本レポートは、2022年6月30日発行の英語レポート「Riding ASEAN’s growth renaissance」の日本語訳です。内容については英語の原本が日本語版に優先します。

インフレの加速と世界的なリセッション(景気後退)の懸念をめぐる話題が絶えない今日、当社では、アセアンの成長復興を牽引すると強く確信しているテーマとして、電気自動車(EV)、デジタル化、旧来型工業経済の復活の3つを特定した。これらの広範で構造的なトレンドから最も恩恵を受けやすいと考える投資機会・分野について、本稿で考察してみたい。


アセアンの次の成長サイクルに拍車をかけると強く確信している3テーマ

アセアンは、今日の不透明なマクロ環境で、投資家に耐性と成長力の両方を提供する希少な存在であると考える。また、アセアン株式市場は、同地域の提供する価値、海外投資家保有比率の低さ、交易条件のもたらす追い風から、リスク分散先としての魅力度も高い。従来、若い人口構成や中産階級の拡大、投資先としての競争優位性で知られるアセアンでは、足元で経済が困難に直面するなかにあっても、前述の3つの成長トレンドがポジティブな収斂を見せつつある。当社では、確信度の高いこれら3テーマが同地域の次の成長サイクルを支えていくとみており、当該テーマから恩恵を受ける株式投資機会を有望視している。

アセアンのEVの変化を捉える

アセアンは、サステナビリティ(持続可能性)の分野にポジティブな変化をもたらす魅力的な展望を提供している。再生可能エネルギーへの移行が世界的に強く求められていること、一部の企業がサステナビリティとエネルギー転換に革新的な注力を見せていることから、公益事業や素材といったセクターが有利な立場にあるとみている。なかでも注目しているのは、EVのサプライチェーンにおける投資機会だ。再生エネルギーの普及は、その全歴史を通じて法的な義務化・インセンティブが主な推進力となってきたが、クリーン・エネルギーが今や世界の多くの地域で最も安価な電力源として他の電力源をますます凌駕していることから、市場の力も状況の好転に影響した可能性がある。当社では、アセアンにおけるサステナビリティと脱炭素化のトレンドを強く有望視しており、このトレンドがESG(環境・社会・ガバナンス)ソリューションを生み出して、地球の健全化を促進する価値観に沿った行動をとる企業への資本誘導を促すものと考える。

コロナ禍が自動車業界を揺るがす前、EVは着実に脚光を浴びつつあった。企業は内燃機関からEVへの移行に数千億ドルもの資金を投じていた。新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着いたように見受けられる今、EVの需要は再び高まると予想されている(2050年までにはバッテリーEVが交通手段の主流になると言われている1)。このEV熱を満たすには、バッテリーおよびその関連材料としてコバルト、リチウム、ニッケルなどの素材が必要で、自動車産業が推進する世界的な輸送の電動化を実現するために、生産量の拡大が求められている。

特に魅力的な投資機会が見出されるインドネシアは、輸出面で石炭など原材料への依存を減らし、ニッケルや銅、金など鉱物資源の開発によって川下分野に注力することを目指している。同国は、再生可能エネルギーへの国内需要を満たしてEVのサプライチェーンとエコシステムを確立しようとしており、当社では川下分野への産業変革が加速するとみている。インドネシアはアジアのEVハブとして高まりつつある地位を固めようとしているが、この背景にあるのがリチウムイオン電池生産の主要素材であるニッケル(世界有数の埋蔵量を誇る)と銅の豊富さだ。また、地理的にも優位で、動力電池の生産など新技術の開発に力を入れている日本や中国と海路で直接結ばれている。タイとマレーシアも、電池パックの組み立てを拡大するのに有利なポジションにある。タイは従来からアセアンの自動車セクターで最も大きな実績があり、この「微笑みの国」は2029年末までに自国の自動車生産の30%がEVになると予想している。

今後、電気自動車用リチウムイオン電池が豊富に供給されるアセアン地域は、自動車業界とグリーン(環境への配慮を重視すること)分野に新しい息吹をもたらすとみている。タイとマレーシアが川下分野で重要な役割を担い得る一方で、バッテリー部品の製造や資源の採掘、鉱物の加工といったバッテリー・サプライチェーンの川上・川中分野では、インドネシアが優位となる可能性がある。この観点からすると、川上のコモディティや農産物の主要供給国であるインドネシアは、石炭やニッケル、パーム油の輸出額の増加によって交易条件が改善するかもしれない。また、これらのコモディティの価格が上昇する環境は、同国の再生可能エネルギーへの移行を一層加速させるだろう。当社では、このエネルギー転換が追い風となる企業も選好しており、特に転換に伴うリスクの管理においてESG資質が優秀でかつ向上しているアセアンの公益事業会社に注目している。ニッケル、アルミニウム、銅など再生可能エネルギーへの移行に最も必要な素材を扱うアセアン企業も検討に値する。

1Wood Mackenzie著「The global electric vehicle race is heating up」(2021年)

デジタル化時代の到来

アセアンを含め世界がその真っ只中にあるデジタル革命は、我々の生活を一変させコロナ危機の発生により加速した破壊的イノベーション(革新)を受けて、新たな局面を迎えようとしている。現在、アセアンは世界で最も急速に成長しているインターネット市場の1つであり、アセアンのデジタル経済は今後10年間で同地域のGDPに推定1兆ドル相当の拡大をもたらすと見込まれている2。当社では、アセアンのニューエコノミー・セクター、特に同地域で台頭しているインターネット経済を有望視している。過去数年でこの業界に転換点をもたらした要因は5G(第5世代移動通信システム)ネットワークの展開、スマートフォンの急速な普及、安価なデータプランで、これらの相乗効果により、テクノロジーに精通したアセアンの若者層のあいだでインターネットへのアクセスが広く普及した。近年では大手や中小を含め企業のデジタル化が進んだことも、インターネット経済の台頭に重要な役割を果たしている。当社では、このようなトレンドから最も恩恵を受けるとみられるテクノロジー企業やeコマース企業に注目している。イノベーションの加速はテクノロジーの普及と次の産業革命をもたらし、投資家にとっても社会全体にとってもより大きな価値を創造するだろう。デジタル経済の普及は、アセアン諸国の国民がインターネットでつながり取引を行う新たな方法を生み出し、同地域を主要なグローバル・プレーヤーへと押し上げるとみている。

アセアンでは、エンドユーザーによるデジタル・サービスの活用が加速するのに伴い、デジタル・サービスをめぐって一定の動きが起きている。商品やサービス、データの流れがスムーズかつ確実になったことにより、eコマース、eバンキング、eヘルスといったセクターの成長が育まれてきた。アセアンでは、消費者基盤がますますインターネットでつながれるようになった結果、クロスボーダー(国境をまたいだ)取引をサポートするサービスへのニーズがこれまでになく高まっている。急速に変化する消費環境に対応すべくDX(「デジタル・トランスフォーメーション」、デジタル技術による生活やビジネスの変革)を積極的に加速させようとする企業は、世界のバリューチェーンにおける居場所を見出し新しい市場にアクセスすることができるかもしれない。

アセアンでは、域内諸国間のつながりを高めるため、「Go Digital ASEAN(アセアンのデジタル化)」や「ASEAN Digital Integration Framework(アセアン・デジタル統合フレームワーク)」といった取り組みや協力を増やしている。また、タイでは、国の開発計画「Thailand 4.0」の中心である民間セクターのDXを支援するため、データセンターの建設やクラウドコンピューティング技術の向上に向けた投資を奨励している。ベトナムも、DXの導入によって生産・効率・競争力の向上を進めたい企業を対象に、「National Digital Transformation Programme by 2025(2025年までの国家DXプログラム)」を承認した。アセアンは物流から製造まで様々なセクターでデジタル経済の発展がもたらす魅力的な投資機会を提供しており、デジタル接続性の向上が同地域の輸出にとって長期的にさらなる追い風になると考える。

2Google、Temasek、Bain & Company、「e-Conomy Southeast Asia (SEA) Report - Roaring 20’s: The SEA Digital Decade」(2021年)

旧来型工業経済の復活

アセアンの工業経済では設備投資の復活あるいは新たな設備投資サイクルが起こり、そのなかで同地域の「オールドエコノミー」企業の利益および価格決定力が改善する可能性がある、と当社では考えている。低金利とインフレ鈍化の時代となった過去10年間、多くの資産を抱えるオールドエコノミーの重工業は資本利益率の低さに悩まされ、選好される投資先から嫌われる投資先へと変わった。これを受けて資本はニューエコノミーへと向かい、鉄鋼や農業、エネルギー、製造業などのオールドエコノミー・セクターの成長と維持に必要な資本が細った。2020年の新型コロナウイルスの感染拡大によってオールドエコノミーの慢性的な投資不足はさらに悪化し、これが世界のサプライチェーンに大きな混乱を引き起こして、オールドエコノミー企業は必要とされている製品やコモディティを納期通りに供給・納品することが難しくなった。2年が経ち、アセアンがコロナ後の経済活動再開を迎えるのに伴って、状況は反転し始めている。インフレ率は今や加速し、運輸、コモディティおよびサプライチェーン・セクターの資産価格は大幅に上昇している。当社では、アセアンが再投資サイクルの始まる局面にあり、これをきっかけにオールドエコノミー・セクターの利益が拡大して、アセアンのインフラ・サプライチェーンへの大規模な投資に拍車がかかる可能性があると考えている。

これまでの設備投資サイクルと今回のサイクルとの主な違いは、世界が現在グリーンなサステナビリティと二酸化炭素排出量の目標の達成を目指していることにある。このため、伝統的な工業セクターには多額の投資が行われると予想するが、その転換もまたグリーンなものになるだろう。一部のオールドエコノミー企業は、この投資の転換において最も恩恵を受けやすいとみられる。コロナ後の景気回復のなかで、アセアン加盟国は、国のインフラ計画を支えとしながら、民間セクターの参加拡大を歓迎するなどインフラ施設の投資・改善も積極的に進めている。このようなインフラに通常含まれるのは通信や輸送関連の建設で、多くのプロジェクトが再生可能エネルギーと結びついている。

アセアンは、投資不足と(人口増加だけでなく)都市化がもたらす長期的なポテンシャルから、インフラにおいて魅力的な成長機会を提供すると予想している。また、労働コストに競争優位性があるのに加え、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)やインド太平洋経済枠組み(IPEF)など2022年に発効した新たな貿易協定により、アセアン諸国経済に対する開放性・自由化の水準が高まっているという好材料もある。建設、素材および工業セクターは、今後の設備投資の回復と中国の供給サイドの改革から恩恵を受けやすい構造的に有利な立場にあるとみている。アセアンの金融・不動産企業も、潜在的な投資フローと海外からの直接投資の回復が追い風となりやすい優位なポジションにあると考える。

アセアンは、貿易のリバランスという世界的な変化によって中国からのサプライチェーン移行の恩恵を大きく享受しようとしているという点でも、新たな夜明けを迎えようとしている。中国の労働コストの上昇、米中貿易戦争、新型コロナウイルスの感染拡大による製造業チェーンの混乱を受けて、アセアンの工場サプライチェーンは競争優位性を増しているようだ。資本財の製造業は、今後の設備投資の成長回復が追い風となりやすい。

まとめ

当社ではアセアンの今後数年の成長見通しおよびモメンタムを有望視しているが、同地域を強力に支えるとみられるのがEV移行の機会、世界で最も急速に成長しているインターネット市場の1つにおけるデジタル化、オールドエコノミーのインフラ・サプライチェーンの復活である。このような構造的テーマが同地域の企業に大きな利益をもたらす可能性があり、アセアン投資には新時代が到来するものと考える。

当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。