本稿は2022年2月17日発行の英語レポート「Harvesting Growth, Harnessing Change」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
サマリー
- 年初のアジア株式市場(日本を除く)は、根強いインフレを受けて米FRB(連邦準備制度理事会)の引き締めサイクルが予想されたよりも積極化するかもしれないとの懸念から、厳しい展開を迎え月間リターンが米ドル・ベースで-3.10%となった。
- 北アジアの各国市場はリターンがまちまちとなった。中国と台湾では、2021年通年のGDP成長率が市場予想を上回った。中国人民銀行は、景気をさらにてこ入れするべく金融政策を緩和した。韓国は、中央銀行がインフレを抑制するために主要政策金利を引き上げたことが嫌気され、アジア域内の他国市場をアンダーパフォームした。
- アセアン諸国市場は概してアジア全体をアウトパフォームした。最も良好なパフォーマンスを見せたのはフィリピンで、2021年第4四半期のGDP成長率が前年同期比7.7%と市場予想を上回ったことが追い風となった。一方、マレーシアとシンガポールは、インフレの加速を受けて市場センチメントが冷え込んだため、より低調なパフォーマンスに終わった。
- 新型コロナウイルスのオミクロン株は他の変異株に比べて感染力が強いものの毒性は低いとの見方が広がりつつあり、実施される規制がより少なくて済むとみられるため、経済への影響は以前の変異株よりも小さくとどまると想定される。当社では、将来持続可能な利益をもたらすような大きなプラスの変化をファンダメンタルズ面で遂げつつある企業に注目し、ファンダメンタルズを重視したボトムアップでの銘柄選択を忠実に継続することが、最善の策であると考える。
市場環境
1月のアジア株式市場は下落
年初のアジア株式市場は、根強いインフレを受けてFRBの引き締めサイクルが予想されたよりも積極化するかもしれないとの懸念から、厳しい展開を迎えた。同中銀は、1回目の利上げを今年の3月に行うとのフォワード・ガイダンスを示している。当月のアジア株式市場(日本を除く)の月間リターンは米ドル・ベースで-3.1%となり、アセアン諸国市場が北アジア諸国市場を総じてアウトパフォームした。
北アジア市場のリターンはまちまち
中国の月間市場リターン(米ドル・ベース)は-3.0%となった。同国の2021年通年のGDP成長率は8.1%と大方の予想を上回ったが、第4四半期の成長率は、国内での新型コロナウイルスの流行や不動産セクターの低迷継続を受けて、前年同期比4%へと減速した。FRBやその他多くの先進国の中央銀行とは対照的に、中国人民銀行は景気をさらにてこ入れするべく金融政策の緩和を継続し、1年物LPR(「ローンプライムレート」、最優遇貸出金利)を0.10%引き下げて3.7%、5年物LPRを0.05%引き下げて4.6%とした。香港の月間市場リターン(米ドル・ベース)は1.0%となった。同特別行政区の2021年第4四半期の失業率は3.9%へと低下したが、最近延長されたソーシャル・ディスタンス(社会的距離の確保)措置の影響で、失業率は再び上昇する可能性がある。
北アジアの他の国では、韓国の月間市場リターン(米ドル・ベース)が-10.2%とアジア内で最も劣後した。韓国の中央銀行は、インフレを抑制するために主要政策金利をコロナ前の水準である1.25%へと引き上げ、また追加引き締めの可能性を残した。移動制限が延長されたにもかかわらず新型コロナウイルスの感染者数が再び増加したことも、投資家心理に悪影響をもたらした。台湾の月間市場リターン(米ドル・ベース)は、テクノロジー株の低迷を受けて-2.0%となった。とは言え、2021年の台湾経済は、コロナ禍での堅調なテクノロジー輸出を牽引役に過去10年で最も高い成長を見せ、通年のGDP成長率(速報値)が2020年の3.11%に対して6.28%に達した。
アセアン諸国市場はマレーシアを除いてアウトパフォーム
アセアン諸国市場は概してアジア全体をアウトパフォームした。最も良好なパフォーマンスを見せたのはフィリピンで、2021年第4四半期のGDP成長率が前年同期比7.7%と市場予想を上回ったことを追い風に、月間市場リターン(米ドル・ベース)が4.1%となった。また、タイ市場は、政府が3.19兆バーツに上る2023年度(2022年10月~2023年9月)予算案を承認したことや、ワクチン接種済みの旅行者を対象に隔離措置なしでの入国受け入れを再開したことが好感され、月間リターン(米ドル・ベース)が0.2%と小幅なプラスになった。一方、マレーシアとシンガポールは、インフレの加速を受けて市場センチメントが冷え込んだため、月間市場リターン(米ドル・ベース)がそれぞれ-3.6%、-1.1%とより低調に終わった。月末にかけて、シンガポールの金融当局は、物価上昇を抑制するために定期の政策決定会合を待たずして金融政策を予想外に引き締めた。
インド株式は下落
インド市場の月間リターン(米ドル・ベース)は-1.4%となった。同国の12月の失業率は7.91%と4ヵ月ぶりの高水準に上昇しており、依然として懸念材料となっている。しかし、同国は、新型コロナウイルスのワクチン接種の進行に伴う感染者数の減少を追い風に、2022年度(2021年4月~2022年3月)の経済成長率が9.2%になると予想している。また、政策当局は来年度の国家予算案も発表し、公共投資とインフラ支出の予算を大幅に拡大した。
今後の見通し
規律立った銘柄選択アプローチに基づいて不透明な環境を切り抜ける
2022年にはFRBの利上げが少なくとも4回、場合によっては5回実施されるというのが市場のコンセンサスになりつつあり、何らかの形での量的引き締めが発表されるとも見込まれている。また、新型コロナウイルスのオミクロン株は他の変異株に比べて感染力が強いものの毒性は低いとの見方が広がりつつあり、実施される規制がより少なくて済むとみられるため、経済への影響は以前の変異株よりも小さくとどまると想定される。こうした見方が市場に浸透するのに伴い、株式市場は底打ちする可能性がある。この移行期およびその後も、ファンダメンタルズが堅固でリスク・リターンのバランスが魅力的な個別銘柄は、「バリュー」株であれ「グロース」株であれ、勝者となる可能性が高いだろう。
中国ではより長期的な経済のドライバーに注目
中国については、政府の焦点が経済の安定性へとシフトしていることから、年内は何らかの金融緩和が続くものと思われる。ゼロコロナ政策や放漫的な不動産セクターの規制強化による経済への悪影響の相殺や、中国共産党の第20回党大会を控えた地ならしだけであっても、金融緩和を継続する理由として十分だろう。これは、経済の一部の分野、特にテクノロジー自給率の向上や「共同富裕」、脱炭素化など国の重要な経済政策全般に沿った分野にとって、比較的有利な先行きを示唆している。当社では、そのような長期的ドライバーから恩恵が見込まれる分野を有望視している。
インドに対しては慎重な姿勢を維持
インドで注目すべきは直近の年度予算案で、政府はインフラおよび雇用創出への投資拡大による国内の生産能力向上を目指している。これは、過去数年にわたり当該分野への取り組みが散発的にとどまっていたことから、特に必要性が高いと考える。ただし、政府がこの目標の達成を目指しながら財政状態を改善させられるかどうかは、やや疑問視される。株式市場のバリュエーションが比較的割高であることから、景気回復に関する楽観的な見方は少なくとも一部が市場に織り込み済みであるように見受けられる。したがって、当社では慎重な姿勢を維持しながら、景気が上振れした場合にその恩恵を最も早く受けやすい金融セクターに注目している。
台湾と韓国ではテクノロジー・セクターに注目
世界のサプライチェーンの漸進的な「正常化」は、特にテクノロジー・セクターにとって重要となる。半導体チップ不足の緩和、デジタル化の長期的進展、かつてないほど高まっているコンピューターのデータ処理能力の向上ニーズは、韓国と台湾の企業にとって、短期・長期ともに追い風となる。メタバース(インターネット上で提供されている仮想空間や仮想現実の世界)は、まだ初期段階にあるものの、今後数年にわたって半導体のサプライチェーンに変革をもたらすだろう。こうしたなか、当社では引き続き集積回路設計、コンテンツ基幹技術、産業技術に投資機会を見出している。
アセアンについては選別姿勢
アセアン域内で選好する市場は概ね変わらない。アセアンでは、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて全域にわたりデジタル化が加速しているが、タイとマレーシアに対しては、政局、そして観光業・石油への依存度の相対的な高さから、慎重な見方をしている。インドネシアとフィリピンについては複数のセクターにおいてより有望視しているものの、インドネシアは改革のペースが遅く、フィリピンでは大統領選挙があるため、注視が必要だと考えている。シンガポールは引き続きアセアンの成長性を最も体現しており、またコーポレートガバナンスが相対的に良好である。
当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。