本稿は2022年7月21日発行の英語レポート「Balancing Act」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

西洋が成長鈍化、インフレ、中央銀行の引き締めでがんじがらめのなか、東洋は中国の恩恵を受ける可能性

投資環境概観

今後の経済に関する見通しは東洋と西洋のあいだで分かれている。アジア諸国は中国の政策緩和と追い風の景気特性から恩恵を受ける可能性がある。一方、欧米は成長鈍化と過剰インフレの泥沼に陥っており、今では中央銀行が需要を減速させる従来の手法でインフレを抑制しようと躍起になっている。もちろん、各国中銀が現在市場に織り込まれている引き締め策をこぞって実行すれば、リセッション(景気後退)の起こる確率は大幅に上昇する。そこで問題となるのは、中銀がよりハト派的な方向に転換するためには、インフレや景気がどの程度まで鈍化する必要があるかという点である。

最近のデータフローを見る限り、米FRB(連邦準備制度理事会)が従来路線通りに引き締めを進めるのを妨げるような材料はほとんどない。雇用は好調な模様で、インフレはまたしても上振れした。インフレが鈍化し始める可能性や見込みを示唆する指標もあるが、FRBは方針を固めており、より確実なデータが反証を示すまでは現行方針を堅持する可能性が高い。これを受けて、今後の見通しとポートフォリオ構成は(ディフェンシブな姿勢を維持する方向へと)変わるが、当社では、マクロ見通しが相対的にかなり明るい中国などの投資機会に(慎重ながら)注目している。

下方リスクは数多くあり、それらを全面的に注視していくスタンスに変わりはない。なかでも最も重要なのは、世界の需要や経済成長に対するリスクだ。また、システミック・リスクも高まりつつあり、それが最も根深い欧州ではECB(欧州中央銀行)は金融引き締めの準備を進めているが、2012年以来EU(欧州連合)を維持するために採用してきた緩和ファシリティを縮小するにあたって難しい選択を迫られている。

クロス・アセット

当月は、グロース資産のスコアを引き下げてマイナス幅を拡大するともに、ディフェンシブ資産のスコアも引き下げて若干のマイナスとした。インフレ指標の加速を受けて債券利回りの上昇が続くなか、FRBはよりアグレッシブなスタンスへと転じて、数日前に予想されていた0.50%ではなく0.75%の利上げを実施し、「ハードランディング」(景気の急激な失速)のリスクが高まると認識しながらも、引き締め政策を使ってインフレを抑えようとする強硬スタンスに打って出た。

奇妙なことに、市場はこの方向転換を歓迎し、リセッションに陥る可能性が高いとの想定から債券と(ある程度)株式に買いが入るなど、引き締めに続いてまもなく実施されるであろう緩和を今や織り込もうとしている。市場は将来を織り込むものだが、雇用や企業収益予想が大きく落ち込みでもしない限り、市場が先々の痛手を織り込んでいけるとは考えにくく、株式も大幅に下落しているものの、大規模な景気刺激策のもたらした過剰流動性が除去されたと言うには程遠い。

グロース資産では、中国とその他の国々とで政策に大きな乖離があることを主因として、また新興国はインフレの状況が相対的に落ち着いていることから、先進国株式のスコアを引き下げ、その分、新興国株式のスコアを引き上げた。近い将来リセッションが需要に与える打撃を考慮し、コモディティ関連株のスコアも引き下げ、その分、より安定的なリートのスコアを引き上げた。ディフェンシブ資産では、先進国ソブリン債と投資適格クレジットのスコアを引き下げ、その分、先進国債券に比べて利回り水準が高く金利が際立った低ボラティリティを示している現地通貨建て新興国債券、そして政策ミスに対しヘッジの役割を果たす金のスコアを引き上げた。

マルチアセット・チームのクロス・アセット見解は、(1)グロース対ディフェンシブ、(2)グロースおよびディフェンシブ資産内でのクロス・アセット、(3)各資産クラス内での相対的な資産の見方、という3つの異なる段階で示しています。これらの段階は、選好順位の水準は資産クラスが予想可能な形で似た動きあるいは異なる動きを見せるという当社のリサーチおよび直感的認識を表しており、したがって、資産クラスのクロス・アセットでのスコアリングは理に適っているとともに、最終的により熟考された堅固なポートフォリオ構築につながると考えます。

資産クラスの選好順位

当社の見方

グロース資産

中国を除き、6月に下落を免れた市場はほとんどなかったが、下落の最悪局面が収まってからの市場の動きは参考になる。まず、株式市場のなかで当社が選好しているバリュー寄りの銘柄は、(年初来の相対的な堅調さは別として)「グロース寄り」の銘柄と同様に売り込まれた。次に、当社が株式でやはり選好しているエネルギー・セクターは、(市場全体以上に)大幅に売り込まれ、その後の回復もせいぜい微々たるものであった。これらはいずれも需要の改善が追い風となるセグメントであり、需要がリスクに晒されれば両セグメントもまたリスクに晒されることになる。

もちろん、市場センチメントは瞬時に変わる場合もあるが、需要悪化のイメージが驚くほどタカ派的なFRBの姿勢とともにリスクとして高まりつつあることは確かだ。中国の状況はまったくの正反対で、インフレ率は通常の範囲にあり、中国人民銀行も政府全体も欧米とは極めて対照的に強力な景気支援策を講じている。

当社では、中国の新たな需要が近隣諸国へ広がるとの期待から、アジア、特に中国関連のセグメントを有望視している。しかし、欧米諸国がリセッションに陥るリスクがある程度高まっているため、グロース株全般に対しては慎重な姿勢を維持する。

異世界、中国

中国は過去10年の大半を、過剰投資を減らして消費と「質の高い成長」を促進する、信用を制限してシステミック・リスクを抑制するなど、不均衡への対処に費やしてきた。同時に、同国は、汚職や投機の問題に加え、自立した経済成長の可能性を阻害してきたその他多くの市場特性にも取り組んできた。貿易戦争などの地政学的摩擦や(より最近では)ゼロコロナ政策が相まって、中国は多くの投資家にとって資産配分で「回避」しやすい存在であった。

しかし、投資の見通しは好転していると考える。中国はシステムが依然修復過程にあり数多くの根強いリスクがないわけではないが、他の多くの国々とは対照的に、ここ数年の同国の主な功績はコロナ対策における自制心だろう。中央政府はコロナ禍の嵐を乗り切るにあたり、巨額の財政支出を実施したい誘惑に屈することなく、伝統的な金融政策に徹してきた。

その結果、中国は他の多くの国々と同様のインフレ問題を抱えておらず、足元で政策を緩和できる状況にあり、金融・財政の両面で節度を持った緩和を実施している。ロックダウン(都市封鎖)を含む「ゼロコロナ」政策が投資家を十分に躊躇させたのは確かだが、それについても、一時閉鎖の経済への影響を抑えるための巧みな政策執行や「コロナとの共存」という考え方への漸進的な政策移行など、良い方向へ進化している模様である。

最近のもう一つの懸念は、不動産市場のストレスが、財務的に困窮している不動産開発企業から国営資産運用会社や地方銀行などの金融機関にまで及んでいることだ。こういった問題は今に始まったことではないが、依然として大々的に報じられている。当社では、大手銀行が十分に健全な状態にあることから、当該問題はメディアで時々描かれている「システミック・リスクが近い」というような状況からは程遠いと考えている。

このような金融ストレスは、民間セクターのローン需要の回復が遅れるという点で、経済成長にとって逆風となる。しかし、最も重要なのは、中国が問題に取り組んでおり、合併を奨励しながら、悪しき行いを阻止する一方で問題を制御できないほど拡大させない適切なバランスを見出していることだ。相対的な観点からは、中国の問題は他の国々が直面しているより深刻な問題に比べれば軽微と言える。

中国株式は2021年2月以降苦戦を強いられ、2021年2月の高値から2022年4月下旬の底値まで35%下落した。過去3年間では14%の上昇と、4月下旬の底値からの反発分と大体一致している。株価に続いて企業収益も低下したが、その一因となった規制当局による取り締まりは緩和され始めている。企業収益は底打ちした模様であり、政策緩和を背景とした成長見通しの改善を裏付けに拡大が見込まれる。

チャート1

対照的に、米国株式は年初来の高値から底値までの下げ幅が 20%強にとどまっており、結果として、過去3年間で依然28%の上昇となっている。今後見込まれる大幅な金融引き締めと景気鈍化から企業収益はピークを打ったと言え、現在の高水準のインフレが売上げと利益率の重石となると考えられる。

チャート2

バリュエーションの観点からは、中国株式と米国株式は現在の予想ベースPER(株価収益率)がともに16倍強であるが、証券会社のアナリストは中国株式の目標株価を上方修正、米国株式の目標株価を下方修正する可能性が高い。政策の乖離は極めて大きく、中国が緩和を続ける一方でFRBが過去数十年で最もアグレッシブな引き締めサイクルに入ろうとしている。したがって、中国株式は資産配分の観点から、政策の乖離、そして収益成長見通しの格差を考慮したバリュエーションの両面でより有望なように見受けられる。

グロース資産に対する確信度の強い見解

  • 中国と最終的にその恩恵を受けるセグメントを選好:株式市場のポジションにおいては中国を選好しているが、その主な理由は他の国々と異なり拡張的政策をとっていることで、他国がインフレを抑制しようとアグレッシブな引き締めを行っている一方、インフレの問題が限定的な模様の中国は緩和を行っている。バリュエーションは魅力的な水準にあり、企業収益見通しは絶対ベースでも相対ベースでもポジティブで、特に後者において顕著である。中国の需要動向によっては、アジア内で他に恩恵を受けるセグメントが出てくるだろう。中国の主なリスクは引き続き外需の大幅減少である。
  • ディフェンシブなスタンスを維持:中国以外では、リートやインフラ投資等の配当利回りが安定的なセクターと、ヘルスケアや生活必需品といったディフェンシブで景気循環性の低いセクターの組み合わせなど、ディフェンシブな株式ポジションを選好する。

ディフェンシブ資産

ソブリン債の見通しは依然として厳しい。インフレの上振れ、中央銀行の引き締め姿勢堅持、欧州と(程度はより低いものの)米国で予想されるリセッションへの懸念の高まりが重なって、ボラティリティは依然高水準にある。これらの相反する圧力はイールドカーブの長期ゾーンでまだ完全には折り合いがついておらず、投資家は新型コロナウイルスの感染拡大が始まって以降大きく変動し続けている経済指標の解釈に苦慮している。

ディフェンシブ資産では、不透明感とボラティリティの高まりを受けてポートフォリオにおけるプロテクションの役割が後退した投資適格クレジットとソブリン債について、前者のスコアを一段と引き下げるとともに今回は後者のスコアも引き下げた。信用ファンダメンタルズは依然底堅いが、行く手には経済面の逆風が待っており、さらなるスプレッド拡大の可能性によって上乗せ利回りの魅力が薄れる。

一方、新興国は金融引き締めが先進国に先駆けて進んでいたことから、現地通貨建て新興国債券のスコアを引き上げた。しかし、米ドル高と景気悪化の深さが主要なリスクであり、慎重さは崩していない。政策ミスに対するヘッジ特性から選好している金についてもスコアを引き上げたが、実質金利の上昇とドル高が逆風となる可能性があるため、やはり慎重に臨んでいる。


中国債券

一過性と思われていたインフレ圧力が十分根強さを見せ、先進国の中央銀行が異例の緩和政策を(遅きに失した感はあるが)急速に反転させているのに比べ、中国人民銀行はますます伝統的な政策に傾斜していることから、当社では長いあいだ中国債券を選好してきた。

しかし、5月には中国債券のスコアを引き下げた。この主因となったのは人民元の大幅な下落によるストレスだが、人民元がより大幅に下落する可能性への懸念から海外資金が大幅に流出するとともに、対米国債での中国債券の利回り格差がマイナスに転じるなか、中国債券市場が下落したこともスコア引き下げの一因となった。

チャート3

5月時点の中国経済は、成長がすでに低迷していたところに新たなロックダウンが加わって苦戦していたため、人民元の下落は同国が景気浮揚策として自国通貨安に頼ろうとしている可能性を示唆しており、懸念材料であった。今にして思えば、人民元は年初からそれまでかなり割高になっていたことから、貿易相手国に対する自国通貨の競争力を正常化すべく政策当局が人民元安を容認した可能性が高いと思われる。

とは言え、一時的にこのような不安に見舞われたにもかかわらず、先進国ソブリン債に対する中国債券の相対パフォーマンスは特に過去1年かなり良好で、他国市場がこぞって大幅なマイナス・リターンとなるなかでプラスのリターンを達成している。

チャート4

ポートフォリオにおける役割として、ソブリン債は利回りを提供するが、最も重要なのは、株式などのリスク資産に対するプロテクションを提供することだ。今年、多くのソブリン債はそれ自体がリスク資産となり、株式の下落相場でもポートフォリオ・リターンの足を引っ張る要因となった。実際、インフレは高止まりしており、中央銀行は過度な緩和政策を解除するのが遅かった模様である。しかし、ソブリン債への投資機会は再び浮上するかもしれない。特に、中央銀行の引き締めによって需要が減退し、延いてはインフレ率が低下すれば、景気の鈍化度合いによって債券利回りも低下すると考えられる。今のところ、当社では中国債券を選好しており、特に中国株式のリスクに対してそれなりの低減効果をもたらすとみている。


ディフェンシブ資産に対する確信度の強い見解

  • デュレーションに対して慎重なスタンスを維持:コアインフレ指標はピークアウトの兆しを見せているが、総合インフレは依然として加速傾向にある。中央銀行はこうした総合インフレの圧力に反応しており、金融政策対応によって強くブレーキをかけたいと考えているようだ。

プロセス

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

リターンの主要ドライバーを把握するためのインハウス・リサーチ:

当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。