本稿は2022年9月14日発行の英語レポート「Harvesting Growth, Harnessing Change」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。
北アジア市場は為替の影響が重石となる一方、アセアン諸国市場は健闘
サマリー
- 米国では、7月のCPI(消費者物価指数)上昇率が前年同月比8.5%となるなどインフレが高止まりしていることを受けて、FRB(連邦準備制度理事会)が利上げによるインフレ抑制を優先する方針を維持した。追加利上げ圧力をさらに強めたのは労働市場の逼迫で、7月の求人数が増加を示し失業者1人当たりの求人件数が2件となった。
- 当月のアジア株式市場(日本を除く)は、一旦は下落したもののその後回復し、米ドル・ベースの月間リターンが0.0%となった。北アジア諸国市場は外国為替の影響が重石となり、パフォーマンスがアセアン諸国市場に劣後した。インド市場は同国中銀による利上げと原油価格の下落が追い風となった。
- 世界の経済成長やインフレの先行きをめぐっては不透明感が強いものの、アジア諸国は引き続き経済が欧米対比で安定した基調にある。アジアのインフレ圧力はこれまで、様々な理由から欧米諸国に比べてかなり落ち着いており、また、慢性的な労働力不足に見舞われている欧米に対して、熟練した労働力を豊富に擁するアジアは有利な立場にある。さらに、アジアの一部の国々は欧州の地政学的問題から距離を置くよう努めており、欧州を悩ませているようなエネルギー不足に陥る可能性は低いとみられる。
市場環境
当月のアジア株式は前月末比で横ばい
当月のアジア株式市場(日本を除く)は、一旦は下落したもののその後回復し、米ドル・ベースの月間リターンが0.0%となった。米国では、7月のCPI上昇率が前年同月比8.5%となるなどインフレが高止まりしていることを受けて、FRBが利上げによるインフレ抑制を優先する方針を維持した。追加利上げ圧力をさらに強めたのは労働市場の逼迫で、7月の求人数が増加を示し失業者1人当たりの求人件数が2件となった。
北アジア諸国市場は為替の影響が重石に
北アジア諸国市場は為替の影響が重石となった。パフォーマンスが最も低調だったのは香港で、新型コロナウイルス関連の規制の延長により第2四半期のGDPが前年同期比でマイナス成長となったことが嫌気され、米ドル・ベースの月間市場リターンが-3.5%となった。次いでパフォーマンスが劣後した韓国は、米ドル・ベースの月間市場リターンが-3.3%となった。7月のCPI上昇率が前年同月比6.3%と24年ぶりの高水準へと加速した同国では、対応として主要政策金利が0.25%引き上げられる一方、インフレ見通しが上方修正されるとともに景気鈍化の可能性が示された。台湾は、7月の輸出の伸びが前年同月比14.2%増と6月の同15.2%増からやや鈍化したため、米ドル・ベースの月間市場リターンが-1.3%となった。中国は、7月のCPI上昇率が前年同月比2.7%へと加速するなかで今年3度目となる利下げが実施され、また2022年前半の企業の売上成長が減速したにもかかわらず、米ドル・ベースの月間市場リターンが0.2%と小幅なプラスになった。同国では、工業セクターの企業で利益が低迷し、大手銀行においても不動産セクター関連の不良債権が増加していることから、国務院が1兆元の追加景気対策を実施するなど、低迷する景気のてこ入れに引き続き取り組んでいる。月末にかけては、米国に上場している中国企業について監査書類の審査に協力するとの協定に中国が署名したことを受け、該当企業の米国預託証券が上場廃止となるリスクが後退したため、市場センチメントが回復した。
アセアン諸国市場のパフォーマンスは北アジア市場に比べて良好
シンガポールは、7月のコアインフレ率が前年同月比4.8%と13年超ぶりの水準をつける一方で2022年のGDP成長率見通しが3~4%へと下方修正されたことを受けて、米ドル・ベースの月間市場リターンが-1.8%と劣後した。近隣のマレーシアとインドネシアは、需要の拡大と好調な輸出によって第2四半期のGDP成長率がそれぞれ前年同期比8.9%、5.4%となったことが好感され、米ドル・ベースの月間市場リターンがそれぞれ0.5%、5.2%となった。なお、インドネシアは、インフレに対処するとともに過度な資金流出を防ぐため、4年ぶりとなる利上げを実施して主要政策金利を0.25%引き上げた。フィリピンでは、大統領が景気を押し上げて貧困を減らすべく944億米ドルの2023年度政府予算を要求する一方、インフレ抑制のために実施された0.50%の利上げが相場の上値を抑えるなか、月間市場リターンが米ドル・ベースで2.7%となった。タイは、0.25%の利上げを実施したにもかかわらず、米ドル・ベースの月間市場リターンが5.6%と域内で最も良好なパフォーマンスを見せた。2022年の輸出見通しが6~8%増へと上方修正されるとともに、観光業の持ち直しに伴うプラス成長の持続見込みが示されるなど、政府によるポジティブな見通しがアウトパフォームする追い風となった。
インド株式は利上げと原油安が追い風に
インド株式は、主要政策金利の引き上げや原油価格の下落を受けて、金利上昇の恩恵を受けやすい銀行株に加えて金属株や自動車株が上昇し、米ドル・ベースの月間リターンが4.1%となった。原油価格の下落は同国のCPI上昇率の抑制要因ともなり、7月の同上昇率が前年同月比6.7%へと鈍化したことから、ポジティブな市場心理に一層拍車がかかった。
今後の見通し
インフレが相対的に低く熟練した労働力が豊富なアジアは欧米に比べて経済基調が安定
世界の経済成長や全般的なインフレの先行きをめぐっては不透明感が強いものの、アジア諸国は引き続き経済が欧米対比で安定した基調にある。アジアのインフレ圧力はこれまで、様々な理由から欧米諸国に比べてかなり落ち着いており、また、慢性的な労働力不足に見舞われている欧米に対して、熟練した労働力を豊富に擁するアジアは有利な立場にある。さらに、アジアの一部の国々は欧州の地政学的問題から距離を置くよう努めており、欧州を悩ませているようなエネルギー不足に陥る可能性は低いとみられる。とは言え、アジアに取り組むべき課題がないと言うわけではない。台湾海峡の緊張は高まり続けており、一方で、共産党第20回全国代表大会を控えゼロコロナ政策断固続行の姿勢を維持している中国では、株式市場のリスク・プレミアムが高止まりしている。しかし、まさにそうした先行き不透明な局面こそ、長期スタンスの投資家にとっては、長期的に持続可能な利益やファンダメンタルズのポジティブな変化が株価で大幅に過小評価されている、クオリティの極めて高いアジア企業に投資することによって、大きなリターンを獲得できる機会を提供している。
中国は長期的な注力分野が明確ながら短期的には自ら招いた問題が依然付きまとう
中国が取り組んでいる様々な問題は、その大半が自ら招いたものだと考える。当社の見解では、不動産市場の主な懸念は、家計のバランスシートの問題ではなく、不動産開発企業がプロジェクトを完遂できるかをめぐる信頼の欠如だ。不動産市場の過剰流動性を排除しようとする中国の決意は賞賛に値するものの、市場を安定化させ相対的に質の高い開発企業へ負の影響が波及するのを防ぐためには、政府がしなければならないことはまだ数多くあると言えるだろう。不動産市場の低迷が同国のゼロコロナ政策によって一層深刻化していることは言うまでもないが、残念ながら、ゼロコロナ政策からの出口戦略の見通しについては、第20回党大会まではっきりしない状況が続くと予想される。しかし、より明らかなのは同国政府が長期的に重視している分野で、テクノロジーのサプライチェーンを中心とする国内自給体制の強化、エネルギー安全保障の向上を通じたよりクリーンなエネルギーへの移行、医療の改善と富の分配の促進を通じた「共同富裕」が挙げられる。当社では、これらの政策優先分野の選好を維持しながら、政治動向の影響を引き続き注視している。
インドやアセアン諸国では投資機会が明確に窺われる
アジアでは、インドとアセアン諸国が人口動態面での大国となっている。これらの国々の教育・技能水準はここ数年で大幅に向上しており、一方で低水準にあった所得は伸び続けている。他の多くの新興国に比べて労働力の生産性が高い当該諸国は、サプライチェーンを中国以外にも拡大しようとする多国籍企業の戦略を受けて海外から多額の直接投資が流入するのに伴い、今後数十年にわたってますます世界の次の生産拠点になっていくだろう。中間所得層が拡大するにつれ、消費も徐々に伸びると予想される。当社では引き続き、大きな市場シェアを獲得している企業、再生可能エネルギー関連企業、輸送の電動化やエネルギー貯蔵向けの資源を提供する鉱業会社、デジタル化・金融包摂から恩恵を受ける企業を有望視している。
台湾と韓国のテクノロジー・セクターは景気循環的な圧力に晒されている
その他では、台湾と韓国のテクノロジー・セクターが、コスト圧力の緩和にもかかわらず、世界の先進国経済の減速に伴うスマートフォンやパソコンなどの電子機器の需要低迷を受けて、景気循環的な圧力に晒され続けている。したがって、当社では、銘柄固有のファンダメンタルズが株価の主要ドライバーとなるような銘柄を選別的に注視する。
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