本稿は2022年7月7日発行の英語レポート「Harvesting Growth, Harnessing Change」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

インフレが域内共通のテーマへ


サマリー

  • 当月は、リセッション(景気後退)や前年同月比8.6%と40年ぶりの高い伸びとなった米国の5月のCPI(消費者物価指数)への懸念が、様々な国に波及的影響をもたらした。アジア株式市場(日本を除く)は、米国の複数の逆風材料を警戒するとともにインフレを域内共通のテーマとして下落し、月間リターン(米ドル・ベース)が-4.5%となった。
  • 国別パフォーマンスでは、中国と香港が厳しい外部環境をよそに絶対ベースで上昇した。中国株式は、同国が海外からの入国者の隔離期間をこれまでの半分に短縮したことなどが好感された。香港株式は、同行政区で利上げが実施されたのに加えマカオで新型コロナウイルスの感染拡大により大半のビジネスが休業に追い込まれたものの、市場心理が悪影響を受けなかった模様である。
  • 域内の他国市場はインフレを懸念材料として下落し、為替の影響もあって米ドル・ベースの月間リターンがマイナスとなった。
  • 世界を取り巻く状況は依然として厳しいものの、市場の一部では徐々にポジティブな材料が幾つか見られ始めているようだ。アジアではインフレ圧力が他地域ほど強まっておらず、また域内最大の経済大国であり同地域の成長ドライバーとしての重要性が増している中国は、慎重なペースながら景気刺激策を実施している。

市場環境

当月のアジア株式は下落
当月は、リセッションや前年同月比8.6%と40年ぶりの高い伸びとなった米国の5月のCPIへの懸念が、様々な国に波及的影響をもたらした。米FRB(連邦準備制度理事会)は、CPI上昇率の高止まりへの対応として、約25年ぶりとなる0.75%の大幅利上げを実施するとともに、今後0.50~0.75%の追加利上げを行う意向を予め市場参加者に示唆した。アジア株式市場(日本を除く)は、米国の複数の逆風材料を警戒するとともにインフレを域内共通のテーマとして下落し、月間リターン(米ドル・ベース)が-4.5%となった。国別パフォーマンスでは、中国と香港が厳しい外部環境をよそに絶対ベースで上昇する一方、域内の他国市場は為替の影響もあって月間リターンがマイナスとなった。

インド株式はアンダーパフォーム
インド株式は月間リターン(米ドル・ベース)が-6.7%となった。5月のCPIとWPI(卸売物価指数)が前年同月比でそれぞれ7.04%、15.88%の上昇となるなか、インド準備銀行はインフレに対処するため主要政策金利を0.50%引き上げた。また、同国の貿易赤字はコモディティや燃料の価格上昇を受けて230億米ドル超へと膨らんだ。


北アジア諸国市場はまちまち
中国株式は、同国が海外からの入国者の隔離期間をこれまでの半分に短縮したことなどを好感して上昇し、月間リターン(米ドル・ベース)が6.6%となった。同国では、月初の上海の外出制限解除を受けて、工場が生産を拡大できるようになりサプライチェーンの障害が緩和されたほか、主要貸出金利が再び据え置かれるとともに、貿易拡大のために港湾運営を効率化する方針が発表された。香港株式もアウトパフォームし、月間リターン(米ドル・ベース)が1.2%となった。香港金融管理局が主要政策金利を0.75%引き上げたのに加え、新型コロナウイルスの感染が拡大しているマカオでは中国のゼロコロナ政策に従って大半のビジネスが休業に追い込まれたものの、市場心理は悪影響を受けなかった模様である。一方、台湾と韓国はインフレ懸念や需要の低迷を受けて下落し、月間市場リターン(米ドル・ベース)がそれぞれ-14.2%、-17.1%となった。半導体チップやノートパソコン、スマートフォンの販売・注文の減少も重石となった。

アセアン諸国市場は下落
アセアン諸国市場はインフレの高まりを受けて軒並み下落した。フィリピンは、5月のCPI上昇率が前年同月比5.4%となるなか、中央銀行が0.25%の利上げを実施するとともにインフレ対策として8月も同程度の利上げを行う可能性を示唆したことから、月間市場リターン(米ドル・ベース)で-13.6%と大幅に下落した。マレーシアは、5月の食品価格の上昇ペースが2017年以来の高水準に達したことが嫌気され、月間市場リターン(米ドル・ベース)が-8.2%となった。同国政府は、低所得者層への給付金支給に加えて、国内の供給確保とコスト抑制のために食料輸出の制限を実施した。インドネシアは、5月のCPI上昇率が前年同月比3.55%とインドネシア中央銀行の目標レンジである2~4%の上限に近づいたことが嫌気され、月間市場リターン(米ドル・ベース)が-9.3%と低迷した。シンガポールも月間市場リターン(米ドル・ベース)で-7.5%と下落した。同国では、5月のインフレ率がコア・ベースで前年同月比3.6%となり、コスト上昇とインフレ加速の影響を軽減すべく政府が低所得者層向けに10億米ドル超の支援パッケージを実施した。タイは、5月のCPI上昇率が前年同月比7.1%へと大幅に加速し、同国の中央銀行が当月の政策会合では主要政策金利を過去最低水準に据え置いたものの利上げの先送りは弊害をもたらすとの警戒感を示したため、月間市場リターン(米ドル・ベース)が-8.4%となった。

今後の見通し

アジア株式のバリュエーションは調整を経て魅力的な水準に
世界を取り巻く状況は依然として厳しいものの、市場の一部の分野では徐々にポジティブな材料が幾つか見られ始めているようだ。FRBの極めてタカ派的な姿勢は資産市場に反映され始めており、米国株式や暗号通貨、プライベート・アセット市場の調整が深まっている。さらに、サプライチェーンにおける主なインフレ発生源や川上分野の素材価格が沈静化しつつある。アジアでは、インフレ圧力が他地域ほどは強まっておらず、また域内最大の経済大国であり同地域の成長ドライバーとしての重要性が増している中国は、慎重なペースながら景気刺激策を実施している。中国政府が精力的にゼロコロナ政策を堅持していることを考えると、同国に対しては慎重な姿勢を維持する必要があるかもしれないが、アジアは現在、政策によるサポートが先進国に比べて多少なりとも大きい。また、アジア市場は、バリュエーションも調整を経て魅力度を大きく増している。中国株式の当月のリターン(米ドル・ベース)がプラスとなったことも注目に値する。

中国では正常化が進むなかで政策支援が加速
第2四半期は中国経済にとって、コロナ禍で最も厳しい忍耐を余儀なくされた四半期の1つとなったものの、政策による支援が加速するとともに、企業が事業を再開しつつあり一定の正常化が進んでいる。ただし、ゼロコロナ政策からの明確な出口戦略が見受けられず、移動制限が強化されるリスクは依然高いままであるため、当社では中国市場に対する選好度を引き上げてはいない。隔離期間短縮の動きはコロナ政策緩和のまだ第1歩であり、経済全体への具体的な影響というよりは景況感の向上を狙ったものとみている。とは言え、割安なバリュエーションや政府の政策緩和努力を踏まえて、中国ではヘルスケアやソフトウェア、そして再生可能エネルギーやエネルギー安全保障における今後の商機を捉えるのに有利なポジションにある企業など、一部の分野に対してポジティブな見方を強めてきている。

韓国と台湾の潜在的な投資機会
北アジアの他の2国については、消費者サイドを中心として先進国の需要が低迷するのに伴い、輸出およびテクノロジー・セクターへの依存度の高い韓国と台湾への圧力が増すとみている。サプライチェーンや原材料価格の圧力は後退しつつあるものの、在庫の増加が見込まれるなか、テクノロジー・セクターの当面の見通しは低迷の続く可能性が高い。一方、当社では、生活のあらゆる面におけるデジタル化の進行という長期的なトレンドを有望視している。したがって、当社では、選別的なスタンスながらも、ファンダメンタルズに改善が見受けられる銘柄やファンダメンタルズの耐性が相対的に高い銘柄を有望視している。両国の市場は当月、全般的に売り圧力に晒されたが、このような相場調整によって投資機会がさらに増えるものと考える。

外国からの投資を惹き付けるアセアン、資源輸出国は貿易収支が改善
アセアン諸国の一部は引き続き相対的に良好な状態にある。インドネシアやマレーシアなどの資源輸出国は、コモディティや農産物の価格上昇を受けて貿易収支が大幅に改善し続けている。また、世界的なサプライチェーン分散化の流れを受けて、アセアン諸国の製造業セクターへは外国から大規模な投資が続いており、経済の再開を受けて一部では消費者心理が好調に維持されている。こうしたなか、当社ではデジタル化・金融包摂から恩恵を受ける企業に加えて、再生可能エネルギー関連の企業、輸送の電動化やエネルギー貯蔵向けの資源を提供する鉱業会社に引き続き注目している。

インドについては投資機会を積極的にモニタリング
インドは引き続き、アジア地域で最も優れた長期の構造的機会を有する国の1つであるとみている。しかし、短期的には、一部セクターのバリュエーションを非常に割高な水準へと押し上げた国内投資家の依然楽天的なムードが、長引くエネルギー価格の上昇や国内外の金融政策・流動性環境の引き締めを受けて今後冷え込んでいくとみられる。当社が国内投資家によるバリュエーション押し上げの動きを認識してしばらくになるが、インド市場の複数の分野では下方調整が十分に進んでおり、海外投資家のポートフォリオにおける配分も過去12ヵ月で大きく減少した。当社では、インドで有望視できる新たな投資アイデアを複数積極的にモニタリングしているが、当面は経済環境がさらに悪化しても市場シェアの拡大を継続し価格決定力を維持できるとみられる時価総額が大きめの企業に引き続き注目している。


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