本稿は2022年4月13日発行の英語レポート「Harvesting Growth, Harnessing Change」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

ロシア・ウクライナ紛争や根強いインフレ懸念がアジア株式の重石に


サマリー

  • 当月のアジア株式市場(日本を除く)は、ロシア・ウクライナ紛争が嫌気されたのに加え根強いインフレ懸念も重石となって下落し、月間リターンが米ドル・ベースで-2.8%となった。
  • 国別のパフォーマンスでは、中国と台湾の下落幅が最も大きかった。中国株式は、政府当局が新型コロナウイルスの感染拡大を抑制しようと複数の都市で行動制限を実施したことが嫌気され、アンダーパフォームした。台湾株式は、中央銀行が国内のインフレを抑制し物価安定を維持すべく主要政策金利を引き上げたことを受けて、下落幅が拡大した。
  • 一方、インド株式はアウトパフォームした。2月のCPI(消費者物価指数)上昇率は前年同月比6.07%と中央銀行の許容レンジの上限を上回ったものの、州議会選挙がナレンドラ・モディ現首相率いる与党にとって有利な結果となったことや、同国が物価上昇と世界的な供給不足への対策として小麦の輸出や石油備蓄の放出を拡大する措置を発表したことが好感され、投資家心理が上向いた。
  • ロシア・ウクライナ紛争は展開が早く予測の不可能な地政学的危機であり、企業の見通しに根底から長期的な変化をもたらしている。地政学的な紛争が続くなかにあっても、アジアの国内消費やヘルスケア、再生可能エネルギー、産業技術など、政策が追い風となっている構造的分野は引き続き有望視できると考える。

市場環境

当月のアジア株式は下落
当月のアジア株式市場(日本を除く)は下落し、月間リターンが米ドル・ベースで-2.8%となった。ロシア・ウクライナ紛争が続き世界の主要国がロシアに対して制裁を課していることが嫌気されたのに加え、米国の2月のCPI上昇率が前年同月比7.9%へと加速するなど根強いインフレ懸念も重石となった。なお、米FRB(連邦準備制度理事会)は主要政策金利を0.25%引き上げた。国別のパフォーマンス(MSCIインデックスの米ドル・ベースのリターンに基づく)では、インドやインドネシア、シンガポールが最も良好となる一方、中国と台湾は劣後した。

インド株式は上昇
インド株式は上昇し、月間リターン(米ドル・ベース)が3.7%となった。2月のCPI上昇率は前年同月比6.07%と8ヵ月ぶりの高水準へと急加速し、中央銀行の許容レンジの上限を上回ったものの、州議会選挙がナレンドラ・モディ現首相率いる与党にとって有利な結果となったことや、同国が物価上昇と世界的な供給不足への対策として小麦の輸出や石油備蓄の放出を拡大する措置を発表したことが好感され、投資家心理が上向いた。


アセアン諸国市場はまちまち
アセアン地域は、複数の国で経済活動が再開され、景気を押し上げるために新型コロナウイルス関連の規制が緩和されるなか、リターンが国によってまちまちとなった。インドネシア市場は、2月のインフレ率が前年同月比2.06%と前月の同2.18%から減速するなか、中央銀行が7日物リバースレポ金利を過去最低水準の3.50%に据え置いたことが好感され、月間リターン(米ドル・ベース)が 3.3%に上った。シンガポール市場は、2月のコアインフレ率が前年同月比2.2%と前月の同2.4%から鈍化したことなどから、小幅に上昇し月間リターン(米ドル・ベース)が0.5%となった。一方、アセアンのその他の株式市場は下落し、コモディティおよび食品価格の世界的な上昇を受けてインフレへの警戒を示したフィリピンが、月間市場リターン(米ドル・ベース)-1.9%と最も大きな下落を見せたの。タイ市場は、CPIが前年同月比5.28%と13年ぶりの高い上昇率を示すとともに、当局が経済成長下振れの可能性を警告したため、下落して月間市場リターン(米ドル・ベース)が-1.3%となった。

北アジアはアセアン諸国に対して劣後
北アジア地域の市場はアセアン諸国に対して劣後した。中国株式は下落して、米ドル・ベースの月間リターンが-8.0%となった。米国証券取引委員会が一部の中国企業に対し、会計規則を遵守していないとして米国証券取引所での上場を廃止する姿勢を強めたのに加え、製造・金融のハブである深センや上海を含め、中国の複数の都市で新型コロナウイルスの感染拡大を抑制すべく行動制限が実施されたことも重石となった。一方で、景気対策として小規模企業に対する税還付や所得税引き下げなどの措置が発表され、株価下落の緩衝材として働いた。韓国株式は、中央銀行がインフレ抑制のために追加利上げが必要と発言したものの、月間リターン(米ドル・ベース)が0.1%と小幅なプラスになった。なお、韓国の次期大統領には野党候補の尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏が選出され、与党候補は敗北を認めた。台湾株式は下落し、月間リターン(米ドル・ベース)が-2.2%となった。中央銀行が国内のインフレを抑制して物価安定を維持すべく2011年以降初となる利上げを実施し、主要政策金利を0.25%引き上げて1.375%としたことが嫌気された。

今後の見通し

地政学的な動向を受けて新たな分野に焦点
ロシア・ウクライナ紛争は展開が早く予測の不可能な地政学的危機であり、企業の見通しに根底から長期的な変化をもたらしている。この紛争の前からすでに進んでいる変化、すなわち再生可能エネルギーへの需要やサプライチェーンのローカライゼーション、インフレ見通しは、いずれも加速している。新たに注目と大規模な設備投資が見込まれる分野としては、エネルギー安全保障や食料安全保障、防衛支出が挙げられる。このような分野の動向がもたらす影響は国や産業によって非常に異なると予想されるため、そうした動向を絶えず注視していくことが重要と言える。

当社がボトムアップ・アプローチにおいて主に重視しているのは、将来優れた持続可能な利益をもたらし得る重要でポジティブな変化をファンダメンタルズ面で遂げつつある企業を見出すことだ。地政学的な紛争が続くなかにあっても、アジアの国内消費やヘルスケア、再生可能エネルギー、産業技術など、政策が追い風となっている構造的分野は引き続き有望視できると考えており、ハードウェア・テクノロジーや輸出企業よりも、エネルギー安全保障支出の拡大から恩恵が見込まれる内需型産業や資本財・サービス企業、コモディティ高が追い風となる国を選好している。

中国では政策優先分野の選好を継続
中国は前述のような外的動向の影響を比較的受けにくいとみられるものの、複数にわたるオミクロン株感染拡大の波への対処を余儀なくされている。結果として、深センや上海など「一線都市」と呼ばれる大都市のいくつかでロックダウン(都市封鎖)が実施されており、これが政策サイクルを複雑にしている。不動産セクターについて複数の政府高官が懸念を緩和させるような発言を行い、実際に幾つかの緩和措置も実施されるなど、政策サイクルは明らかに景気重視に転じている。しかし、新型コロナウイルス感染症がパンデミック(世界的流行)ではなくエンデミック(より日常的で危機水準の低い特定地域での流行)として扱われるようになるまでは、中国経済の本格的な回復は見込みづらいだろう。感染拡大の初期には経済および人命の犠牲を最小限に抑えることに成功した代表例であった中国は、今では新型コロナウイルスに対して厳しい「動態清零(ダイナミック・ゼロ)」政策(問題を発見したらすぐに解決策を講じる政策)を維持するために経済成長を犠牲にせざるを得ない数少ない国の1つとなっている。こうしたなか、当社では産業技術、ソフトウェア、再生可能エネルギーなど中国の政策優先分野を引き続き選好する。

北アジアの他の国々やインドでは選別的な姿勢
当社では、アジアの投資機会について楽観視している一方、コモディティ上流産品の価格変動やサプライチェーンの混乱、需要の崩壊から悪影響を受けやすい市場があることも認識している。インドのようなエネルギー輸入国の市場は、バリュエーションが引き続き割高となっている分野が散見されるなか、ある程度の下方圧力に晒される可能性がある。ポジティブな変化が実現し株価に織り込まれたインド株式は、過去数ヵ月間バリュエーション面の魅力が後退してきた。とは言え、過去数年にわたり大幅な改革が進められてきたことを受けて、当社ではインドのより長期的な成長に対して非常にポジティブな見方を維持しており、構造的成長に浴していてバリュエーションに依然上昇余地がある不動産、民間銀行、「ニュー・エコノミー」、ヘルスケアなどの分野に引き続き投資機会を見出している。

アセアンはコモディティ価格の上昇が追い風に
アセアン諸国はコモディティの上流産品や農産物の主要なサプライヤーであることから、コモディティ価格上昇の恩恵を受ける存在として注目が高まる可能性がある。例えば、インドネシアは、石炭やニッケルの輸出を通じて交易条件の改善が見込まれる。ニッケル価格はロシアのウクライナ侵攻以前に比べてはるかに高い水準にあるが、この分野へは中国の主要電気自動車メーカーから追加の外国投資が発表されている。他では、マレーシアも産油国として原油価格の上昇から特に恩恵を受けやすい国だが、インドネシアとは対照的に、将来の利益成長の持続可能性向上につながるような外国直接投資の関心や政治改革の兆しはほとんど見受けられない。


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