当レポートは、英語による2021年9月21日発行の英語レポート「Latin America: Supplier to a commodity-hungry world」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

誰もがインフレを気にしている。中央銀行の高官からパン屋の店主まで、インフレは最も大きな話題のひとつとなっている。多くのコモディティの価格が急上昇しているからだが、上昇の理由は様々で、供給の制約や需要の急増、悪天候などよりどりみどりだ。

中南米にはそのようなインフレ要因の多くが集中している。中南米諸国は、コーヒー、砂糖、大豆、牛肉などの主要一次産品に加えて伝統的産業や新たな「ネットゼロカーボン」(温室効果ガスの人為的排出量を吸収・除去量で相殺し実質排出量をゼロとすること)産業で原料として使われる鉄鉱石、銅、リチウムなどの素材を世界に供給している主要サプライヤーだ。これらのコモディティは、現在の需要と今後見込まれる需要が供給を上回っているため、価格が軒並み急上昇している。中南米諸国の主要貿易相手国である中国は、それらの原材料の多くを大量に輸入している。

中国:原材料の主要輸入国

鉄鉱石は鉄鋼を作るための主原料である。ブラジルは世界第2位の鉄鉱石生産国となっている。1位はオーストラリアで、ブラジルの2倍の鉄鉱石を生産している。3位は中国で、生産量はブラジルよりも40%少ない。鉄鉱石市場は事実上、ブラジルのVale、オーストラリアのRio Tinto、BHPおよびFortescue、南アフリカのAnglo Americanといった一握りの企業が支配する世界的な寡占状態にある。Valeは最大級の鉱山産出量を誇り、生産コストが最も低い部類に入る。価格設定においてもアグレッシブで、鉄鉱石市場のサウジアラビアといったところだ。同社の最大の取引相手国は中国となっている。

中国の鉄鋼生産は増加の一途をたどっており、今や世界の生産の半分超を占めているが、鉄鋼の原料となる鉄鉱石が不足している。国内で賄えない分の鉄鉱石を供給しているのは主にオーストラリアとブラジルで、両国の鉄鉱石の生産量は中国を上回っている。オーストラリアの鉄鉱石生産量は中国の2.5倍であり、ブラジルは中国の生産量を40%上回っている。結果として、中国は現在、その巨大な鉄鋼産業を賄うのに、世界の鉄鉱石生産の43%を輸入している。中国の鉄鉱石輸入量はこの10年間で倍増しており、インフラ投資を通じて経済を支えようとする同国の動きと新規供給不足を受けて、鉄鉱石価格は過去最高値を更新している。

銅についても同じようなことが言えるが、関係するのは中南米の別の国である。ブラジルに取って代わるのがチリとペルーで、両国の左派政権は将来、鉱物資源採掘税引き上げを通じた歳入増を目指している。生産量は鉄鉱石と似たような水準だが、コストは銅の方が高い。中国の立場は鉄鉱石の場合と同様で、自国生産量が少なく主要輸入国(世界の生産量の40%超)となっている。

リチウムについても全く同じだ。リチウムは、この中南米から中国への「輸出ベルトコンベヤー」に新たに加わった金属である。スマートフォン、ノートパソコンから電気自動車まであらゆるものにおいて使われているバッテリーの主な材料となっており、自動車の電動化を促進するとみられる。リチウムの国別生産量の順位は鉄鉱石の場合と似ており、1位がオーストラリア、2位はチリ、3位は中国となっている。今後供給の伸びが見込まれるのはオーストラリアとチリである一方、今後の需要の伸びについては中国が大半を占める。世界のリチウム供給の30%を生産しているのは2社で、1社は米国、もう1社はチリを拠点とする企業である。中国は世界の電気自動車用バッテリーの大半を生産しており、想定される通りリチウムの供給が不足している。まるで以前何度も見たことのある映画の再演を見ているかのようだ。

食料生産の結果としてもたらされる気候変動

食材においても、原材料の話と同様のことが言える。大豆は植物性のタンパク源で、料理や動物の飼料に使われている。世界の大豆の37%を生産しているブラジルが同作物の最大の生産国となっており、2位には僅差で米国が続く。一方、中国は世界の生産高の5%を占めるにすぎず、世界で生産される大豆の60%を輸入している。

他の食料源としては、牛肉の需要が新たに拡大している。ブラジルは世界の牛肉の17%を生産し、その大半を輸出している。米国農務省によると、今後10年におけるブラジルの牛肉輸出の伸びは他のあらゆる輸出国を上回ると予想されている。 中国の牛肉輸入は世界の生産高の3%にとどまっているが、同国の牛肉需要はまだ拡大の初期段階にある。中国国民の豊かさが向上して食の嗜好が広がるのに伴い、中国の牛肉輸入は5年後には大幅に増加しているものと予想される。

牛肉の需要が増大した結果、ブラジルの熱帯雨林はかつてないほどの破壊に見舞われている。ブラジルの熱帯雨林に関して基本情報を幾つか紹介すると、米国とほぼ同じ面積を有する世界最大の熱帯雨林で、3,000種の魚類、40,000種の植物、250万種の昆虫が生息しており、毎年新種が発見されている。また、アマゾンの熱帯雨林は世界の酸素の20%超を生み出していることから、「地球の肺」と呼ばれている。合法・非合法を問わず熱帯雨林破壊の最大の原因となっているのは、肉用牛の牧草地だ。ガーディアン紙が2021年7月14日付けで報じたところによると、最近の調査で、アマゾンの熱帯雨林の排出する二酸化炭素の量が吸収し得る量を初めて上回ったことが明らかになった。熱帯雨林が失われ続ければ、地球温暖化や気候変動の進行を遅らせる取り組みにとって大きな打撃となるだろう。

豚肉や牛肉などタンパク質の豊富な食料に対する中国の需要の拡大を十分に満たすにあたり、ブラジルはやはり当該コモディティの主な供給国となる。

気候変動の影響は、スーパーマーケットの棚や近所のコーヒーショップでも見受けられるようになってきている。西半球で発生した深刻な干ばつによって、今年のコーヒーの収穫が打撃を受けるとともに来年も収穫量の減少が予想されている。その結果、コーヒー生豆の価格は年初来で60%近く上昇している。

政治についても触れないわけにはいかないだろう。ブラジルやペルー、チリはいずれもニュースで大きく報じられている。ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領はパンデミック対策がうまくいっておらず、ペルーは混乱の大統領選挙の末に左派政権が誕生する結果となり、チリは増税を目的とする鉱業税法改革を審議中である。政局の不安定さは、新たな供給への投資における見通しの確実性を後退させる。政府の支援を受けた中国企業は供給を確保するために何年にもわたって中南米に投資してきているが、投資の第一波こそあまり注目されなかったものの、投資先の国々が世界のサプライチェーンにおける自国の重要性を認識するにつれて、交渉は厳しさを増し価格は上昇すると予想される。

まとめ

こうしたコモディティ依存度の高い新興国は、新たなデジタル社会および消費の成長エンジンである中国、アセアン、インドに取って代わられると予想されていたため、投資家のあいだで敬遠されてきた。しかし、かつて有望視されていた中南米の鉱物や農業の豊富さが、将来の鍵を握るようになっている。中南米諸国は、ネットゼロカーボンへの道のりや30億人近いアジアの裕福で消費意欲の旺盛な層の需要の拡大にとって、主要なサプライヤーとしての地位を確立している。

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