家心理をある程度落ち込ませたが、資金流出の大半は2021年にすでに起こった可能性がある。2022年に不動産セクターの政策が大きく緩和されれば、バリュエーションの魅力度の高さを受けて投資家からの資金流入が急激に回復し得る。加えて、当社では、アジア域内の年金・保険基金から年を通じて堅調な需要が続くと予想している。グロスでの新発債供給は2021年とおよそ同水準の3,500億米ドル程度になると想定されるが、グロスの発行額の大部分はリファイナンスのためで、純発行額は500億米ドル程度と市場が消化しやすい水準になるだろう。中国の不動産企業による米ドル建て債券の発行は、少なくとも2022年の第1四半期までは限定的なものにとどまると思われるが、投資適格の企業からは、歴史的な低利回り水準で資金調達コストを固定すべく、また選別的な合併・買収活動への資金調達として、よりオポチュニスティックな発行が見られる可能性がある。
投資戦略
アジアの信用スプレッドは、マクロ環境と企業の堅調な信用ファンダメンタルズが引き続き追い風となっている。新型コロナウイルスの最新変異株であるオミクロン株をめぐる動向については注視を続けていくが、ワクチン接種の進行や多くの国における経済活動の段階的再開、依然緩和的な財政・金融政策を受け、2022年にかけて経済成長が再び勢いを増すと考えている。アジア企業は、収益の伸びが2021年比では若干ペースが落ちるとしても好調さを維持するとみられ、全体として堅調な信用ファンダメンタルズが続くと予想している。アジアの企業の負債比率とインタレスト・カバレッジ・レシオは、セクターによって多少の差が生じるとみられるものの、全体として管理可能な水準にとどまると予想される。
アジアの投資適格債のスプレッドは過去最小の水準まで縮小しており、ここからのさらなる縮小余地は小さいだろう。当社では、A格以上のセグメントよりもスプレッドの縮小余地が大きいとみているBBB格の銘柄を引き続き選好する。インフレ率の高止まりと労働市場の回復を受けてFRBが金融政策の正常化を進めるなか、米国債利回りには上昇バイアスがかかると予想する。米国債利回りの上昇が信用スプレッドの縮小によるプラス効果を相殺する可能性があり、そうなれば、2022年におけるアジアの投資適格債のリターンは、再びキャリーを主なドライバーとして一桁台前半のプラスになるとみられる。
アジアのハイイールド債のスプレッドは絶対ベースでも相対ベースでも大きく、当社ではスプレッド縮小からかなりのトータルリターンおよび超過リターンを獲得できる可能性があるとみている。しかし、これが実現するには、中国不動産セクターの政策が大幅に緩和されるという重要なきっかけが必要となる。システミック・リスクにつながりかねない過度な調整を防ぐため、中国当局が信用へのアクセスと市場センチメントを安定化させるような介入を行う暫定的な兆候が見られているが、これまでの措置が恩恵をもたらすのは主に財務的体力のあるデベロッパーかもしれない。一方、販売の低迷や流動性圧力が財務体質のより脆弱なデベロッパーに影響を及ぼし続け、財務危機やデフォルト・イベントの増加につながる可能性がある。したがって、当社では、財務体質の強固なBB格の中国不動産銘柄を選好するというディフェンシブ寄りのスタンスで2022年をスタートし、より具体的な政策緩和措置が出てくるのを待つ方針である。このような見方からも、年初時点のアジアではハイイールド債よりも投資適格債を優先する。
2022年のアジアのクレジット市場における主要な下方リスクの1つである中国経済の成長減速の深刻化は、同国のマクロ経済の安定性や経済成長見通しを揺るがし、延いては他のアジア諸国に悪影響を及ぼし得る。米国その他の主要国で高止まりの長引くインフレへの対策として金融政策の引き締めが積極化されるケースも、もう1つの下方リスクだ。これらのリスクは超過キャリーの低下につながる可能性があり、新興国のクレジットものの需給関係にはマイナスとなる。さらに、コロナ禍からの景気回復は、ワクチンの効果を低下させ得る新変異株の出現により停滞を余儀なくされる可能性がある。一方、最近はポジティブな展開がいくつか見られているものの、米中間の緊張関係は水面下で続いており、米国政府は国家安全保障上の理由や外交政策上の懸念を根拠として、貿易制限リストに加える中国企業を増やしている。
セクター別見通し
金融
2022年は、銀行やノンバンク金融機関(NBFI)の市場環境が正常化すると予想される。財務体質がより強固な銀行、特にシンガポールや韓国の銀行にとっては、モラトリアム(返済猶予)下のローンが減少したにもかかわらず延滞率が予想を下回っていることが収益拡大の可能性をもたらしており、加えて、引当金の水準が非常に低いことが収益の上振れにつながる可能性も好材料となっている。また、銀行セクターでは、金利が上昇した場合に純利ざやの拡大が期待できる。その反面、正常化は、流動性の潤沢さを背景とする銀行預金への資金流入が鈍化することや、資本コストが比較的かからない住宅ローンの伸びが減速することを意味する。中国および香港の銀行にとって現在の懸念は不振に喘いでいる中国本土の不動産セクターへのエクスポージャーだが、大半の銀行はエクスポージャーがパーセントで二桁台前半と管理可能な規模に収まっており、一部の株式制商業銀行を除いて資本比率も十分に高い水準にある。観光業へのエクスポージャーが大きいタイの銀行では、支援策の終了に伴い資産の質がやや低下するかもしれない。遅れをとる可能性があるのはフィリピンの銀行で、企業景況感や個人消費の低迷が引き続き資産の質への逆風となっているが、同国の2021年第3四半期の経済成長が市場予想を上回ったことは注目に値する。インドでは、資産の質の低下に関するリスクが後退しており、事業環境の改善に伴って信用の伸びが加速するとともに資産の質が安定していくとみられる。銀行セクターの見通しは概してポジティブで、ファンダメンタルズが良好な大手行の資本構造は吟味の価値があると考えており、そのような銀行の債券においてコール(繰上償還)が実行されないリスクは極めて低いとみている。また、2021年には銀行とNBFIがともにデジタルチャネルを通じてビジネスを行うようになったが、これは金融セクターの事業パフォーマンスに持続的な影響をもたらすポジティブな変化であるとの見方をしている。
インドについては、新型コロナウイルスの感染拡大の収束に伴う需要の回復によって高い経済成長を予想しているため、ゴールドローン(金を担保とするローン)を主力としないNBFIを選好している。一方、ゴールドローンを主力とするNBFIは、当然ながら金価格下落の影響を受けやすく結果として資産規模が縮小する可能性がある。中国では、国有資産運用会社の華融(Huarong)の再生が完了したことを受けて、資産運用会社が返り咲きの兆しを見せている。その他の国では、コロナ以降、旅行保険が不可欠となっており、入国する外国人旅行者にコロナ関連の医療費をカバーする海外旅行保険の加入を義務付ける国も増えていることから、旅行の急増が損害保険会社の追い風になるとみられる。
不動産
中国の不動産セクターはここ数カ月ボラティリティが高まっている。当該セクターの短期的ファンダメンタルズに大きな影響を及ぼした政府の政策引き締めは、同時に不動産の販売に打撃を与えデベロッパーへの融資を減少させている。これによって、財務体質がより脆弱なデベロッパーが複数、債務不履行に陥ったり債務償還期限の延長を余儀なくされたりしており、一方で他のデベロッパーの債券も流通市場で連れ安となっている。
当面は販売と流動性の低迷が続くとみており、複数のステークホルダーからの信頼を失った財務体質のより脆弱なデベロッパーの多くは引き続き苦戦を強いられる可能性がある。中期的には、当該セクターの見通しは以下の要因によって改善すると予想している。
- 政府の政策が徐々に緩和されるのに伴いデベロッパーの資金へのアクセスが回復
- 政府の規制により負債の削減を求められたデベロッパーのバランスシートが改善しシャドーバンキングへの依存度が低下
- 都市化の進行や世帯数の増加により不動産への需要基調が比較的安定して推移
政府の政策が緩和された場合、その恩恵をより直接的に享受するのは相対的に財務体質が強固で質の高いデベロッパーであるとみている。加えて、不動産セクターの資金調達や同セクターへの信頼を回復させる鍵となるのは引き続き政府の政策緩和だが、その時期と規模は比較的不透明である。そのため、当社では当該セクターに対して慎重なスタンスで臨んでおり、投資適格およびBB格の不動産企業を選好する一方、B格の不動産企業についてはより慎重な見方をしている。
インフラ・運輸
ワクチン接種率が世界的に上昇し入国規制が緩和されつつあることから、2022年にはアジアの航空セクターや関連インフラの信用ファンダメンタルズが安定して徐々に改善し、欧米の回復に大きく遅れをとっていたアジアが追いつくと予想している。ワクチン接種済み旅行者用トラベルレーンの設置が広がるとともに検疫要件が緩和されることにより、純粋に域内の繰延需要を受けて、観光旅行・出張ともに回復ペースの加速が期待できる。
港湾運営企業については、当社で調査対象としている企業の大半がコロナ禍にもかかわらず外的ショックに対して高い耐性を示し、2021年にはこれまで取扱量が堅調に推移してきた。当社では2022年もアジアの港湾運営企業に対してポジティブな見方を維持しているが、一方で中国、米国、EU(欧州連合)、オーストラリアのあいだで地政学的対立がエスカレートした場合は貿易取扱量の重石となり得るため、状況を注視している。
テクノロジー
中国の大手インターネット企業はかつて、その独占的な立場を利用して華々しい成長を享受してきた。しかし2021年は、政府が公正な競争やデータ・セキュリティ、消費者のプライバシーを理由に市場慣行の改善を目指すなか、国内の規制が強化された。当社では、規制強化が2022年も続き、その結果として競争が激化すると予想している。規制環境に加え、一部の主要な広告分野で予想されるマクロ経済活動の鈍化を受けて、大半のインターネット企業では事業の伸びが弱まり利益率が低下するとみている。こうした逆風材料はあるものの、債券発行体としての中国のインターネット企業は大半が非常に強固な資本基盤を有し負債比率が低い。その良好な信用特性によって、中国のインターネット企業は当面の事業変動や業界の低迷を乗り切るのに優位な立場にあると当社では考えており、このセクターに対する見方を中立としている。
一般消費者向けハードウェア企業は、2021年に業績パフォーマンスが持ち堪え、信用特性も改善した。業績の持ち堪えを支えたのは、消費者の需要の変化とコロナ禍でのテレワークへのシフトだった。2022年にかけては、世界が「ウィズコロナ」局面へと進むにつれ、ハードウェア企業のあいだで業績パフォーマンスが乖離すると予想する。一部の企業は、その製品への需要が消費行動の恒久的な構造変化に起因しているとみられることから、需給が何年もなかったほどタイトとなり力強い成長モメンタムを維持できると想定され、したがって、そのような企業に対してはポジティブな見通しを維持している。しかし、他の企業は、消費の弱まりや原材料投入コストの上昇によってコロナ関連の前倒し需要が衰える可能性があり、成長の鈍化が見込まれる。加えて、一部の企業は半導体不足やサプライチェーンの混乱からも打撃を受けており、当社ではこうした逆風が2022年も続くと予想している。サプライチェーンの分散度が低く原材料へのアクセスが限定的である企業は、事業の中断が起こりやすいと考えられるため、当社では慎重な見方をしている。
公益事業
2021年後半は、世界的な天然ガス不足や石炭価格の記録的な高騰の結果、世界主要国の一部で電力不足が発生し、火力発電会社の収益性が低下した。燃料費の高騰が続いていることから、当社では同様の状況が2022年前半も続くと予想している。さらに、低炭素経済への移行に対応するための規制コストや設備投資の増加が、火力発電会社(特に石炭への依存度が高い会社)にとって中期的な重石になるとみている。
公益事業セクターのなかでは、火力発電会社に対してあまりポジティブな見方をしていない一方、よりクリーンなエネルギー源への世界的な移行から追い風を受けるとみられる再生可能エネルギー企業については有望視している。アジア太平洋地域の火力発電会社に対する当社の慎重な見方は、高止まりしている燃料費、設備投資の増加、規制コストの上昇、そして資金調達環境のタイト化(特に石炭発電会社)が裏付けとなっている。
電気通信サービス
アジアの一部の通信サービス市場で最近見られた業界再編の動きは、2022年も続くと予想している。各国が外国人旅行者の入国受け入れを再開するのに伴い、ローミング・サービスが徐々に再開されると想定されるため、2022年にはアジアの通信企業の大半において売上げと利益が徐々に回復するとみている。5G(第5世代移動通信システム)の展開や、データ消費量の増加に対応するためのブロードバンド・ネットワークへの追加投資により、高水準の設備投資が続く可能性があるが、当社では大半の通信企業が堅実で規律ある設備投資アプローチをキープすると予想しており、セクター全体の信用特性について安定的な見通しを維持し、当該セクター全体に対するスタンスを中立としている。
石油・ガス
2022年の原油価格は需給関係に下支えされるだろう。原油の需給は、2022年第1四半期までタイトな状態が続いた後、年内に徐々に緩んでいくと予想される。原油の供給は2021年7月にOPECプラス(石油輸出国機構加盟国とロシアなどの非加盟産油国で構成する組織)加盟国が合意した内容に基づいて徐々に増加し、いずれは原油価格の正常化につながるとみられる。原油需要は、経済の回復と旅行の再開に伴い、2022年にコロナ前の水準に達すると予想される。
中長期的には、脱炭素化への世界的な取り組みが原油価格の見通しを左右すると考える。これによって、探鉱・開発・生産活動の継続に向けた石油メジャーの炭化水素資源投資が抑制されることになるだろう。最初の数年間においては原油は非弾力的な想定需要が予想されるため、供給サイドの動向が石油価格を左右する主な要因になるとみられる。そのようなシナリオの下、原油価格は十分に下支えされて高い水準にとどまると予想する。
アジアの石油・ガス企業のうち、上流分野の企業は2022年に価格の上昇と生産量の回復を受けて好調な収益が見込まれる。下流分野の企業についても、低い水準にあった精製マージンの改善に伴って収益性が回復するとみており、その結果として信用特性が堅調さを維持すると考える。アジアの国営石油会社は引き続き政府の強力な支援を享受するだろう。これらの企業は、化石燃料からの構造的なシフト下にあっても、域内の石油純輸入国のエネルギー安全保障を確保する上で、今後何年にもわたり高い戦略的重要性を持つと予想される。当社では、アジアの石油・ガス・セクターに対するスタンスを中立としている。
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