本稿は2021年12月15日発行の英語レポート「2022 New Zeland Fixed Income Outlook」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
2022年へと続くボクシングのような状況:金融市場の展望
あらゆる面で健闘を誇っている国にとって、継続する新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)による経済的打撃と戦うなか、2021年は幾分ロープを背に防戦に追われるような年となった。一部では打撃を受けていた(ダウンしていた)かもしれないが、確実に打ち負かされて(ノックアウトされて)はいない。
打撃が大きく見受けられたのは債券および株式市場で、ニュージーランドの投資家に長年にわたって好調なリターンをもたらした後、2021年は世界の他国市場をアンダーパフォームした。しかし、そうしたニュージーランドの市場が低迷する一方で、プライベート・エクイティ分野ではテクノロジーセクターを中心に世界の関心を惹きつけて、多くの企業が躍進した。
ニュージーランドの景気回復を引き続き下支えしているのは輸出セクターで、多くの批判はあるものの、とりわけ乳業を通じて支えられており、2021年はニュージーランド経済に数十億ドルをもたらして、国際的な観光や教育、サービス分野の失われた産出を補うことに寄与した。引き続き上昇傾向にある商業用および住宅用不動産市場に加えて、マクロレベルから経済活動全体が十分に持ちこたえていることがわかる。しかし、特に疑問視されているのは、これが今後も持続するかだ。
至るところにある懸念材料
今後を見通すには、やはり振り返る必要がある。これまで、ニュージーランドは自国の経済成長率を加速させる上で、人口の増加を頼りにすることができた。しかし、パンデミックの影響で移民が停滞しているほか、機会を求めて海外に目を向けるニュージーランド人や自国に帰る意欲が低下しているニュージーランド人が増加している可能性があり、少なくとも短期的には全国的な人手不足によって不利な立ち位置が続くとみられる。このような成長ポテンシャルが見込みづらいなか、政策金利であるオフィシャルキャッシュレートはニュージーランド準備銀行や市場が現在織り込んでいるよりも早期にピークを付けると考えている。
また、ニュージーランド経済の繁栄を脅かす、2021年に示唆されたグローバルな材料もある。米国は金融政策の引き締めに着手しつつあり、この動きによって世界最大の経済大国であり最大の消費財の買い手である同国が減速することが見込まれる。中国の経済成長も鈍化する可能性があり、ニュージーランドの輸出セクターへの影響が見込まれ、したがって景気全体への影響が予想される。ニュージーランドにとって中国は最大の輸出相手国であるため、中国の人口の高齢化や出生率の低下は、依然としてより長期的な懸念事項となっている。
障害となる材料の発生
新型コロナウイルスのパンデミックのように、世界経済に打撃をもたらすいわゆる「ブラックスワン」と言われるものは予測不可能だが、これまでよりも予想しやすくなっている。依然「100年に1度」の現象と言われる自然災害は、その呼び名が示すよりも今ではかなり頻繁に起こっているとみられる。ブレグジットや武力紛争、世界金融危機、原発のメルトダウン事故といった様々な出来事により、市場を窮地に追い込むのは母なる自然ばかりではないことを常に再認識させられ続けている。新型コロナウイルスの変異株がさらに出現する可能性についても、無視することはできない。
こうした出来事に対して中央銀行が最初にとる経済政策措置は利下げだが、ここで言いたいことは、道のりは簡単に妨げられるということだ。そのため、ニュージーランド準備銀行はキャッシュレートを引き上げて2023年末までに2.6%とすることを見込んでいるものの、その道のりを妨げるようなことが再び起こればその水準まで利上げを行う機会は得られないかもしれない。
住宅について
住宅ローン金利の上昇が住宅市場にもたらす悪影響については周知のことだ。しかし、最大の人口中心地であるオークランドを筆頭として、このセクターが現在直面する逆風は決してこれだけではない。新型コロナウイルスのパンデミックの影響で移民が停滞したことや、パンデミックを受けて地方に引っ越すオークランドの人々が増加するなか、2021年6月までの1年間でオークランドの人口は実際に初めて減少した。これも、障害となる別の材料の例と言える。
この当然の結果として、2022年は新たな建設需要が低下することから、建設計画を保留にするデベロッパーが増えるだろう。住宅価格の伸びが減速して横ばいになるとみており、住宅販売および建設セクターはともにある程度の落ち込みが見込まれる。
単なるナンバーズゲームではない
経済成長を通じて国のウェルビーイングを支えていく上で重要なのは、単に数字的なことだけではない。我々が達成に向けて努力することができ、また励むべきこととしては、インクルーシブネスの意識を育むこと、子供に良い教育を提供すること、安全な地域の健全な家で家族を育てること、しっかりと整った保険医療セクターを持つこと、高齢者や貧困者に尊厳とサポートを提供すること、危機時に産業界を支えることなどがある。
これらには費用がかかり、その一部は大きな費用がかかる。そのため、健全な事業や輸出セクターを下支えし、すべてのニュージーランド人に仕事や所得をもたらす環境を促進する経済環境を整えることが重要である。
将来のウェルビーイングにとって重要なことは、新興テクノロジーおよびイノベーションセクターの成長にとって適切な経済環境を作り出すことだ。過去10年においてニュージーランドのテクノロジーセクターがもたらした経済的および雇用の影響はとても大きい。Rocket Lab、Xero、Weta Digital、Zuruはすべてニュージーランドに本拠を置く企業で、世界の投資家の注目を集めるとともに、ニュージーランドの人々に賃金の高い仕事をもたらし、また能力の開発・向上機会を提供している。
テクノロジーセクターと並んで忘れてはならないのは、打撃を受けているサービス、観光、教育セクターが、2022年が進むにつれて回復する可能性があることだ。この回復が起これば、パンデミックによってロックダウン(都市封鎖)が実施されていた暗い時期にニュージーランドの所得水準を下支えしてきた輸出セクターの力強いパフォーマンスを大きく押し上げるだろう。
とは言え、最後に幾つかの統計的なことについて
過去2年が何かを示しているとすれば、それは恐らく予測を立てることの愚かさだと言える。それでもあえて大きな危険を冒して言うなら、インフレ率やオフィシャルキャッシュレート、長期債の利回りは2022年にピークをつけるだろう。長期債の利回りは、オフィシャルキャッシュレートの引き締めサイクルが完了する前にピークをつける可能性があり、CPI(消費者物価指数)は2022年の半ばまでには最高水準に達するとみている。新型コロナウイルスの他の変異株によってロックダウンがさらに延長されないうちは、2022年9月までにはデルタ変異株の増加ペースが鈍化して、その頃に住宅価格は失速し、移民の数は低水準を維持すると予想している。こうした影響が相まって、金利上昇圧力は低下するだろう。
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