本稿は2022年2月18日発行の英語レポート「Balancing Act」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

投資環境概観

現在のところ、見通しは難しいものとなっている。行く手には引き締めが控えているが、まだ実施されているわけではなく、足元の政策はかなり緩和的なままである。金融・財政ともに極めて緩和的である政策が株価を押し上げたことは確かで、その後の企業の好業績によって株高がさらに進んだ。有機的成長は依然続く可能性があり、特に感染力は強いが毒性は弱いオミクロン型がパンデミック(世界的流行)からエンデミック(より日常的で危機水準の低い特定地域での流行)状態への移行を示すとすれば、世界はようやくコロナ前のような需要を回復することができるだろう。

市場の調整は健全なものであることが多い一方、今後の経済環境がこれまでほど良好でなくなることを示唆している可能性もある。インフレは依然過熱しているが、サプライチェーンが正常化しモノやサービスに対する需要が回復するにつれて、圧力はある程度解消され得る。今回は、2008年に見られたような民間セクター主導の信用バブルではない。株価の上昇は実際の企業収益に起因しており、2000年のケースのように遠い将来の資本収益率を夢見ているわけではない。

それでも、市場が我々に伝えようとしているメッセージを尊重する必要はあり、それはおそらく、市場の特定のセグメントで見られてきた大幅な収益の伸びは、現在のペースでは持続できないかもしれないということだろう。コロナ関連のロックダウン(都市封鎖)からの需要回復が一段落したことから、当然ながら収益の伸びは予想される通り鈍化している。とは言え、大規模な景気刺激策とコロナ禍で喚起された需要が今や巻き戻される可能性のあるなか、市場動向の展開は、そのような刺激策の恩恵を並外れて受けた市場セグメントはどれかという疑問を投げかけている。当社は、慎重な姿勢ながらも成長ストーリーは変わらないと考えており、一方、金融・財政・需要の環境がより正常な状態に戻るのに伴って資産価格が受け得る影響については引き続き認識している。

クロス・アセット

当月は、グロース資産のスコアを引き下げて中立とする一方、ディフェンシブ資産に対する慎重なスタンスを若干弱めた。今年最初の月に際立ったのは金利の大幅上昇で、史上最大規模とも言えるグロース株からバリュー株へのローテーションを引き起こした。このローテーションの特性は2021年第1四半期のケースと同じだが、今回はグロース・セクターへのダメージがはるかに大きかった。米FRB(連邦準備制度理事会)はインフレ抑制に重点を置くことを明確にしており、これは金利の上昇、そして年後半におけるバランスシートの縮小を意味する。

FRBがタカ派化するとともに米国の最新の景気刺激策(「ビルド・バック・ベター」)法案が(とりあえずは)暗礁に乗り上げるなか、市場は、2年間にわたり所得や流動性、需要を押し上げてきた緩和政策がついに解除されつつあるという現実に目覚めた。確かに、インフレの問題は引き締めを正当化する懸念材料だが、一時的な要素は依然としてあり、今後数ヶ月における引き締めの緊急性は後退する可能性がある。

市場へのテクニカルなダメージが全面的な下落へと転じる可能性は残っているが、特にコロナ禍がついに最悪期を過ぎたかもしれないことを考えれば、ファンダメンタルズは問題ないように見受けられる。当社ではグロース資産に対するスタンスを中立に変更するとともに、先進国株式のスコアを引き下げ、その分、グロース資産のなかでディフェンシブな特性を有するリートと上場インフラ投資のスコアを引き上げた。ディフェンシブ資産では、金融引き締めが逆風となりやすい資産クラスであるハイイールド債のスコアを引き下げ、景気悪化の可能性に備えてソブリン債、投資適格クレジットおよび金のスコアを引き上げた。

マルチアセット・チームのクロス・アセット見解は、(1)グロース対ディフェンシブ、(2)グロースおよびディフェンシブ資産内でのクロス・アセット、(3)各資産クラス内での相対的な資産の見方、という3つの異なる段階で示しています。これらの段階は、選好順位の水準は資産クラスが予想可能な形で似た動きあるいは異なる動きを見せるという当社のリサーチおよび直感的認識を表しており、したがって、資産クラスのクロス・アセットでのスコアリングは理に適っているとともに、最終的により熟考された堅固なポートフォリオ構築につながると考えます。

資産クラスの選好順位

当社の見方

グロース資産

1月前半にグロース株からバリュー株への大規模なローテーションが起こると、その後ボラティリティがさらに高まって市場全体に重くのしかかり始めた。しかし、最近の市場の展開は、世界経済の先行き悪化を示唆するものではなく、景気刺激策によって生み出された過剰流動性の引き揚げによる下方リスクを軽減しながら景気回復の恩恵を享受するために、ポートフォリオの構成そのものについてより深く考えることを求めている。

過去の安全資産がリスク資産となり、誰もが(時には何年も)避けようとしていた資産が今や安全資産の様相を呈しつつある。もちろん、これが一時的あるいは非合理的な現象であれば、これまでと同様のポートフォリオ構成を貫いた方がいいのだろうが、当社では、市場の動きの一部はより重大な転換点を示唆していると考える。

足元で経済・市場環境が変化を遂げつつあるなか、資産クラス間のポジショニングと資産クラス内のエクスポージャーは、その重要性がこれまで以上に高まっている。地域別配分は、ポートフォリオ全体のセクター配分とバリュー特性を決定づける重要な要素であり、コロナ後の世界へ移行する今後数ヶ月、あるいはもしかしたら数年間にわたって、経済成長に対するより安全なエクスポージャーを構築する最初のカギとなる。

また、各地域内で適切なエクスポージャーを選択することも、極めて重要な役割を担う。グロース株は破壊的な変化が起きた世界における長期的な成長機会への魅力的なエクスポージャーを提供するが、当該市場分野の一部については、今や解除されつつある景気刺激策を主因として並外れた株価上昇を実現した可能性があることも、当社では認識している。一方、バリュー株は景気刺激策の恩恵をそれほど受けておらず、おそらく実体経済の有機的成長の回復からより多くの恩恵を受けるだろう。

現在の環境では、エネルギーや鉱業といったコモディティ・セクターへのエクスポージャーも、経済成長の回復と限定的な供給から恩恵を受ける可能性がある。コモディティ・セクターへのエクスポージャーは、景気サイクルの転換が追い風となるグロース資産であると同時に、先進国債券など従来のディフェンシブ資産がより脆弱となりやすい金利上昇やインフレに対するヘッジとして、ディフェンシブな役割も果たしている。

投資機会がシフトする局面

市場がコロナ禍による低迷の底にあった時、それからわずか2年足らずで米国株式が最高値を更新するとは、誰も想像していなかっただろう。景気への大きな逆風に立ち向かうべく、世界中の各国政府が金融と財政の蛇口を緩めたが、それが米国ほど顕著だった国はない。大規模な資産購入と手厚い財政出動プログラムによってもたらされたマネーは、どのような観点から見ても並外れて潤沢であった。

家計は健全だがコロナ関連の規制によりお金の使い道が限られていた消費者は、とにかくモノを買うようになった。小売売上高は大幅に増えたが、その大半がオンラインでの売上げで、多くの中小企業が倒産したことを考えると、恩恵を受けたのは小売企業自体よりもウォール街の証券会社だったと言えるかもしれない。小売需要の大幅な増加が消費財株にとって追い風となってきたのは確かだが、これは持続可能なのだろうか。景気刺激策が終了し、需要はモノからサービスへと回帰しつつあることから、より通常の需要水準への平均回帰が迫っているのではないかと当社では考えている。

チャート1

テクノロジー株の割合が高いNASDAQ市場も同様で、並外れた収益の伸びと、さらに有望な長期成長ストーリーを反映したバリュエーションの大幅上昇を示した。テレワークは家庭と企業の両方でテクノロジー・ソリューションへの大きな投資を促したが、その一部は我々の生活を恒久的に変えるとみられる。しかし、このような成長は持続可能なのだろうか。

チャート2

当社では、長期的な成長テーマを依然強く信じているが、最近の並外れて高い成長が一部平均回帰するとの推測もせずにはいられない。異例の景気刺激策が引き揚げられ、金利が上昇し、需要がより通常のパターンへとシフトするなか、企業収益と株価バリュエーションは平均回帰を続けるというのが当社のシナリオであり、これは世界的な景気回復へのエクスポージャーを持つにあたってより優れた投資機会が他の分野にあるかもしれないことを示唆している。

一方、バリュー株は、企業収益の伸びがまずまず好調であり、重要な点として、景気回復が続くとすればある程度持続可能と思われる。株価が年初来で上昇しているものの、バリュエーションはPER(株価収益率)で約16倍と依然妥当な水準にあり、これが米国債10年物の利回りが3%だった2018年序盤と同じ水準であることは、金利感応度の相対的な低さを示している。

チャート3

グロース資産に対する確信度の強い見解

  • 景気敏感株を選好:長期的成長性を有するグロース株は緩和政策後の環境へのさらなる株価調整を余儀なくされるかもしれない一方、景気敏感株は景気回復が追い風になるとみられる。
  • 金融株を選好:セクター配分は各国市場によって大きく異なるが、シンガポールのように金融セクターの割合が高い市場は、金利上昇環境で下値抵抗力を発揮するとともにバリュエーションも引き続き魅力的な水準にある。
  • コモディティを選好:コモディティも生産が限定的ななかで景気回復から恩恵を受けるとみられ、またインフレ環境では下値抵抗力を発揮する資産である。

ディフェンシブ資産

ディフェンシブ資産に対しては慎重な見方を維持しているが、スコアを少し引き上げてマイナス幅を若干縮小させた。世界的なリスク・センチメントの悪化とボラティリティの上昇を受けて、安全な避難先としてのソブリン債への関心が高まっている。各国中央銀行がタカ派的である環境は依然としてマイナス材料だが、債券利回りが世界的に上昇したことで、ソブリン債はリスク資産で起きている調整を乗り切るためのより魅力的な投資先となっている。オミクロン株による新型コロナウイルス感染者数増加の結果として経済指標が軟化していることも、世界的な景気回復の信憑性に幾分疑問を投げかけている。

グローバル・クレジットのなかでは、投資適格クレジットのスコアをやや引き上げ、その分ハイイールド債のスコアを引き下げた。オミクロン株の感染拡大の波による悪影響が最近の経済指標で明らかになりつつある一方、各国中央銀行は年内に金融引き締めを行う意向をあらためて表明している。信用の質は依然として高いが、信用スプレッドは拡大圧力に晒されており、特に投資不適格の発行体は、リスク・センチメントの後退に伴い借入コストの上昇に直面している。

市場に織り込まれた中央銀行の金融引き締め予想は、年明けから着実に上昇している。FRBは最初の利上げを3月の次回会合で行うと示唆しているが、初回の利上げを経ても、世界の金融政策は多くの国で感じられているインフレ圧力の割に依然かなり緩和的だと言えるだろう。エネルギー価格の高騰とサプライチェーンの継続的な混乱を受けて、インフレは今後数ヶ月間も引き続き市場を左右する主な材料になると予想している。こうしたインフレ懸念に地政学的リスクの高まりが加わり、インフレヘッジと安全な避難先としての金を下支えする可能性が高い。


誤りに誤りを重ねても正すことはできない

2022年の中央銀行の金融政策をめぐる予想は、年初から著しく変化してきた。市場は2022年に世界的な引き締めサイクルが徐々に始まることを既に織り込んでいたが、その後、利上げペースの加速を織り込みにいっている。チャート4が示すように、カナダ銀行が利上げ7回と最も積極的な引き締めを行うと予想されており、次いでFRBが少なくとも6回の利上げを実施すると予想されている。イングランド銀行はおそらく最もタカ派的な中央銀行で、直近ではすでに2回の利上げ(2021年12月、2022年2月)を実施しており、市場では2022年内に計5回程度の利上げが織り込まれている。しかし、市場で新しく確立されたトレンド(今回の場合は政策金利の上昇)がオーバーシュートするのは珍しいことではない。

中央銀行が現在行っている金融政策での景気支援は、間違いなく規模が縮小し始めるであろうし、そうすべきである。インフレ率はわずか3~6ヶ月前に予想されていた水準を大きく上回っており、コロナ禍の最悪期からの景気回復も好調に進んできている。各国中央銀行が、消費者物価の年間上昇率を2%前後に維持し、長期的なインフレ期待についても十分抑制された水準に保つことを任務としているのは確かだが、当該機関の多くは、何らかの形で健全な経済を維持することを含む二重の使命も担っている。FRBの場合、その任務はインフレを低く抑えるとともに雇用を高水準に維持することである。

チャート4

米FOMC(邦公開市場委員会)の一部メンバーによる最近のタカ派的なコメントから判断すると、米国の金融政策をもっと早期に引き締めなかったことに対して後悔の念があるように見受けられる。そのようなシナリオを選択していた場合の是非はともかく、需要を低減させインフレを抑制するために今後12ヵ月で積極的な引き締め政策を前倒しで行っても、この潜在的な政策ミスを償うことにはならないだろう。むしろ米国経済に打撃を与えてしまい、FRBのアクションへの批判を一層高めることになる可能性が高い。早期に十分な引き締めを行わず、遅れを取り戻すために過度な引き締めを行うことは、正しい対応とは言えず、FRBの信頼性をさらに損なう可能性がある。

その視点を表したのがチャート5で、市場に織り込まれている1年先、2年先、3年先の1ヶ月物金利の水準を示している。これによると、市場に織り込まれているFF金利(フェデラル・ファンド金利)誘導目標の先行きは、今後12ヵ月間にすべての利上げが実施され、2年目には変更がなく、3年目にはわずかながら金利が低下する可能性があるというものになっている。これは、FRBが過去に急激な引き締めで景気後退を招き批判を受けることになったのと同じ政策ミスをする、と予想しているようなものだ。

チャート5

FRBは過去の引き締めサイクルから教訓を学んだと思われ、市場が描いているシナリオのようなアクションを取るとは考えにくいというのが当社の見方である。現時点でインフレの状況が厄介なのは確かだが、ベース効果がより穏やかになるとともに供給面の制約が緩和し始めるのに伴い、年央には物価圧力の脅威が大幅に後退すると予想する。結果として、引き締め路線は市場に織り込まれているよりも緩やかなものになると考えられるが、より長期化する可能性がある。


ディフェンシブ資産に対する確信度の強い見解

  • 中国債券を依然選好:中国の国債は、相対的に高い利回りを提供するとともに、引き続き世界的な金利動向との低相関を示している。中国人民銀行が徐々に政策を緩和していることも追い風になるとみられる。
  • ハイイールド債に対して慎重な姿勢:リスク資産全般におけるボラティリティの高まりや中央銀行による政策引き締めが、低格付けクレジットへの下方圧力となるだろう。
  • 金のスコアのプラス幅をさらに引き上げ:インフレ圧力の強さと地政学的リスクの高まりが、安全な避難先資産としての金を下支えするとみられる。

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。