本稿は2022年3月10日発行の英語レポート「Harvesting Growth, Harnessing Change」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

ロシア・ウクライナ紛争は懸念材料だがコモディティ価格の上昇に耐えられる強さを持つアジア経済


サマリー

  • 当月のアジア株式市場(日本を除く)は下落した。ロシア・ウクライナ間の緊張激化の結果、ついにロシアがウクライナ侵攻に踏み切ったことが嫌気されたのに加え、根強いインフレ懸念も株式市場の重石となり、月間リターンが米ドル・ベースで-2.3%となった。
  • 国別のパフォーマンスでは、インドと中国の下落幅が最も大きかった。インド株式は、インフレの加速や原油価格の高騰を受けてアンダーパフォームした。中国株式は、中央銀行が様々な景気浮揚策を講じたにもかかわらず下落した。
  • 一方、アセアン諸国市場は、各国のGDP成長率が良好となったことなどが好感され、総じてアジア全体をアウトパフォームした。
  • 東欧での紛争という厳しい現実はあるものの、当社では、アジア経済はコモディティ価格の上昇に(足元の高騰した水準であっても)十二分に耐えられる強さを持っていると考える。アジアの国内消費や革新的ヘルスケア、環境、一部の産業技術など、政策が追い風となっている構造的分野を引き続き有望視しており、これらの分野は継続中の地政学的紛争から悪影響を受け難いとみている。

市場環境

当月のアジア株式は下落
当月のアジア株式市場は下落した。ロシア・ウクライナ間の緊張激化の結果、ついにロシアがウクライナ侵攻に踏み切ったことが嫌気された。米国の2022年1月のCPI(消費者物価指数)上昇率が前年同月比7.5%と40年ぶりの高水準へ加速するなど、根強いインフレ懸念も株式市場の重石となった。

アジア株式市場(日本を除く)の月間リターンは米ドル・ベースで-2.3%となり、国別のパフォーマンス(MSCIインデックスの米ドル・ベースのリターンに基づく)では、マレーシアとインドネシアが最も良好となる一方、インドと中国は下落幅が最も大きかった。

インド株式は下落
インド株式は、世界的に株式市場が低迷したことや、1月のCPI上昇率が食品や製造品の価格上昇を主因に前年同月比6.01%へと加速したことを受けて、月間リターン(米ドル・ベース)が-4.0%となった。原油価格が2014年以来初めて1バレル当たり100米ドル超へと高騰したことも、インドの経常赤字を拡大させる要因として市場心理を悪化させた。インド準備銀行は、景気回復を下支えするために、レポ金利とリバースレポ金利をそれぞれ4.00%、3.35%に据え置いた。


中国株式は下落、北アジアの他国市場は中国をアウトパフォーム
中国市場は、同国の中央銀行が様々な景気浮揚策を講じたにもかかわらず下落し、月間リターン(米ドル・ベース)が-3.9%となった。中国人民銀行は、主要政策金利を据え置いく一方、中期貸出ファシリティを通じて金融システムに3,000 億人民元を注入した。また同国は、不動産セクターにおいて需要を再び呼び起こすとともに流動性の逼迫を緩和させるために、頭金の引き下げ容認、住宅ローン金利の引き下げ、譲渡税の引き下げなどの措置も実施した。

北アジアの他国市場は中国をアウトパフォームした。韓国は、中央銀行がインフレ加速や家計負債の拡大を抑制するために主要政策金利をコロナ前の水準である1.25%に維持するなか、月間市場リターンが0.7%と小幅なプラスになった。台湾(月間市場リターンが米ドル・ベースで-2.5%)は、同国のテクノロジーに対する世界的な需要の強さから1月の輸出が19 ヵ月連続で増加し、香港(同-2.8%)はコロナ対策の規制が家計や企業にもたらした影響を埋め合わせて景気を押し上げるべく、1,700億香港ドルの景気対策を発表した。

アセアン諸国市場はアジア全体をアウトパフォーム
アセアン諸国市場は、各国のGDP成長率が良好となったことなどが好感され、アジア全体をアウトパフォームした。マレーシア(米ドル・ベースの月間市場リターンが5.5%)とフィリピン(同0.1%)は、2021年第4四半期のGDP成長率が前年同期比でそれぞれ3.6%、7.7%となった。タイ(米ドル・ベースの月間市場リターンが5.3%)とインドネシア(同5.5%)の両国では、中央銀行が政策金利を据え置いた。タイは、マレーシアおよび中国とのあいだで隔離期間なしで相互に往来できる「トラベルバブル」導入の協議を開始したとのニュースを受けて、市場心理が上向いた。インドネシアは、インフレ率が目標レンジの2~4%を上回るまで政策金利を据え置くとの意向を発表した。一方、シンガポールは、1月のコアインフレ率が前年同月比2.4%と9年超ぶりの高水準へ加速し、金融当局が物価上昇に対処すべく金融政策の引き締めに動いたことから、市場が小幅に下落した(米ドル・ベースの月間リターンが-1.2%)。

今後の見通し

規律立った銘柄選択アプローチに基づいて不透明な環境を切り抜ける
激化しているロシア・ウクライナ紛争は展開の早い予測不可能な地政学的危機であり、当社ではこの紛争から深刻な被害を受けている方々に心よりお見舞い申し上げたい。アジアについては、域内諸国の大半でロシアまたはウクライナが売上げや生産に占める割合が10%を下回るため、直接的な影響は限定的であるものの、小麦、大麦、パラジウム、原油、ガス、石炭、プラチナ、ニッケル、アルミニウムなどのコモディティを通じて、間接的な影響を受ける可能性がある。東欧での戦争という厳しい現実があるのは確かだが、特筆しておくべき重要な点として、アジア経済はコモディティ価格の上昇に(足元の高騰した水準であっても)十二分に耐えられる強さを持っている。

当社がボトムアップ・アプローチにおいて主に重視しているのは、将来優れた持続可能な利益をもたらすことのできる大幅でポジティブな変化をファンダメンタルズ面で遂げている企業を見出すことだ。引き続き選好しているのは、アジアの国内消費や革新的ヘルスケア、環境、一部の産業技術など、政策が追い風となっている構造的分野であり、これらの分野は継続中の地政学的紛争から悪影響を受け難いとみている。

北アジアでは再生可能エネルギー投資を有望視
中期的に、欧州はエネルギー安全保障を強化して、ロシアからのエネルギー供給への依存を減らしていくとみられる。欧州では代替エネルギー源への大規模な投資が進むと予想され、特にエネルギー価格の高止まりが長引く場合は、再生可能エネルギーへの投資が加速するだろう。そのような動きから主に恩恵を受ける可能性があるのは、台湾、韓国、中国といった北アジア諸国の再生可能エネルギーのサプライチェーンだとみている。

中国では政策の優先分野を選好
さらに、中国も景気を下支えする財政出動の一環として、今年は再生可能エネルギーに多額の支出を行うと予想される。経済成長が減速している国で雇用をてこ入れするには、財政・金融両面での緩和が必要となる。他国が世界中で金融環境を引き締めていることと比較すると、中国の緩和は特に際立つ。習近平国家主席が3期目を迎える今年、中国にとっての最重要課題は「安定」の年とすることだ。こうしたなか、当社では、産業技術、AI(人工知能)ソフトウェア、半導体、再生可能エネルギー、電気自動車など、中国の政策の優先分野に引き続き着目していく。

アセアンはコモディティ価格の上昇が追い風に
アセアン諸国はコモディティの上流産品や農産物の主要なサプライヤーであることから、コモディティ価格上昇の恩恵を受ける存在として注目が高まる可能性がある。例えば、インドネシアは、石炭やニッケルの輸出を通じて交易条件が改善する可能性がある。特にニッケル価格は、ロシア産ニッケルへの制裁による地政学的なリスク・プレミアムの上昇が織り込まれる前でさえ、クラス1ニッケルの供給不足からすでに上昇していた。他では、産油国であるマレーシアも、原油価格の上昇から特に恩恵を受けやすい。

インドについては選別姿勢
当社では、アジアの投資機会について楽観視している一方、コモディティ上流産品の供給混乱から悪影響を受けやすい市場があることも認識している。そのため、インドのようなエネルギー輸入国の市場は、特にバリュエーションが引き続き割高となっている分野が散見されるなか、ある程度の下方圧力に晒される可能性がある。ポジティブな変化が実現し、それが過去数ヵ月にわたって株価に織り込まれたインド株式は、バリュエーション面の魅力が後退していた。とは言え、過去数年間の大きな改革の勢いを受けて、当社では、インドの長期的な成長に対して非常にポジティブな見方を維持しており、構造的成長に浴していてバリュエーションに依然上昇余地がある不動産、民間銀行、「ニュー・エコノミー」、ヘルスケアなどの分野に引き続き投資機会を見出している。


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