当レポートは、英語による2021年9月14日発行の英語レポート「Staying adaptive to an evolving recovery」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

世界が落ち着こうとしている「ニュー・ノーマル」は、コロナ前の標準とはかなり異なるものになるとみられる。これに含まれるのは、「ウィズコロナ」の生活様式によって形作られる異なる需要パターンや、確固たる政策目的を伴う財政出動の継続などだ。かつてない規模の金融緩和政策はまもなく縮小される見込みで、その過程では、経済と市場が時とともに徐々に顕在化するであろうニュー・ノーマルに順応していくなかで、ボラティリティが高まるとみられる。

依然緩和的な金融政策と継続中の財政出動との組み合わせは、リフレ性経済成長への吉兆と言える。しかし、新型コロナウイルスのデルタ変異株と緩和的金融政策の漸進的引き揚げをめぐって不透明感が続いているなか、当面は景気に関するいかなるネガティブなサプライズもリフレ見通しを阻害しかねない。インフレは概ね一過性のものに見受けられるが、持続的な特性も伴っており注視が必要だ。

当社では景気回復が続くとみており、これはグロース資産にとって追い風である。しかし、経済成長の加速と緩和的金融政策の漸進的引き揚げを受けて、債券利回りは並外れた低水準から上昇する可能性が高い。当社では、デュレーション・ポジションについては慎重な姿勢、ディフェンシブ資産に対しては選別的スタンスをとりながら、グロース資産においては景気形勢の変化に対応すべくバーベル戦略をとっている

ニュー・ノーマルへの舵取り

リフレ・トレードは、米国の選挙結果が民主党の政権・議会掌握という「ブルーウエーブ」の流れとなったこと、そのすぐ後に複数の新型コロナウイルス・ワクチンが有望な臨床試験結果を示したことを受けて、2020年10月から勢いを増してきた。新たな景気刺激策と世界的なワクチン接種の進行を通じてコロナ危機がついに終わる様相となり、後に残された多額の景気刺激策と資金流動性が今後も長く景気を浮揚させるものとみられた。しかし2021年第二四半期までには、各国間でワクチン接種の進行に格差が生じ、続いてデルタ株の発生により見通しの明確さが後退した。

当然のことながら、繰延需要の短期的な解放を除けば、消費者と投資家は先行き見通しや景気へのネガティブ・サプライズの可能性について慎重になっている。では、次はどのような展開になるのか。それは一概には言えない。一部の国が新型コロナウイルスの感染拡大を一切許容しない「ゼロコロナ」方針に依然固執している一方、他の国々はワクチン接種率を高めることによって足元および今後の感染拡大を十分制御できると期待している。いずれにせよ、需要がより通常の水準に戻るのには時間がかかるのは明らかだ。

新型コロナウイルスに見舞われる前ですら、世界経済ではすでに大きな変化が進行していた。米中貿易戦争に端を発したサプライチェーンの再構築は、両国間の緊張が続いているとともにコロナ対策のロックダウン(都市封鎖)によってサプライチェーン依存の根本的な脆弱性が露呈したため、加速することになった。各国は貿易相手国の構成を調整しているだけでなく、多くの場合、国家安全保障と雇用創造の名目で製造業の一部を国内回帰させようとしている。この「逆グローバル化」とでも言うべき動きは、資本のフローと最終需要の解決に広く影響を及ぼす。

気候変動との闘いは世界的な目標となって長いが、各国のコミットメントを深めているのがこれまで以上の財政赤字を抱えることに対する政治的意欲と新たな安心感だ。化石燃料から再生可能エネルギーへの資本シフトを促すにあたって、財政政策による直接的な取り組みと間接的インセンティブの両方が実施されており、一方でどの国も持続可能な未来への到達手段として技術革新に注力している。この変化もやはり需要に広く影響を及ぼす。

このような複数の変化の動きにより、今後の経済成長を通常の景気サイクルに照らして推し測るのは困難になっている。とは言え、世界が新型コロナウイルスと共存する術を学ぶにつれ徐々に正常化していくのに加えて、財政政策が需要のてこ入れに強くコミットしていることは、景気回復が最終的にどのような形になるにせよ継続するとの見通しを強めている。

異なるシナリオに備えたポジショニング

当社の基本シナリオは、需要の正常化と財政出動の組み合わせがリフレをもたらし、景気敏感資産の追い風となり投資と堅調な最終需要を通じて経済成長の加速を支えるというものだ。サプライチェーンの再構築は、気候変動を抑制する取り組みへの投資を増加させるとともに、そのような投資へのインセンティブを高める。

このシナリオは、最終的に環境のためになる目標の達成に向けて動力として必要な「環境にはあまりよくない」コモディティ関連の銘柄も含め、景気敏感株にとって追い風となる。テクノロジーなどのグロース株は、リフレに伴う債券利回りの上昇を受けて当面苦戦するかもしれない。当該シナリオの環境はバリュエーションが割高な株式には不利となりやすいが、テクノロジーは将来の成長にとって中核的存在であり、したがってテクノロジー企業は引き続き長期的に好調な収益が見込まれると考える。

リフレ・シナリオに近い確率で想定しているのは、経済成長がより低い水準に戻るという、ここ10年でお馴染みの経験となったシナリオである。財政政策が投資と最終需要をてこ入れするとみられているものの、そのコミットメントは各国間で差があり、世界が危機から脱するにしたがってなくなってしまうかもしれない。また、資本が不適切に配分されることにより、支出・投資が生産性や需要を押し上げ損ねる一方で債務水準の増大により不透明感が強まりかねないという問題もある。

経済成長率の低下は景気敏感資産にとって不利な材料だが、長期的グロース資産は過去10年と概ね同様に依然好パフォーマンスを示す可能性がある。米FRB(連邦準備制度理事会)が金融政策の正常化を進めるにしたがって、金利はより正常な水準へと上昇するだろう。これはグロース株にとって当面の逆風となり得るが、グロース株は引き続き好調な収益見込みを受けて最終的に安定化するとみられる。

可能性は低いものの考えられるリスクは、経済成長率が鈍化する一方でインフレが予想されたよりも長引き、インフレ期待を落ち着いた水準に保つために中央銀行が追加の金融引き締めを余儀なくされるシナリオだ。財政政策も引き揚げざるを得ないかもしれないなかで、政策の引き締めとインフレがともに需要および経済成長の重石となる。そのようなシナリオは可能性がかなり低いものの注視を要し、選別的な低デュレーション資産およびコモディティ資産を伴うよりディフェンシブなスタンスが求められる。

インフレ動向を注視

これまでのところ、インフレは一過性の様相を呈している。インフレ指標の上昇率はかなり高い水準にあるが、その要因の大半は供給の混乱に関連している。中古車はその一例で、半導体不足によって新車の生産が滞り需要が中古車市場へと移るなか、レンタカー会社も車両を補充すべく中古車市場で競って在庫確保を図った。すでに、需給圧力の正常化を受けて中古車価格は下落しつつあり、それに伴ってインフレ指標全体の上昇率も減速してきている。

それでも、インフレの相対的な硬直性をめぐる議論は終わったわけではない。賃金圧力は、おそらくは9月に終了する予定の高水準の失業扶助も一因となって、現在高止まりしている。それでも、求人数が過去最高水準にあり失業率が急速に低下してきていることから、賃金圧力の一部はより持続的なものとなるかもしれない。

拡張的な財政政策など、政策面の要因もインフレを高止まりさせると考えられる。グローバル化による効率性は過去20年にわたってディスインフレを促してきたが、脱グローバル化は効率性で劣ることからインフレ圧力を増大させると言える。温室効果ガス排出量の低減を目的とする政策も、インフレ効果をもたらす要因となり得る。化石燃料への投資はすでに減少傾向にあるが、再生可能エネルギーに完全に移行するには数十年かかるとみられるため、エネルギー価格は高止まりする可能性がある。

このようにインフレ圧力の源泉となり得る要因が十分に認識されている一方で、主要なディスインフレ要因であるテクノロジーはインフレを食い止める最も強い力となるかもしれない。技術革新は効率性をもたらし、その結果として価格を押し下げる。コンピューティングや人工知能、ロボティクスといった分野における飛躍的な進歩は、本質的にディスインフレ性を伴う新たな効率性をもたらす可能性がある。

技術革新のペースは長期的にインフレ圧力をしのぐと想定されるが、当面は中央銀行の政策を左右する要因としてインフレ圧力を注視していく。FRBはインフレの「多少の過熱」は容認する姿勢を示しているが、ある程度インフレ圧力が長引くようであれば、いずれかの時点でFRBはインフレ期待を落ち着いた水準に保つためにより積極的な対応を行う必要が生じるとみられる。これは経済成長の見通しにとって確実にマイナス材料となるだろう。

適応するためのバーベル型ポートフォリオ戦略

見通しは依然として多岐に渡るが全体としてポジティブであり、グロース資産においては、景気回復から恩恵を受ける景気敏感資産、そして継続中の技術革新と好調な収益を引き続き追い風とする長期的グロース資産を組み合わせたバーベル戦略が有利となる。景気回復の展開がリフレ・シナリオを辿るにしても、低成長シナリオあるいは(可能性は非常に低いが)インフレ色の強いシナリオを辿るにしても、その形態に適応していく姿勢を維持することが重要である。

ディフェンシブ資産については、景気の回復と緩和的金融政策の引き揚げを受けて長期金利が上昇するとみられるとの前提から、デュレーションを短めとする戦略を引き続き選好する。また、利回りが依然比較的高い水準にあるとともにディフェンシブな特性を有する中国債券を有望視している。リフレ対インフレの状況の行方によっては、コモディティの方が債券よりもディフェンシブな資産クラスとなる可能性もある。

当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。