本稿は、2022年8月22日発行の英語レポート「Future Quality Insights」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。

ウィリアム・ロー


過去6ヵ月間においてリスク資産へ投資してきた誰しもが散々たる経験をしてきた。とりわけ市場のいくつかの分野では株価の急落を目の当たりにした。しかし、我々には不思議に思われるが、一体なぜ、こうした事態が非常に多くの投資家にとって想定外であったのだろうか。

株式や実際大半の金融資産の価格が上昇に向う、平穏で明確な道筋のみえる環境が10年以上にわたって普通となっていたなか、多くの投資家がそうした環境に慣れてしまっていたことは確かだろう。世界の主要中央銀行は、量的緩和という壮大なる実験の開始以来、金融資産の利回りを低下させるという明確な目標を掲げてきた。資本をどのように投資しているかということよりも、金融資産の大幅なインフレの恩恵を受けるものに資本を配分しているかということがより重要な時代となっていた。

この時代には、SPAC、FAANG、ミーム、NFT、暗号資産、FOMO1など、特有の言葉さえあった。今や、急速な発達を遂げている人工知能が、より大きなデータセットのなかから点と点を結びつけることができ、その能力は人間をはるかに上回っている。同分野において今後どれほどの進化がみられるかについて、我々は間違いなく過小評価していることだろう。一方で、我々は長きにわたり、様々なソースからの幅広い証拠に基づいて点と点を結ぶことで、貴重な知見を得てきており、人間の思考の力を改めて認識させられたところでもある。

我々は、こうした考察やそれらがもたらす知見をいつもチームで検討・議論している。リサーチの方向性を定めて最良の新アイデアへと導いていくとともに、現在の投資先を正しく評価する上で非常に有用だからだ。特に、新型コロナウイルス対策として最後に実施された金融緩和を受けて市場内のバリュエーション格差が異常な水準まで広がったなか、企業のバリュエーションには大きな注目が集まってきた。当レポートではちょうど1年前に、「これらの気球は…空高く飛び続けることもない…気球の降下速度のみが議論されると思われる」と書いた。1月には「これにバブルの様相を呈している面が多々あるのは間違いない」との見方を示した。これは、ヒューマン・アルゴリズム(human algo、略して「Halgo」2)の実例であり、規律を守るとともに経験を活かすことの価値を改めて認識させられる好例である。

現在の結果が予想外であろうとなかろうと、今ではすべての投資家が新しく進行中の課題に直面している。政策当局はもはや我々を守ってはくれなくなっており、今ではリスク資産価格でなくインフレ動向を最優先事項としている。今後の道のりは、それほど簡単なものとはならないだろう。

この先の新たな道に備える3つのステップ

ここ数ヵ月にわたり株価が下落してきたことから、悲観的になりやすいかもしれない。しかし、現在の水準からこの先の資産成長の見通しについて楽観する十分な理由があると考えている。それには、以下3つのステップを考慮することが条件となる。

1. 異なる道路タイプへと転換していること、それがより険しく不安定な道であることを認識

個別企業またはより幅広く市場へ投資するにあたっては、単なる短期的な不安心理によるボラティリティと、変化のしるしとなるボラティリティを見分けるように常に求められている。我々が提案するアプローチは、あるテーマにとって悪材料となり得る新情報を常に受け入れる心構えを持つというものだ。なお、目下のテーマは、局面の変化を目の当たりにしているということである。

より具体的には、過去10年にわたり大規模な金融緩和が実施されてきたことから、足元ではインフレの傾向が過去よりも強まっている。短期的には、利上げが誘因となって迫っているリセッション(景気後退)が実際に始まり、サプライチェーンの逼迫が幾分緩和されるにつれ、一時的に金融緩和圧力が高まる可能性がある。しかし、結果的には構造的なエネルギー供給不足、労働市場の制約、軍事支出といった要因がみなインフレの高止まりを後押しすることになり、インフレ率は中央銀行にとって理想的な2~3%を上回る見通しだ。したがって、無リスク金利はより高い水準にとどまるとみられる。

第2に、米中間のテクノロジー覇権争いやウクライナにおける軍事的支配権争いは長期化する可能性が高いなど、地政学的な問題は続く見通しである。国境を越えた資本の自由な流れはもはや当然ではなくなり、世界の準備通貨での借入コストは高止まりする可能性があり、今後は中国などによる貿易決済通貨としての米ドル離れといったシフトの加速に備える必要がある。

つまり、経済全体の成長はより確度が低下し、より循環的な景気変動に左右されやすくなり、その結果、資本コストが2020年から2021年にかけての低水準に戻ることはないと考えている。

2. この新たな道での移動に最適な車両はこれまでと異なる可能性があることを理解

一部の世代の人々(筆者を含む)は、ハンナ・バーベラ作のアニメシリーズ「チキチキマシーン猛レース(原題:Wacky Races)」を覚えているだろう。近年は新しく、時として謎めいたETFや他のテーマ型投資商品が多数普及しておりチキチキマシーン猛レースで競争しているかのように感じられてきた。

投資家にとって厳しいながらも良いニュースは、局面の変化が生じる場合(市場の大幅な調整はこれを示唆しているように見受けられる)、この先のレースにおいて新たなリーダーが登場してくる確率が高いということである。市場の大幅な調整局面については、総じて参考データ数が限られている点に注意を要することを明示した上で、過去の事例およびその確率に関するリサーチを以前紹介した。また留意すべき点として、前回サイクルの牽引役は情報技術、一般消費財・サービス、エネルギーだったが、短絡的にこれらのセクターが再び市場の牽引役になると想定することは、同リサーチ結果に基づくと、恐れ知らずの見方と言える。また、我々の個人的な直観として、勝ち組に振り分けられてきた過剰なまでの投資資金の規模を考慮すると、今回新たな牽引役が台頭する可能性は高いとみている。


過去の市場牽引役の分析

チャート4

上の表は、株式市場において前回の市場サイクルを牽引したセクターが次のサイクルでも牽引役となる確率を示したものである。近年テクノロジーセクターが非常に高いリターンをもたらしてきたことは誰もが知るところだが、足元における市場の20%下落を経て、これまで市場をリードしてきたセクターが次の市場上昇局面でもそうしたパフォーマンスを再現できる可能性はどの程度あるのだろうか。

この研究では、米国市場を対象として1957年まで遡ってセクターの順位付けを行っている。弱気相場において市場が20%下落して安値をつけた時点から、その後に株価が上昇に転じ、次なる市場の20%急落が訪れる前の高値をつけた時点までを強気相場サイクルとみなしている。そうしたサイクルは過去65年間で11回ある。その結果には驚かれるかもしれないが、「今後5年ほどにおいてテクノロジーセクターが市場を牽引する確率はどれ程か」という疑問に対する答えは表の右上部分に示されている。その答えは思いのほか低いと感じられるだろう。テクノロジーセクターが今後のリターン上位2位に入る可能性はたった27%なのである。したがって可能性はあるのだが、おそらく期待されているよりも可能性は低いとみられる。実際、表の左上部分が示すように、最も劣後してきたセクターが次のサイクルを牽引する確率の方が幾分高い。これはいわば思考の材料であり、どこから市場の牽引役が出てくるかについて、投資家は常に柔軟に検討していく必要があることを如実に示している。

3. いくつかの不変の原則を堅持して確率を向上させる

プライステイカーではなくプライスメーカーへ投資

過去10年にわたって追い風に恵まれてきたのは資産価格だけでなく、収益性も同様である。大半の国では企業利益の対GDP比率が記録的な水準にあり、これが投資家の行動を左右する前提条件となってきた。また、直近重視のバイアスにより、多くの人々はこうした状況が普通であり続けると想定してきた。過去の実証研究によると、2021年以前の10年間において、米国製造業の利益率改善の約半分はつまるところ金利負担や税金の軽減によるものであった。負債のデュレーションを長期化することによって金利上昇の影響が薄れる可能性はあるものの、今や多くの国では金利負担については明確な逆風が存在しており、同様に税金も上がりつつある。

同じく売上総利益率についても、賃金インフレの加速(や労働需給の逼迫)、よりローカル型でより高コストのサプライチェーンへのシフト、原材料費の上昇、そして(これまで新型コロナウイルス流行に関連する売上増加の恩恵を受けてきたセクターを中心に)売上減に伴う営業レバレッジのマイナス化といった逆風に見舞われているところだ。概して、企業にとっては厳しさが増してきている局面にあり、またフランチャイズの強さがより本格的に試されている。商品やビジネスモデルに独自性がある、圧倒的なシェアを獲得している、またはシェアを拡大している場合は、コストを顧客に転嫁し、売上を拡大し続ける余地がより大きくなる。

資金調達が持続可能であることを確認

現在、負債コストが顕著に上昇していることは誰の目にも明らかであり、常にそうであるように負債による資金調達のしやすさにもよりむらが出てくる可能性がある。米ドル建ての負債コストの変動度合いは他の通貨建ての場合よりも一層大きいものとなっている。また、米ドルは準備通貨の地位にあることから、世界的に多くの企業の資本コストを上昇させている。成長のための資金を自前で賄うことができ(高水準のフリーキャッシュフロー)、バランスシートにおいて負債のデュレーションが適切で長期の企業はより有利な状況に置かれ、迫りくる景気下降サイクルにおいても投資を継続していくことができるとみられる。資金燃焼率が高く利益を生み出していないビジネスモデルは、その試練に耐えられないだろう。

バリュエーションの妥当性に注目

我々は、時として苦い経験を通じて、将来のキャッシュフローが見込まれない企業に過度に高い株価水準で投資した場合の代償が非常に大きいことを学んできた。当たり障りのない言い方をすれば「フロス」(バブルより細かい泡)と言える水準から資産を成長させていくことは、実に困難である。音楽が止まるとき、フロス状態にある企業群にとって80~90%の株価下落はよくあることであり、大抵の場合、収益性確保が現実的でなく夢物語であり続けるなか株価は下落したままとなる。

フューチャー・クオリティを備える勝ち組を見出している分野

より経験豊富な投資家であれば、上に挙げたものはどれも特段意外なものではないはずだ。次の重要な問いは、グローバル株式市場内のどこへ自らの資産を投資しているか、になるだろう。独自の改善の道を辿っており、今後5年以上にわたって高水準の投下資本利益率を達成・維持することができる企業に注目することが、いつも最も有効な出発点になってきたと我々は考えている。こうしたフューチャー・クオリティに関するアイデアこそ、我々が熱心に注目しているものであり、10年以上にわたって当社グローバル株式戦略の超過収益達成の土台となってきた。

なお、分かりやすく説明するために、そうして選択した銘柄によく共通するいくつかの特色を以下に紹介する。

エネルギートランジション(エネルギー転換)

前四半期の当レポートでは、エネルギートランジションのテーマをより詳細に取り上げた。我々は、今や持続的な投資拡大サイクルが訪れているという楽観的な見方を堅持している。社会は、依然必要な化石燃料生産の維持、より政権の信頼性が高い国々からの供給拡大、エネルギー効率の改善、排出量の削減、代替エネルギー源のさらなる開発といった課題に対処していく必要があるからだ。後者は気候変動対策の観点からカギとなるが、それ自体がエネルギー集約的であることから循環する形でその他のドライバーに関する必要条件を生み出す。つまり、実現可能な市場が拡大して投資家の予想を上回るとみられる。また、エネルギー転換の「ツール」を提供する多くのサプライヤーの収益性は改善傾向にある。こうした点は、足元の環境下ではますます希少となっている。

当戦略では、今四半期にエンジニアリング・コンサルティングやデザイン・サービスを提供するWorleyを、前四半期には産業ガス大手のLindeをポートフォリオに追加した。両社とも、それぞれの市場において自社に有利な価格を設定できるプライスメーカーになっていくとみられている。

持続的成長

金利が上昇し家計消費が圧迫されるなか、消費者向けのビジネスを展開する多くの企業の成長見通しについて慎重な見方を強めている。(住宅ローンや光熱費関連の支出増加を受けて)消費性向が低下していることや、コロナ禍を受けてこれまで需要が前倒しされてきたことは、克服し難い問題としてのしかかり続けるだろう。

したがって、消費者需要の循環的な変動の影響を受けにくく、持続的成長を遂げる分野が望ましいと考えられる。当戦略では長きにわたってヘルスケアセクターに強気な見方をしてきている。それはまさに、高齢化の進む社会においてはより有効かつより費用対効果の高いソリューションに対する需要があり、実際そうした需要環境は持続性が非常に高いとみているからだ。その他のセクターでも、O’Reilly Automotiveや飲料メーカーのDiageoなど類似する特性を有する銘柄を新たに組み入れている。米国では自動車の老朽化が著しく、自動車修理には引き続き強いニーズが見込まれ、また、プレミアムスピリッツは在庫を長期間保管でき足元の投入コスト上昇による影響を受けにくいため、今後も手の届く贅沢品であり続けるとみられる。

その他に最近新たに組み入れた銘柄には、旅行予約システム世界最大手のAmadeus ITをはじめ、新型コロナウイルス流行によってこれまでの消費が大幅に抑制されてきた旅行などの分野における有力企業も含まれている。

持続的成長を遂げる分野に関して最後に述べておきたい重要な点として、我々はデジタル広告の見通しについて懸念を強めている。資本市場の活況を受けてIPO(新規株式公開)やSPAC(特別目的買収会社)上場が相次いで実現し、また、プライベートエクイティ市場での資金調達活動が急増するなか、2020年から2021年にかけてスタートアップ企業の数や新しいビジネスモデルのための資金調達が大きく膨らんだ。その多くは、顧客やキャッシュフローが限られているテクノロジー関連企業であり、新規顧客の開拓に注力してきている。米国では、こうしたスタートアップ企業による2021年の資金調達額が約6,500億米ドルと推定されており(出所:Crunchbase)、これまでの約2倍にのぼっている。

我々は、このうちの約40%が最終的に顧客獲得/デジタル・マーケティングに費やされ、その大半がMetaやGoogleなどの主要プレーヤーに向かうと推定している。新たな資金調達が困難となり、デジタル広告の既存顧客の多くが手元資金を使い果たすなか、足元ではデジタル広告支出がこうした水準から、より持続可能な水準へと正常化していく可能性がある。こうした企業による広告支出は大幅に減少し、それをきっかけとしてデジタルメディア大手の成長見通しにおける前提条件を見直す動きが投資家のあいだで広がるとみられる。顕著な評価引き下げは持続的成長に資する重要な特性とは言えないため、当戦略では同分野へのエクスポージャーをとっていない。

歓迎と御礼

フューチャー・クオリティ投資を実践する当グローバル株式チームは、今から11年余り前となる2011年の初めに結成され、日興アセットに加わってからちょうど8周年を迎えたところである。その間、複数の新しいお客様に当戦略をご採用いただいてきたほか、近年では当運用チームの今後の発展に向けて積極的に投資を行ってきた。当四半期はFinnn Stewartが加入し、当チームのポートフォリオマネジャー/アナリスト数は現在計8名となった。ESG(環境・社会・ガバナンス)関連のサポート体制もさらに拡大し、当社英国拠点の運用チームを支援していくポジションを新設してAmisha Patelを迎え入れた。

また、当戦略をすでにご採用いただいているお客様、そして現在の姿にまで当チームを発展させるために貢献してくれた当チーム内や当社内の方々全員に心から感謝を申し上げたい。最も重要なポイントとして我々が常に心がけているのは、楽しみながらフューチャー・クオリティ投資を実践していくということだ。あまり語られることはないがこれは成功するための要素であり、また、関係するすべての人へより一層大きな報いをもたらすものでもある。

個別銘柄への言及は例示目的のみであり、当社の運用戦略に基づいて運用するポートフォリオにおける保有継続を保証するものではなく、また売買推奨を示すものでもありません。


当資料は、日興アセットマネジメント(弊社)が市況環境などについてお伝えすること等を目的として作成した資料(英語)をベースに作成した日本語版であり、特定商品の勧誘資料ではなく、推奨等を意図するものでもありません。また、当資料に掲載する内容は、弊社のファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。資料中において個別銘柄に言及する場合もありますが、これは当該銘柄の組入れを約束するものでも売買を推奨するものでもありません。当資料の情報は信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、情報の正確性・完全性について弊社が保証するものではありません。当資料に掲載されている数値、図表等は、特に断りのない限り当資料作成日現在のものです。また、当資料に示す意見は、特に断りのない限り当資料作成日現在の見解を示すものです。当資料中のグラフ、数値等は過去のものであり、将来の運用成果等を約束するものではありません。当資料中のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。なお、資料中の見解には、弊社のものではなく、著者の個人的なものも含まれていることがあり、予告なしに変更することもあります。