本稿は2022年6月8日発行の英語レポート「Harvesting Growth, Harnessing Change」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

上海の新型コロナウイルス関連規制の解除方針が若干ながらアジア株式の追い風に


サマリー

  • 当月のアジア株式市場(日本を除く)は、米FRB(連邦準備制度理事会)が指標となる翌日物金利を0.50%引き上げたものの、上海市が新型コロナウイルス関連の規制を解除するとの方針を発表したことが好感されて小幅に上昇し、米ドル・ベースの月間リターンが0.5%となった。
  • 国別のパフォーマンスで最も劣後したのはインド市場で、4月の小売価格インフレ率が前年同月比7.79%へと大幅加速したことが嫌気された。また、原油価格が上昇したことや主要政策金利のレポ金利が4.40%へと0.40%引き上げられたことも、市場心理の重石となった。
  • アセアン諸国市場は、利上げやGDP統計の上振れを主な材料として、リターンがまちまちとなった。
  • 北アジア諸国の市場は軒並み上昇した。中国と香港は、上海の新型コロナウイルス関連規制の解除が発表されたことや中国政府が景気浮揚策を示したことが追い風となった。台湾および韓国は好調な輸出統計が好感された。
  • インフレ圧力が世界的に広がり経済成長が前年の高水準から鈍化の兆しを見せるなか、アジア地域の市場には不安感が残っている。しかし、アジアは世界の他の地域に比べてより有利な状況にある可能性を認識しておくべきだろう。アジアは、域内諸国の経済成長が依然として潜在成長率を下回っていることからインフレ期待の高まるリスクが相対的に低いと言え、加えて政策支援が加速しているとともに市場のバリュエーションが魅力的な水準にある。

市場環境

当月のアジア株式は上昇
当月のアジア株式市場(日本を除く)は小幅に上昇し、米ドル・ベースの月間リターンが0.5%となった。上海の新型コロナウイルス関連規制の解除方針や中国の緩和政策措置が好感された。一方、FRBは、指標となる翌日物金利について22年ぶりとなる0.50%の大幅利上げを行うとともに、今後の会合で0.50%の追加利上げを複数回実施する意向を予め市場参加者に示唆した。また同中銀は、インフレを抑制するために保有資産の縮小も予定している。アジア株式の国別パフォーマンス(MSCIインデックスの米ドル・ベースのリターンに基づく)はまちまちとなり、香港やタイ、台湾が最も良好となる一方、インドやシンガポール、インドネシアは劣後した。

インド株式はアンダーパフォーム
インド株式は、4月の小売価格インフレ率が前年同月比7.79%へと大幅加速したことが嫌気され、月間リターン(米ドル・ベース)が-5.8%と最も劣後した。原油価格が上昇したことやインド準備銀行が主要政策金利のレポ金利を4.40%へと0.40%引き上げたことも、市場心理の重石となった。


アセアン諸国市場はまちまち
アセアン諸国市場のリターンはまちまちとなった。インドネシアとマレーシアは利上げを受けて下落し、月間リターン(米ドル・ベース)がそれぞれ-3.3%、-2.3%となった。インドネシアの中央銀行は、市中銀行の預金準備率を7月から7.5%、9月から9%に引き上げると発表するとともに、インフレ率が同中銀の目標レンジである2~4%を上回るとの予想を示した。マレーシアの中央銀行は主要政策金利を1.75%から2%へと引き上げた。シンガポール市場は、4月のCPI(消費者物価指数)でコアインフレ率が前年同月比3.3%と2012年2月以来の高水準に加速したことから、月間リターン(米ドル・ベース)が-2.8%に終わった。一方、フィリピンおよびタイ市場は、経済成長率が市場予想を上回ったことが好感され、月間リターン(米ドル・ベース)がそれぞれ1.3%、2.4%とプラスになった。両国の第1四半期のGDP成長率はフィリピンが前年同期比8.3%、タイが前期比1.1%と発表された。加えて、フィリピンでは大統領選挙が実施され、経済の活性化を公約としていたフェルナンド・マルコス・ジュニア候補が勝利した。

北アジア市場は上昇
北アジア諸国の市場は軒並み上昇した。中国と香港は月間リターン(米ドル・ベース)がそれぞれ1.2%、2.8%となった。上海市が発表した新型コロナウイルス関連規制の解除方針に加え、住宅ローンの基準金利の引き下げや公共料金の補助、クーポン券の配布など中国政府による景気浮揚策が追い風となり、ポジティブな市場心理が維持された。一方で、中国では、4月の輸出の伸びが前年同月比3.9%へと鈍化するとともに、新型コロナウイルス対策による生産や需要への悪影響から4月の工業企業の利益が前年同月比で8.5%減少した。台湾と韓国は好調な輸出統計が好感され、月間リターン(米ドル・ベース)がそれぞれ3.6%、1.8%となった。台湾の4月の輸出は地政学的不透明感やサプライチェーン懸念があるなかでも根強い半導体チップ需要に支えられて22ヵ月連続で増加し、また韓国の同月の輸出は前年同月比12.6%増と大幅な拡大を見せた。

今後の見通し

インフレ圧力の広がりや世界経済の成長鈍化の兆し
インフレ圧力が世界的に広がり経済成長が前年の高水準から鈍化の兆しを見せるなか、アジア地域の市場には不安感が残っている。しかし、アジアは世界の他の地域に比べてより有利な状況にある可能性を認識しておくべきだろう。アジアは、力強い人口動態に支えられて欧米諸国の見舞われている労働力問題に直面しておらず、また域内諸国の経済成長が依然として潜在成長率を下回っていることからインフレ期待の高まるリスクも相対的に低いと言える。さらに、政策支援が加速していることやバリュエーションが魅力的な水準にあることも、向こう12ヵ月間においてアジア市場の堅固なサポート材料となるだろう。こうしたなか、当社では規律立った運用を継続してボトムアップ・アプローチを堅持しながら、将来優れた持続可能な利益をもたらし得る重要でポジティブな変化をファンダメンタルズ面で遂げつつある企業にフォーカスしており、こうした企業をアジアの国内消費や革新的ヘルスケア、環境、一部の産業技術など政策支援が見込まれる構造的分野で見出している。

中国では政策優先分野の選好を継続
過去数週間の中国で目立つ動きとして、政策支援に向けた発言が強まっているほか、より重要な点として、様々な都市が政策緩和の具体策を実際に展開している。それでも、依然として市場では政策当局による対応がまだ不十分と受け止められているようだ。習近平政権は政治的な都合からか、これまでゼロコロナ政策に固執していることから、景気を安定させるためには図らずも政策措置に力を入れざるを得ないだろう。したがって、当社では中国政府が今後数四半期にわたって緩和措置を強化すると予想している。ただし、ゼロコロナ政策からの明確な出口戦略が見受けられず、ロックダウン(都市封鎖)が繰り返されるリスクは依然高いままであるため、当社では中国市場に対する選好度を引き上げてはいない。とは言え、割安なバリュエーションや政府の政策緩和への取り組みを踏まえて、産業技術やソフトウェア、再生可能エネルギーなど中国の政策優先分野を引き続き有望視している。

アセアンはコモディティ価格の上昇や外国からの投資が追い風に
アセアン諸国は引き続き良好な状況にある。インドネシアやマレーシアなどの資源輸出国は、コモディティや農産物の価格上昇を受けて貿易収支が大幅に改善し続けている。また、世界的なサプライチェーン分散化の一環で、アセアン諸国の製造業セクターへは外国から大規模な投資が続いている。経済活動の再開も、タイなどの国で観光業等サービス・セクターの回復を後押しするだろう。当社では引き続き、デジタル化・金融包摂から恩恵を受ける企業に加えて、再生可能エネルギー関連の企業や輸送の電動化やエネルギー貯蔵向けの資源を提供する鉱業会社に注目している。

テクノロジー・セクターの比重が高い市場では短期的な見通しと長期的なトレンドのバランスを考慮
当社では生活のあらゆる面でデジタル化が進むという長期的なトレンドを有望視しているものの、テクノロジー・セクターの当面の見通しはやや不透明感を増している。世界のテクノロジー・サイクルが先細りとなりつつある一方で、韓国と台湾のテクノロジー企業は原材料価格の高騰やサプライチェーンの混乱への対処を余儀なくされている。そのため、今や収益モメンタムが鈍化しつつあるとともにマージンへの逆風が強まっているこれらの市場では、選別的な姿勢をとっている。

インドについてはより慎重な姿勢
インド市場は、バリュエーションが割高な上に同国がインフレ環境下で双子の赤字を抱えているものの、国内投資家の資金流入によって海外投資家の資金流出が引き続き相殺されており、年初来パフォーマンスが意外にも持ち堪えている。しかし、エネルギーや食品の価格が長期間にわたって高止まりするとみられるため、インド市場には下方リスクが残る。同国の改革がけん引する長期的な成長機会については楽観的な見方を維持しているが、当面はリスク・リターンのバランスが域内の他国に比べてもはや魅力的ではなくなっているため、同国市場に対しては慎重な見方を強めている。


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