当レポートは、英語による2021年9月28日発行の英語レポート「Funding high impact climate action with green bonds」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

過去5年間の平均気温は観測史上最も高いものとなった。2020年までの10年間で、地球の地表温度は産業革命前の時代(1850~1900年)と比べて1.09℃上昇した1。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、気温上昇が2℃のレベルになると生態系や人間の健康への極めて深刻な影響が想定され、これを回避するためには地球温暖化を1.5℃未満のレベルで安定させることが非常に重要であると警告している2

私たちは、気候変動に伴う天候不順や異常気象の例をすでに目の当たりにしている。本稿を執筆しているあいだにも、壊滅的な山火事がトルコやギリシャ、米カリフォルニア州を襲っているが、最近ではそのような山火事が不穏なほど頻繁に起きている3。気候エネルギーソリューションセンターは、山火事のリスク・規模を拡大させている「主な要因」は気候変動だとしている4。また、2021年半ばにドイツとベルギーで発生した致命的な洪水は、過去1,000年において観測されたことのない多量の降雨が原因だった5

最近発表されたIPCCの画期的な研究では、早急な対策が講じられなければ20年以内に気温上昇が警戒水準である1.5℃を超える可能性が高いと警告している。この研究の推定によると、CO2の総排出量を500ギガトン(5,000億トン)未満に抑えた場合でも、気温上昇が1.5℃未満にとどまる可能性は50%に過ぎない6

世界のCO2排出量が2019年に約364億トン、2020年に約340億トンであった7ことを考えると、現在の「カーボン・バジェット(炭素予算)」(地球温暖化をある一定の水準に抑えようとする場合に世界全体で許容される人為的な累積CO2排出量の最大値で、気温上昇を1.5℃に抑える場合は約500ギガトンと推定される)は15年も経たずに使い尽くされてしまう可能性がある。2020年には新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)に関連してロックダウン(都市封鎖)が広く実施されたにもかかわらず、CO2排出量は6.6%しか減少しなかった。この減少の大半をもたらしたのは運輸セクターであったが、温室効果ガス排出量が多い上位3セクターは電力、工業生産、農業である8

つまり、やるべきことはまだまだ多く、しかも早急に行う必要がある。



1https://www.bbc.com/news/science-environment-58130705
2https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/2018/11/pr_181008_P48_spm_en.pdf
3https://www.aljazeera.com/news/2021/8/7/at-least-8-missing-as-historic-california-wildfire-rages
https://apnews.com/article/europe-fires-athens-heat-waves-4fca06093b6e4c0c463210dfe7fb4cfb
4https://www.c2es.org/content/wildfires-and-climate-change/
5https://www.nytimes.com/2021/07/16/world/europe/germany-floods-climate-change.html
6https://www.bloomberg.com/news/features/2021-08-09/ipcc-report-human-caused-climate-change-unequivocal
7https://www.statista.com/statistics/276629/global-co2-emissions/
8https://www.epa.gov/ghgemissions/global-greenhouse-gas-emissions-data


気候変動抑制の取り組みの現状

現実的には、炭素排出量の削減で求められる目標をそれだけで達成できる単一の包括的なソリューションはない。電気自動車や再生可能エネルギー源への全体的な転換は大きな変化をもたらすが、技術的、社会政治的、経済的な障壁は依然残る。

例えば、IEA(国際エネルギー機関)は原子力発電をエネルギー転換のために「不可欠な基盤」としている9が、社会政治的な反発が強いことからドイツなどの国では段階的に廃止されつつある。

また、太陽光や風力などの再生可能エネルギー源では、電力生産量が自然条件により変動する問題に取り組まなければならない。こうしたエネルギー源に完全に切り替えるには、コスト効率の高いエネルギー貯蔵ソリューションが必要となる。ある有名な研究では、ベースロード需要(1日当たりの最低電力需要)を常に満たすためには、蓄電コストが1kWh(キロワットアワー)あたり20米ドルを下回る必要があるとしている。この目標は、需要を満たす割合が95%で済めば1kWhあたり150米ドルまで上昇する10。そこで朗報となるのは、リチウムイオン電池パック(主には電気自動車で使用されているが)の蓄電コストは現在137米ドル/kWhに達しており、今後もさらに低下する一方と予想されていることだ11

新手の技術的ソリューションの多くは、まだ開発段階にある。例えば、製造過程の炭素排出量が正味ゼロである素材「ゼロカーボン・コンクリート」は、長年渇望されてきた。コンクリートは世界で2番目に消費量の多い製品で、温室効果ガス排出の大きな要因となっている。マッキンゼー社の分析で結論付けているように、「ゼロカーボン・コンクリート」という目標を達成するには、新たな技術や代替建材が唯一の手段となるかもしれない12

結局のところ、気候変動による最悪の影響を阻止するのに必要な炭素排出量目標を達成するには、新たな技術の開発と現在の技術を向上させる取り組みを組み合わせる必要があるだろう。どちらも重要であり、ともに資金を必要とする。そこで問題となるのは、それらのプロジェクトに資金を配分する最善の方法は何かということだ。

気候変動対策のための資金調達

必要とされるソリューションが多様であるように、資金源も多様であるべきで、ベンチャー方式、株式、債券など多方向からのアプローチが必要となる。例えば、ベンチャー方式の投資は、そのような投資のハイリスク・ハイリターンの特性から、新手の技術的ソリューションへの資金調達に最も適していると思われる。ベンチャー・キャピタルは、その資金の流入先である革新的で進取的なスタートアップ企業の多くが統計的に失敗すると想定されるが、最終的に成功する例外的企業を発掘することができる。

気候変動は地球規模で起こっており、これは、国際機関や各国政府から個々の企業に至るまであらゆるレベルの主体が気候変動抑制の取り組みに関わらなければならないことを意味するが、大規模なエネルギー転換を推進しその実現に必要なインフラ支出にゴーサインを出す力を持っているのは政府だけである

そこで活用されるのが債券だ。



9https://www.iea.org/reports/net-zero-by-2050
10https://www.cell.com/joule/fulltext/S2542-4351(19)30300-9
11https://about.bnef.com/blog/battery-pack-prices-cited-below-100-kwh-for-the-first-time-in-2020-while-market-average-sits-at-137-kwh/
12https://www.mckinsey.com/industries/chemicals/our-insights/laying-the-foundation-for-zero-carbon-cement


インフラをベースとした即効性のあるソリューションに注力

より安全性が高く長期投資の対象とみなされることの多い債券が「即効性のある」気候変動ソリューションの資金調達手段として最適であると考えるのは、不思議な感じがするかもしれない。しかし、大規模な効果が実を結ぶのは10年先になってしまうかもしれないグリーン・ベンチャー・ファンドのようなビークルに比べて、インフラをベースとしたソリューションの資金調達に用いられる債券は実際最も早く効果をもたらし得ると言える。

なぜなら、各国がすぐにでも変化をもたらすことが可能な行動を起こさなければならないからだ。これらが伴う大規模なインフラ・プロジェクトは、完成までになお数年を要するものの、既存の技術をベースにしているためすぐに効果を発揮することができる。省エネ・ビルや再生可能エネルギー用送電網などがその例だ。

そのような規模の大きいプロジェクトは、政府のほか開発銀行のような国際機関の関与を必要とする。そして、その資金調達方法として好まれるのが債券である。

100兆米ドルのネットゼロ目標を達成すべくグリーンボンドを活用

IEAの試算によると、世界が2050年までに温室効果ガス排出量の「ネットゼロ」(人為的排出量を吸収・除去量で相殺し実質排出量をゼロとすること)目標を達成するには、今後30年で年間4兆米ドル超の投資が必要となる13。再生可能エネルギーへの投資は増加しているものの、必要な投資額に届くには埋めなければならないギャップがまだある。例えば、IEAは2021年の世界のエネルギー投資額を1.9兆米ドルと推定している14が、これには再生可能エネルギーだけでなくすべてのエネルギー源が含まれている。

このギャップを埋めるにあたり、サステナブル(持続可能性に貢献する)・プロジェクトの資金調達を目的と明示して発行される債券「グリーンボンド」が重要な手段となる。グリーンボンドは、128.3兆米ドルのグローバル債券市場15における急成長分野だ。2021年上半期のグリーンボンドの発行総額は5,750億米ドルと、2020年通年の発行額をすでに1,000億米ドル上回っており16、今年の総発行総額は1兆米ドルの大台に達する可能性が高い。

年間4兆米ドルの目標を達成するのに必要な投資水準からはまだ遠いものの、グリーンボンドはソリューション全体の一部に過ぎないことを忘れてはならない。グリーンボンドは、必要不可欠で急成長している要素であるのは確かだが、より大きなパズルの1ピースに過ぎないことに変わりはない。世界のESG資産が5年以内に53兆米ドルに達すると推定されていることを認識しておく必要がある17

さらに、現在の成長ペースを踏まえると、グリーンボンドは近い将来に気候変動抑制策の主要な資金源の1つになるだろうという楽観的な見方をしている。投資家の姿勢や国家の優先事項から市場の需要に至るまで複数の時流が収斂して、グリーンボンド市場の成長を支えている。そのため、グリーンボンドを含む世界のESG債は、2025年までに11兆米ドルに達すると予想されている18。この見通しは、前提となっているESG債市場の伸び率が過去5年間のペースの半分に過ぎないため、保守的と言えるかもしれない。



13https://www.iea.org/reports/net-zero-by-2050
14https://www.iea.org/reports/world-energy-investment-2021/executive-summary
15https://www.icmagroup.org/Regulatory-Policy-and-Market-Practice/Secondary-Markets/bond-market-size/
16https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-07-13/esg-bond-sales-sprint-to-1-trillion-as-investors-force-change
17https://www.bloomberg.com/professional/blog/esg-assets-may-hit-53-trillion-by-2025-a-third-of-global-aum/
18https://www.bloomberg.com/professional/blog/esg-assets-may-hit-53-trillion-by-2025-a-third-of-global-aum/


各国政府は気候変動抑制の緊急性に対応

グリーンボンド市場の最も重要な成長ドライバーの1つは、各国の優先事項、特にネットゼロ目標の優先である。世界で炭素排出量上位の米国、中国、EU(欧州連合)を含め、137ヵ国が「カーボン・ニュートラル」(二酸化炭素など温室効果ガスの純排出量が全体としてゼロである状況)へのコミットメントを表明している19。インドはカーボン・ニュートラルへの確固たるコミットメントを表明していないものの、パリ協定に基づいて2030年までにカーボン・フットプリント(生活や活動による二酸化炭素など温室効果ガスの排出量)を2005年比で約35%削減する意向であり、また2050年までに再生可能エネルギーの生産能力を現在の5倍に拡大することも目指している20

グリーンボンドは、それらの目標を達成するための重要な資金調達手段だ。例えば中国人民銀行は、海外からの投資を促進しようと、グリーンボンドの枠組みを欧州と同様の水準に揃えつつある。また、同国では今後40年間で約21.5兆米ドル相当のグリーン投資(環境のための投資)が必要とされており、そのうちのかなりの割合が債券による資金調達を必要とするとみられる21。中国はすでに世界最大級のグリーンボンド発行国で、新興国のなかでは最大となっており、インドがそれに続いている22

近く開催されるCOP26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)でも、各国政府から炭素排出量削減に対するより確固としたコミットメントを引き出すことが期待されている。これが実現する可能性を特に高めているのがIPCCの最新の報告書で、一層強力なアクションが急務であることが強調されている23

投資家の姿勢の変化によって生み出される市場の需要

ネットゼロ・カーボン・プロジェクトの資金調達の必要性から、グリーンボンドは旺盛な供給が続いているが、この供給もそれに見合った需要によって満たされている。機関投資家と個人投資家がともに、自身の資金を気候変動抑制の取り組みに役立てることの重要性を理解しているからだ

個人投資家レベルでは、ミレニアル世代(1980年~1995年に生まれデジタルの台頭とともに成長した世代)やZ世代(デジタルが当たり前となった1996年~2015年に生まれた世代)といった若い世代が最大の関心事に気候変動を挙げている24。実際、ミレニアル世代が全面的に拍車をかけたサステナブル投資の動きは、ここ数年で劇的に加速している25。このトレンドは、Z世代が大人になり本格的に投資の面で影響力を持つようになるにつれて、強まる一方だろう。

資産運用会社も、需要に応えるために、そして自らの責任を認識して、行動を起こしている。国連の責任投資原則には現在4,000近くの機関が署名しており、その累積運用資産額は121.3兆米ドルに上る26。最近の調査では、アジアの機関投資家の73%、欧米の投資家の49%がポートフォリオ運用において気候変動を考慮すべきだと考えていることが明らかになった27

グリーンボンド市場に10年超携わってきた当社では、同市場の現在の方向性は良い兆候だとみている。同市場はより広範になるとともに透明性や投資家にとっての利便性が向上していくと考える。



19https://www.un.org/en/climatechange/net-zero-coalition
20https://www.reuters.com/article/us-climate-change-india-exclusive-idUSKBN2BM1AA
21https://www.reuters.com/article/china-cicc-greenfinance-idUSL4N2MG013
22https://www.businesstoday.in/opinion/columns/story/green-bonds-indias-best-bet-against-climate-change-302498-2021-07-27
23https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-08-09/ipcc-climate-report-puts-pressure-on-cop26-summit
24https://www2.deloitte.com/global/en/pages/about-deloitte/articles/millennialsurvey.html
25https://www.nasdaq.com/articles/millennials-are-a-driving-factor-in-the-growth-behind-esg-investments-2021-05-25
26https://www.unpri.org/pri/about-the-pri
27https://www.statista.com/statistics/1155432/obligation-institutional-investors-climate-change-global-region/


グリーンボンド市場の透明性および投資家利便性の向上に向けて

グリーンボンドが比較的新しい資産クラスであることを考えると、一部の投資家が不安を抱くのは当然と言える。一般的な懸念の1つとして挙げられるのは、グリーンボンドは需要に比べて供給が相対的に少ないため、相対的に割高、つまり投資家に提供される利回りがより低くなるという点だ。

しかし、この懸念はグリーンボンドの供給増加によってほぼ打ち消されている。当社の調査によると、グリーンボンドと従来の債券のあいだには明らかな規則立った価格差はなく、これは他の信頼性の高い研究でも裏付けられている28。さらに、グリーンボンドが継続的な供給拡大に伴ってニッチから主流へと移行していくに従い、価格差は解消されていくだろう。また、一部のグリーンボンドの投資家には税制優遇措置が提供されていることを考慮すると29、グリーンボンドは投資家にとって一層有利な投資対象と言える。

他にもよくある懸念としては、透明性に関するものである。「グリーンウォッシング」(環境への貢献を示す「グリーン」を掲げながらも、結局は見掛け倒しで実体を伴わないこと)を心配する投資家もあるかもしれない。確かにこれは妥当な懸念だ。しかし、これについても、特に規制やガイドラインの強化が実施されるのに伴い、今後は次第に問題ではなくなっていくと考えている。

例えば、欧州委員会は、投資家がサステナブル・プロジェクトへの投資に際して利用できる科学的根拠に基づいた共通基準を構築すべく、2021年4月に包括的なタクソノミー(分類枠組み)を採択しており30、中国もEUと協力して共通の公認グリーン投資タクソノミーを作成すると発表している31。これらはいずれもグリーンウォッシングの排除に向けた大きな一歩となる。

先行きは明るいが早急なアクションが必要

当社では、グリーンボンドは最終的に債券のサブ資産クラスとして主流になると考えている。市場が拡大するにつれ、伝統的な債券ファンドがグリーンボンド・ファンドへと移り変わるケースが増えるだろう。これは、市場規模が小さかった頃には非現実的だったことだ。

グリーンボンド市場の先行きは明るいとみられるが、データは早急なアクションが必要不可欠であることを明確に示している。これを実現するには、大規模なインフラ・ベースのプロジェクトのように直接的な影響をもたらすことができる投資に資金を提供することが理想的な方法と言える。



28https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3333847
29 https://www.climatebonds.net/policy/policy-areas/tax-incentives
30https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/IP_21_1804
31https://www.ft.com/content/cddd464f-9a37-41a0-8f35-62d98fa0cca0


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