本稿は2021年12月15日発行の英語レポート「2022 Global Fixed Income Outlook」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

2022年のコア債券市場、新興国債券市場およびグローバル・クレジット市場の見通し

コア市場の見通し

スティーブン・ウィリアムズ/コア・マーケット ヘッド・ポートフォリオ・マネジャー

さて、結論から言うと、「一過性」という言葉は存在せず、唯一一過性なのは「一過性」という言葉そのものなのかもしれない。米FRB(連邦準備制度理事会)は、膨張するインフレへの対応として今やテーパリング(量的緩和の漸進的縮小)のペースを倍増させると予想されており、これを受けて債券市場は少なくとも売り込まれるだろうと思われた。しかし、オミクロン株の登場により話は変わった。この新型コロナウイルスの新しい変異株は感染力が強いものの毒性は弱いとする予備データもあるが、今のところ挙げられる裏付けは事例証拠しかなく、もし毒性が従来と変わらないとすれば、複数の国でロックダウン(都市封鎖)が実施され再び感染拡大による景気鈍化が起こる事態となるかもしれない。

対処しなければならないのがインフレだけならばよかったが、今回のサイクルは決して典型的なものとは言えない。当社では楽観的な見方を維持しており、感染力がより強いものの毒性はより弱いウイルスということであれば、入院の劇的な増加につながらないだろうと考えている(この言葉を後悔しないで済むことを願う)。インフレ率が40年ぶりの高水準にあり、当該新変異株が大掛かりな対策を必要としない可能性が高いことを考えると、FRBはテーパリング・プログラムを加速させて2022年の第2四半期初頭までに利上げを行う選択肢を持てるようにする必要があると考えるが、債券市場はまったく意に介していないようだ。米国の失業率は完全雇用とされる3.5%の水準に急速に近づきつつあり、当社ではFRBが色々な方面からの利上げ圧力に晒されることになるだろうとみている。要するに、2022年は新型コロナウイルス流行下での高インフレ「コービッドフレーション」(これは新しい経済現象として認識されるべきだと考える)という主要シナリオが続きFRBがハト派化ではなくタカ派化する、というのが当社の予想である。

米国のインフラ法案は超党派的支持を得て楽勝の可決となった。ジョー・バイデン大統領の「ビルド・バック・ベター(よりよき再建)」(BBB)法案は、インフレが過熱していることから民主党の中核穏健派を動かすことはできそうにない。どのような内容になるにせよ、規模はおそらく1.5兆米ドル以下になると考えるが、それはBBBが仮にも可決された場合のことで、現時点ではその可能性は低い(2022年になればバイデン大統領の運が変わるかもしれないが)。世界的なサプライチェーンの混乱はいずれ収束し、労働力は賃金の上昇を伴いながらも確保されるとみている。地政学的リスクについては、ロシアがウクライナ国境に軍を集結させていることから再燃しそうな様相だが、クリミア侵攻に対する前回の反応からして、これが複数の国を巻き込む紛争に発展するとは考えにくい。

欧州では、パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の終了と資産購入プログラム(APP)の増額、そして固定の月次目標額からより曖昧な目標への移行が話題の中心になるとみられる。しかし、欧州は、主要国の経済成長率がゼロに近づきつつあるとともにインフレ率がECB(欧州中央銀行)の目標である2%を下回る可能性が高いなど、米国に比べてより困難な状況に置かれていると思われる。欧州は、2022年にまったく利上げが見込まれないという点で先進国のなかで例外的な地域となり続け、現在市場に織り込まれている水準からすると2023年の利上げさえも疑問視されると考える。いずれにせよ、ユーロの対米ドル・ヘッジで大幅なキャリーが得られることから、当社ではイールドカーブがよりスティープな欧州債券の為替ヘッジ・ベースでの保有を依然選好している。政局については2022年4月に行われるフランス大統領選挙がその行方を占うことになりそうで、エマニュエル・マクロン大統領は右派のバレリー・ペクレス候補からの追い上げ加速に直面しているが、世論調査では現大統領が引き続き本命となっている。

最後に、2021年には、多くのステークホルダーのあいだで気候変動対応への関心が高まった。特にグリーンボンドへの投資意欲は、気候関連目標や環境保護を達成するための資本市場投資の拡大を動かしている。こういった金融商品の成功が反映しているのは、企業や政府の決定が環境に及ぼす影響を投資家がますます意識するようになっており、より持続可能な世界を確実なものにするために投資パフォーマンスにおいてかかるコストを進んで受け入れているということだ。2022年には、米国を中心にグリーンボンドを出す発行体が増え、モーゲージ証券、ローン、地方債などに拡大するとみている。2022年内には起こらないかもしれないが、米国財務省がグリーン短期国債の発行を検討しているのは確かだ。これが実現すれば当該資産クラスにとって真の試金石となることから、2022年における進展を楽しみにしている。

新興国債券市場の見通し:2022年は利回りを求める投資資金が新興国債券に

ラファエル・マレチャル/エマージング マーケット ヘッド・ポートフォリオ・マネジャー

2021年を振り返って

新型コロナウイルスのワクチン接種の推進や移動制限の後退、経済のフル機能への復帰が進む見込みを受けて市場センチメントが好転したにもかかわらず、2021年の新興国債券はパフォーマンスが低調となった。本稿執筆時点で、JPモルガンが算出している現地通貨建て新興国債券インデックスの年初来リターンは、米ドル・ベースで10%近くのマイナスとなっているが、その主因は新興国通貨の対ドルでの下落にある。ハードカレンシー建て新興国債券も、ソブリン債・社債ともに、保有債券から得られる高水準のクーポン収入を債券価格の下落が相殺してしまい、冴えないパフォーマンスとなった。

2021年初頭の時点では、成長見通しは大きなベース効果、在庫の再構築、内需の再開を追い風として良好であった。しかし、世界各国で実施された金融・財政政策による景気刺激策の規模と生産能力とのあいだにミスマッチがあることがすぐに明らかとなり、これによって生まれた価格圧力がサプライチェーンの混乱を受けてさらに悪化した。

インフレ率の上昇とFRBのテーパリングに伴うドル高の脅威に直面したいくつかの新興国は、先進国にかなり先んじて積極的に金融政策の引き締めに乗り出すことを決めた。物価上昇圧力の先を行くよう最大限の努力をした国々は、通貨がアウトパフォームするという形で明らかに報われた。反対に、トルコリラは、同国のレジェップ・タイップ・エルドアン大統領が高インフレにもかかわらず借入コストの引き下げを求めたため、パフォーマンスが最も悪化した通貨の1つとなった。各国の金融政策の乖離は2021年を通じて当社にとっての重要なテーマとなり、金利および通貨において多くのパフォーマンス格差と超過収益機会を生み出した。

2021年におけるもう一つの重要なテーマは、中南米で起きた政局のシフトだった。同地域の大半の国では保守系右派の政権が数年続いてきたが、今では変化の風が吹きつつある。これには、経済パフォーマンスへの不満、格差の拡大、コロナ危機対策の失敗、ロックダウン期間に拡張的財政を経験した後での緊縮財政への回帰など、数多くの理由がある。変化の口火を切ったのはペルーで、大統領選での不正疑惑を晴らしたペドロ・カスティジョ氏がついに次期大統領に確定した。同様に、12月中旬に行われるチリ大統領選挙の決選投票でも、左派のガブリエル・ボリッチ氏が(リードを狭めているものの)勝利を収める可能性がある。コロンビアでも、税制改革が非常に不評の保守派が2022年の選挙に向けて圧力に晒されている。やはり2022年に選挙を控えているブラジルでも、左派が右派のジャイル・ボルソナロ大統領から政権を奪取すべく奮い立っており、実際、中南米にわたって吹いている変化の風に鼓舞されたルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバ元大統領が、すでに政権復帰の可能性に向けて準備を進めている。

見通し

2022年は、FRBが利上げサイクルを開始すると予想されており経済成長が鈍化する可能性があるため、新興国資産のリターンにとって困難な状況が続くことになるかもしれない。経済成長は、おそらく2021年のサイクル当初ほどの堅調さはないだろうが、経済活動の再開に伴う大幅なベース効果により、潜在成長率を上回る水準にとどまるとみられる。FRBが緩和姿勢を後退させると想定されることから、新興国通貨は少なくとも2022年前半は逆風の続く可能性があり、各国の個別状況に基づいて慎重な選別を行うことが引き続き市場モメンタムよりも重要となるだろう。

短期的により興味深いのは、新興国の金利かもしれない。新興国の金利は2021年にすでに大幅に上昇しており、いくつかの新興国ではすでに利上げサイクルが進行していることを考えると、2022年序盤には利回り水準の高さを支えとして現地通貨建て債券が堅調な展開となる可能性があり、その後、年後半には通貨が対ドルで上昇できるだろう。現段階で、新興国の中央銀行は、コロナ関連の緊急緩和措置をすべて2021年のうちに実質的に解除している。実質金利をプラス圏に戻すことが通貨安定のカギとなり、FRBの動きに備えた追加保険にもなるため、来年には追加の引き締めが実施されるとみられる。それでも、今回の引き締めサイクルが終わりに近づくに従い、多くの新興国では2022年第1四半期の終わりにかけてデュレーション長期化の機会が次第に浮上すると予想している。一部の新興国ではイールドカーブがすでに長短逆転しており、賢明な中央銀行によって長期インフレ期待が十分に抑えられていることを証明している。

加えて、忘れてはならないのは、食品価格とエネルギー価格のベース効果が2022年のインフレ圧力に下方作用をもたらすとみられることだ。これにコロナ関連規制の解除の進行や労働力不足・供給ボトルネックの緩和も考え合わせた結果、2022年にはインフレ面でポジティブ・サプライズの起こる可能性が非常に高いと考える。最後に、タイミングについてだが、過去のFRBの利上げサイクルにおける事例からすると、新興国の現地通貨建て債券の利回りはFRBの利上げ見通しが市場に織り込まれていく過程で上昇し、利上げが実際に実施されると低下し始める傾向がある。しかし、ドル高は利上げが実施されているあいだも続く傾向があり、新興国通貨が有望な投資先となるのは2022年後半だろう。

ハードカレンシー建て新興国債券については、経済成長と経常収支が良好な状況にあることから、FRBが引き締めを行ったとしてもミッドサイクル(景気サイクル中盤の拡大期)環境がそれほど混乱することはないだろう。経常収支はコロナ前の水準へと収束するにつれて若干悪化すると予想されるが、この主因となるのは、コモディティ輸出国の若干の交易条件悪化と新興国の内需回復である。

リスク

今後の見通しに対する明らかなリスクは、ワクチンによる防御効果を回避できるような新型コロナウイルスの新変異種が出現することだ。しかし、これは周知のリスクであり、感染拡大初期に発生した変異株のようなサプライズや破壊的影響をもたらすことはないだろう。同様に、多くの市場参加者はテーパー・タントラム(2013年にFRBが量的緩和の縮小に言及したことによって引き起こされた金融市場の混乱)の再現を恐れているようだが、これも、FRBが投資家への不意打ちとならないよう細心の注意を払っているため、考えにくいというのが当社の見方だ。さらに、多くの新興国は、外貨準備、そして外貨建て債務や短期借り入れへの依存度低減による債務体質の耐性強化という形で、じっくりとバッファーを構築してきている。経済成長については、主な悪材料となり得るのは、中国経済のリバランスが無秩序なものとなることや、同国で財政・金融政策による支援の早計な引き揚げという国内政策ミスが起きることである。これに関しても、12月初旬に実施された預金準備率の引き下げによって、中国当局が現実主義的であり必要であれば「共同富裕」の推進を一時停止する用意があることを再認識できたと言える。

先進国では実質利回りが大幅なマイナスとなっている(名目利回りすらもマイナスの場合がある)ことから、投資家は引き続きバリュエーションが魅了的な資産を求めており、今後も新興国債券への配分を増やし続ける以外にほぼ選択肢がないと当社では考えている。

グローバル・クレジット市場の見通し

ホルガー・マーテンズ/グローバル・クレジット ヘッド・ポートフォリオ・マネジャー

2021年を振り返って

グローバル・クレジット市場では最近、バリュエーションの割高さがよく話題となっている。数年にわたってスプレッドの縮小が続いてきた今、クレジット市場は割高に見える。とはいえ、2021年を振り返ってみると、バリュエーションの状況はまたしてもクレジット市場が大半の先進国の国債市場をアウトパフォームする妨げとはならなかった。新型コロナウイルスの感染がデルタ株という形で再び拡大するとともに、インフレの数値が急上昇しても、グローバル・クレジット市場は狭いレンジでの推移にとどまった。2021年におけるこれら2つの悪材料を順調に乗り切ったグローバル・クレジット市場は、2022年もレンジ相場が続き再び国債をアウトパフォームすると予想している。潜在的なリスクシナリオとしては、世界の中央銀行の政策ミスに続く金融引き締めの積極化や、今後数ヶ月における新型コロナウイルス感染者数の大幅な再増加などが考えられる。これらの状況のいずれかが現実化した場合は、スプレッドがある程度拡大する可能性があるが、当社では強力な需給要因によってスプレッドが狭い取引レンジに戻ると予想している。需給状況に関しては、債券市場での利回り不足を主な追い風としてグローバル・クレジット市場への資金流入が進むとみている。特に、米国のクレジット市場は国債市場には見出されない魅力的なインカムを依然提供しており、またアジアのクレジット市場も2021年の下落分をある程度回復する可能性がある。

しかし、世界各国の中央銀行がクレジット市場全体を押し上げ市場そのもののリターンがパフォーマンスを牽引した2021年とは異なり、2022年は適切な投資機会を見出す運用者のスキルが試されることになるとみている。

2022年は、当社の定量的・定性的なスキルをフルに活用しながら、4つの主要投資テーマに基づいてポートフォリオを構築していく方針である。

2022年の4つのテーマ
  1. BB格クレジット
    当チームでは現在、AA/A格のクレジットものに対してBB格のクレジットものを選好している。すでにここ数ヶ月間で一部の銘柄がBB格から投資適格に格上げされており、その最も顕著な例の1つが米国の動画配信プラットフォームのNetflixである。当社ではこのような傾向が今後も続くと予想しており、2022年は発行体の信用評価指標がコロナ禍から完全に回復して格上げの年になる可能性があるとみている。それに対して、投資適格企業は見通しが大幅に暗いと言えるかもしれない。世界各国で進められている法人税率の引き上げを受けて、A格やAA格を維持するためのコストが上昇しているため、費用対効果の観点からBBB格でも受け入れる企業が増えると予想する。
  2. ESG
    当社ではESG(環境・社会・ガバナンス)が強力なパフォーマンス・ドライバーになると予想しているが、当社にとってESGは単にグリーンボンドへの投資を進める以上の意味を持つ。当社が投資アイデアを実行するのは、そのアイデアがパフォーマンスに意味のあるプラス効果をもたらすと考える場合のみだ。例えば、2021年には、不動産セクターの一部の債券がコーポレートガバナンス面の脆弱さから2桁の価格下落に見舞われた。そのような状況を回避することが安定した投資リターンを支えるとともに、ESG、特に優れたコーポレートガバナンスの重要性を浮き彫りにしている。
  3. 低相関または逆相関
    ポートフォリオ運用チームでは、ポートフォリオの残りの部分に対してパフォーマンス結果の相関が小さい、あるいは相関がマイナスであるような投資アイデアを常に探している。例として挙げられるのが中国の政策銀行債で、そのトータルリターンはポートフォリオの残りの部分との相関がほとんどない。中国の政策銀行債は最近、インフレ不安を受けて大半の先進国市場のリターンがマイナスとなるなかで、プラスのトータルリターンをもたらした。
  4. 中国のオフショア・クレジット市場
    (2021年に売りに見舞われた)中国のオフショア・クレジット市場は、バリュエーションが魅力的な水準にあることから、再び投資機会が浮上してくると予想する。大半のクレジット市場では、スプレッドの分散度が低く銘柄の選別が難しいが、中国の状況は異なっており、最近の下落によって、経験豊富なクレジット・アナリストの綿密なクレジット・リサーチが報われるような興味深い投資機会がもたらされている。

上記の4つの投資テーマに加え、重要な要素は他にもあり、その1つがポートフォリオ構築だ。単に投資アイデアを生み出すだけでなく、それを効果的にポートフォリオに取り入れることが重要である。当チームのポートフォリオでは、投資テーマを1つや2つのみに集中させることなく均等に分散することを目指している。この戦略により、ここ数年にわたって安定した超過収益を生み出すことができている。さらに、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)インデックスなどクレジット市場で最も流動性の高い金融商品を活用することにより、通常は流動性が枯渇してボラティリティが高まるような時期にもポートフォリオのポジション変更を行えるようになってきている。

十分にリサーチした投資アイデアと体系的なポートフォリオ構築の組み合わせが、2022年のグローバル・クレジット戦略に恩恵をもたらすものと考える。


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