本稿は2021年1月8日発行の英語レポート「2021 Global Multi-Asset Outlook」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

2021年の概観

2020年は大半の人々にとっては忘れてしまいたい年であったであろう。しかし、新型コロナウイルス感染症が経済に与えた打撃が大きかったにもかかわらず、市場のパフォーマンスはかなり好調だった。豊富な流動性をもたらした大規模な金融・財政刺激策がパフォーマンスの最大の原動力であったとはいえ、短期的にはまだ楽観視できる状況かもしれない。金融システムに残る潤沢な流動性によって解き放たれるかもしれない繰り延べ需要を踏まえると、2021年以降はワクチンが普及するにしたがい需要が通常水準を超える可能性があるだろう。

各国の政策対応は総じて評価に値するが、特に見事だったのは各国が近年に類を見ない大規模な財政刺激策に舵を切った点である。グローバル金融危機以降、金融緩和策が主な刺激策であったが、新型コロナウイルス感染症が引き起こしたパンデミック以降は財政出動もこれに加えられた。大規模な金融・財政刺激策の組み合わせは、金融緩和策のみに比べて実質成長率を上昇させる可能性がはるかに高く、実際に世界的な規模で既に実施されている。ワクチンの普及が進むにしたがい、2021年は繰り延べ需要が徐々に減少し、世界全体でリフレ型経済成長への土台が整う年になるだろう。

リフレーションは、リスク資産全体の投資機会を拡げる。市場はこのことを既に、新型コロナウイルス感染症で値下がりした銘柄の大幅な反発で体感した。欧州や日本、新興国でのバリュー投資も、ドル安という追い風とともに、世界的なリスク資産に対する需要拡大の恩恵を受けられる見通しだ。今後のリスク要因は、リフレ型経済成長を見越した投資が既に一般的となっており、市場の一部にはバブルが発生していることかもしれない。問題になり得ることは何か。ワクチンの普及の難航や、他の問題が浮上した場合は、はっきりとリフレ見通しが織り込まれている相場に明らかな打撃となるだろう。

より明確であるリスクは、リフレ型経済成長によって通常引き起こされる長期金利の上昇だ。金利は既に上昇を始めており、当社は米国債を中心にこの傾向が続くとみる。当社はデュレーションリスクを警戒する一方、金利が急上昇した場合のリスク資産への影響にも警戒している。金利上昇局面では高いバリュエーションの株が最も影響を受けやすいがテクノロジー銘柄をはじめとするグロース株がこうした変化で痛手を負う公算は大きい。当社は引き続き、テクノロジー銘柄などの長期グロース株を選好するが、金利上昇に対する感度が低いバリュー株を含めたバーベル型アプローチを選好する。

2021年の主要テーマ

当社が注視している2021年の主な投資テーマの一部を紹介する。

  • ポスト・コロナの需要正常化: 米国や欧州でロックダウンが続く中、2021年第1四半期はリスク資産に対する需要が予想を下回る可能性があるものの、ワクチンの普及で最終的には通常の需要動向に近づくはずだ。但し、パンデミック前の需要構成とは異なり、経済に与えた傷跡も残るだろう。緩和的な金融政策が、こうした需要を支え続ける見通しだ。中国は金融政策を若干引き締めるだろうが、より質の高い刺激策が持続的な需要増につながり、世界各国の輸出を支えていくだろう。
  • ドル安: 米国連邦準備制度理事会(FRB)にとって2020年3月がハト派的な対応のピークであった公算が高い。FRBの平均インフレ率を目標とする新たな方針を踏まえると、緩和姿勢はまだ数年継続されるだろう。金融緩和、大幅な双子の赤字、そして米国以外の国々の成長加速がドル安を招きやすい要因である。ドルの価値低下は世界的に需要を押し上げる傾向があり、さらにドル安が進むという構図だ。
  • リフレだが、(まだ)インフレではない: 金融・財政両面での強力な下支えや世界的な需要改善がドル安と相まって、リフレになることを裏付けている半面、需給ギャップがまだ大きいため、好ましくないインフレ圧力の可能性はまだ遠い。リフレはグロース株にとって明らかに好材料とはいえ、長期金利の上昇は株価収益率の高いグロース株の相場に逆風となり得る。また、需給ギャップの規模がインフレ懸念を大幅に抑え続ける一方、市場ではあまり理解されていないこととして、これまでの企業倒産件数の多さから、生き残った企業は競争相手の減少から価格支配力を強めている可能性がある。しかも、潤沢な流動性により、一部市場では想定を超えるような需要が喚起される可能性も残されており、金のような実物資産が引き続き重要なヘッジ資産になる。
  • 地政学的サプライズは減少: たった1件のツイートで地政学的リスクが一気に高まることも珍しくなかった4年間は過去のものとなり、少なくとも米国に関しては、これまでより政策を予測しやすくなりそうだ。そのため、4年間にわたって市場を苦しめてきた突然の「リスクオフ」局面の数は減るだろう。米国では、民主党と共和党が意見を一致させ対中圧力をかけ続けることで米中関係の緊張は続くであろう。しかし、突然対立が激化するようなことは減り、少なくとも、例えば2018年に見られたほど多くのテールリスクはないであろう。このことは当然中国資産にとっての好材料ではあるが、中国国内の安定した需要の恩恵を受ける新興国一般への追い風ともなる。
  • くすぶり続ける政治的緊張: 米国の選挙はポジティブな結果となったが、緊張が解けているとは言いがたく、トランプ政権以前の「通常業務」への回帰にはほど遠い。ジョー・バイデン次期大統領は、保守派とリベラル派の深刻な分断を解消して国を癒すことを約束したが、実際にはかなりの難題であり、実行不可能とみる向きもある。政治の分断が一番目に付くのは米国だが、欧州や中南米などのさまざまな国が同じ状況にある。バイデン氏の当選は、正常な感覚がある程度戻ってきたことを意味するが、根底にある政治分断は、程度の差こそあれ、世界の多くの国が抱える問題だ。

総じて、当社は以下の点から世界の経済成長に対して明るい見方を維持する。① ワクチンの普及を背景とした世界的な需要の改善、② 中国の需要の改善と持続、③ 強力かつ協調的な刺激策の継続。景気循環に関しては、米国が拡大局面のピークに近い状況にある一方、リフレ環境で資産価格の上昇が見込まれる他の国々ではそこまで進んでいない。当然、FRBがタカ派的対応を余儀なくされるほどインフレリスクが高まれば、次の景気後退の引き金となるだろう。

各資産クラスの展望


株式

世界的に経済成長が正常な状態に戻ることが予想され、株式については良好な見通しである。当社は引き続き、米国と北アジアの長期的な成長を好感視しているが、一方では欧州や日本のほか、世界的な経済成長によって投資価値の上昇が見込まれる新興国において需給関係の改善が見られる。欧州に関しては、この状況がどの程度持続可能かという疑問がある。この点で当社は、10年間にわたる強い緊縮策からの転換を称賛するが、欧州銀行システムのバランスシートは未だに脆弱で、厳しい規制下、フラットなイールドカーブが収入の増加を困難にしている状況から、銀行システムがまだ部分的にしか「修復」されていないことに懸念を持っている。新興国に関しては、今まで行われてきた数々の調整や過去10年間の改革を踏まえると、一段と興味深い投資対象になる可能性がある。何年も続いた苦痛を和らげる正当な報酬が、選択的ながら、クオリティー株を中心として視界に入ってくるかもしれない。

ソブリン債

現在の金利が過去最低であった2020年初めの水準にあるため、少なくとも先進国のソブリン債は今後値上がりが見込めるような状況にはない。世界の主要中央銀行による資産の買い入れは続きそうだが、日本銀行のようなイールドカーブ・コントロール政策にまで踏み込まない以上、長期金利は上昇するはずだ。マルチアセットの観点からは、先進国の国債を筆頭に通常は「ディフェンシブ」と見なされる資産が、2021年は「リスク」資産に分類しなければならないかもしれない。デュレーションリスクが大きく、イールドカーブの急な上昇による価格の下落幅を、少ない利息では到底カバーすることができないからだ。ソブリン債の中では、中国国債が最適のディフェンシブ資産かもしれない。第一に利回りが比較的高く、第二に中銀の政策がおおむね伝統的なものに限られるため、突然の政策変更にさらされる可能性が低い。中国経済のV字型回復を織り込んで、利回りは既に上昇している。さらなる上昇の可能性はあるだろうか。その可能性はあるが、他国に比べて利回りが高いため、一段と上昇する可能性は低い。また、より高い利回りは金利変動に伴う損失を一部相殺することも考慮する必要がある。

クレジット

グローバル・クレジット市場は、金利上昇局面では国債をアウトパフォームするとみられる。投資適格社債のスプレッドは安定推移し、需給環境の改善に伴って縮小する可能性が高い。ソブリン債に比べて、投資適格債市場はイールドプレミアムや比較的短い平均償還期限によってリターンが守られるだろう。また、デュレーションリスクによる悪影響が相対的に少ないグローバル・ハイイールド債市場にとっても、こうした環境は相応に魅力的なものとなろう。

コモディティ

需要の回復により見通しは良好である。グローバル金融危機下、資源バブルがはじけ10年あまり投資が低迷したが、最近の大規模な財政刺激策も需要拡大の一因となろう。コモディティ需要はかつて中国に頼る部分が大きかった。しかし、先進国がそれぞれ自国内でのインフラ投資増加を確約していることから、全体的な需要はより大きくなるであろう。

結論

当社は総じて、リスク資産に強気で、長期の債券には弱気であるが、これは2021年についてのみである。行き過ぎた政策の弊害はやがて表面化するため、世界の中銀の大盤振る舞いと財政政策の組み合わせが長期的に持続可能かについては、当社は冷静に検討する。無償で得られるものなど何もない。各国の中銀は目下、膨らむ国家予算の赤字と債務を支えるのに手を貸している。これは戦争のような非常事態であれば理にかなうが、意図しない副作用を引き起こさずに、いずれ終了させなければならない政策を、果たして本当に終了させることができるのかについて、当社はあまり確信が持てない。とはいえ、限界に達するという見通しは、達する時期よりも早い段階で明らかになることが多いため、当社は次に何が起きるかの兆候を注視していく。

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