本稿は2022年10月14日発行の英語レポート「Harvesting Growth, Harnessing Change」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

金利の上昇やインフレの高まりが引き続きアジア市場の重石に


サマリー

  • 当月のアジア(日本を除く)および世界の株式市場は、金利の上昇やインフレの高まりが引き続き重石となった。米国では、8月のCPI(消費者物価指数)上昇率が前年同月比8.3%と市場予想を上回ったことに加え労働市場が逼迫していることを受けて、FRB(連邦準備制度理事会)が0.75%の利上げを実施した。
  • 当月のアジア株式市場(日本を除く)は、米ドル・ベースの月間リターンが-12.6%となった。米国の市場センチメントの悪化や米ドルの独歩高がアジア市場のパフォーマンスに打撃をもたらし、域内のすべての国でリターンがマイナスとなった。
  • 金利の上昇や地政学的紛争、景気後退不安などのマクロ面の懸念材料に対して、市場は慎重な見方を維持している。当社では、そのようなイベントの結果やタイミングを予測しようとはしていないものの、指摘しておきたい点として、アジアでは、懸念の大部分はすでに織り込まれており、バリュエーションは危機局面の低水準近くにある。アジアにとって今後最も重要となるイベントは、10月16日に中国で開催される第20回共産党大会だ。これが終われば、世界第2の経済大国における少なくとも今後5年間の主要な意思決定者がより明らかになるだろう。当社では、中国の政策は今後のアジア市場の方向性にとって重要とみている。

市場環境

インフレや金利上昇が引き続き市場の重石に
当月のアジア株式(日本を除く)は、金利上昇やインフレの高まりが引き続きアジアおよび世界の市場の重石となるなか、月間リターンが米ドル・ベースで-12.6%となった。米国では、8月のCPI上昇率が前年同月比8.3%と市場予想を上回ったことに加え労働市場が逼迫していることを受けて、FRBが0.75%の利上げを実施した。アジア株式市場(日本を除く)は、米国の市場センチメントの悪化や米ドルの独歩高が打撃となり、域内のすべての国でリターンがマイナスとなった。

香港や韓国、台湾は金利が上昇
北アジア諸国市場では、中国人民元が下落したことを受けて、中国の月間市場リターン(米ドル・ベース)が-14.6%と低迷した。中国人民銀行は、指標となる貸出金利を引き下げずに据え置いて対処し、また金融機関が維持しなければならない外貨預金準備率を引き下げた。明るい材料として、中国の8月の鉱工業生産と小売売上高は前年同月比でそれぞれ4.2%増、5.4%増となった。このモメンタムを維持するために、中国はプロジェクト建設の促進と国内消費の押し上げに向けた資金注入を加速させるとみられる。香港は、米ドル・ベースの月間市場リターンが-10.7%となった。市中銀行がプライムレート(最優遇貸出金利)を0.125%引き上げるなか、同特別行政区は不動産購入者に対する住宅ローンのストレステストの要件を緩和した。また、すべての入境者に対するホテルでの隔離措置を撤廃するなど再開の兆しが見受けられた。

韓国は、インフレ圧力が緩和したものの、月間市場リターンが米ドル・ベースで-18.3%となり急落した。韓国市場が下落した背景には、米国やその他先進国の中央銀行が引き締めを継続しているなか韓国ウォンが下落しており、また同国の8月の失業率が最低水準に達したなか、韓国の中央銀行の利上げ観測が強まっていたことなどがある。台湾は、中央銀行が主要政策金利を0.125%引き上げるとともに2022年と2023年の経済成長予想を下方修正したことが嫌気され、米ドル・ベースの月間市場リターンが-15.8%となった。

アセアン諸国市場でも金利が引き上げられたものの、パフォーマンスは北アジア諸国に比べて良好
アセアン諸国市場では、域内の大半の国で金利が引き上げられたものの、北アジア諸国市場に比べて小幅ながらも総じて良好なパフォーマンスを示した。タイとマレーシアは、両国とも自国の景気回復に自信を示したが、ともに0.25%の利上げを実施したことを受けて、米ドル・ベースの月間リターンがそれぞれ-6.3%、-9.8%となった。インドネシアとフィリピンはともに0.50%の利上げを行うなか、米ドル・ベースの月間リターンがそれぞれ-0.7%、-17.6%となった。インドネシアの8月のコアインフレ率は前年同月比3.04%となり、またフィリピンについてはIMF(国際通貨基金)が2022年の経済成長見通しを下方修正した。シンガポールでは、食品およびサービス価格の上昇を受けて8月のコアインフレ率が前年同月比5.1%へと押し上げられるなか警戒感が広がり、米ドル・ベースの月間市場リターンが-5.3%となった。

インドでは食品価格の上昇加速がインフレを押し上げ
インドでは、食品価格の高騰が要因となり8月の小売価格インフレ率が前年同月比7%に達したことが嫌気され、米ドル・ベースの月間市場リターンが-6.4%となった。インド準備銀行は、コスト上昇に対処するため、主要政策金利を0.50%引き上げた。また、インドは国内価格を抑えるために数種類の米の輸出を制限したほか、家計に現金や補助金を支給した。インドの銀行システムは、(税の一部を予め納付する)予定納税の支払いや政府の現金残高の膨張によって圧迫され、3年超ぶりに流動性不足に陥った。

今後の見通し

金利が上昇するなか市場心理は低迷
金利の大幅上昇や地政学的紛争の激化、景気後退懸念が相まって投資家心理の重石となっており、市場は世界的に神経質な状況が続いている。当社では、そのようなイベントの結果やタイミングを予測しようとはしていないものの、指摘しておきたい点として、アジアでは、懸念の大部分はすでに織り込まれており、バリュエーションは危機局面の低水準近くにある。アジアにとって今後最も重要となるイベントは、10月16日に中国で開催される第20回共産党大会だ。これが終われば、世界第2の経済大国における少なくとも今後5年間の主要な意思決定者がより明らかになるだろう。

市場の注目は中国のコロナ政策の出口戦略に
党大会の閉会後すぐに重要な政策変更が見込まれるわけではないものの、やがて主要な意思決定が再開されるにつれ、コロナ政策の出口戦略やさらなる景気支援策など、中国の先行について明確さが増していくとみられる。これらが特に必要となっている理由として、非常に重要な不動産セクターの景況感や活動が極めて低水準にあり、金融面の逼迫を示すものが増加していることがある。当局には、追加支援を行うために実施できる措置が複数あるが、これまでのところは政治的な理由から実施を控えている。当社では、当局の長期戦略目標が追い風となる分野を有望視しており、特に消費の拡大や生活費の低減、国内自給体制の強化、エネルギー安全保障などの分野を選好する。

北アジアの他の国については、輸出やハードウェア・テクノロジーの割合が高い韓国および台湾市場に対する投資家心理が、より低迷しているようだ。市場は消費者向けテクノロジーの需要リスクをある程度織り込み始めているものの、ファンダメンタルズに特筆すべきポジティブな変化の兆しは見られず、したがって主にヘルスケアやエネルギー・インフラ構築といった分野において選別的な姿勢を維持している。

インドとアセアン諸国にはポジティブな魅力
世界の多国籍企業がサプライチェーンについて中国への高い依存から分散化を図ろうとしているなか、若く比較的安価で場合によっては熟練した労働力を擁するインドとアセアン諸国は、その優位性が再び明確になってきている。加えて前向きな改革や的を絞った補助金も実施されていることから、これらの国々の多くには海外から多額の直接投資が見受けられる。さらに、ロシアのウクライナ侵攻がもたらす交易条件ショックは、こうした「棚ぼた」的恩恵をより長期的な成長機会とするべく再投資しようとしているインドネシアなどの市場にとって、引き続き追い風だ。こうしたファンダメンタルズ面の変化の一部がバリュエーションやポジショニングに反映されつつあるものの、当社では引き続き銀行や再生可能エネルギー、電気自動車向け素材、消費などの分野を選好する。


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