本稿は2022年8月15日発行の英語レポート「Harvesting Growth, Harnessing Change」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

金利がアジア地域の経済成長を左右する見込み


サマリー

  • 米国の足下のCPI(消費者物価指数)上昇率が前年同月比で9.1%と40年ぶりの高水準となるなか、米FRB(連邦準備制度理事会)は0.75%の利上げを実施した。また、米国の2022年第2四半期のGDP成長率が年率換算で前期比-0.9%となり、米国経済がテクニカル・リセッション(2四半期連続のマイナス成長)入りしたことが示されると、市場の懸念が強まった。こうしたなか、当月のアジア株式市場(日本を除く)は下落し、月間リターン(米ドル・ベース)が-1.2%となった。
  • アジア域内では、コモディティ価格の上昇がリターンに影響をもたらす一方、原油や金属価格の下落が多くのアジア諸国の追い風となった。国別のパフォーマンスでは、中国、香港、タイを除くすべてのアジア諸国・地域の市場が米ドル・ベースで上昇した。
  • 当社では今後のインフレの軌道が金利見通しを決定づけ、それが世界の経済成長を左右するとみている。中国は金融政策の面で米国とは異なる道のりを辿っており、市場経済 対 統制経済という興味深い構図をもたらしている。また、中国がゼロコロナ政策を維持する一方で他のあらゆる国々では自由度のより高いスタンスが続けられるなど異なる措置が同時にとられている。

市場環境

当月のアジア株式は下落
当月のアジア株式市場(日本を除く)は下落し、月間リターン(米ドル・ベース)が-1.2%となった。米国の足下のCPIが前年同月比で9.1%と40年ぶりの高水準となるなか、FRBは0.75%の利上げを実施した。また、米国の2022年第2四半期のGDP成長率が年率換算で前期比-0.9%となり、米国経済がテクニカル・リセッション入りしたことが示されると、市場の懸念が強まった。アジア域内では、コモディティ価格の上昇がリターンに影響をもたらす一方、原油や金属価格の下落は多くのアジア諸国の追い風となった。国別のパフォーマンスでは、中国、香港、タイを除くすべてのアジア諸国・地域の市場が米ドル・ベースで上昇した。

北アジア諸国市場はまちまち
中国と香港は、月間市場リターン(米ドル・ベース)がそれぞれ-9.5%、-3.6%となった。中国の2022年第2四半期のGDP成長率は、製造業活動の縮小、新型コロナウイルス関連の制限、危機に見舞われている不動産セクターが打撃となって前年同期比0.4%となり、第1四半期の同4.8%から減速した。香港は、輸出が2ヵ月連続で減少したことや香港金融管理局が政策金利である基準金利を0.75%引き上げるなか、年間の経済成長予想を再び下方修正する可能性がある。一方、台湾および韓国市場は上昇し、月間リターン(米ドル・ベース)がそれぞれ3.0% 5.8%となった。台湾の6月の輸出は、中国向け輸出が低迷し、またサプライチェーンの問題があるなかでも、テクノロジー製品への根強い需要を受けて増加した。韓国の2022年第2四半期のGDP成長率は、政府が企業や労働者、個人投資家向けに減税を打ち出すなど景気のてこ入れを続けるなか前期比で0.7%となった。


アセアン諸国市場は大半が好調
タイは、タイバーツが米ドルに対して弱含むなか打撃を受けて、月間市場リターン(米ドル・ベース)が-1.9%となった。タイの中央銀行は2022年の同国の経済成長率見通しを引き上げる見込みである。政府は、コスト上昇を緩和して需要を維持するべく追加支援策を承認しており、これらがGDPを押し上げると予想される。その他のアセアン地域は良好なパフォーマンスとなった。シンガポールは6月のコアインフレ率が前年同月比4.4%となり、中央銀行が金融政策を再び引き締めるなかでも月間市場リターン(米ドル・ベース)が6.0%となってアウトパフォームした。第2四半期の経済成長率が前年同期比4.8%となったことや、同国の証券取引所がニューヨーク証券取引所との二重上場の提携を発表したことなどが市場センチメントを押し上げた。マレーシアは、2022年6月の貿易総額が前年同月比43.3%増となったことが好感され月間市場リターン(米ドル・ベース)が2.4%となった。同国の中央銀行が政策金利を0.25%引き上げたことや6月のCPIが前年同月比3.4%となったことを受けて上昇が抑えられた。インドネシア(米ドル・ベースの月間市場リターンが3.2%)は、国債を売却して量的引き締めを開始する一方、貿易黒字が記録的な水準となったほか対内直接投資が拡大するなど、様々な材料があった。また、フィリピンは、6月のCPIが前年同月比6.1%へと加速するなか、同国の中央銀行がインフレに対処するべく主要政策金利を0.75%引き上げたものの、同中銀がインフレ率は2023年に目標レンジである2~4%のあいだに鈍化するだろうとの予想を示したことを受けて上昇し、月間市場リターン(米ドルベース)が2.2%となった。

インド株式も良好なパフォーマンス
インド市場はパフォーマンスが最も良好となり、米ドル・ベースの月間リターンが9.3%となった。政府が鉄鋼製品の輸出税の撤廃を計画していることを受けて、金属株が相場を押し上げた。また、原油価格が下落したことや、政府が国内の原油販売や燃料輸出に対する超過利潤税を引き下げたことが好感され、指数構成比率の高いReliance Industriesを含め石油生産企業や石油精製企業の株価が堅調となった。インド準備銀行は、世界的にボラティリティは概して高いものの、同国の経済は世界で最も急速な成長を遂げることが引き続き見込まれるとし、市場関係者のあいだで安心感が広がったことから、市場センチメントは一段と上向いた。

今後の見通し

金利が経済成長を左右する見込み
直近の0.75%の利上げを受けて、少なくとも今のところFRBはもはや後手に回ってはいないとみられる。しかし、当社では今後のインフレの軌道が金利見通しを決定づけ、それが米国のみならず世界の経済成長を左右するとみている。中国は金融政策の面で米国とは異なる道のりを辿っており、市場経済 対 統制経済という興味深い構図をもたらしている。また、中国がゼロコロナ政策を維持する一方で他のあらゆる国々では自由度のより高いスタンスが続けられるなど異なる措置が同時にとられるなか、世界経済が見通しづらくなっている。考えるべき問いは、足元のバリュエーションが今後の不透明感を適切に反映しているのか、あるいは依然として楽観的過ぎるのかということだ。

中国では金融緩和がゼロコロナ政策による悪影響を埋め合わせ
中国では、少なくとも今のところはゼロコロナ政策に伴って金融緩和が実施されている模様で、これがゼロコロナ政策による経済への打撃をおそらく埋め合わせるとみられる。また金融緩和は、不動産セクターに付きまとう問題の悪影響を和らげる手段にもなるだろう。中国市場の専門家らは、10月の党大会を受けてゼロコロナ政策が緩和されると示唆しているものの、いまだ推測にとどまっている。明らかになっているのは政府がより長期的に注力している分野で、これにはテクノロジーのサプライチェーンを中心とした国外に依存しない体制の強化、エネルギー安全保障の向上を通じたよりクリーンなエネルギーへの移行、ヘルスケアの改善と富の分配の促進を通じた「共同富裕」がある。当社では、これらの政策優先分野の選好を維持するとともに政治動向の影響について引き続き注視している。

韓国と台湾については選別的な姿勢
韓国と台湾は、ともにテクノロジー比率の高い市場であり、先進国の需要の回復力に依存しているため、米国がテクニカル・リセッション入りしたことによって懸念が強まっている。また、コスト・インフレはこうした懸念を悪化させる一方であることから、当社では両市場に対して選別的な姿勢をとっており、銘柄固有のファンダメンタルズを重視している。

アセアンはコモディティ価格の上昇やサプライチェーン戦略が追い風に
コモディティ価格の上昇がこうしたコモディティを輸出する国の交易条件の追い風となっており、マレーシアとインドネシアが特に恩恵を受けている。中国以外にも拠点を構えるチャイナ・プラスワンのサプライチェーン戦略は今や当然の取り組みとなっており、アセアンはこの点で大きな役割を果たせる優位な立場にある。コロナ禍を経て経済活動が徐々に再開され、経済成長は抑制された状態ではなくなっていることから、外国投資の道が開かれている。当社では、再生可能エネルギー企業に注目しており、主要コモディティの鉱業会社やエネルギー貯蔵を手掛ける企業、「グリーンエネルギー」の生産企業などを選好している。また、アセアンで有望視している別の分野には、デジタル化の加速によって可能となった金融包摂がある。

インドについては投資機会を積極的にモニタリング
相変わらず二面性がみられる国であるインドの金融市場は底堅く推移しているように見受けられるものの、同国現地の状況はまちまちとなっている。ほぼすべての大都市でインフラ建設が進められている一方で、民間資本の支出は依然としてあまり拡大していない。また、グレー/ブラックエコノミーからホワイトエコノミーへのシフトが進んでおり、これが税収の着実な増加に表れているが、その過程は緩慢なものとなっている。ただし、これによって時価総額が大きめの企業は規模を生かして市場シェアを拡大しており、当社ではこうした分野に引き続き注目している。


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