本稿は2022年1月19日発行の英語レポート「Balancing Act」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

投資環境概観

米国で新型コロナウイルスの新規感染者数が過去最多となるなど、オミクロン株の世界的な感染拡大はニュースの見出しを派手に飾り続けているが、医療崩壊や高い死者数というような悲惨な見通しは今のところ話題になっていない。新変異株のニュースを受けて、各国政府が先手を打つべく規制を強化することにより、またしても世界の需要が阻害され景気回復が妨げられるのではないか、との不安が生じた。しかし、オミクロン株は相対的に毒性が低い可能性のあることが明らかになりつつあり、そのため各国国民は、感染者数が増加しているにもかかわらず、政府によるロックダウン(都市封鎖)に耐える気が後退しているようだ。結果として、需要は当初懸念していたほどには減少しないかもしれない。

よくあることだが、市場はニュースの見出しよりも一般的なセンチメントを反映しやすく、今のところ、株式市場が2021年の上昇分を維持するとともに長期債利回りが上昇するなど、世界経済の回復継続を示している。オミクロン株の感染拡大から導かれるより困難なシナリオを切り捨てるには時期尚早かもしれないが、これまでのところわかっている事実は1ヶ月前よりもポジティブな見通しを示している。

米FRB(連邦準備制度理事会)の発言がタカ派色を増しているなか、リスク資産に投資しやすい環境とは決して言えないが、以前からずっと述べているように、市場は依然非常に緩和的な政策に下支えされており、FRBの政策が引き締めと呼べるようなものに近づくのはまだずっと先のことだ。もちろん、オミクロン株が経済に大きな打撃を与えないとの前提(当社ではそのように予想している)での話だが、景気回復は続くとみられ、特に米国以外の市場では株価が企業収益の改善に追いついていない。一方、状況を悪化させ得る要因が多々あるのは確かで、FRBが適切な対応をとれる前に発生する可能性のある潜在的リスクを注視していくことがますます重要となる。

クロス・アセット

新型コロナウイルスの直近の世界的流行とFRBのタカ派転換堅持を考慮して、市場は慎重さを維持している。渡航や移動の制限など、オミクロン株に対する各国政府の当初の反応は、ワクチン接種率の高さや具体的情報の不足を考えると奇妙に思われた。オミクロン株に関する情報が増えるにつれ、感染力はデルタよりもはるかに強いように見受けられるが、感染者(その多くはワクチン接種済み)の症状はかなり軽いように思われる。これは、経済への悪影響を最小限に抑えながらウイルスと共存していけるようになるのに、良い兆しと言える。一方、FRBは2022年に超緩和的な金融政策による支援を解除し始める予定だが、これが引き締め政策と呼べるものになることはしばらくないだろう。また、銀行が融資を増やし始めている兆候もあり、そもそもこれが事実上FRBによる資産購入の必要性に取って代わっているため、世界の景気についてネガティブな見通しを描くことは難しい。インフレは依然として注視すべき重要点だが、需要が引き続き堅調で企業の利益率も維持されているなか、(まだ今のところは)逆風とはなっていない。

当社では、対ディフェンシブ資産でのグロース資産へのポジティブな見方を維持している。グロース資産のなかでは、景気回復の継続から恩恵を受けやすい伝統的グローバル株式を引き続き選好する一方、上場インフラ投資とリート(前者ほどではないものの)に対してより慎重な見方をしている。ディフェンシブ資産では、成長見通しの改善と中央銀行による流動性引き揚げが逆風となる投資適格クレジットと先進国ソブリン債のスコアを引き下げ、マイナス幅を拡大させた。金については、高インフレが実質金利よりもブレークイーブン・インフレ率(期待インフレ率)への上昇圧力になる(金価格にとっては追い風材料)との前提で、スコアを引き上げて若干のプラスとした。

マルチアセット・チームのクロス・アセット見解は、(1)グロース対ディフェンシブ、(2)グロースおよびディフェンシブ資産内でのクロス・アセット、(3)各資産クラス内での相対的な資産の見方、という3つの異なる段階で示しています。これらの段階は、選好順位の水準は資産クラスが予想可能な形で似た動きあるいは異なる動きを見せるという当社のリサーチおよび直感的認識を表しており、したがって、資産クラスのクロス・アセットでのスコアリングは理に適っているとともに、最終的により熟考された堅固なポートフォリオ構築につながると考えます。

資産クラスの選好順位

当社の見方

グロース資産

新年の市場は波乱の幕開けとなったが、当社ではグロース資産に対してポジティブな見方を堅持している。以前からずっと述べてきているように、FRBのタカ派化が(グロース資産に投資するにあたり概して要注意の逆風となる)政策引き締めと同義というわけではない。確かに、異例の緩和政策と過剰流動性が解除されるのに伴ってボラティリティは高止まりするだろうが、需要の見通しは依然ポジティブであり、今後数ヶ月でさらに改善するかもしれない理由がいくつかある。

第一に、FRBが市場に一時的動揺を引き起こすことなく緩和から引き締めへと移行するのは決して容易ではなく、特に今日のように極端な状況下ではなおさらである。FRBが言葉巧みに移行をスムーズに進めようとすればするほど、市場心理は必ずそのストーリーを飛び越してよりアグレッシブなシナリオを試そうとする。2013年にバーナンキFRB議長(当時)が量的緩和の縮小を示唆した後、悪名高い「テーパー・タントラム」が起きて市場を揺るがしたが、重要なのはそれが景気の回復を頓挫させなかったことである。今回の市場は当時に比べてはるかに慎重でリスク資産へのレバレッジが低いため、当時のような動揺が起きる可能性は低いと当社では考えるが、いずれにせよ、景気回復は続くとみられる。

次に、オミクロン株は確かにその高い感染率で世の中を怖がらせたが、毒性が低いことから集団免疫の獲得が加速的に進む可能性が高く、今後はウイルスと共存できるようになり行動制限が減ると思われる。これは世界の需要や経済成長にとって大きなプラス材料であり、一方で銀行の増やしつつある融資が中央銀行の引き揚げようとしている過剰流動性の減少分を補うとみられる。

最後に、インフレ率はまだ不安になるような高水準にあるものの今後数ヵ月のうちにピークを打つと予想され、特にオミクロン株により新型コロナウイルスが世界規模の疫病から一般的な感染症へと移行して規制が緩和されれば、サプライチェーンの継続的な正常化に伴いインフレはより早く収束するかもしれない。このシナリオにも、今後より毒性の強い変異株が出現する可能性やインフレの長期化など、多くのリスクがないわけではないが、新年を迎えるにあたって想定される環境はポジティブだと言える。

2022年におけるグロース資産のポジショニング

2022年の最初の数日間、市場はFRBのタカ派的発言に大きな反応を見せた。オミクロン株に関するポジティブなニュースも加わり、これでおそらくFRBは引き締めサイクルを一層積極的に進められるとの悲観的な見方が、市場参加者のあいだで広がった。当然ながら、債券利回りは当社の予想通り上昇したが、そのペースは心配なほど速く、2021年第1四半期と同様、金利の急上昇を受けてグロース株からバリュー株へのローテーションが大きく進んだ。

これはリフレ・トレードの復活なのか。オミクロン株により新型コロナウイルスが世界規模の疫病から一般的な感染症へと移行するのだとすれば、答えは「イエス」だと当社は考える。市場で大きな動きが起きた場合は常にそうだが、何がなぜ動いたのかを理解することが重要である。興味深いのは、ボラティリティの高まりに比べて、またFRBのタカ派化が懸念されているにもかかわらず、米ドルが目立って弱かったことだ。通常、中央銀行のタカ派的スタンスや債券利回りの上昇は通貨のサポート材料となるが、ドルの場合、景気見通しが改善するとかえってドル安になることがある。原油価格の大幅上昇も今後の景気見通しの改善を示唆している。

グロース株からバリュー株へのローテーションも景気見通し改善の可能性を示しているが、これは何を意味するのだろうか。「バリュー株」は、景気敏感株から公益事業などのディフェンシブ株まで様々な銘柄を含む、幅広いカテゴリーである。投資資金が景気敏感株よりもディフェンシブ株にシフトしている場合は、より暗い見通し、つまり今後の景気悪化を示唆する。新型コロナウイルスの感染拡大初期にはディフェンシブ株がアウトパフォームしたが、その後は景気敏感株が追いつき、非常に注目すべき点として、最近のローテーションではディフェンシブ株を大幅にアウトパフォームしている。これは景気見通しにとってもう一つの強気の兆候と言える。

チャート1

これはグロース株を見捨てて景気循環株を買えということなのだろうか。そうとは限らない。同じグロース株のなかにも、足元で利益を上げている企業や、今は赤字だが売上げの伸びが数年後に利益をもたらすと期待される企業など、特性の異なる銘柄がある。市場は、長期的な収益見込みへの投資を厭わない忍耐強さを見せることもあるが、引き締めサイクルにおいてはそうならないのが通常だ。

ドットコム・バブルを振り返ってみると、今日の赤字高成長企業と同様、当時のテクノロジー・セクターでは大半の企業が高い売上高成長を示しながらもほとんど利益を生んでいなかった。FRBが積極的な引き締めに転じると、バブルが崩壊してテクノロジー株は暴落した。Amazonといった企業はなんとかドットコム・バブルの崩壊を生き延びて大幅な利益を生み出せるようになったが、大半の企業はそうはいかなかった。

現在の環境では、テクノロジー・セクターには足元の利益とキャッシュフローも好調な超大型高成長テクノロジー企業が含まれる。もちろん、それらの大手企業は周知の通り、大規模な景気刺激策もあるが行動の変化に伴ってテクノロジーとeコマースが移動制限の克服手段に用いられたこともあって、新型コロナウイルスを要因に株価がかなり上昇した。結果として、そのような超大型企業の株価を十分に体現していると言えるNASDAQ100指数は、2020年初頭から80%という驚異的な上昇を見せている。もっと印象的なことに、赤字テクノロジー企業の株価は2021年2月半ばにかけて4倍にまで上昇したが、今ではそのバブルがすでに弾けている。

チャート2

赤字テクノロジー企業の株価バブルは、キャッシュフロー不足による資金需要を埋めてくれる異例の金融緩和政策と過剰流動性がもはやなくなるため、今後も萎み続けると予想している。一方、利益を上げているテクノロジー企業のうち、長期的な成長を遂げ続ける可能性が高いものについては依然選好している。新型コロナウイルス関連の規制に対処するためのテクノロジー・ソリューションへの需要は確実に衰えるとみているが、半導体とソフトウェアが我々の日常生活に浸透し続けるなか、業界の供給混乱は続くだろう。


グロース資産に対する確信度の強い見解

  • エネルギー・セクターを選好:オミクロン株の感染拡大の初期には各国政府がすぐに新たな規制で対応したことから、エネルギー株が大きな打撃を受けた。同新変異株への対策としては規制の必要性が低いとみられることが明らかになりつつあるなか、エネルギー価格は上昇しており、当社ではさらに上昇余地があるとみている。
  • グロース通貨を選好:ドル安局面に入ってまだ日が浅いが、様々な市場の動き、特にFRBがタカ派色を強めているにもかかわらずドルが下落していることを考えると、当社ではこの基調が続くと予想しており、そうなれば世界経済の成長にとって好循環がもたらされる。

ディフェンシブ資産

ディフェンシブ資産については慎重な見方を維持している。2021年の終わりには、新しいオミクロン株への市場の反応を恐れ、安全な避難先とみなされるソブリン債への需要が堅調となった。2020年3月と異なり、今日では大半の先進国でワクチン接種率が高水準にあるとともに、各国政府が同ウイルスの習性についてすでに多大なデータを収集している。当社では、世界経済の回復が続き、インフレ圧力の高まりを受けて中央銀行が新型コロナウイルスの世界的流行の初期に実施した緩和政策を縮小する方向に向かうと予想している。消費者と企業のバランスシートがともにコロナ禍の景気後退を経て良好な状態にあるなか、インフレを許容できる水準へと確実に収束させるために必要な金融引き締めの度合いを市場が過小評価しているのではないかと懸念している。

グローバル・クレジットにおいては、すでにマイナス圏にある投資適格クレジットのスコアをさらに引き下げ、ハイイールド債の選好を継続している。2022年には中央銀行がコロナ関連の金融政策による支援を徐々に解除し始めるなか、クレジット物のバリュエーションは全般的に割高な水準にとどまっている。クレジットの質は依然良好で今後も改善し続ける可能性が高いが、世界的な債券利回りの上昇が社債にとって継続的な逆風になるとみられる。したがって、相対的に高い利回りを求めるにあたってより魅力的な投資対象は、米国のハイイールド債と一部の現地通貨建て新興国債券である。

FRBが債券購入の漸進的縮小を加速させており、2021年12月のFOMC(連邦公開市場委員会)以前に示唆してきた以上の引き締めを見込んでいることを受けて、市場は不安定な年明けを迎えている。しかし、現在インフレ率が非常に高い水準にあることから考えると、金融政策は依然として超緩和的であると言える。当社の見方では、比較対象となる昨年の水準が低いことによるベース効果、エネルギー価格の回復、サプライチェーンの混乱が引き続き年間インフレ率を押し上げるなか、今四半期もインフレ圧力が市場を左右する主要な材料になる。その結果、インフレ・ヘッジに対しては強い需要が続き、金とインフレ連動債の両方にとって追い風になると思われる。


ECBはどうか

12月中旬のFOMCを受けて、ここ数週間の市場では「FRBの政策転換」についての議論が中心となってきたことは間違いない。世界最大の経済大国の中央銀行であるFRBにアナリストやコメンテーターの注目が集まるのは当然と言える。しかし、今月の本レポートではさらに視野を広げて、ECB(欧州中央銀行)の現在の金融政策ガイダンスと市場に織り込まれている欧州金利の先行き予想を検証することにした。

2021年の最後のECB理事会で示された金融政策の方向性は、従来とほぼ同様のものだった。他の多くの中央銀行がすでに大規模資産購入の漸進的縮小を進めているのに対し、ECBはその動きに加わるのが遅く、予定されているPEPP(パンデミック緊急購入プログラム)の終了が実施されるのは3月末になってからだ。その後、ECBは、別のQE(量的緩和)プログラムであるAPP(資産購入プログラム)の購入ペースを第2四半期にかけて月額200億ユーロから同400億ユーロに引き上げ、第4四半期までに元の額に戻す予定である。これによって4月以降の資産購入額は純減となるが、一方でECBは他の中銀よりもはるかに長い期間にわたってQEプログラムを維持することにもなる。

相対的な意味では、ECBのQE引き揚げの遅れは、欧州のコアインフレがまだ他国よりも低い(チャート3参照)ことからある程度正当化される。主要先進国の中央銀行はいずれも2%前後のインフレ目標を掲げており、欧州のインフレ率はこの目標を上回っているが、その超過幅は米国や英国に比べてはるかに小さい。しかし、2021年の1月と2月には物価が月平均0.2%下落したことを考えると、欧州は今後数ヶ月、年間コアインフレ率のベース効果において明らかに不利な状況にあり、コアインフレ率は2月のECB理事会の前に3%を突破する可能性が高い。結果として、当社では、市場はインフレ圧力の上昇にもかかわらずECBがハト派基調のスタンスを維持するかを引き続き試しにいくと予想する。

チャート3

市場に織り込まれているECBの政策金利の先行き予想はチャート4の通りである。ECBの利上げ予想は年初にやや高まったが、2022年に予想されているFRBの利上げ幅には追いついていない。最初の0.10%の利上げは市場に完全に織り込み済みで、年内のかなり遅い時期に実施されると予想されている。これは、FRB、イングランド銀行、カナダ銀行について2022年に0.75%~1%の利上げが完全に織り込まれているのに比べると、極めて対照的である。

チャート4

ECBは自行のハト派的なフォワード・ガイダンスと相反する市場での織り込みに抵抗し続けるとみられるが、こうした摩擦は今後数週間でさらに激化すると予想する。欧州のインフレ圧力は依然高まりつつあり、物価上昇が概ね一過性に終わるとのECBの期待は裏切られる可能性が高い。欧州の債券価格には当面、下方圧力がかかるとみている。ECBが「後手に回っている」との見方が強まり、長期債はより高いインフレ・リスクを織り込みにいくだろう。


ディフェンシブ資産に対する確信度の強い見解

  • 中国債券を依然選好:中国の国債は、より高い利回りをより低いボラティリティで提供しており、中国人民銀行が徐々に政策を緩和していることも追加的な追い風になるとみられる。
  • ユーロ圏のソブリン債に対してより慎重な見方:欧州における低い(あるいはマイナス圏の)債券利回りとインフレ圧力の高まりは、魅力的な投資リターンを求めるのに良い組み合わせとは言えず、ECBが緩和的な政策を継続する環境下ではなおさらである。

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

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