本稿は2021年1月8日発行の英語レポート「2021 New Zealand Fixed Income Outlook」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

2021年以降の経済見通し

2020年は恐怖や不安、不確実性が渦巻き、心肺停止寸前となった世界経済を電気ショックで蘇生させたような1年だった。一方、芸術品から金、不動産に至るまで投資家と資産のオーナーにとっては、2020年は資産の増大、投資の成功、そして信頼感が回復を実現した1年となった。2020年を通して当社のレポートをお読みいただいた読者は、資産価格の高騰に驚かなかっただろうが、世間一般はあっけにとられただろう。

あらゆる理論的な評価尺度を用いても、ニュージーランドが未だ低迷状態にあることは紛れもない事実だ。だが、大方の予想よりも傷ははるかに浅く済んでいる。すこし以前の予想では、ニュージーランド経済が2020年に5.5%縮小するとされ、新型コロナウイルス感染症の発生以前の水準に戻るのは2022年半ばから後半にかけてとされていた。しかし、最新のデータによると、ニュージーランドは2020年前半の深刻な経済の縮小からすでに回復を遂げている。ただし、観光業やホスピタリティ業界など、これまでニュージーランド経済の中心だった産業は、2021年以降も引き続き支援措置と景気刺激策を必要とすると見られている。では、経済が縮小するなかの資産価格上昇というパラドックスをどう説明すればよいのだろうか。信頼感は単に幻想にすぎないのか、それとも本当に持続可能なのだろうか。

信頼感の改善は、世界的な景気刺激策がもたらした結果だ。景気刺激策によって資金コストは低下し、流動性は潤沢になった。足元の状況は、5年物ギリシャ国債の利回りが60%を超えていた2012年とは大きく様相が異なる。現在の同国債の利回りはわずか0.04%で、2年債に至っては利回りがマイナスになっている。

低金利を追い風に信頼感が改善して消費活動を刺激したことで、ニュージーランドでは住宅不動産市場が活況を呈しているが(これについては後述)、低金利の恩恵を最も受けたのは政府のバランスシートだ。ニュージーランドの公的債務は国内総生産(GDP)の約20%から50%に増加すると予想されているが、コストの高い債務がコストの低い債務に置き換えられることで、政府の金利負担は遠くない将来に大幅に軽減されるだろう。

110億NZドルの国債(表面利率6%)が2021年5月に償還を迎えると、借換債は利率1%程度で発行できる可能性が高く、結果として年間5億5,000万NZドルのコスト節減につながる公算が大きい。さらに、2023年には157億NZドルの国債(表面利率5.5%)が償還を迎え、借換えにより年間7億NZドルのコスト節減が見込まれる。ニュージーランド政府は低コストでの調達が可能との自信から、国内経済を支えるために調達を続けている。こうした自信は、ニュージーランドにとどまらず多くの国で起きている。

本日のトピックであるニュージーランドの「手に負えない」住宅市場について論じる前に、全面的な資産価格の上昇が一服したと主張する投資家は、歴史を見直してみると良いだろう。1940年代初頭以降、米国株式市場の平均的な強気相場は52ヶ月の期間で年率15%上昇しているのに対し、平均的な弱気相場の11ヶ月の期間で32%下落している。別の言い方をすれば、強気相場は弱気相場よりも騰落率と期間がともに5倍となる計算なので、まだピークに達したとは考えられない。

ニュージーランドの住宅市場では、低金利による購買力の高まりと在庫不足が住宅価格の高騰に拍車をかけている。短期金利はすぐには上昇しそうにないため、当局が厳しい対策を講じない限り、住宅の供給が需要に見合うまではこの傾向が反転するとは考えにくい。

ちなみに、需給が住宅市場に大きな影響を与えることは、住宅ブームの最中においても明らかだ。クライストチャーチ市の住宅価格は、震災後の大規模な住宅建設計画を背景に、他の地域よりも安定している。

供給増加は経済面に限らず、より広い範囲に好影響を与える。だが、季節ごとにメディアが住宅価格について常時報じるようになった現在、住宅価格の上昇は下落よりも経済にとって好材料であることを覚えておくべきだろう。住宅市場は、経済のあらゆる分野におよぶ。多くの世帯にとって住宅は最大の資産だ。現在の弱い経済環境と脆弱な雇用市場において、世帯最大の資産である住宅が一転して最大の負債としてのしかかり、不安要因の1つに加わることになれば、非常に深刻な事態になる。

概してニュージーランドは、世界の羨望の的になるような、2021年を信頼感のなかで明るい第一歩を踏み出した。しかし、この高揚感がいつまで続くのか、そして2021年以降の新たな成長の原動力が何かについては、まだ明確な答えが出ていない。

ニュージーランドでは、生産性の向上は常に実現しにくいものだ。しかも、経済成長の原動力であった海外からの移民、留学生、クルーズ船の寄港、観光業などが2021年に回復する見込みは低く、当面はこれらに依存するのは賢明ではない。一方、農業と園芸業はいずれも有望であるほか、IT産業は次の大きな柱として期待されている。だが、主力となる新たな成長の原動力が不在の中、トラベルバブル(近隣の域内旅行)が一般的になり、ワクチン接種が普及すれば、人口の純流出が大いに現実味を帯びてくる。ニュージーランド経済が、我々の期待どおりになるという保証はどこにもない。

中国など急成長を遂げている経済圏への依存度を増すことは、ニュージーランドにとって重要な景気回復戦略だ。しかし、ニュージーランドにとって最大の望みは、現在の「信頼感の低迷」局面からうまく脱出することだ。それは、低利で潤沢な資金が経済全体のリスクテイクと生産的な投資活動を刺激し、パラドックスを脱却してニュージーランドを繁栄の次段階へと駆り立てることである。

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