当レポートは、英語による2022年7月8日発行の英語レポート「Chinese EVs and their potential from an investment perspective」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

中国は世界の電気自動車分野の競争でリードする見込み


電気自動車のテクノロジーは目覚ましい進展を遂げており、世界的に広がりをみせている。電気自動車の進展がより顕著になりつつあるなか、現在、運用会社はこのテーマを投資ポートフォリオに組み込んでいる。当社では中国が電気自動車の分野で世界をリードしていくとみている。技術革新、需要、政策、消費者行動が追い風となって欧米よりも優位な状況にあるからだ。中国はこのトレンドを持続させていくことができる状況にあり、世界の電気自動車分野の競争で首位に立つ最有力候補の座を維持していくと考えている。

電気自動車と将来のモビリティ

電気自動車(EV)は、従来の内燃機関(ICE)とは異なり、電力を動力源としている。そのため、EVは化石燃料を使用せず、環境により優しい。さらに、ICEに比べて可動部品が少なく、必要なメンテナンスが少ないため、ランニングコストが低い。

EV産業は非常に新しい分野であるため、従来の自動車産業とは大きく異なる。最近まで、EVへの関心はほとんど、或いはまったく見受けられなかったものの、現在では世界のあらゆる大手自動車メーカーがEV機能の開発を進めている。

EV業界への関心が高まっていることから、化石燃料車の大半はいずれ段階的に減っていくだろう。

この破壊的な動きによってもたらされるのは、以下のようなことだ。

  1. リチウムやバッテリーなど、素材や部品の需要拡大
  2. EVが主な移動手段となる未来を支えるための、世界の先進的なインフラニーズの高まり
  3. よりスマートなモビリティ・テクノロジーの発展

上記の最後の点は、より広範な「フューチャー・モビリティ(FM)」の概念を強調している。これには、EVから自動運転車、シェアリング・エコノミー(配車サービス、分散型エネルギー貯蔵、高度道路交通システム)に至るまで、将来の輸送が含まれる。

破壊的イノベーションと同様に、ICEからEVへのシフトによって投資機会がもたらされている。インターネット接続やバッテリー貯蔵容量、AI(人工知能)などのテクノロジーの様々な進展が相俟って、世界の輸送産業ではEVやFMの新たな時代が進んでおり、現在世界で最も急速に成長を遂げ、最も革新的な産業の1つとなっている。

成長を促進するものは何か

世界的に、気候変動対策への圧力が強まっており、各国が脱化石燃料を進めるなか、EVへの投資拡大の動きが進んでいる。米国は対応を本格化しており、ジョー・バイデン大統領は米国の気候変動対策への取り組みを新たにして、2050年までに温室効果ガスの実質排出量ゼロの達成を目標とするとともにグリーン・インフラへの投資を拡大している。イギリスでは、2030年までにディーゼルおよびガソリン・エンジンの生産を禁止する規則が導入され、欧州では排出基準の厳格化が実施されたほか、中国では輸送セクターを電動化するために驚くべき数の政府主導の政策が講じられている。

南アジアと東南アジアでは、EVの成長の加速により時間が掛かっている。これらの地域における政策支援はより部分的なものとなっており、ICE車の方がより低価格で購入しやすいため、EVが価格面で競争することが困難になっている。とは言え、初期段階における成長ペースはやや緩慢であるものの、EVの需要や普及ペースは高まると予想されており、多少遅れながらも世界の他の国々と同じようなトレンドを辿ると予想されている。

Tesla以外にも、世界最大級の各自動車メーカーがこの技術革命に対応している。米国では、ゼネラルモーターズが北米におけるEVメーカーの最大手になることを目指しており、フォルクスワーゲンはEV分野の競争に積極的に参加して、欧州で販売する車の70%を2030年までに完全な電気自動車モデルにするとしている。また、中国では何百もの新興企業が成長している。

EV産業は、投資家のあいだで大きな成長分野として認識されており、多くのポートフォリオ・マネジャーがEVをポートフォリオ内のテーマとして組み込み始めている。また、ウォーレン・バフェット氏が中国の自動車メーカーBYDに投資したことも、投資家の注目をこの特定分野へと向かわせた。

中国のEV市場はどのように異なるのか

中国と欧州はEVの普及を促進しており、これまでの総売上の46%を中国が占め、次いで欧州が34%、北米が15%となっている。

バッテリー式電気自動車とプラグインハイブリッド車を含む。2022年はBloombergNEFによる予測に基づく。欧州のデータにはEEA とイギリスが含まれる。

EV市場における中国の役割は、主に政策の面で他の地域と異なる。中国政府はEV産業のイノベーションをけん引しており、国内投資については非常に積極的な姿勢をとっている。中国は深刻な大気汚染問題を抱えており、また世界最大の石油輸入国でもある。同国は2060年までにカーボン・ニュートラルを達成したいと考えており、そのための1つの手段としてEVの普及を促進している。中国政府の自動車5ヵ年計画では、2025年までに全販売台数の20%を新型エネルギー車(NEV)とすることを目指している。NEVの販売台数は2021年の合計ですでに300万台と、全販売台数の14.8%に達しており、またNEVの売上の伸びはICEの伸びを大幅に上回っていることから、当社ではこの目標は実現可能だとみている。Society of Automotive Engineering of Chinaの予測によると、中国のNEVの売上は2030年に全車両売上の40%に達するとされている。また、メーカーには、年間に一定割当のEVを生産しなければ、罰金が課せられる。こうしたことから、中国がEV市場のリーダー的存在になると考え始めるアナリストはますます増えている。

EV分野の競争で優位な立場にある中国

中国は、EVインフラの導入・推進においても先行している。現在、充電ステーションは他のどの国よりも多く設置されており、その数は50万を超える。そのため、EVの購入者は、通勤中にEVを充電できることがわかっているが、これは世界の他の地域では滅多にないことだ。深センだけで1,800の充電設備があり、これだけ多くの充電設備があるのは世界の他の地域では見受けられない。北京では、電気自動車を持っていない場合は、中心地区へのアクセスが認められない。全国的にEVの購入が補助されている一方で、ICEの車両には幾つかの罰金が課される。

中国の補助金は年内までに段階的に終了する予定だが、これは同国をリードさせている要因の1つに過ぎない。2020年と2021年は、上海蔚来汽車(NIO)や小鵬汽車(Xpeng)などの中国の新興企業が成長を遂げ、これらは今や数十億ドル規模の企業になっている。中国の新興企業は現在数百社に上り、これらの企業は低価格で航続距離が短めの車両と高級車両の両方に注力している。これらの自動車メーカーは、(EV分野だけに多額の資金を投資している)純粋な企業と見なされており、見た目も魅力的で信頼できる車両を生産している。これが消費者の行動に変化をもたらしており、以前の購入者は補助金があることを理由にEVを購入していたかもしれないが、今は熟慮した上でEVを選んでいる消費者が増えている。

2020年のEVの販売台数は、中国の方が米国よりも100万台多かったが、この一因は消費者行動によって説明することができる。中国の消費者は、小型で経済性の高いEVを進んで購入しようとする一方、米国の運転者は依然としてガソリンを大量に消費する車を好む。フォードやシボレー、ダッジはEVのラインナップ拡充に取り組み始めているものの、消費者にEVの購入を促進するために、米国はより多くの政策や規制の変更が必要となるだろう。こうした状況下、米国の多くのメーカーは、ICE車両の製造に依然として注力していることから、EV分野で中国のメーカーに遅れをとると当社ではみている。2021年末時点の普及率(総NEV車両数/既存の総車両数)は3%未満と低水準であることから、当社では中国のNEV市場には大きな成長余地があるとみている。

EVの購入において最も大きな要因の1つがコストであり、そのコストの大部分がバッテリーによるものとなっている。バッテリーの生産は中国が中心となっており、バッテリーの生産能力において同国がリーダー的な立場にあるとみられている。中国はすでにバッテリー生産に必要な化学品の多くを管理しており、これによって同国は今後数年において優位な立場に立つとみられる。上のグラフは、プラグインハイブリッド車に比べて、バッテリー式EVの販売がどの程度加速しているかを示しており、BloombergNEFは、この差は今後数年でさらに拡大すると予想している。

また、中国は、バッテリー・テクノロジー・ソリューションというもう1つの興味深いイノベーションもリードしている。前述したスタートアップ企業の上海蔚来汽車は、人口密集都市の人々の大半は住居が高層ビルであるため、車の充電ができないことを認識しており、自宅で車の充電ができないドライバーが普段の通勤中に迅速にバッテリー交換を行うことができるシステム、バッテリー・スワップのコンセプトを導入した。

国際自動車工業連合会(OICA)によれば、2021年に世界で販売されたICE・EVの総台数は約8,200万台であった。自動車の販売台数が最も多いのは中国であり、同国は世界最大の自動車市場になるとみられている。当社では、このような消費者に対する売上台数と、上述したイノベーション、インフラ、政府主導の補助金を踏まえると、中国ブランドは今後EVや将来のモビリティにおいて世界の売上の大半を占めるようになるとの見方を維持している。

EV企業のバリュエーションとパフォーマンス

テスラは、投資家の見方が二極化している銘柄だ。同社の時価総額は非常に大きいことから、多くの投資家にとってポートフォリオにおける同社のポジションを正当化することは困難となっている。同社の時価総額は世界の主要自動車メーカーを大きく上回る一方で、足元の世界の売上に占めるシェアは僅かにとどまっている。この矛盾を受けて、投資家はバリュエーションがそれほど異常に高くない市場の他の分野を探すようになっている。

現在、EV企業の時価総額上位6社は、米国と中国の銘柄が同数となっている。

注目すべき点として、純粋なEV企業は欧米では非常に少なく、大半は中国企業である。

同セクターのパフォーマンスは過去1年間に打撃を受けたものの、この産業の今後の成長は過小評価されるべきではないだろう。足下でバリュエーションが割安となっていることから、当社の見方では良好な買いの好機がもたらされている。

当社では、今後10年でEVの普及が目覚ましく進むとみている。コスト効率の高い自動車やインフラ、テクノロジーの魅力と発展が、この産業の成長を一層後押しするだろう。投資家のあいだで、市場のこの重要な分野が認識され続けるにつれて、投資ポートフォリオにこのテーマを組み込むことの魅力は高まっていくとみられる。中国はEV分野のリーダーになる道のりで勢いを失っておらず、バリュエーションが相対的に割安な水準にあることから、当社ではこの分野で同地域を引き続き有望視している。

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