本レポートは、2021年6月16日発行の英語版「Reaping big rewards in Asian small caps」の日本語訳です。内容については英語の原本が日本語版に優先します。

日興アセットのアジア株式チームのメンバーでシニア・ポートフォリオ・マネジャーであるグレース・ヤン氏が、Citywireのアジア部門ベスト・ファンド・マネジャー賞受賞という最近の栄誉の背景にある潜在的理由や、アジアの小型株分野で隠れた珠玉銘柄を発掘することに対する同氏の情熱について語ってくれました。

最近発表されたCitywireアジア・アワード2021で、アジア太平洋中小型株式部門のベスト・ファンド・マネジャー賞を受賞されました。今回の受賞についてお気持ちをお聞かせ下さい。

今回の受賞は、アジア小型株投資の分野における当社の多大な努力の証だと考えています。受賞したことをうれしく誇りに感じるとともに、アジア株式チームの皆さんに対して、アジア小型株戦略の成功を支えそれに貢献して下さったことへの感謝の意を表したいと思います。アジア全般には見過ごされている小型企業がたくさんあり、その多くはバリュエーションが魅力的な水準にあります。また、アジア小型株のユニバースが提供する大きな投資機会群は、当チームのようなアクティブ運用の投資家がボトムアップの銘柄選択を通じて潜在的な勝ち組の見極めと負け組の回避を行うことができる領域を広げてくれます。今回の受賞が当社ファンドに対する認知度の向上に寄与することを期待しています。

さらに、今回の受賞が、当社の他の女性ファンド・マネジャーにとって支えになるとともに、他の女性アナリストがファンド・マネジャーを目指すきっかけになればうれしいです。私は、大西洋を単独で横断飛行した初めての女性飛行士であるアメリカの航空パイオニア、アメリア・イアハートの名言を座右の銘としています。それは、「一番難しいのは行動に移すという決断で、あとは粘り強くやるだけ。恐れは張子の虎のようなもの。自分がやると決断したことは、どんなことでもできる。行動を起こせば人生を変えて思い通りにすることができ、そしてその手段、そのプロセス自体が報いなのだ。」というものです。

アジアの小型株投資に関心を持つようになった時期はいつ頃で、きっかけは何ですか。

アジアの中小型株に実際に関心を持ち始めたのは、実はキャリアの初期である2008年です。当時、私はドイツ・アセット・マネジメントに務めていて、株式アナリスト兼アシスタント・ファンド・マネジャーとして韓国・台湾・シンガポールの中小型株を5年半程担当していました。小型株は、私が常に関心や情熱を持ってきた分野です。私にとって小型株投資は、大木に成長する見込みのあるどんぐりを探すようなものです。小型企業は、決断・行動が機敏で成長が早く発展の初期段階にあるため、市場機会を素早く捉えて並外れた利益成長を生み出し、大型企業よりも早いペースで内部資本を積み上げることができます。 成功している小型企業の多くは、ニッチで実現可能規模が非常に大きい市場において自社よりも大きい企業に対抗できることを示してきました。アクティブ運用のファンド・マネジャーとしての立場から言うと、アジアの小型株投資は、銘柄選択がまさに付加価値をもたらすという株式アクティブ運用の神髄を含んでいます。小型株投資は将来の勝者を見出すことであり、これがアジアの小型株分野における私の情熱の原動力となっていますが、当分野では情報ギャップに伴うミスプライシングが広く生じており、収益機会が多く存在します。

日興アセットのアジア小型株戦略の投資哲学および運用プロセスについて教えて下さい。

小型株アクティブ運用における当社独自のスタイルは、長期にわたる運用実績を有するとともに(ベンチマークと競合他社商品の両方に対して)長期的に良好なパフォーマンスを実現してきており、長年にわたってお客様に付加価値と超過収益をもたらし続けてきました。簡単に言うと、当社の小型株運用は、「ベスト・アイデア戦略」と考えることができるボトムアップ株式戦略です。当社戦略の独自性は、銘柄選択とポートフォリオ構築の方法にあり、そのポートフォリオは運用チームがベスト・アイデアと考える銘柄を中心に構成されます。

基本的に、当戦略では持続可能な利益とファンダメンタルズの変化の両方またはいずれかを実現できる銘柄の発掘に努めています。持続可能な利益の例は、高いROE(自己資本利益率)や着実な利益成長などです。ファンダメンタルズの変化の例としては、新経営陣、戦略や方針の変更が挙げられます。そのような特性に加えて、ESG(環境・社会・ガバナンス)の観点からも評価を行います。特にアジアでは域内の各市場が多様であるため、ESG分野を重視することが超過収益を達成するのに重要だと考えています。これが小型株にとって特に重要なのは、多くの小型企業が一般の評価機関などからESG格付けを付与されておらず、したがって当社アナリストが自身で分析やエンゲージメント(対話)を行う必要があるからです。

運用プロセスとしては、まず、当戦略独自のアイデア創出プロセスを通じて有望かつリサーチ・カバレッジが不足しているアジア小型株を特定します。詳細な情報をもっと収集するために、業界のカンファレンスに出席するとともに経営陣との電話会議や域内の小型企業への訪問を行います。対象企業の財務諸表を徹底的に分析した上で、財務体質がより脆弱な銘柄を排除し、ポートフォリオ構築に向けて堅固なバランスシート、持続可能な利益、ポジティブなファンダメンタルズの変化を持つ銘柄を絞り込みます。

ポートフォリオ構築の段階では、各銘柄に対する運用チームの確信度に基づいてその組入比率を決定します。その小型株銘柄に対する確信度が高いほど、ポートフォリオにおける組入比率は高くなります。また、ポートフォリオの国別およびセクター別の(ベンチマークに対する)オーバーウェイト/アンダーウェイトについては、マクロ経済的な要因ではなく、運用チームが持っている確信度と最良の投資アイデアを見出している分野に従って決定します。投資先企業のファンダメンタルズやESG格付けが悪化した場合は、ポジションの削減や全額売却を行います。当戦略ではベンチマークにとらわれない運用を行っているため、ポートフォリオに組み入れている銘柄の多くはベンチマーク構成銘柄ではありません。

アジアでESG特性が優れている小型企業を見出すのは難しいですか。

当社がリサーチ・プロセスや投資哲学にESGを取り入れている理由は、投資先企業が地域社会やコーポレート・ガバナンス全般を重視することを担保するためです。アジアの小型企業はESGのポリシーや実践において劣っていると見なされていますが、それは必ずしも本当ではありません。当運用チームは、徹底的なリサーチで得た知見やアジア現地に根付いた知識があることから、小型株であってもESGの実践で優れている企業を見出すことができます。

ESGやCSR(企業の社会的責任)の面で上位にランクする小型企業の例として、鮮活控股(Sunjuice Holdings)が挙げられます。同社は、濃縮果汁や果肉、フルーツ味粉末を製造する台湾の川中部門の食品企業で、中国で操業しています。同社は「サステナブル(持続可能)な農業」に取り組んでおり、中国で土地を借りて現地の人を雇用する形で無農薬果樹園を運営しています。農薬を使用しないため、害虫や雑草の防除に他のリソースを振り向けなければなりませんが、同社の会長は「質の高い果物を育てるためには、まず環境に配慮する必要がある」ということを理念としています。サステナブルな生産に注力する同社は、生産過程で出る産業排水の処理も行い、それを利用して有機肥料を製造しています。また、工場やオフィスで省エネルギー技術に取り組むとともに、生産廃棄物のリサイクル(再生利用)やリユース(再利用)を行って有効利用の最大化と廃棄の防止に努めています。さらに、同社は男女平等を提唱しており、報酬に関するポリシーや男女従業員間での給与情報を定期的に開示しています。双子を出産する女性従業員に対しては、出産手当の増額給付も行っています。このように、同社には非常に優れた企業文化があり、当社のアジア小型株戦略では上位保有銘柄の1つとなっています。

アジア小型株分野における当チームのその他の競争優位性について教えて下さい。

当戦略でカバーしているアジア各国の現地の言語を話せるという点は、アジアの小型株分野では強みとなります。域内の小型企業の経営陣は、それぞれの国の母国語でコミュニケーションを取ろうとする傾向があるからです。例えば、中国では小型企業の経営幹部の多くが英語を話さず、彼らとコミュニケーションを取る唯一の方法は中国語(北京語)となります。この点で、チーム内に多数の言語を話せるファンド・マネジャーやアナリストを擁していることは、当チームに競争優位性をもたらしています。さらに、小型企業と現地の言語を使ってコミュニケーションを行うことは、当該企業の経営陣との信頼関係を築く上で役立つとともに、各国市場の微妙な違いを理解することを可能とします。

2020年は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)の影響で多くの投資家にとって厳しい年となりましたが、相場のボラティリティが高まった昨年の局面からは何を学びましたか。

確かに2020年は、金融市場のみならず日常生活においても大きな不透明感に直面するという辛い経験を強いられました。私が学んだ主な点は、持続可能な利益とファンダメンタルズの変化の両方またはいずれかが主要なリターンのドライバーとなり得るという当戦略の中核的信念を、ぶれずに維持するのが重要だということです。外部環境は大きな変動をもたらすことがあり、私達の確信はそれによって頻繁に試されますが、確信度の高い銘柄の保有を継続する勇気と誤った場合に自らの失敗から学ぶ謙虚さを持つことが大切です。結局のところ、私達は市場から学ぶ立場にあり、学ぶべきことはまだまだたくさんあります。

新型コロナウイルスのパンデミック下においてESG面で優れている企業に投資することは、当チームに独自の経験とさらなる目的意識をもたらしました。責任ある機関投資家として特に心を打たれるのは、当戦略の投資先企業が今回の未曾有の危機において地域社会への還元や従業員・ステークホルダーへの支援を行っていることです。例えば、保有銘柄の1つで中国のアパレル企業である江南布衣(JNBY Group)は、昨年ロックダウン(都市封鎖)措置が実施された際に店舗休業を余儀なくされたにもかかわらず、従業員に給与を満額支払うことを確約しました。また、販売店に対して在庫の一部返却を許容するとともに、従業員向けに新型コロナウイルスの保険に加入しました。別の例として、視力矯正用レーザー装置および技術サービスを提供する台湾の大学光学科技(Universal Vision Biotechnology Company)は、湖北省の医療従事者約100人にレーシック手術を無償で、医療スタッフ約500人に屈折矯正手術を最大30~50%割引して提供しました。同社の企業イニシアチブに参加した人は2,000人を超えています。当戦略の投資先企業によるこうした思いやりのある行為は実際、ファンド・マネジャーとしての我々の仕事に新たな目的や意義、経験をもたらしてくれました。

特定の証券に関するすべての言及はあくまでも説明を目的としており、本レポートの発行日時点のものです。これは言及された特定の証券に関する投資推奨ではなく、いかなる保証も提供するものではありません。

困難な環境下でも、アジア小型株戦略(日本を除く)は2020年に80%超(米ドル・ベース)とベンチマークの3倍を超えるリターンを実現しました。このような偉業を達成できた理由、また昨年特にパフォーマンスが好調だった保有銘柄について教えて下さい。

当戦略の保有銘柄の多くは、2020年第1四半期には新型コロナウイルス感染症のもたらした不透明感によって株価が急落しましたが、その後の3四半期には力強い回復を見せ、年間リターンが2桁台のプラスとなりました。実際、当社のアジア小型株戦略のポートフォリオに組み入れている銘柄の多くはバランスシートのネットキャッシュがプラスであり、つまりすべての債務を支払った後でも余剰キャッシュが残ることになります。2020年3月に市場が大幅な下落に見舞われた際でも、保有銘柄のバランスシートが堅固であった当戦略はベンチマークをアウトパフォームすることができました。ここで、昨年のパフォーマンス上位銘柄を幾つかご紹介しましょう。

韓国の大手ドラマ制作会社Studio Dragonは、「愛の不時着」や「ザ・キング:永遠の君主」をはじめとする主要な大ヒット作のおかげで、株価が2020年に好調なパフォーマンスを示しました。160タイトル超と韓国最大の知的財産ライブラリーを有している同社は、コンテンツ需要の世界的な高まりが追い風になっています。ネット経由の動画配信サービス企業は、Netflix、Apple、Disney、港娯(Viu)、愛奇芸(Iqiyi)などがこぞってグローバルに事業展開するなか、足元で独占配信のオリジナル・コンテンツに注力しています。2020年はStudio Dragonにとって新たな試金石となった年で、同社がNetflixオリジナル・ドラマとして制作した「Sweet Home -俺と世界の絶望-」が米国で最も視聴された上位プログラムに韓国の番組として初めてランクインし、韓国ドラマが視聴されるのはアジアでのみというそれまでの壁を打ち破りました。

インドのVoltas Limitedもパフォーマンスに大きく貢献しました。同社はインドの住宅用エアコン大手で、同国における所得の増加に伴う白物家電の販売の伸びから恩恵を受けやすい立場にあります。また、政府が国内生産を後押しすべく冷媒を使用するエアコンの輸入を禁止するなど、政策も同社の追い風となっています。市場の再編も同社に有利に働くとみられます。

2020年は、良好なリターンをもたらした組入銘柄が多かった一方で、難しい判断を迫られた事例もありました。インドネシアでは、自動車部品メーカーのPT Selemat Sempura Tbkが事業環境の厳しさから継続的にアンダーパフォームしました。インドネシアでロックダウンが実施されたことも相まって、同社は業績が落ち込みました。元々は同社が大型トラック分野の成長から恩恵を受けると予想していましたが、そうした展開にはなりませんでした。香港では、レストラン運営会社である唐宮(Tang Palace)を全額売却しました。新型コロナウイルスのパンデミックによる店舗休業によって事業に悪影響が生じ減益に見舞われた同社については、バリュエーションは魅力的であったものの、収益の回復は遅れると判断しました。時期をみて組入れを再検討したいと考えています。

最後に、アジア小型株の当面の見通しをお願いします。

アジアの小型企業は、バリュエーションの面で引き続き魅力的に映っています。また、収益成長においても、比較対象となる昨年の水準が低いというベース効果や景気回復を追い風として、2021年に力強い伸びが予想されます。セクター別では、最も高い確信を持っているのは引き続き消費セクターで、一部の銘柄で質の高い成長が見込まれ、特にファンダメンタルズにおいてポジティブな変化を示しているにもかかわらず過小評価されている企業に注目しています。当戦略では引き続き、マクロ経済リスクを認識しながら、企業のコア・ファンダメンタルズに注目し、ボトムアップの観点からポートフォリオを構築していきます。


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当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。